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ヴァイブの音色を浴びる快感 〜 ジョエル・ロスの二作目

(3 min read)

Joel Ross / Who Are You?

2019年のファーストに続き2020年も出ました、ジャズ・ヴァイブラフォンの若手最高峰ジョエル・ロスの新作アルバム『フー・アー・ユー?』(2020)。デビューして二年続けてここまで充実した作品を立て続けにリリースするとは、ジョエルはいま勢いに乗っているんでしょうね。

メンバーはベーシストを除き一作目と同じ。くわえて曲によってはハーピストが参加しています(ほとんど目立たないけど)。ってことで、2020年12月来ぼくも夢中のアルト・サックス奏者、イマニュエル・ウィルキンスもいますよねえ。でも正直いうと、ジョエルの作品で聴けるイマニュエルはややおとなしいなぁと思わないでもなく。

それはやはりジョエルがアンサンブル志向、コンポジション志向だからですね。自身やメンバーのソロにおけるパッショネイトで偶発的なインプロ展開よりも、音楽全体のスムースさ、なめらかで美しい流れを重視して完成度を上げていくというのがジョエルの姿勢ですよね。

『フー・アー・ユー?』ではそれでもインプロ・ソロでオォッ!と思わせる瞬間も時折あります。アルバムでいちばんのクライマックスだと思う5曲目「アフター・ザ・レイン」(ジョン・コルトレイン)、6「ヴァーサ」(アンブローズ・アキンムシーレ)、7「マーシュランド」がそうです。この三曲はメドレーになっていて、切れ目なく流れてきますが、編集ではなく演奏時からそうだったかも。

特に注目すべきは6「ヴァーサ」です。アルト・サックスのイマニュエルもヴァイブのジョエルも、まるでなにかに取り憑かれたかのように情熱的で激しいソロを展開。なにかの壁をぶち破らんとするかのような、そんなパッション、高い熱量を感じますね。コンポジションの枠から二名ともフリーキーに飛び出していて、かなり聴きごたえのあるソロになっています。

7曲目でも、6曲目同様ドラムスのジェレミー・ダットンの猛プッシュに乗って、ジョエルとイマニュエルがソロを交換しながら熱いインプロ応酬を展開していて、かなりなものです。っていうか、こういったハミ出た熱いソロ・インプロの展開も、そもそものコンポジション段階から織り込み済みのものだったかもしれませんが。

いずれにしてもヴァイブラフォンは音色に最大の特徴がある楽器。その美しいサウンドをこれでもかと途切れなく怒涛のシャワーのように浴びることのできるジョエルの音楽は、それだけでも聴いていて心地よく、音楽の快感、聴くよろこびをもたらしてくれるものです。全体的にはあくまでなめらかでスムースで美しく、たまにフリーク・アウトしてソロでスリリングな展開をみせるというこのクインテットは、まさしく現代NYジャズの最も充実した側面を代表しているでしょう。

(written 2020.12.24)

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