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だらだら流し聴きで気持ちいい 〜 トム・ペティ at フィルモア 97

(4 min read)

Tom Petty and the Heartbreakers / Live at the Fillmore, 1997

トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの『ライヴ・アット・ザ・フィルモア、1997』(2022)。これも大部なボックスもののようで、フィジカルはおろかサブスクですらそうしたものへの興味が消え失せつつあるぼくなんかケッとか思って、縁はないだろうとたかをくくっていたんですけども。

それでもちょっと気を取りなおして、なにを聴いてもいいヒマな時間がたっぷりあったのでだらだら流し聴いてみました。そうしたらとても心地いいんですね。なんでしょうかこれ。どこがそんなに?というと、古典的なロックンロール・スタンダードを当時のスタイルのままでたっくさんカヴァーしているところ。

ロカビリーだってあれば、ヴェンチャースみたいなインストものあり、ブルーズ、カントリーなどもりだくさんで、さながらロック系アメリカン・ミュージック史の見本市みたいになっています。三時間半もあるからじっくり腰を据えて向きあうには長すぎるんですが、BGMとして流し聴きしていればいい雰囲気なんですね。

ただなんとなくやってみたというんではなく、この1997年の一ヶ月間にわたるフィルモア・ウェスト・レジデンシー公演20回(録音されたのはラスト6回)でのトム・ペティには、はっきりした意図があったんじゃないかと思わせるロック・クラシックス・トリビュート的な内容です。ぼくみたいな常なる古典派人間にはうれしいところ。

とにかく全体の半数以上がカヴァーなんですから、ボブ・ディラン/ビートルズ以後自作自演オリジナル至上主義でやってきたロック界ではめずらしいこと。ですから、もちろんスペシャルなライヴ・シリーズだったというのがあったにせよ、トム・ペティ自身なにかクラシックスを意識した面がこのときはあったと思うんですよね。

チャック・ベリー、リトル・リチャード、ボ・ディドリー、J.J.ケイル、ローリング・ストーンズ、リッキー・ネルスン、ゼム、ゾンビーズ、ヴェンチャーズ、ブッカー・T&ザ・MGズ、キンクス、グレイトフル・デッド、ザ・バーズ、ボブ・ディラン、レイ・チャールズ、ビル・ウィザーズなどなど。

なんと007映画の主題歌だったジョン・バリーの「ゴールドフィンガー」までやっているし、さらにはジョン・リー・フッカー本人をゲストでむかえての三曲なんか、ある意味このアルバムの私的クライマックスともいえる高揚感。フッカー御大はいつもどおり淡々と自分のブルーズをやっています。それとは別にロジャー・マグイン(とトムは発音)が参加するパートもあり。

どれもこれも、聴くとはなしにぼんやり流していてアッと感じるおなじみのギター・リフなんかが耳に入ってきたときのなんともいえない快感、その刹那思わず笑顔になって、本作だと大半そんなカヴァーだらけだからよろこびが持続するっていうか、トータルで聴き終えて充分な満足感があるんです。

このライヴが行われた1990年代にはシックスティーズなロック・クラシックス再評価・回帰機運が顕著でしたし、もちろんあのころはそうしたあたりがどんどんCDリイシューされていたからなんですけど、1950年生まれのトム・ペティにとってはリアルタイムで青春期の情熱を燃やした音楽の数々でもあったはず。

じっさいトラヴェリング・ウィルベリーズなんかにも参加していたし、そうしたロック・クラシカルな音楽性はこのひと本来の持ち味に違いありません。このフォルモア・ライヴだとそれがオリジナル曲ではなく、インスパイア源だった古典的カヴァー・ソングで鮮明に表現されているといった感じ。

(written 2022.12.11)

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