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ヴァイブがソウル・ジャズの熱を冷やす 〜 ビッグ・ジョン・パットン

(5 min read)

Big John Patton / Let ‘Em Roll

きのう書いたルー・ドナルドスンのアルバム『ザ・ナチュラル・ソウル』では、参加しているオルガン奏者ビッグ・ジョン・パットンが主役級の大活躍だったわけですが、ビッグ・ジョン名義のリーダー作品も聴いておきたいぞと思って選んだアルバムが『レット・エム・ロール』(1965年録音66年発売)。

メンバー編成は、ビッグ・ジョンのオルガンのほか、ボビー・ハッチャースンのヴァイブラフォン、グラント・グリーンのギター、オーティス・フィンチのドラムス。つまり、標準的なオルガン・トリオにヴァイブが客演しているといった感じです。このボビー・ハッチャースンの参加がアルバムのサウンドの色彩感を決めるのにかなり貢献しているなと思うんですね。

ヴァイブのクールで涼やかな音色が、ソウル・ジャズの、ともすれば暑苦しくむさくるしいフィーリングに涼感を与えているし、そのおかげでアルバム『レット・エム・ロール』が聴きやすい好作にしあがっているように感じられます。とはいえもともとこんな感じの音楽ですからね、やっぱりゴリゴリ攻めるファンキーさ、汗くささ満開ではあるんですが、それでもちょっとはね、ヴァイブがね。

1曲目「レット・エム・ロール」はビッグ・ジョンのオリジナルであるファンキー・ブルーズ。8ビートのソウル・ジャズ調ですね。こういうのはビッグ・ジョンもギターで参加のグラント・グリーンも得意中の得意なので、これでもかと下世話に攻めているのが、なかなかの快感でしょう。こういったブラック・ジャズがもうほんとうに大好きなんですよ。

ビッグ・ジョンのオルガン・スタイルは、やはりファンキー&ソウルフル路線一直線で、たぶんブルー・ノートに1960年代に録音したジャズ・オルガニストのなかで最もむさくるしい味を持っていた人物なんじゃないかと思いますが、そんなところ、この曲「レット・エム・ロール」でも全開です。こういった味、ひとによっては敬遠したいと思うところかもしれませんね。ぼくは大歓迎です。

2曲目「ラトーナ」はなぜかのラテン調(ちょっとブラジルのボサ・ノーヴァふうかも?)。これもビッグ・ジョンのオリジナルなんですが、こういったラテン・スタイルはファンキーなソウル・ジャズと相性がいいように思いますから、演奏のできもいいです。ボビー・ハッチャースンのクールなヴァイブも、こういったラテン・タッチな曲でもよく光る、っていうかむかしからラテン・ミュージックとヴァイブは相性いいですよね。

「ラトーナ」は、演奏時間もこのアルバム中いちばん長く、ヴァイブ、ギター、オルガンと濃密なソロもたっぷり。ひとりでラテン・リズムを担うドラムスのオーティス・フィンチも大活躍で、聴きごたえありますね。ギターもソロ時間以外はリズム表現に寄与しています。ところでこの曲、クインシー・ジョーンズの「ソウル・ボサ・ノーヴァ」に雰囲気がちょっと似ていると思いませんか?

ビッグ・ジョン。3曲目は、これ、2曲目がちょっとボサ・ノーヴァ・タッチだった流れなのか、「いそしぎ」(ザ・シャドウ・オヴ・ユア・スマイル)が来ています。クールな曲だから、これはちょっとビッグ・ジョンにしては意外な選曲かも。でも四人は難なくこなしています。そんなむさくるしさも出ていないし、こういった演奏もできるんですね。やっぱりヴァイブがいいです。

4曲目「ザ・ターナラウンド」はハンク・モブリー作のジャズ・ロック・ナンバー、5曲目「ジェイキー」がふたたびビッグ・ジョンのオリジナル・ブルーズということで、これらは得意中の得意でしょう。ラスト6曲目「ワン・ステップ・アヘッド」もビッグ・ジョンのオリジナルですが、どうしてだか三拍子。でもやっぱりソウルフルです。

(written 2020.11.16)

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