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陽の当たらない裏道で 〜 ソニー・レッド

(5 min read)

Sonny Red / Out Of The Blue

(オリジナル・レコードは8曲目まで)

大物好きのぼく。英文学者時代はウィリアム・フォークナー、ウラジーミル・ナボコフ、スティーヴ・エリクスンといった、メインストリームで目立ついわゆる「キャノン」ばかり研究し論文を書きました。

趣味の音楽のほうでも、ルイ・アームストロング、マイルズ・デイヴィス、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ユッスー・ンドゥール、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンなどなど、つまりメイジャーなスターが好きで、いわば陽の当たる明るい表通りを歩んだ成功音楽家を中心に聴く傾向がありますね。

ブランド志向の強い人間ではあるんですけど、2015年以来ブログをはじめて今度は自分がクリエイターの側にまわってみると、ちょこちょこ反応してくれるかたが一部にいるものの、ほとんど注目もされないし、決して表舞台で活躍しているとはいえない状態です。

日々書いてきているブログ記事を整理してまとめて紙にインクで印刷して本にしてくれるなんて話もぼくにはないから、出版されたのを買って読んだみんなの賞賛を集めて…なんてこともありません。音楽系有名SNSアカウントが引用紹介してくれることだって皆無。

日々黙って書き淡々と更新するだけの、認められない、報われない人生だなあと痛感し、同じ世界にいる他人にはヒジョ〜に強い嫉妬、ねたみを感じるときもあるんですが、音楽家の世界だって見渡せばマイナーな存在がたくさんいます。クォリティは高いのに現役当時から没後の現在までほぼだれも注目しないという日陰者が。

ハード・バップのサックス奏者、ソニー・レッドもそのひとり。代表作のひとつ『アウト・オヴ・ザ・ブルー』(1960)のことを思い出したのは、こないだブルー・ノート・レコーズの公式SNSアカウントが自社に残る “(hidden) gem” として紹介したからです。

だから、有名人好きのぼくなんか、その投稿を見るまですっかり忘れていたという体たらく。それにしてもソニー・レッドはちょっと間違いやすいというかまぎらわしい名前です。同じハード・バップ界隈にフレディ・レッド(ピアノ)がいて、さらに同じチャーリー・パーカー系ジャズ・サックス奏者でソニー・クリスがいますからね。三人とも知る人ぞ知るといった存在だぁ。

フレディ・レッドはなぜ人気が出なかったのか、テナー・サックスのティナ・ブルックスみたいに超マイナーな存在だけど一部に熱心なファンがついていて決して忘れられてはいない、なんてことにすらならなかったのはどうしてなのか。

決して実力不足ということじゃない、良質な音楽を残したのは、唯一のブルー・ノート作『アウト・オヴ・ザ・ブルー』を聴いてもわかります。ブルーズ・ベースの、ブルーズばかりの、典型的ハード・バップで(あ、なかにはハード・バップのブルーズが退屈だっていうひともいるんだってぇ〜)、サックスの音色も芳醇、フレイジングも魅力的です。

ジャッキー・マクリーンあたりと比較してもなんら遜色なく、一本調子で際立つ個性や主張がないといえばそうかもしれませんが、1960年当時のブルーズ系ハード・バップってだいたいこんな感じでしたよ。あっちが人気で歴史に名を残し、こっちはそうならなかったのに、合理的理由があるとは思えません。

現実問題、ハード・バップにおける1950年代後半〜60年代前半は最もシーンがにぎやかでしたから、この程度の演奏ができるミュージシャンはそれこそ無数にいて、しっかりしたリーダー作を複数残せた(ジャズランドにあり)というだけで実はたいへんラッキーだったのだと考えるべきかもしれません。

有名バンドに加入せずフリーランスで、歴史的名作にサイド参加する機会もゼロだったのが、ソニー・レッドの不運だったのかもしれませんね。1960年代にはそれでもそこそこ活動したんですけど、70年代後半になると完全に忘れられ、そのまま81年に48歳で亡くなりました。

(written 2022.1.20)

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