見出し画像

ビート・ミュージックでポリ・レイヤーしたセロニアス・モンク 〜 マスト

(4 min read)

MAST / Thelonious Sphere Monk

米ロス・アンジェルスでジャズとビート・ミュージックの接合に取り組むティム・コンリー(Tim Conley)。そのソロ・プロジェクトであるマスト(MAST)がセロニアス・モンクの再解釈に挑戦した2018年の『Thelonious Sphere Monk』は、発売当時から聴いていたにもかかわらず、書くのがいまごろになってしまいました。まあまあかなと感じて、そのまま忘れちゃっていたかもしれません。

きっかけがあって思い出し聴きなおしたら、こりゃかなりおもしろいアルバムだぞと気がついたわけですね。セロニアス・モンクは2017年に生誕100周年を迎えており、マストのこのアルバムもそれを記念して企画されたものに違いありません。当時、2017/18年ごろ、モンクのソングブックに挑戦するミュージシャンがほかにもいたような気がします。

それにしてもマストみたいにビート・ミュージックでモンクを再解釈するという試みはほかで聴いたことありませんよね。ただのイントロである1トラック目を経て、アルバム2トラック目の「エヴィデンス」で、もうオォッ!と思わせます。エレクトロニクス・ビートが躍動する上に、おなじみのモンクの書いたあのテーマが乗っかるわけです。その後各人のソロもあり。

ソロはどの曲にもあるんですけど、しかしどうもこのアルバムはジャジーな意味でのインプロ・ソロの内容を聴かせるものじゃないかもと思います。ジャズというよりあくまでビート・ミュージックとモンクのコンポジションを合体させたところにおもしろみがあるんで、そうでもないジャズ演奏ナンバーとかは個人的にイマイチ。ブリアン・マーセラが弾く4「アスク・ミー・ナウ」とかですね。

このアルバム、ビートとモンクの書いたテーマ・メロは融け合っているわけじゃありません。同時並行で流れるポリ・レイヤー構造になっているわけで。そこが楽しい、心地いいと感じるところなんですよね。溶け合っていないけど、重なって流れてくるその音の多層性に快感があります。2「エヴィデンス」から途切れなくメドレーみたいに流れてくる3「ベムシャ・スウィング」もそう。

ところで、このアルバム、ビート・ミュージックで再解釈したナンバーが続くときは、その曲間がない、メドレーみたいに途切れなく流れてくると思うんですけどね。5「ウェル・ユー・ニードゥント」から6「エピストロフィー」もそう。その「エピストロフィー」は、このアルバムでいちばんのクライマックスかもしれませんね。管楽器ビッグ・バンドがテーマを演奏し、それをビート・ミュージックと接合してあるっていう、そのビートだってポリリズミックだし、その上モンクの書いたテーマや各人のソロはまた違うリズムで演奏してあって、それらがぜんぶ同時平行でレイヤーされているんですよ。

アルバム最終盤の15「トゥリンクル・ティンクル」はエレクトロなビートと生演奏ドラムスを混ぜ合わせてあって、その上にサンプルが散りばめられているというつくり。そこから途切れなく続く16「ミステリオーソ」も途中からビート・ミュージック的再解釈が登場します。ここでもそのエレクトロ・ビートと曲のテーマ演奏とは別々のリズムで溶け合わず重ねられていますね。

(written 2021.3.9)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?