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アンプラグドというけれど

(3 min read)

1990年ごろからのMTVアンプラグド番組と、それを収録したヴィデオやCDの大ヒットで一気に世間の認知を得たと思われる「アンプラグド」ということば。アクースティックと言いかえても同じことですが、しかし現実にはですね、電気がないとなにもできません。

アンプラグドだとかアクースティックだとかいうのは、楽器演奏と歌の発音システムで電気を使わない生音だけということであって、実際にはそれを(録画)録音しているわけでしょう、となればマイクフォロンなど録音機材一式がそこにあります。1925年以後マイクや機材は電気がないと動きませんよ。

つまり電気がなかったらそもそも録音すらいっさいできないし、CD制作だって配信に乗せるのだって宣伝販売だって不可能。聴く側のぼくらだって電気で動くオーディオ機器やパソコン、スマホを使わないとダメなわけですからね。ってことはあれです、アンプラグドなどといいながら、実のところ終始プラグド・インしまくっているわけです。

どこが「アンプラグド」なのか?エレクトリックばりばりじゃないか、と笑っちゃうんですけどね。録音されたものばかりでなく、ライヴだってポピュラー・ミュージックのばあいはPAで電気増幅しているのが小規模現場でもあたりまえ。ピアノとかギターとかベースとかヴォーカルとか、音を発する仕組みはアクースティックでも、会場の聴衆全体に聴こえるようにしないといけませんから。

クラシック音楽のコンサートや、あるいは民俗音楽の現場とか、そういうものであれば、つまり電気技術の発明前に確立したジャンルなら、ほんとうに生音だけで構成され電気をいっさい使わないから、文字どおりアクースティック、アンプラグドだと言えるでしょう。だからねえ、もはや現代ではそういうのだけですよ。

特にロック・ミュージック関係などエレキ・ギターを使うのがあたりまえな世界で、そこを全面的にアクースティック楽器を使ってやってみたらどうなるか?どう仕上がるか?という試みを実行してみせたMTVアンプラグド番組は画期的でしたけど、現実には電気で録音したものを電気で再生しているんです。

もちろんこのことをあんまり言いすぎてもねえとは思います。電気があるのがあたりまえの現代ですからね。それにCDでも配信でもいわゆるアンプラグドと銘打つアルバムを聴けば、そこにはたしかに従来にない新鮮なサウンドがあるなあというのも事実です。電気技術誕生前のアクースティックな音楽とは違う「なにか」が。

(written 2021.8.10)


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