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マイルズの知られざる好作シリーズ(4)〜『イン・パーソン、フライデイ・ナイト・アット・ブラックホーク』

(3 min read)

Miles Davis / In Person, Friday Night At the Blackhawk, San Francisco, Volume I

マイルズ・デイヴィスが生涯で率いた全バンドちゅう、いまとなってはいちばん好きかもしれないとすら思う1961年バンド。ハンク・モブリー、ウィントン・ケリー、ポール・チェインバーズ、ジミー・コブ。

このバンドになったのがいつか、正確なことなんてわかりようもありませんが、ジミー・コブは『1958マイルズ』になった音源を録音した58年5月のスタジオから参加していたし、『カインド・オヴ・ブルー』の59年3、4月セッションではもうすでにウィントン・ケリーがレギュラーでした(が、あのときだけ例外的にビル・エヴァンズを呼びもどした)。

ハンク・モブリーはアルバム『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』になった61年3月セッションがマイルズ・バンドでの初録音。これでラインナップが整ったわけですが、このバンドでそのまま続く4月にサン・フランシスコのブラックホークに出演した記録二日間のうち金曜ぶんがきょう話題にしたいアルバム『イン・パーソン、フライデイ・ナイト・アット・ブラックホーク』(1961)です。

どこがそんな「生涯の全バンドでもいちばん好きだ(いまでは)」といえるほどなのかっていうと、極上のリラックス感と熟練のまろやかな職人芸的スウィンギーさがよく出ているところ。小さなクラブにコロンビアが大かがりな機材を持ち込んでやりにくかったなどとマイルズは述懐していましたが、どうしてどうして中身はすばらしい。

この61年バンドの特質は以前も『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』の記事のときにも書きましたが、おだやかで平坦な日常性、インティミットなアット・ホーム感がサウンドに鮮明に出ているところにあるなというのがぼくの見解です。マイルズといえばテンションの強い張り詰めたような音楽性が売りではありましたが、いまのぼくにはリラクシングな日常的音楽のほうが心地いいんです。

そんな嗜好で選べば、マイルズの残した全ライヴ・アルバムでもいちばんといえるのがこれ。おなじみのレパートリーが並びますが、1曲目のブルーズ・チューン「ウォーキン」でも、たとえば世紀の傑作と名高い『’フォー’&モア』(1966)ヴァージョンと比較すれば、いはんとするところはわかっていただけるはず。その間三年、バンドが変わればボスもその音楽性も変わるっていう、そんなトランペッターだったことは以前も書きました。

『フライデイ・ナイト・アット・ブラックホーク』、ここまでまろやか&明快で歯切れよくスウィングし間然しない内容なんですから、正直いって名作、傑作の一つに数えてもいいんじゃないか、間違いないぞと、だれもそういわないですけど、ぼくはそう断言したいですね。

(written 2022.10.8)

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