見出し画像

ロー・ファイ・ジブリ

(4 min read)

Grey October Sound / Lo-Fi Ghibli

ジブリ映画を一つも観たことがありませんが、それはなんとなくその〜、なんというかまぁ〜、いや、やめときます、べつにアニメ嫌いとかじゃないし。とにかく音楽狂としてはちょっと関心を持つアルバムが出ました。グレイ・オクトーバー・サウンドの手がけた『ロー・ファイ・ジブリ』(2022)。

P-ヴァインからのリリースなので、このレーベルのTwitterをフォローしているぼくは流れで自然と知ることになりました。ジブリ・ナンバーをロー・ファイ・ヒップホップのアレンジでやってみたというもので、ぼくみたいにジブリ映画に関心はないけどロー・ファイの愛好家、っていうんであれば心地よく聴けると思います。

つまりロー・ファイでやったジブリ・カヴァー集というわけで、ジブリ・ファン、音楽愛好家のどっちも楽しめるアルバム。ジブリにもロー・ファイにも興味なしという層には届きにくいかもしれませんが、でもレコードも出るらしいし、そういうのってロー・ファイの世界じゃめずらしいんですよ。

それにしても映画本編をどれも観たことないのに、かけてみればなぜかメロディだけは聴き憶えがあるっていうものがまじっていて、なんでしょうね、このジブリの浸透具合。ロー・ファイ・アレンジで、コンピューターでつくったあえて無機質なビートを足すことで、印象的なメロディ・ラインをいっそうきわだたせる結果をももたらしているようにも聴こえます。

ロー・ファイって曲のタイプとか調子にバリエイションがあるわけじゃなく、ほぼおんなじような感じがずっと続くし、そもそもがそんな正面から向き合って聴き込むという音楽でもなく、なにかのついでに背景でなんとなく鳴らしておけば、ジャマにならず集中力が増すしで、つまりBGMなんですよ。

だからそういうのは音楽に求めていないっていう向きはどうぞ無視してください。今作のジャケット・デザインでもわかるし、いままでロー・ファイについて書いてきたすべての記事でも言及していますが、勉強したりなにかの作業をするときのながら聴きにピッタリで、音楽流せば効率あがるという調査データもありますし。

いまどき打ち込みビートは生演奏打楽器ともはやそう違わない、ぼんやり聴いていれば区別できないかもといった程度にまで技術進展していますが一般的には。そんななかロー・ファイはそこをあえてデジタルくさいツクリモノ感を強調している音楽で、そこがですね、ぼくみたいな(スライのビート・ボックス以来ずっとむかしからの)マシン・ビート偏愛者にはかえってツボをおしてくるところなんですね。

あくまでビートが主役の分野なんで、通常だったら大きめの音でぽんと前へ出るようにミックスされるメロディ担当の上物(ピアノとかギターとか)のぽうがむしろバック。お聴きになればおわかりのように『ロー・ファイ・ジブリ』でもそういったミキシングになっていますよね。

ヘッドフォンやイヤフォンで聴いたときにちょうどいい感じだっていうのもロー・ファイの特色で、音楽を楽しむ出力装置としてそういうのを使う若年世代用の音楽だっていうことなんですね。そんなにマジに音楽に向き合うというより、耳さびしいからカフェや自室など日常でなんとなく流しておきたい、でもひっかかって意識せざるをえないようなものはちょっと…っていう、そうしたみんなのための新ジャンルがロー・ファイ。

(written 2022.9.9)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?