見出し画像

キングと相乗りクラプトン

(5 min read)

B.B. King, Eric Clapton / Riding With The King

今年、発売20周年記念ということでデラックス・エディションがリリースされた B.B.キングとエリック・クラプトンの共演作『ライディング・ウィズ・ザ・キング』(2000)。そのデラックス・エディションとはオリジナル・アルバムのおしりにボーナス・トラックを二曲くっつけただけの貧相な内容で、作品としてはラストにスタンダード「カム・レイン・オア・カム・シャイン」を置いたほうがきれいに締まるので、上はオリジナルをリンクしておきました。

さて、エリック・クラプトンのほうからしたら B.B.キングは正真正銘の「ザ・キング」なわけでして、さかのぼることはるかむかし、あんな英国の白人のガキにホンモノのブルーズがやれるわけない、猿真似だ猿真似と揶揄された時代から、研鑽に研鑽を重ね、それまで共演歴があったとはいえ、とうとう本物中の本物である超大物黒人ブルーズ・ミュージシャンとの全面コラボ作をつくるとなったときの心境をおもんばかるに、無関係のぼくですら涙が出てくるような気持ちがします。

そのキングたる BB ですけれど、その名前にあやかったようなアルバム1曲目のタイトル・チューン「ライディング・ウィズ・ザ・キング」は、もともとジョン・ハイアットがエルヴィス・プレスリーのことを想いながら書き歌った曲だったんですよね。2000年にこの BB&クラプトンのアルバム CD を買ったばかりのときのぼくはそれを知らず、てっきり B.B.キングのことをクラプトンが考えて書いたオリジナルなんだろうと想像していました。

しかしこれがまさにどハマりしているじゃありませんか。ポピュラー・ミュージックの世界ではカヴァーがオリジナルを超えるなんてまずないんですけど、この BB+クラプトンの「ライディング・ウィズ・ザ・キング」は、BB の名前にひっかけることもできているし、この曲はこの二人にこうカヴァーされるのを待っていたのだと、そう言えるほど上出来です。ブルーズ・ナンバーじゃありませんけど、このアルバムのテーマにこれ以上ピッタリくる曲はなかったなと思います。

2曲目以下の収録曲もセレクトしたのはたぶんクラプトン側だったんじゃないかという気がしますが、メインは BB サイドのレパートリーで、五つ。2「テン・ロング・イヤーズ」、5「スリー・オクロック・ブルース」、6「ヘルプ・ザ・プア」、9「デイズ・オヴ・オールド」、10「ウェン・マイ・ハート・ビーツ・ライク・ア・ハンマー」。

これらを中心軸に据えながら、ほかは両者ともがアクースティック・ギターを弾くブルーズ定番二曲(3「キー・トゥ・ザ・ハイウェイ」、8「ウォリード・ライフ・ブルーズ」)。さらにサム&デイヴの11「ホールド・オン・アイム・カミング」に、ポップ・スタンダードの12「カム・レイン・オア・カム・シャイン」。二つだけこのアルバムのためにクラプトン・サイドが用意したオリジナル新曲(4「マリー・ユー」、7「アイ・ワナ・ビー」)もあります。

演奏は当時のクラプトンのセッション・バンドが中心になっていて、そこに BB が客演したような格好にパーソネル表をみると思えますが、アルバムを聴くと印象は逆ですね。BB が主役で、クラプトンは脇。BB にどんどん歌わせ弾かせています。やはりいまだ現役バリバリだった師匠とその弟子格ですから、アルバムをどう創ればいいか、いかな自己顕示欲の強いクラプトンでも心得ていたわけでしょう。

そんな姿勢は、クラプトンのヴォーカルとギター・プレイにもはっきりと聴きとることができます。BB の存在を意識してでしょう、ふだんとは違う謙虚で真摯な演唱で、うまいぐあいに抑制が効いています。この2000年前後のクラプトンのふだんの姿をライヴ録音などで聴いても、違いは鮮明です。アルバム『ライディング・ウィズ・ザ・キング』ではヴォーカルもギターもていねいなんですね。決してクリシェにおちいらず、全面共演作をつくるだなんてふたたびはないであろうこの機会を本当に大切に思いながらセッションに臨んでいるなというのが、聴いているとよくわかります。

だから、ぼくはいつも1990年代以後のクラプトンはおもしろくなくなったとくりかえしていますけど、このアルバムだけは例外的に内容がいいんじゃないかと思っているんですね。それでもクラプトンが歌い弾いたその次の瞬間に BB が出ると「あぁ、やっぱり違うな」と存在感の差に唖然とするんですけれど、クラプトンだってなかなかどうして大健闘ですよ。ここまでやれれば文句なしじゃないですか。

ヴォーカルでもギターでも二名がからみあいながら進むパート、特にギター・ソロですね、ソロじゃなくてデュオか、BB とクラプトンが同時に弾きながらからみあって進行する部分がたくさんあって、そんなところを聴くと、クラプトンは師匠である BB に対し堂々としかも謙虚に向き合いながら、誠実に自分のプレイを貫いていて、決して劣ってなんかもいないし、ここまで来たんだと感慨もひとしおですね。

オリジナル・アルバムのラストに収録されているスタンダード「カム・レイン・オア・カム・シャイン」。どんなときだって、どんなことに直面しようとも、あなたのことを愛しますというラヴ・バラードなんですけど、BB とクラプトンの師弟愛に置き換えて聴くこともできるという、なかなかグッドな選曲じゃないでしょうか。演唱内容だって光っています。

(written 2020.7.11)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?