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ヘイリー・タック(2)〜『ジャンク』

(3 min read)

Hailey Tuck / Junk

ヘイリー・タック(Hailey Tuck)がすっかりお気に入りになりましたので、Spotify でさがして、いままでの作品を根こそぎ聴いています。現在のところ唯一のフル・アルバムである2018年の『ジャンク』もいいですね。プロデューサーがラリー・クラインだったそうなこれもやはりカヴァー・ソング中心で、ヘイリーのオリジナルは7曲目の「ラスト・イン・ライン」だけみたいです。

カヴァー・ソングも、しかしぼくはあまり知らず、たぶん2「クライ・トゥ・ミー」(ソロモン・バーク)、3「カクタス・トゥリー」(ジョニ・ミッチェル)、4「サム・アザー・タイム」(レナード・バーンシュタイン)、5「セイ・ユー・ドント・マインド」(コリン・ブランストーン)、6「アルコホール」(キンクス)、12「ジャンク」(ポール・マッカートニー)だけですね、聴き知っていた曲は。

それらもそれら以外の曲も、アルバム全編がもちろんレトロなヴィンテージ・ジャズの衣にくるまれるように再解釈されているわけです。ヘイリーの特徴は、とりあげる曲にジャズ楽曲が非常に少ない、ほとんどないのに、解釈と仕上がりがこんなふうになるといったところにあるでしょう。ジャズ、特にヴィンテージ・ジャズとはなんの関係もなさそうな曲ばかりなんですけど、なにも知らずに聴けばもとからそんな感じのジャズ・ナンバーなのかと思ってしまいそうですよね。

だからそのへんがヘイリー・タックの(ラリー・クラインの、というわけじゃなさそう)資質、持ち味ですよね。このアルバム『ジャンク』では、バーンシュタインの「サム・アザー・タイム」とポール・マッカートニーの「ジャンク」が特にぼくの耳を惹きました。前者は(ジャズ界では)ビル・エヴァンズがとりあげたのでも有名ですけど、ここでのヘイリー・タック・ヴァージョンでもエヴァンズふうのピアノ(だれが弾いている?)に乗せてヘイリーのドリーミーなヴォーカルが漂います。

ポール・マッカートニーの「ジャンク」にしても、オリジナル・ヴァージョンに濃厚だった退廃的雰囲気をヘイリーは維持しながらもやや薄め、もっとキュートでリラックスしたムードにくるんでいるのが聴きとれますよね。スウィング・ジャズ・スタイルのクラリネットが入るのもいい感じ。ヘイリーのヴォーカルにガツンと来るものはありませんが、いつもおだやかでくつろいでいて、ジャジーでポップで、なおかつキュートでドリーミー。心地いいですね。

それにこのアルバムでは出だしの1曲目「ザット・ドント・メイク・イット・ジャンク」でエレキ・ギターが軽くソフトに4/4拍子を刻むのも快感で、そこにオルガンがからんだり、ドラマーはブラシだし、もうこたえられない極上のジャジー ・フィーリングですね。これ、レナード・コーエンの曲なんですけど、もう最初からこのヘイリー・タック・ヴァージョンがオリジナルだったのかと勘違いしてしまうほど、みごとです。2「クライ・トゥ・ミー」でニュー・オーリンズふうのリズム・シンコペイションを効かせることも忘れていません。

(written 2020.5.23)


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