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77年根室ライヴのジャジーな熱さ 〜 渡辺貞夫

(4 min read)

渡辺貞夫 / ライヴ・イン 根室 1977

渡辺貞夫さんのポップ・フュージョン期突入直後あたりになる1977年10月8日に根室でやったライヴ・コンサートの模様が、アルバム『ライヴ・イン 根室 1977』となってリリースされたのは2016年のこと。名演発掘と、当時ちょっと話題になりましたね。

この根室ライヴ、演奏しているクインテットの面々は、貞夫さん(アルト・サックス、ソプラニーノ)のほか、福村博(トロンボーン)、本田竹広(ピアノ等)、岡田勉(ベース)、守新治(ドラムス)と、オール日本人編成。

このへんはどうなんですかね、すでに同年春には『マイ・ディア・ライフ』を録音し発売もされていて、それはリー・リトナー、デイヴ・グルーシン、チャック・レイニーらアメリカのフュージョン・ミュージシャンたちで編成されたアルバムだったんですけれど、1977年当時の貞夫さんはまだライヴではそこまでじゃなかったということでしょうか。

演奏レパートリーもですね、全七曲のうち『マイ・ディア・ライフ』に収録されたオリジナル・フュージョン・ナンバーが四つ、残り三つはストレート・ジャズの有名曲(「チェルシー・ブリッジ」「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」「リズマニング」)なんですよね。

いろんな意味で中間的というか折衷的だったかもしれないこの1977年根室ライヴ、しかし演奏はどれも熱いです。特色としては、フュージョン・ナンバーでもジャズ的なインプロ・ソロのスリルに満ち満ちているということがあげられると思います。それは1曲目の「マサイ・トーク」を聴くだけでもわかります。

思い出すのは、この根室ライヴの三年前1974年に、東京は郵便貯金ホールで行われたライヴを収録した傑作ライヴ・アルバム『ムバリ・アフリカ』のことです。あれも鍵盤が本田でしたけど、メンバーがほとばしるような情熱をぶつける、そんなあふれんばかりのインプロ・ソロが次々と展開するので、(二度目の)CDリイシューで2017年にひさびさに聴いたぼくは感動をあらたにしたもんです。

77年根室ライヴもあれに通じる熱さを感じるんですよね。すでに『マイ・ディア・ライフ』を発表していたとはいえ、ライヴでの貞夫さんはまだジャズ・マナーな演奏手法を維持していて、っていうかずっとあとのポップ・フュージョン路線がすっかり定着してからでもライヴでの貞夫さんやメンバーはそうでした。

スタジオ作品では新基軸を打ち出すものの、そんな曲も演奏しながらライヴでは熱い(ある意味ジャジーな)インプロ合戦をくりひろげる 〜 それが1977年当時もその後もずっと変わらない貞夫さんの姿勢だったんだと思います。この根室のときは全員日本人ミュージシャンですけど、のちにアメリカ人フュージョン系ミュージシャンをツアーでもフル起用するようになってからだってこれは変わらないことでしたから。

1980年代にコンサート現場で、またはそれを録音したものを流すラジオ番組で、これでもかというほど体験した貞夫フュージョンのライヴでの姿、真価を、この77年根室ライヴでも追体験し、思い出すような心地になりました。ライヴにおける貞夫さんにとっては、ジャズもフュージョンも「一つ」だったのかもしれません。

(written 2021.5.14)

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