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都はるみを好きになった人

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v.a. / 都はるみを好きになった人

都はるみ再評価の機運があったりするんですか?シーンとか傾向とか動向とか、そういったたぐいのことにまったくうといのでわかりませんが、最近『都はるみを好きになった人 〜 a tribute to HARUMI MIYAKO』(2020)というアルバムが出たみたいです。いろんなひとがはるみの代表的なレパートリーを歌ったもので、これ、なかなか楽しいんですね。はるみが所属する日本コロムビアからの発売ということで、ある意味オフィシャル・トリビュートみたいな面があるのかも。

アルバム『都はるみを好きになった人』はぜんぶで九組による九曲を収録。順番に聴いていくと、まず最初1曲目の UA「北の宿から」なんかはあまりピンと来ませんね。個人的にグッとくるのは4曲目、ミッツ・マングローブの「花の乱」から。その前、2曲目「好きになった人」を一青窈が歌うのも悪くないと思うものの、ちょっとしっとりしすぎているような気がするんです。一青窈カラーですけどね。ミッツの「花の乱」も妖艶系ですけど、歌とアレンジがいいですね。ミッツは歌うまいですよね。はるみとはまったく別な世界をつくりだすことに、声で、成功しています。

続く5曲目「アラ見てたのね」からが本当にこのアルバムがよくなってくるところ。これは浜野謙太+民謡クルセイダーズの歌と演奏で、おもしろおかしいサウンドでやっているのがとてもいいです。もとからそういうユーモラスな曲ですしね。最初プランジャー・ミュートをつけたトランペットの音が出るだけでニンマリ。その後も民謡系の曲だということで、民謡クルセイダーズの本領発揮というべきうまあじの演奏に乗せ、ハマケンが快調に歌います。声もよく出ているし、ホーンズのソロも似合っています。

そして6曲目「大阪しぐれ」。アレンジと演奏がダブ・バンドのリトル・テンポで、歌手が畠山美由紀なんですけれども、これ、どうですか、最高じゃないですか。ぼくはもともと以前から「大阪しぐれ」という曲そのものが大好きでたまらないということがあってのことですけど、この(ダブふうなところはない)レゲエ・アレンジがぴったり似合っていて、スティール・パンのサウンドもすばらしいし、もう言うことないと思いますよ。畠山もちょうどよい加減のヴォーカルで文句なし。

そんな「大阪しぐれ」がこのアルバム『都はるみを好きになった人』のぼく的ハイライト。いやあ、もうなんど聴いてもみごとです。こればっかりリピート再生しちゃいますね。この「大阪しぐれ」があるからこそ、この一曲だけでも、このアルバムの存在価値があろうというものです。ちょっと褒めすぎましたか、でもそれくらいこのリトル・テンポ+畠山美由紀の「大阪しぐれ」のことがぼくは大好きです。もとから曲が好きなので、でありますけどね。

続く水谷千重子(友近)&Chage の7曲目「浪花恋しぐれ」にかんしては、はっきり言って曲が大嫌いで、なんなんですかこの男尊女卑セクハラの典型みたいな歌詞は!?って思ってしまいますから、それだけで評価できないんですけど、でもこの曲、メロディ・ラインはあんがいキュートなんですよね。だからいまでも歌い継がれているのでしょう。でも耳に入れることにむかしから抵抗感がありますけどね、この歌詞は(「芸のためなら女房も泣かす、それがどうした文句があるか」)。

8曲目「アンコ椿は恋の花」で口直し。こ〜れはむかしから大好きな曲です。歌詞もメロディもポップでキュートでチャーミングですからね。歌うのは高橋洋子、ってあのエヴァンゲリオン歌手の高橋洋子でしょう、意外です、こんなド演歌をとりあげるなんて。企画側から高橋に話が行ったのだと思いますが、みごとに歌いこなしています。最初から演歌歌手だったのかと思えるほどのはまりっぷりですよね。アレンジはデジタル・ビートにクラシカルなストリングス&オペラティックなクワイアを混入させているのが勘所でしょう。

そしてアルバム・ラスト「千年の古都」を大竹しのぶが歌いますが、個人的にはとっても好感度高いです。大竹はあっさりさっぱりと、ある意味淡白にさらっと歌いこなしているでしょう、それがいいんです。アルバム『都はるみを好きになった人』ヴァージョンも好きな「大阪しぐれ」や「アンコ椿は恋の花」などは抜擢された歌手も演歌系歌唱を意識していて、それで大健闘なんですけど、「千年の古都」を歌う大竹にはそんな気負いが微塵もありません。この大竹のナチュラル&スムース&ストレートなあっさり歌唱こそ、成熟した表現というべきでしょうね。

どこかで読みかじった断片的情報によれば、なんでも近年、都はるみのレパートリーをカヴァーしたり CD 収録したりする歌手が増加中なんだそうで、やっぱりはるみ再評価のムーヴメントがあるか、あるいはそんなことでもなく、もとから歌手としても曲もファンが多いということかもしれませんけれども。

(written 2020.3.23)

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