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イエロージャケッツとWDRビッグ・バンドの共演作が痛快 〜『ジャケッツ XL』

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Yellowjackets + WDR Big Band / Jackets XL

イエロージャケッツといえばフュージョン・バンドのイメージしかないでしょう。その手の音楽にアレルギーのある向きのなかには蛇蝎のごとく嫌うひともいるくらいステレオタイプな西海岸フュージョンの代表的存在。

ぼくはといえば、ただでさえフュージョン好きなところへもってきて、ファンだった渡辺貞夫さんが1980年代前半のツアーのためにイエロージャケッツをバンド丸ごと起用したことがあって、そのライヴに接し、腕利きの達者なミュージシャンたちだとの印象を強くし、ファンになりました。ロベン・フォード(ギター)がいた初期のころの話です。ほんとねえ、フュージョン嫌いって、なんなん?

ところが、そんなイエロージャケッツの最新作『ジャケッツ XL』(2020)は、なんとドイツはケルンのWDRビッグ・バンドと全面共演した、アクースティックかつ重量感のあるストレート・ジャズ・アルバムなんですよ。これはビックリですよねえ。

1981年デビューのイエロージャケッツ、現在のメンバーはラッセル・フェランテ(鍵盤)、ウィリアム・ケネディ(ドラムス)、デイン・アンダースン(ベース)、ボブ・ミンツァー(サックスなど)の四人編成。ジャズ界隈では最古参バンドということになっちゃいました。

このうち、ボブ・ミンツァーが2016年来WDRビッグ・バンドの首任指揮者をも務めているということで、きっとその縁で共演が実現することになったに違いないでしょう。書き下ろしの新曲も二つだけあれど、大半はイエロージャケッツの過去のレパートリーの焼き直しで、しかもそれがまったく新たな容貌をみせているのが楽しいです。やはり全曲でミンツァーが指揮した模様。

なんたって1曲目の「ダウンタウン」を聴くだけで、イエロージャケッツがWDRビッグ・バンドとの共演でどんな地点にまで達しているか、よく理解できようというもの。ラッセル・フェランテの書いた1990年代の代表曲でしたが、ここではヴィンス・メンドーサのアレンジによって、ドライヴィングな完璧なるビッグ・バンド・ジャズ・ナンバーへと変貌しています。

2曲目以後も、主にフェランテがシンセサイザーを華やかに操る場面も頻繁に聴かれるものの、サウンド・マナーはフュージョンではなく完璧なるアクースティック・ジャズのそれ。音のダイナミズムをWDRビッグ・バンドが与えていて、ここまで躍動感と柔軟性のあるストレート・ジャズ演奏をイエロージャケッツがこなせるとは、大きな感動ですよ。

アド・リブ・ソロの腕前にはデビュー当初から定評のあったバンドでしたが、90年代にミンツァーが参加したあたりから洗練されたハーモニーとアレンジ・ワークが加味され、バンドとして成熟してオリジナリティを確立していたイエロージャケッツではありました。

今回はそれを大きくふくらませるビッグ・バンド・サウンドとのアクースティックな共演で、このバンドの持っていたポテンシャルが最大限にまで発揮・高められたという印象が強いですね。ビッグ・バンド用のアレンジも冴えていますが、もともとの曲だってここまで化ける可能性を秘めていたということで、ファンだったぼくも認識をあらたにしました。

軽薄フュージョンなんかじゃない、立派なストレート・ジャズ作品。はっきりいって降参です。アルバム題どおり、スケールの大きな良作にしあがりました。

(written 2021.9.5)

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