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事業戦略の作り方 第8回

企画の心得 #17

「事業戦略の策定ガイド」 No.8

4⃣ 事業計画の構築

(4)資金計画


 これまで4回にわたり事業計画の作成に関わる「商品戦略」「販売戦略」「損益計画」について様々な分析手法の例をあげてご説明してきました。
今回は「資金計画」に関する主要項目のポイントについてご説明していきます。
まず資金の調達にはいくつもの方法がありますが、そのそれぞれに特徴やメリット・デメリットがありますのでよく比較検討する必要があります。また当然のことですが事業にどれくらいの資金が必要かによって調達方法も大きく変わってきます。なお、どれくらいの資金が必要になるかに関しては後段でご説明する簡易な「資金繰り表」の作成を参考にしてください。

〔資金調達の種類〕

(1)   デットファイナンス Debt Finance
 銀行などから借り入れをして企業のDebt(負債)を増やすことによって資金を調達する方法です。銀行などの金融機関や自治体からの融資・ビジネスローン・社債の発行等の方法があります。それぞれにメリット・デメリットがありますが、例えば銀行などからの融資はビジネスローンに比べ金利が低いというメリットがありますが、審査に時間がかかったり、担保や保証が必要で審査基準が厳しいなどのデメリットもあります。なお負債の増加により自己資本比率が下がるので企業の信用力の低下になる場合もあります。ちなみに日本の中小企業の9割以上が金融機関からの借り入れによって資金を調達をしています。
(2)   エクイティファイナンス Equity Finance
 企業の株式を発行して資金を調達する手法です。金利の発生や資金の返済義務がないなどのメリットはありますが、一方で配当金の支払いや出資比率や出資者によってその後の企業の経営権への影響も考えられます。また増資による株価の高低なども発生しますので慎重な検討が必要です。出資者としてはVC(ベンチャーキャピタル)やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)、個人投資家などの特定の投資家と、公募増資による不特定で多数の投資家があります。
(3)   アセットファイナンス Asset Finance
 自社のAsset(資産)を売却したり、自社の資産を担保にして資金を調達する方法です。利息や配当金などの支払いが不要であり、比較的スムーズに資金を調達しやすいというメリットがあります。一方そもそも売却できる資産がなければ実施できませんし、今後得られる利益を喪失する可能性もあります。具体的には土地や建物などの不動産を売却したり、事業や各種権利を譲渡したり、企業が保有する約束手形を支払期日がくる前に銀行や手形割引業者に買い取ってもらう手形割引や企業が保有する売掛金を売却するファクタリングなどの資金調達方法があります。
(4)   クラウドファンディング
 最近の新しい資金調達の方法としてクラウドファンディングが拡がってきました。インターネット上で不特定多数の人々から少額ずつ出資を募り資金を調達する方法です。起案者と出資者が気軽に繋がれて資金調達がしやすく、テストマーケティングやプロモーションなどにも使われます。しかし事業や企画の内容によっては資金を調達するのに時間がかかったり、目標金額に到達できない場合があります。クラウドファンディングの種類には以下のようなものがあります。
①   支援者が起案者からリターンとしてモノやサービスを得る
 「購入型クラウドファンディング」
②    被災地の支援などへ支援者がお金を寄付する
 「寄付型クラウドファンディング」
③    事業者が仲介して資産運用したい個人投資家から小口の資金を集め大口
  化し、借り手企業に融資する
 「融資型クラウドファンディング」
④   株式会社が個人の投資家に非公開株を提供して資金を集める
 「株式投資型クラウドファンディング」
⑤    企業が特定の事業に対して個人投資家から資金を募り、個人投資家は
  業績に応じて金銭やモノ・サービスを受け取れる
 「ファンド型クラウドファンディング」
⑥    ふるさと納税のしくみを使った
 「ふるさと納税型クラウドファンディング」    
   
などがあります。
(5)   補助金・助成金
 政府や地方自治体が用意している補助金や助成金の制度に申請して資金調達をする方法です。現在は様々な補助金・助成金制度があり、事業内容が制度の目的や募集要項に沿っていれば有効な手段といえます。主な制度としては、中小企業庁の「IT導入補助金」「事業承継・引継ぎ助成金」や厚生労働省の「働き方改革推進支援助成金」「人材確保等支援助成金」などがあります。

 事業計画を作成していく上で「損益計画」や「投資計画」を作ることは必須ですが、計画でのキャッシュの流れを予測し、どの位の資金を用意しておく必要があるかを知っておくためには、「キャッシュフロー」「フリーキャッシュフロー」「資金繰り表」の内容を理解しておくことが重要です。

〔キャッシュフロー・フリーキャッシュフロー〕


 企業の決算書は、損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CF)で構成され、更に金融商品取引法では「株主資本等変動計算書」と「附属明細書」の二表を加えて「財務諸表」と言われています。キャッシュフロー計算書は企業に現在どの位のお金があるかを示す指標です。ただしキャッシュフロー計算書には細かい取引の内容までは表示されませんので、資金繰り表のように現金の使い道などを細かく確認することはできません。しかしキャッシュフロー計算書では、1会計期間の営業の成果を確認することができるため、上場企業の場合には株主などに報告する資料として作成と公開が法律で義務付けられています。
非上場企業や個人事業主などは作成義務がありませんが、投資家や金融機関からの資金調達が必要な場合は、企業の事業価値を計るものとして重視される数値です。キャッシュフロー計算書には以下の3つの活動によるキャッシュフローが表示されます。

  • 営業活動によるキャッシュフロー

  • 投資活動によるキャッシュフロー

  • 財務活動によるキャッシュフロー

更に営業キャッシュフローに投資キャッシュフローを足すことで求めることができるのが、

  • フリーキャッシュフロー

です。以上4つのキャッシュフローについて、それぞれ説明していきます。

〔営業活動によるキャッシュフロー〕
営業活動によるキャッシュフローとは、本業による収支の差額です。商品を売るための材料の仕入れや費用など、本業の営業活動でどのくらい手元のお金が増え、減ったかを表しています。営業活動によるキャッシュフローがプラス表示の場合、事業から資金を生み出すことができているため本業は順調であると判断できます。反対にマイナスを示しているときには、資金が行き詰まっていると考えられます。営業活動によるキャッシュフローの中の主な項目としては、
・税引前当期純利益・減価償却費・投資有価証券売却損益・固定資産売却損益・売上債権の増加額・棚卸資産の減少額・仕入債務の増加額・法人税等の支払額・その他の資産、負債の増加額 などが含まれます。
〔投資活動によるキャッシュフロー〕
投資活動によるキャッシュフローとは、投資活動で得たお金や、投資を目的として支払ったお金の変動を表示します。設備の投資や固定資産の購入・売却など、本業のための投資をどのくらい行ったかを表しています。投資キャッシュフローの場合、プラスとマイナスのどちらの方がよいということは言えません。例えば成長期や拡大期の会社の場合、投資キャッシュフローはマイナスであってもそれは積極的に投資活動ができていると判断できます。そのため投資キャッシュフローは、プラスかマイナスかで判断するのではなく、その内容を確認することが大切です。投資活動によるキャッシュフローの中の主な項目としては、
・定期預金の純増減額・固定資産売却による収入・固定資産取得による支出・投資、有価証券取得による支出・投資、有価証券売却による収入などが含まれます。
〔財務活動によるキャッシュフロー〕
財務活動によるキャッシュフローとは、営業活動や投資活動を継続するために、どのように資金を調達して返済したかを表します。たとえば銀行から融資を受けたり株式を発行してどのくらい資金を調達し、それに対する返済をどのくらい行ったかなどを示します。財務活動によるキャッシュフローの中の主な項目としては、
・短期借入金の純減少額・長期借入による収入・長期借入金の返済による支出・配当金の支払額などが含まれます。
〔フリーキャッシュフロー〕
フリーキャッシュフローとは、会社が事業活動で得たお金の中で、自由に使えるお金のことです。営業活動によるキャッシュフローの合計額と投資活動によるキャッシュフローの合計額を足して算出します。フリーキャッシュフローがプラス表示の場合には手元の資金に余裕があると判断できますが、反対にマイナスの場合には資金に余裕がないため資金調達で余裕を持たせることが必要です。

〔資金繰り表〕


 事業計画の作成に必要な「資金繰り表」は、今後の事業活動で発生する入金や支出を予測し現金の不足が発生しないようにするために、どのくらいの資金をいつ頃までに調達する必要があるかを予測するために作成します。したがって数か月先の事業の資金状態を把握することが必要になります。損益計画書では売上や利益の予測はできても、調達した資金がどのくらい手元に残るかまでは確認できません。資金繰り表によって売掛金がいつ・いくら入金されるのか、どのタイミングで現金が不足するのかを事前に予測することにより資金ショートを防ぐことが求められます。

〔資金繰り表とキャッシュフロー計算書の違い〕


 資金繰り表とキャッシュフロー計算書はどちらも現金の流れを把握する書類ですが、その使い方には違いがあります。キャッシュフロー計算書は一般的には決算ごとの期間を単位に作成します。一方資金繰り表は日・週・月などのそれぞれの期間ごとに作るため、決算期間とは関係なく自由に作ることが出来ます。通常1か月単位で作るのが有効です。また、資金繰り表は資金残高がマイナスにならないようにするために作りますが、キャッシュフロー計算書は決算期間でのキャッシュの増減をあらわす表ですからマイナスになっても問題とは限りません。
 資金計画の作成にあたっては、簡易でいいので資金繰り表を作成し、事業が黒字化するまでに必要な資金を予測し、その資金をいつまでにどのようにして調達するか策定していきます。

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