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稲木紫織のアートコラム・Arts & Contemporary Vol.31

『マルジェラが語る
“マルタン・マルジェラ”』
9月17日、公開

マルタン・マルジェラというファッションデザイナーをご存じだろうか? 1988年、メゾン・マルタン・マルジェラを創立し、2008年、最後のパリ・コレクションでメゾンを離脱するまで、最もクリエイティブな天才デザイナーの一人でありながら、公の場に一切登場せず、撮影や対面インタビューにも応じない匿名性を貫き、突然の引退から10年以上経った今も、大きな影響力を持つ謎めいた彼のことを。本人自身が自らを語ったドキュメンタリー映画が、この秋、公開される。

マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”_poster

マルジェラが語る"マルタン・マルジェラ" ポスター

1957年、ベルギーのルーヴェンで、イタリアにルーツを持つポーランド人の父親とベルギー人の母親のもとに生まれる。アントワープ王立芸術院で学ぶ。ジャン=ポール・ゴルチエのアシスタントを経て、独立。1988年、第1回アンダム・ファッションアワード(フランス国立モード芸術開発協会主催)で最優秀ファッションデザイナー賞を受賞。1997年、エルメスのウィメンズプレタポルテ部門のアートディレクターに就任。2008年、メゾン・マルタン・マルジェラの20周年を記念するショーで、引退を発表。

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マルジェラによるデザイン画と布見本

映画の冒頭、彼がデビューコレクションに着手するシーン。「最初のコレクションは、シュールレアリスムを導入しようと決めた」とマルジェラが語り始め、この映画、大好きになりそう! と直感する。美術的な要素を取り入れることの多いファッション界ではあるが、よりによってシュールレアリスムとはワクワクする。

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マルジェラによるドローイング

彼の肉声は誠実さを物語っている。ひけらかすようなところがなく、淡々と語られる正直な意見は、華やかなファッションピーブルのそれではなく、苦学生か研究者のようで、かえって引き込まれる。彼の声の出演を実現させたライナー・ホルツェマー監督の手腕だろう。そして、やや武骨ながら繊細な手がメインキャストだ。

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初期マルジェラのアクセサリー代表作の一つのコルクネックレス

とはいえ、2017年、ドリス・ヴァン・ノッテンに密着したドキュメンタリー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』を監督したホルツェマー監督も、最初はマルジェラを引っ張り出すのは不可能だと思っていたという。2018年、映画出演をオファーした当時、たまたま、マルタン・マルジェラのすべてのコレクションの回顧展の準備中だったことが、功を奏したようだ。

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初めて東京に来た際に地下足袋から着想を得て生まれた、マルジェラのアイコンともいえる足袋シューズ

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