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ボーヴォワールが向き合った「老い」

 シモーヌ・ド・ヴォーボワールといえば、彼女の生涯の恋人ジャン・ポール・サルトルと並んで、戦後のフランスにおいて実存主義を掲げ活動した作家であり哲学者です。私も青春時代に、小説『招かれた女』や主著『第二の性』などを貪り読んで、「男女の性差は、単に生物学的なものでも運命でもなく社会的に構築されたものである」というジェンダー論の基本を学んだ、忘れることのできない存在です。あまりにも有名な『第二の性』に比べ、彼女が62歳の時に書いた『老い』を読んだ人は少ないかもしれません。
 6月28日(月)から4回に渡って放映されるNHK Eテレの番組『100分で名著』で、上野千鶴子さんがナビゲーターとなってこの『老い』を取り上げるとのこと。
 まずは、番組の放映日とともに、各回で語られる内容を紹介します。

第一回 6月28日(月)午後10:25〜10:50放送
    6月30日(水)午前05:30〜05:55  午後00:00〜00:25 再放送
    老いは不意打ちである
第二回 7月5日放送/7月7日再放送
    老いに直面した人びと
第三回 7月1日放送/7月14日再放送
    老いと性
第四回 7月19日放送/7月21日再放送
    役に立たなきゃ生きてちゃいかんか!

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2021年7月1日発行 『テキストNHK100分de名著』

老いて何が悪い!

 テキストの冒頭で、そんなタイトルをつけて前書きを書いた上野千鶴子さんは、『老い』を30代の頃に読んで、「老いは文明のスキャンダルである」とのボーヴォワールの言葉に大きな衝撃を受けたといいます。
 彼女から送っていただいたテキストの文章を引用しながら、ボーヴォワールの向き合った老いについて、考えていきましょう。
 「ボーヴォワールがこの本を書いた動機は、現代社会において老人は人間として扱われていない、老人の人間性が毀損されている、ということへの怒りでした。
『老い』の序文では、変化の早い消費社会において老人は「廃品」として扱われていると言い、こう述べています」

 人間がその最後の15年ないし20年のあいだ、もはや一個の廃品でしかないという事実は、われわれの文明の挫折をはっきりと示している。(中略)この人間を毀損する体制(システム)、これがわれわれの体制に他ならないのだが。それを告発する者は、この言語道断な事実(スキャンダル)を白日の下に示すべきであろう。

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