崇拝にも似て

「あの人は沈まないもの」
こんごうが言った言葉が、きりしまの中に深い澱を残していた。不沈艦なんて夢物語じゃないか、乾いた唇できりしまはこんごうへ言う。
「私たちが居なくなっても、きっと此処にいるわ」
不機嫌そうな声色で、彼女が続ける。何かあったのだろうか、きりしまは分からなかった。
「ずっと変わらずに、来ないひとを待ち続けるに決まってるじゃない」
そこまで聞いて、きりしまは漸くこんごうの不機嫌な理由が何となく分かった。心配しているのだろう。記念艦に肩入れしている自分の事を。
「姉さんは勘違いしてる」
「勘違い?」
「彼が彼処にずっといることが、俺の願いだ」
「………」
「俺が除籍になって、解体されても、彼が彼処にずっといてくれる。それはとても安心する。俺がいなくなった後でも、俺は彼を通して未来を想像することができる。それが俺の理想だ」
こんごうが泣きそうな表情をしても、きりしまにはその理由が分からなかった。

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