タロとジロ

 タロとジロの物語を日曜(4月9日)夜のテレビ番組で見ました。知らない人はいない、あまりにも有名な話ですが、あらためて映像を見たり、当事者の証言を聞いて、この話がはじめて胸にストンと落ちたような気がします。

 彼らの隊員に対する忠誠と、最後に待っていた過酷な運命は、それだけで十分にぼくたちの涙を誘います。でも、そういった感情の域を超えて、彼らはぼくたちに大切ななにかを教えてくれるようにも思えます。

 その一つは、組織というものは、個の適性が生かされ・尊重されてこそパワーを発揮するのだということ。ぼくたちは往々にして、組織のためには個を殺さなければならないと考えます。でも、違うんですね。北村さんたち犬係は、一匹一匹の個性を見抜いて、それにあった編成をくむことで、はじめは前進することすらままならなかった犬たちを、見事なチームに仕立て上げます。一匹一匹の個性が、チーム全体の力、組織力になったのです。

 二つ目は、「生きよう」「生きたい」という思いの強さです。北村さんは後年、雪山で遭難して意識を失い、死に直面しました。そのとき彼を支えてくれたのが、タロとジロが身をもって示してくれた、生きようとする力だったのです。諦めたらそれでおしまい。生きるんだという思いの強さが、人を支えてくれるのです。

 そういえば、太平洋戦争中は自殺者が少なかったと言いますね。あの時代は生よりも死が日常だったから、凄惨な時代でありながらも、みんなが生き延びたいという気持ちを抱いていたのでしょう。普通に暮らしたら死ぬんですから。

 今は、生きているのが当たり前。生きようとする力を、一体どこで手に入れたらいいのか? 皮肉なものです。(2000.04.11)

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