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【2021/12/8ない話】USBメモリ①

半年くらい何も書いてないなと思って開いたら最後にnoteを書いたのは2月だった。月日の流れは早いが、とくに都合の悪い事柄に関しては光より早い。歯医者の定期検診のお知らせが3ヶ月くらい前に来ていたが、それも恐らく半年以上前の話なのだろう。


話すことがないので、ない話でもする。


うちの研究室には、代々のゼミ長に引き継がれる「USBメモリ」が存在する。その存在を知ったのは自分が修士になる直前、つまり一昨年の春休み頃で、成り行きでゼミ長になってしまった自分は研究室に呼び出されそのUSBメモリを渡された。

そのUSBメモリは、人差し指の第二関節くらいの長さで、鈍い銀色をしていた。少しひしゃげた台形のフォルムは少し見慣れない形で、ツルツルとした本体の上のテプラが貼ってあった。そこには、掠れてはっきりとは読めなかったが「〇〇研究室」という文字が印字されており、そのくたびれ具合からみるに、きっと何代か上の先輩から引き継がれてきたのだろうということが推察された。

中身はなんてことのない、歴代のゼミでのイベントに関する引き継ぎ内容や先輩の過去の修論のまとめ、或いは就活の覚書といった内容である。一番古いものだと1990年代と見られる時代の資料をわざわざスキャンしたものもあり、よほど几帳面な人がこの研究室にはいたのだろうなということがみてとれる内容だった。

奇妙だったのは、先輩から言われたその後の指示である。先輩からの指示は、「USBの中身を消したり、拡張子をいじらないこと」「中身はその年の研究室のクラウドファイル上にコピーではなく移し替えてアップロードすること」「来年になったら、同じくUSBにファイルを移し替え、クラウド上からは消去すること」の3つだった。

1つ目はわかる。USBファイルに入っている歴代のファイルは貴重な資料だから、間違えて消したりしないようにということだろう。

でも、後ろの2つは妙だ。普通に考えて、する意味がない。消すなといっておいて、でもまるごと移し替えろ、というのは妙だし、そんなことしないでクラウド上にコピーしておけば、最新の引き継ぎ資料分だけ後でUSBに入れておけば事足りるはずだ。

言われたときもそう思ったので、きっと自分が訝しげな顔をしていたのだろう。その顔をみて、先輩は先回りするように言った。「変に思うかもしれないけど、このUSBにいれたファイルからコピーすると開けないんだよね」

試しにやってみ、というので言われたとおりUSBをパソコンにさして目についたエクセルファイルをコピーしてみると確かに開けない。次にコピーではなく移動させてみると開くことができ、更に不思議なことにその移動したものをコピーしたものは開けるようであった。他にも別のファイルで試してみたが、どれもUSBから直接コピーしたものは開けず、うつしかえたものは開けるようだった。

それならますますUSBの存在意義がないので、一度移し替えたのを他のUSBに入れ直したほうがいいんじゃないですか?と聞くと先輩は少しバツの悪そうな顔をして、まぁ来年になればわかるから、そうして。とだけいった。なんだか変な気もしたが、やけに真面目そうな顔だし、いつもお世話になっている卒業間近の先輩の手を煩わせるのもなぁという気持ちもあったので言われた通りすることにした。言われたとおりデータを移し替えたあと先輩は、「USBはなくさないように学校に置いて、中身を入れたあとは、移動以外のことは絶対しないでね」と念を押した。

一体全体妙な話ではあるが、まぁ置いておくだけだしな、と思いながら私は空のUSBを研究室の机の中にいれた。

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