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“これが最善” がん治療の選び方 その1

進行がんと診断され、腫瘍内科に紹介されていらした方の最初のハードルは、何といっても「どの治療を選べばいいか?」だと思っています。
“がん”になってしまっただけではなく、“進行している”と言われて不安や焦りを感じない方はまずおりません。
そして、そのようなこれまで経験したことのない極度の不安や焦りを感じている状況で、いくつかの選択肢を提示されても、「どれを選べばよいのか?」、迷うのは当然だと思います。
どのように治療法を選択すればよいのでしょうか?
今回から、何回かにわけて、このことについて考えていきたいと思います。

最後までお読みいただけたら嬉しいのですが、“予後”や“死”に関する話題が含まれていますので無理なさらずにお願いいたします。
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▼“抗がん剤”、その前に・・・
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手術で“がん”をとってしまえばいいと思っていたのに、「進行していて手術はできないから、抗がん剤治療しかない」と言われて、不本意ながら腫瘍内科を受診される方は多いです。
そのような方のほとんどは「そもそも、本当に抗がん剤治療しかないのか?ほかにもっといい治療法があるのではないか?」と考えながら受診されます。
最近はインターネットで色々な情報が入手できるため、“抗がん剤以外の選択肢”をたくさん調べてこられる方も増えてきています。
“放射線治療”、“陽子線/重粒子線治療”、“免疫療法”、“食事療法”などなど、探せば他にももっとたくさんの選択肢が出てくると思います。
しかも、どの治療法も、抗がん剤治療より“副作用が軽そう”で、“効果も高そう(少なくとも同じくらい)”に見えてしまえば、「どうしてこれらの治療法があるということを教えてくれなかったのか?」「あの病院を信用しても大丈夫なのだろうか?」と、教えてくれなかった病院への不満が募ってしまう方も結構おりますし、自分で調べて見つけた“特別な治療法”ということで、過大評価され、「どうしてもこの治療法を受けたい!」「自分に合った治療法はまさにこれだ!」と考えてしまう方がある一定数いらっしゃいます。
その結果、腫瘍内科を受診したその日に・・・
「私は抗がん剤治療は受けません!」
「この治療を受けたいので、紹介状を書いてください!」
「どうしても“がん”を治したいので、『治らない』とか夢も希望もないような話は聞きたくありません!!」
初対面の我々腫瘍内科医を“敵”や“親の仇”みたいな目で見てくる方が時々いて、困ります。
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▼“抗がん剤治療”を受けないという選択肢を再考する
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手術ができない進行がん(いわゆるステージⅣ)の場合、“抗がん剤治療”が標準治療なことがほとんどかと思います。
そして、“抗がん剤治療”を受けないということは、“標準治療”を受けないということになってしまいます。
もちろん、年齢や全身状態から、そもそも“標準治療”を受けることが難しい方はいらっしゃいますが、話が複雑になるので、今は標準治療を“うけられるけど、うけない”場合を考えましょう。
その上で、がん治療を考える際に忘れないでほしいエビデンスの一つが、がん診断時に標準治療を選択した人と標準治療を受けずに代替療法を選択した人を比較すると、標準治療を受けなかった人の予後は明らかに悪いということです(死亡リスク2.5倍)(Johnson SB, et al. J. Natl. Cancer Inst. 2018;110(1).)。
これは転移のない方々のデータですので、転移がある(ステージⅣの)状況でどうなのかに関しては正確なデータを持ち合わせておりませんが、同じような傾向になるだろうことは想像に難くありません。
つまり“抗がん剤治療を受けない”イコール“死亡のリスクを高める”治療法を選択したということになります。
抗がん剤治療のデメリットは、何といっても“副作用”です。もし仮に抗がん剤に“副作用”がなければ、抗がん剤治療を受けない人はほとんどいないだろうと考えます。
ですので、“抗がん剤治療を受けない”ということは、“副作用”がないこと、すなわち“QoL(生活の質)”が高い状態を維持することを優先したことになるのだと思います。
そして、その代わりに“死亡のリスクが高まる”わけですから、結論としては、「残された時間は少なくなっても、副作用で苦しみたくない。QoLの高い生活をしたい。」という選択をしたということになります。
このように考えて“抗がん剤治療を受けない”という選択をされていれば良いのですが、多くの方が“残りの時間”の見積もりが自分にとって都合が良いものになってしまう傾向にあるため注意が必要です。
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▼“残りの時間”や“余命”について
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その人の“残りの時間”や“余命”は、実際は誰にもわかりません(神のみぞ知る)。
ですので、自分の都合の良いように解釈することは、もちろん誰でもあることだと思います。
担当医には、「何もしなければ余命3ヶ月くらいだろう」と言われたとしても、「自分は治る」や「自分はあと5年は生きられる」と強く信じている人はたくさんいらっしゃいますし、それを否定する根拠はどこにもありません。担当医の予後予測(余命予測)は、”ほとんどはずれる”とされていますし。
以下の話は、いわゆる5年生存率とか、生存期間の中央値などを元にして、データ的にはこうですという話であることは忘れないでください。
大腸がんステージⅣの場合、無治療での生存期間の中央値は6~12ヶ月とされています。抗がん剤治療を受けた場合は、生存期間の中央値は約3年、5年生存率20%ほどが期待されます。
無治療で約1年、抗がん剤治療をして約3年ですから、差し引き2年程度残りの時間が増えた計算になります。
抗がん剤治療の副作用のため、万全の体調での2年間ではありませんが、副作用も常時あるわけではありません。
おおよそ平均的に健康時の70~80%くらいの体調で経過できたとすると、2年=24ヶ月×0.7-0.8≒約18ヶ月(1年半)分の時間を得たことになります。
一方、抗がん剤治療を受けずに、食事療法やサプリメント、効果の実証されていない免疫療法などの代替療法を選択した場合、“残りの時間”が抗がん剤くらい延長すれば我々も「受けない方が良い」ということはないのですが、現実的には無治療と同程度だろうと医療者は考えています。
しかし、代替療法を選択される方の多くは、「抗がん剤治療の効果とまでは行かないかもしれないけれど、それに近いくらいの効果はあるだろう」と考えています。
つまり、代替療法でも、2年とはいえないが、1年半くらいの“残り時間”の延長効果があるだろうと考えてしまう。
そうすると、先に計算したように、抗がん剤治療の影響(副作用)を加味して実質的に得られた時間と同じくらいだろうと見積もってしまい、「であれば、副作用のある抗がん剤治療は受けません」との結論に至ります。
この計算があっているのであれば問題はないのですが、代替療法の余命延長効果は実質ゼロ(と医療者は考えている)なので、担当医からすれば「きちんと標準治療(抗がん剤治療)を受けた方が良いですよ」とオススメすることになるわけです。
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▼“代替療法”の余命延長効果について
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“代替療法”にも余命延長効果があると考えている方はたくさんいらっしゃいます。
僕自身はどう考えているかというと、「あるかもしれないし、ないかもしれない」だし、「人によっては効果的かもしれないけど、全く効果がない人の方が多いだろう」です。
「じゃあ、効果“ゼロ”とはいえないのでは?」と思われるかもしれませんが、比較している対象は、無治療=抗がん剤治療を受けない人です。その中の何人が、本当に無治療(がんに対して何もしない)でしょうか?
進行がんであることが判明し、抗がん剤治療を受けないという選択をしたとしても、本当に何もしない人はいないのではないでしょうか?
がんに良いという食事にしてみたり、知人から勧められたサプリメントを摂ってみたり、どこかのクリニックでがんに良い治療があると聞けば、行って話しを聴いてみたり(そして実際に受けてみたり)していることがほとんどではないでしょうか?
つまり、無治療とはいえ、代替療法のようなものをしている方がほとんどだろうと考えられます。
そして何より重要なことは、無治療の(抗がん剤治療を受けない)人でも、緩和ケアは受けているということです。
緩和ケアは、末期の人が受ける治療という認識で、「私にはまだ早い」「痛くないから、私には不要」と考える方はとても多いです。また、予後(生存期間)には関係ないと考えられがちですが、進行肺がんで、抗がん剤治療を受けながら早期から緩和ケアを受けた方と抗がん剤治療のみの方を比較した結果、早期から緩和ケアを受けた方の方が2.7ヶ月生存期間が長かったという報告もあり、しっかりと緩和ケアを受けることで、予後(生存期間)まで改善する可能性が示されています。
結論といたしましては、無治療での生存期間とは、代替療法+緩和ケアでの生存期間と考えられるのではないかと思われますので、代替療法を行ったからといって、無治療の方よりもさらに生存期間が延長することは考えにくいと私は思います。

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▼まとめ
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今回は、治療の選び方についてお話しさせていただきました。
まずは、「抗がん剤治療を勧められたが、受けないことにする」ということについて考えてみました。
もちろん、「受けない」という選択肢を否定するものではございませんが、それはそれでデメリットも大きいので
少なくとも“担当医とあわないから”という理由で抗がん剤治療を受けないということにはしない方が良いかと思います。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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