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免疫チェックポイント阻害剤と免疫療法について

オプジーボ(ニボルマブ)に代表される『免疫チェックポイント阻害剤』という画期的な抗がん剤があります。
抗がん剤というカテゴリーでいいのか?

これまでがん治療といえば、
手術、放射線治療、抗がん剤治療(化学療法)の三本柱でしたが、
この『免疫チェックポイント阻害剤』を含む『免疫療法』は4本目の柱(第4のがん治療)と言われることも増えてきました。
この『免疫チェックポイント阻害剤』が日本で使用できるようになったのは2014年9月(オプジーボ薬価収載)だそうですので、6年以上経過しているのですね。なんだかつい最近出たクスリのような気がしていましたが、オプジーボ以外にもキイトルーダをはじめ数種類の免疫チェックポイント阻害剤が登場してきており、たしかに結構時間がたったんだなぁって改めて感じました。

当初は、悪性黒色腫(ほくろのがん)にしか適応がありませんでした。
日本人では悪性黒色腫は非常にまれですので、使用する場面が少なく、抗がん剤としての効果というよりは、その価格(とっても高額であること)や本庶佑先生のノーベル賞受賞の方で有名でしたね。
その後、悪性黒色腫以外のがんにも使用が拡がり、現在は多くのがん種で使用ができるようになってきていますし、特に肺がんでは一次治療で使用されるようになるなど、どんどん活躍の場を拡げ、がん治療には欠かせない薬剤になってきています。
また今後もさらに用途が拡がり、効果もアップし、進行がんが治る日もそう遠くないかもしれないと思わせてくれる、とっても素晴らしいクスリです。

ところで、『免疫チェックポイント阻害剤』はどのようにしてがんをやっつけているのでしょうか?
免疫チェックポイント阻害剤が直接がん細胞に作用してやっつけているわけではありません。
がんをやっつけるのは、もともと身体にいるT細胞(キラーT細胞)です。
しかも、そのT細胞を増やしたり、尻を叩いてもっと働くようにしたりするわけでもありません。

がん細胞は、もともと自分の細胞から発生します。
そのため、普通の細胞とがん細胞との差はわずかです。
以前にも書きましたが、およそ1日5000個ほどのがん細胞ができると言われています。
普通の細胞とがん細胞のわずかな差をみつけて、T細胞をはじめとする免疫細胞がやっつけてくれています。
しかし、がん細胞も一筋縄ではいきません。
普通の細胞との違いを隠したり、免疫細胞が働けないようにする物質をばらまいたりして、免疫細胞の攻撃から逃れようとします。
そのようながん細胞が育って、いわゆる「がん」になるわけです。
ですので、この「がん」に対して、T細胞は力を発揮することができません。
T細胞が少ないからというわけではなく、いてもうまく働けていない状態ですね。
『免疫チェックポイント阻害剤』は、免疫細胞のこのうまく働けていない状況を解除し、がん細胞に攻撃ができるようにする作用を持ったクスリになります。

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▼免疫療法の歴史
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そもそも人間が持っている『免疫』というシステムをつかって、がん治療が行えないか?という試みはかなり昔から行われていたようです。
がん免疫療法の始まりは、1890年代とのことですので、100年以上の歴史があることになります。抗がん剤が使用されるようになってからまだ35年程度ですから、免疫療法の方がずーっと長い歴史があるのですね。
最初は、がん患者に細菌を投与することで、身体の免疫反応を活性化してその勢いでがんをやっつけようというものだったようです。
次に、結核菌由来のBCG(結核用のワクチンとして使われる)が、がん治療として検討されるようになりました。
日本では「丸山ワクチン」が有名かもしれません。結核やハンセン病患者さんにがんが少ないことから、皮膚結核ワクチンとして丸山博士が開発したこのワクチンががん治療に応用できるのではないかと考えられたようです。
現在、BCGは「膀胱がん」の局所治療で使用されていますが、他の使用方法はされていません。
丸山ワクチンは「アンサー」という製品名で、放射線治療時の白血球減少予防薬として使用されていますが、がん治療薬としては、1976年に承認申請がなされたが不承認(データ不足のため?)とされ、現在まで有償治験が続いており、ホームページでは41万人に投与されているとのことですが、それでも有効を示すエビデンスは今のところないようです。

その次(1980年代)には「サイトカイン」という免疫の働きを刺激する物質が開発され、がん治療に使用されました。
インターフェロンやインターロイキンと呼ばれる物質です。
現在でも腎がんや悪性黒色腫などに使用されていますが、これらのがんには『免疫チェックポイント阻害剤』も良く効くため、使用機会は大きく減少しています。
サイトカインと同じ頃、免疫細胞を体外に取り出して増やしたり、がんに対する攻撃性を高めたりした後に、その免疫細胞を身体に戻す方法が開発されました(養子免疫療法といいます)。
これらの方法はいずれも、免疫力(免疫による攻撃力)を高めることでがんをやっつけようという方法です。
理論的にはとても「正しそう」ですが、臨床試験などで有効性が示されたのはわずかで、多くのがん種では有効性を示すに至っていないのが現状です。
腎がんに対するサイトカイン療法など、その中でも有効性が示されたわずかなものは、きちんと保険承認を受けています。
保険承認を受けずに自由診療で行われている免疫療法がありますが、有効性が証明されていれば上のようにきちんと保険承認されますので、有効性が証明されていないということになりますし、有効性だけでなく安全性も不確かな可能性がありますので注意が必要です。
何万人もの治療実績があると謳っている自由診療の免疫療法がありますが、それだけの症例数があるのであれば有効性のデータを示して保険承認を受けられるようにするのが、がん患者さんのためだと思うのですが、どうなのでしょうかね?
数百万~数千万円かかるような抗がん剤もでてきておりますから、自由診療の免疫療法が格別高額な治療であるという時代ではなくなってきていますが、そんな高額な治療であっても保険適応があるからこそ使用できる患者さんは多いので、有効なのであれば積極的に保険承認を受けていただきたいなぁ~と常々思っています。

とはいえ近年、先に述べたように、そもそも「がん」は免疫細胞がうまく働けない状態にあることががん免疫研究の成果としてわかってきました。
免疫系にブレーキがかかっている状態であったことがわかったということですね。
ですので、免疫系のアクセルを踏むような治療は、ブレーキをかけながらアクセルを踏んでいる状態ですから、あまりうまくいかなかったのもうなずけます。
そうはいっても焦ってはいけません。
ブレーキを外せばいいんだと「理論上」正しくても、それが本当に機能するかどうかはきちんとチェックされる必要があります。
実際に数々の臨床試験で有効性を証明して、免疫系のブレーキを外す治療方法は多くの人にメリットがあることが証明され、机上の空論ではないことがわかりましたので、その結果として実際に使用されるようになってきています。

これからは、免疫チェックポイント阻害剤同士を組み合わせたり、抗がん剤と組み合わせたり、今はまだないクスリと組み合わせたりすることで、がんがより長期的に維持できる方がどんどん増えてくることが期待されていますし、がんが克服される日もそう遠くないかもしれません。
ワクワクしますね。

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