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がんと『緩和ケア』

『緩和ケア』と聞いてどのような事をイメージされるでしょうか?

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▼否定的?肯定的?
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「がん治療ができなくなった方の医療」
「がんの終末期にうけるもの」
という、どちらかというと否定的なイメージだったり、避けたい印象をお持ちでしょうか?

「痛みやつらい症状をとってくれる治療」
「穏やかに過ごせるようにしてくれる」
などのような、肯定的なイメージではあるものの、がんの最終段階での治療というイメージでしょうか?

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▼緩和ケアのはじまり
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緩和ケアは、ホスピスと呼ばれる緩和ケア病棟において、「がんの末期患者の全人的苦痛を、チームを組んでケアしていこう」というところからスタートしました。
日本では1981年に聖隷ホスピスが浜松に開設されたのが始まりですので、約40年の歴史があります(もちろんもっと古くから緩和ケアの精神を持って医療を行っておられた素晴らしいDrも多数いらっしゃるかと思います)。

一方、当時のがん治療は手術を筆頭に『がんを治す』ことが最大の目標で、患者も医療者もそこを目指してがんばっていましたが、どうしても治すことができないがんの方もいらっしゃるわけです。
様々ながん治療を駆使してもなお『治せない』状態であるとわかったとき、
ある日突然、担当医から
「もう治療はありません。今後は緩和ケアになります。」
と告げられるなんてことがあちらこちらで起こっておりました(今はこのようなことを言う人はいなくなったと信じています)。
がん治療をバツンと終了して、緩和ケアという別の治療を新たにはじめて行くイメージです。患者さんだけではなく、医療者のイメージもそんな感じだったと思います。
がん治療医には、『敗北感』を抱いて緩和ケアを勧めていた方も多かったかと記憶しています。

ですので、冒頭のような『緩和ケア』のイメージは、少し昔のイメージになります。
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▼医療は進歩しています。もちろん緩和ケアも!
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『緩和ケア』も、特にここ10年で大きく変わってきている印象です。
ホスピスのような入院が主体であったところから、外来や在宅(往診)に拡がったり、がん末期のみならず『がんと診断された早期からの緩和ケア』の重要性がいわれるようになったりして、がん医療の中にあるようで、別々のものとイメージされていた『緩和ケア』が、今ではがん治療の中心にあるというくらい重要性が高まってきていますし、範囲もどんどん拡大してきています。

「えっ?オレは、手術で治るから緩和ケア不要だよ!」

そのような段階の方でも、やはりがんと診断されたことによるショックからなかなか抜け出せなかったり、手術はうまくいったけど再発するのではないかと心配になってしまったりしてしまう方も多くいらっしゃいます。
そのような不安や心配ごとを医療者やご家族に聞いてもらうだけでも、気持ちが和らぐことが多いのですが、これも立派な『緩和ケア』です。

「オレは家族に相談なんてできない。弱いところ見せられないもんよ!」
という方も多いのですが、そうはいってもこれから一番長く時間を過ごすのは医療者ではなくご家族でしょうから、家族とどのようにコミュニケーションをとっていったらいいかのアドバイスだったり相談だったりをするのも『緩和ケア』です。

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▼緩和ケアとしての抗がん剤治療
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手術などで治すことが難しい段階の『進行がんに対する抗がん剤治療』も、僕は『緩和ケア』の一部だと思っています。
というか、『緩和ケア』の一部としての『抗がん剤治療』と考えたほうが色々とうまくいくと考えるようになったという方が正しいかもしれません。

例えば、進行がんで、がんによる痛みがある場合。
緩和ケア医へのアクセスが良いところであれば、すぐに緩和ケア医に痛みの治療をお願いするというのが正解かもしれませんが、緩和ケア医はがん治療医よりもずっと少ないので、痛みのある患者さん全員を対応することは到底困難でしょう。
ですので、まずはがん治療医がその痛みに対応することが多いと思います。
通常は鎮痛剤(モルヒネ系の場合も多い)での対処となるでしょうが、がんの縮小効果が期待できる抗がん剤治療がある場合、その効果に期待するというのも十分ありだと思っています(もちろん当初鎮痛剤で痛みを緩和し、縮小が得られたら徐々に減らしてみるということになります)。
とはいえ、がん縮小を狙うにはある程度副作用が強い抗がん剤が必要なことも多く、患者さんによっては副作用への懸念が強い方もいらっしゃいますので、無理に強い抗がん剤治療は行わず、鎮痛剤や放射線治療などと組み合わせて対処していく方法を模索してもいいかもしれません。
『抗がん剤治療』と『緩和ケア』が別々のものと考えてしまうと、痛みの治療が軽視されてしまったり後回しになってしまったりしてしまうかもしれませんし、患者さんのニーズに合わせたがん治療が提供されにくくなってしまう可能性があります。

また、抗がん剤治療の副作用が強くでてしまい、続けるのが辛そうな場合。
がん治療開始当初は、できるだけ長く生きることを目標に治療方法を検討したが、どうやら自分にはあわず、このままではどんどん体力が低下して、自分がしたいこともできなくなってしまいそうだ。抗がん剤治療を受けることだけで、自分の時間のほとんどが使われてしまっているようだ。このままでいいのだろうか?とお考えになる方も多くいらっしゃいます。
抗がん剤治療も『緩和ケア』の一環と考えれば、抗がん剤治療をやめる(休む)ことも選択肢になってくるでしょう。効果は低下するかもしれないが、より副作用が軽い治療への変更もいいかもしれません。

このようなことは、現在では多くのがん治療医が『当然のこと』としてとらえるようになってきていると思いますが、
患者さんからは
「抗がん剤を休んだり弱くしたりしても大丈夫なのでしょうか?」
とよく聞かれます。

そのような時は、僕が尊敬している腫瘍内科医、高野利実先生(がん研有明病院)のお言葉を拝借してお答えするようにしています。
「あなたにとってプラスになるのであれば、抗がん剤を使えば良いし、マイナスになるのであれば使わなければ良い」

医療は、その人が幸せになるためにあるのであって、苦しませるためにあるわけでは決してないのですが、
なぜか、がん治療、特に抗がん剤治療は苦しいのが当たり前みたいな風潮がまだまだあります。

その治療はあなたにとってプラスですか?マイナスになっていませんか?
その治療は何のために受けていますか?
受けた結果、何を得たいですか?

がん治療もサービスです(異論はありそうですが・・・)。
だれも自分が損をするサービスをお金を払って受けたりしませんよね。
でも、なぜか、がん治療は自分が損をするようなことであっても受けていたりしませんか?

少なくとも僕は、その人にマイナスになることがわかっているのに、無理に勧めることはしたくないなぁ~って考えてがん治療をしていますということでした。

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