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がんと『人生会議』 その3

『人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)』って、
実際にはどうやるの?
についてお話ししています。
前回はSTEP1の部分に関してお話しさせていただきましたので、今回はSTEP2からです。

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▼人生会議の大まかな流れ
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『人生会議』は、次の5つのSTEPで行っていきます。

STEP1:大切にしていることを考える
STEP2:代理人を選ぶ
STEP3:質問する、調べる
STEP4:話し合う
STEP5:書き留めておく


「完璧主義」は手放して、納得度が60%以上なら上出来というくらいで進めていきましょう。
時と場合に応じて、何度も繰り返して考えていくことも大切です。
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▼STEP 2:代理人を選ぶ
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「代理人」とは、もしもの時かつ自分自身で意志を伝えられない時に、自分の代わりに「自分の意志」を伝えてもらう人です。
配偶者がいる場合は、配偶者になることが多いと思います。
配偶者がいない場合は、血縁者が多いです。いらっしゃれば子供さんになりますが、いなかったり、まだ若かったりする場合には兄弟姉妹が代理人を務めることも多いです。
家族や親戚の中で、「なんとなく」決まっていることが多いのではないかと思いますが、遠方に居住しておりすぐには来院できないとか、到着を待っている時間的な余裕がない場合などは、その場にいる家族・親戚の中で「代理人」を決めていただく必要がでてしまうこともあります。
今回のSTEP2では、その「なんとなく」で決まっている(のかな?)「代理人」をキチンと決めておきましょうというお話しです。

法律的には「委任状」などが必要なのでしょうが、医療現場ではそこまで求められることはありませんので、「いざというときは頼むよ」とその方にお願いしておき、また周囲の人にも「いざというときは、誰々にお願いしてあるから」といっておくくらいで良いと思います。
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▼家族なら話さなくてもわかる???
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「自分のことは自分で決めたい」という方は多いというか、ほとんどの方がそのように考えているのではと思います。
どなたも自分に関する重要なことを、例え家族であっても、全く相談なく決められてしまったら、納得がいかないのではないでしょうか?
我々医療者は「意見を聞く側」であり、その意見に従って治療方針を決めていくことになるのはご存知だと思います。
意見を本人から聞くことができれば良いのですが、本人の意識がなかったり、危篤状態であるなどで、本人から意見を聴取することが難しい場合も少なくありません。
特に、命の危険が差し迫っている状況に限ると、約70%の人が自分で意見を伝えることができないそうです。
患者さん本人の意見が聴取できない場合は、家族などの「代理人」の方にどのような方針で治療を行っていけば良いのか聞くことになりますが、
SOMPOケア株式会社の調査によると
(https://www.sompocare.com/attachment/topic/1131/news_0225_2.pdf)
両親が受けたい・受けたくない医療に関して、実際に聞いている子世代はたったの15%だったとのことです。
さらに、配偶者に伝えている人は約40%おりましたが、誰にも伝えていない人も約40%いらっしゃるようです。
つまり、「もしも」の時に、「代理人」としてご家族に意見を聞いても、事前に本人から、「そのような場合、こうしてほしい」と言われているわけではなく、多くの場合「おそらくこう考えるのではないか?」という憶測であるということになります。
そうなると、次の疑問は、「その憶測は、どのくらい本人の意見と一致していそうか?」ということになるかと思います。
家族であれば何十年と一緒に暮らしてきているので、「直接話しはしていなくても、夫の考えそうなことくらいはわかりますわ!」という方は多そうですが、それは本当でしょうか?

同じアンケートの中ですが、「自分が人生の最終段階を迎えた時の過ごし方などの希望を誰にも伝えていない」方への質問で、その理由として、70歳以上で「自分の考えは家族に伝わっていると思うから」と回答された方はたったの13%でした(年齢が若いほどこの割合は低下します)。
つまり、本人としては「伝えていないから、伝わっていない」と考えているわけで、70歳以上で長年連れ添ってきた方々でもそうなのですから、やっぱり「言葉にしないと伝わらない」というのが現実なのではないでしょうか?
そのような現実がありますので、何十年家族として一緒にすごそうが、本人から直接「どうしたいか?」を聞いておかないと、やはり「たぶんこうなのではないだろうか?」という極めて曖昧な、本人の意志というよりは質問された家族(例えば、奥様)の方の個人的な意見・価値観にすぎないのではないかと思うことが度々あります。
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▼やっぱり「代理人」は決めておきましょう!
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なんだかんだと前置きが長くなってしまいましたが、
結論としては、事前に代理人を決めておきましょうということです。
代理人を決めるといっても、「代理人は、うちの妻に決まっているから、決める必要はない」とかいう話ではないことは、これまでの長い前置きで十分おわかりかと思います。
「代理人」は、あなた自身で自分の希望を伝えられないときに、あなたに代わってあなたの希望を伝えてくれる人のことです。
あなたの希望といっても「死ぬ時は苦しまないように、ぽっくりと」だけではダメです。
なぜなら、それは誰もがそう思っていて、それは例え伝えていなくてもそう考えるだろうことは皆想定するからです。
そのような「誰しもが考えそうなこと」では対処ができない何らかの理由ができてしまったから、どうしたらいいのだろうか?と代理人が悩むのです。
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▼「代理人」と話しておく内容
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では、具体的にどのようなことを話し合っておけば良いのでしょうか?
一般的には以下のようなことがキチンと話し合われていると、患者さん側としても家族側としても納得した意思決定ができると思います。
・受けたい/受けたくない医療や介護
・葬儀やお墓
・死を迎える場所
・財産の処分方法
ここに列挙したものは、いずれも「死にそうな時どうしたい?」「死んだらどうする?」という「死」にまつわる話しですので
これらの内容に関して確かめておきたいという家族の気持ちは、患者さん死期が近づけば近づくほど、比例して高まるものだと思いますが、逆に死期が迫れば迫るほど聞きにくくなることは間違いありません。
ですので、病気になる前の元気な時からそれこそ日常的にこれらの話題を話せればベストだと思いますが、「大切なのはわかったけど、今今のことではないわけだから、そのうちで良いよね」って先延ばしにされがちです。
11月30日は「人生会議の日」だそうなので、毎年その日は家族でそのような話しをするというように家庭内で取り決めがあればいいのですが、そんな家庭はまあ稀だと思います。
多くの場合ふとした拍子に、どちら一方が「この話題を話したいなぁ~」と考えはするものの、「いつ話題を切り出そう?今か?でも何となく機嫌が悪そうだし・・・」とあれやこれやと考えているうちに、相手から「何か話したいことあるの?」と聞いてもらえればいいけど、十中八九、そんなことにはなりません。
逡巡しているうちに「面倒くさいからまた後でいいや!」となってしまっているのがオチでしょう。
そうならないためにはどうしたらいいか?
話題のハードルを下げて、簡単な所から話し始めてみてはいかがでしょうか?
例えば、テレビで「有名人のお葬式」の場面が流れている時に
「私のお葬式は家族葬でいいかなって思っているけど、あなたは会社の人とか友人とか沢山呼んで盛大にやりたい?」とか
有名人の訃報に際して
「有名人って、どういう所で亡くなるのかなぁ?あなたはどうしたい?」
「あの方自宅で最期まで介護したんだって・・あなたが寝たきりになったら、私にできるかなぁ?」とか
姿勢を正して、キチンと話しをすることも必要だとは思いますが、そんなチャンスは滅多に巡ってきませんから、日々の話題に乗じて話してしまえるのは、家族の強みかもしれません。
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▼まとめ
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人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)とは、具体的にどう行っていけばいいのか、実践編の5つのSTEPのうちの二つ目まで来ました。
まとめて一気にやろうとすると結構大変だと思いますので、「人生会議の日」にやるというよりは、日々の生活の中に溶け込ませるような工夫をしていった方が良さそうだと思いました。
残りの3つのSTEPに関しても順次お届けしていければと考えております。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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