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分子標的治療薬とは

分子標的治療薬というものをご存知でしょうか?

抗がん剤の一種なのですが、昔ながらの抗がん剤とは違った新しい手法で開発されたため、『分子標的治療薬』という新たなカテゴリーが作られました。
一方、従来から使用されている、いわゆる抗がん剤は『殺細胞性抗がん剤』と呼ばれています。

では、これらはどのような違いがあるのでしょうか?

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▼開発方法の違い
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そもそも開発の方法が異なるため、別の種類とされています。
最初に、従来型抗がん剤=『殺細胞性抗がん剤』が抗がん剤として使用されるようになるまでどのような経過をたどるかをお話させてください。
まずここにどんな効果があるかわからない「物質」があるとします。
この「物質」をがん細胞にかけてみたところ、がん細胞が死滅したので、この物質にはがん細胞をやっつける性質があることがわかります。
しかし、どのように作用してがん細胞をやっつけたかは不明です。
がん細胞にふりかけてみたら、結果としてがん細胞が死んだので、抗がん剤として使えそうだという状況ですね。
この後、色々な実験を行って、抗がん効果がどうして現れるのか?を調べていきます。
多くの殺細胞性抗がん剤は、細胞が分裂し増殖する過程のどこかに作用して、細胞分裂ができなくなるように働きます。
さらに動物実験を経て、臨床試験として人体に投与され、効果と安全性が確認されれば、最初は特に名もなかった物質が抗がん剤として認定されるわけです。
がん細胞をやっつけるパワーをもちろん持っているわけですが、普通の細胞にも少なからずダメージを与えてしまいます。
特に増殖スピードの速い血液細胞(白血球や赤血球など)や粘膜細胞などは影響を受けやすく、副作用として多く出現します。
つまり白血球が少なくなったり、粘膜が傷害されることで口内炎や下痢を起こしたりするのは従来型抗がん剤ならどれでもありうるということです。

一方、分子標的治療薬は、どうでしょうか?
がん細胞は、普通の細胞の遺伝子の一部が壊れ、増殖し続けるようになってしまったものです。
近年、どこがどう壊れることで「がん化」するのか?というメカニズムがかなり詳細にわかるようになってきました。研究の成果ですね!
壊れた遺伝子は、壊れたタンパク質を作り出し、その壊れたタンパク質が壊れた作用(無制限の細胞増殖など)を起こし、普通の細胞ががん細胞に変化してしまいます。
この壊れたタンパク質の働きを抑えたりすることができれば、細胞の増殖を抑えることができるのではないかと考えることは、とても自然な流れかと思います。
また、この壊れたタンパク質にだけ作用するような物質であれば、壊れたタンパク質はがん細胞にしかないので、がん細胞にだけ作用することが期待されました。
がん細胞にだけ作用するということは、普通の細胞には作用せず、つまり副作用がなく、がん細胞をやっつけることができるのではないかと期待され、どんどんいろいろな物質が開発されました。
これらの物質が抗がん剤(分子標的治療薬)として認定されるためには、細胞実験、動物実験、臨床試験が行われ、実際に効果と安全性を確認する必要があるのは、従来型抗がん剤と同様です。

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▼つまりどういうこと?
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従来の抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)は、物質が先にあり、作用機序が後でわかります。
分子標的治療薬は、作用機序が先で、それにあった物質が後で選定されます。

さらに、従来の抗がん剤は「がん細胞」であれば効果が出る可能性がありますが、分子標的治療薬はあるタンパク質をターゲットとしてそれを抑える物質であるため、がん細胞にそのタンパク質がなければ効果がでません
例えば、乳がんで使用する「ハーセプチン」という分子標的治療薬は、HER2タンパク質を抑えるものであるため、HER2をたくさん持っている乳がんには効果がありますが、HER2をほとんど持っていない乳がんには効果がでなかったりするわけです。
つまり、従来の抗がん剤は「乳がん」に対して効果が期待できますが、ハーセプチンは「HER2陽性乳がん」にしか効果が期待できないということです。
効果が期待できる人、期待できない人が事前にわかるため、より適切なひとに適切な治療が提供できますし、無益に副作用が生じるリスクが軽減できることにつながります。

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▼副作用は?
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分子標的治療薬の副作用はどうなのでしょうか?
開発のコンセプトとしては、がん細胞にのみ作用することで、副作用がでなくなるのではないかととても期待していましたが、蓋を開けてみたら、結構いろいろな副作用が出てしまうことが判明しました。
従来型抗がん剤は、どのような作用であれ、結果として細胞分裂を停止し細胞死(アポトーシス)を引き起こすことでがん細胞をやっつけます。
がん細胞以外の普通の細胞、特に細胞分裂スピードが速い細胞はダメージを受けやすいのは前述した通りです。
細胞分裂スピードが速い細胞はある程度決まっているため、従来の抗がん剤の副作用はどれもかなり似通っていました。
つまり、どの抗がん剤を使用しても、出やすい副作用は一緒だったということです。
なので、ある程度抗がん剤治療の経験があれば、極端に言えば、はじめて使う抗がん剤でもある程度きちんと副作用へ対処しながら使用することが可能でした。

分子標的治療薬は、ひとつひとつそのクスリがターゲットとするタンパク質が異なります(似たようなもの・同じものをターゲットとすることもありますが)。
ターゲットが異なると、出てくる副作用も違ってきます。
つまり、クスリ毎にでやすい副作用が異なるため、新しい分子標的治療薬を使用する度にきちんと副作用についても勉強しておく必要があるということです。
年々、分子標的治療薬の数や種類はどんどん増えてきていますので、名前を覚えるだけでもとても大変なくらいですが、それらひとつひとつの特徴をきちんと把握して使用する必要があり、勉強もしつづけないといけません。

とはいえ、分子標的治療薬の副作用は従来型抗がん剤とは異なるタイプの副作用であることが多いです。
従来型抗がん剤同士を併用する場合は、どちらのクスリでも起こる副作用はより強く起こってしまうため、投与する量を少なくしたりする必要があったり、単独で使用する場合より副作用が強くなるため体力がある人にしか使用することができなかったりします。

この点、分子標的治療薬は、従来型抗がん剤とは副作用のタイプが異なるため、従来型抗がん剤+分子標的治療薬のように併用して使用する場合に、それぞれの投与量を下げなくても大丈夫なことが多く、純粋に上乗せした効果が期待できるのがメリットとしてあります。
もちろん、従来型抗がん剤と分子標的治療薬を併用すると、それぞれの副作用が出てくるため、一つ一つは大きくはないけど、とても幅広い副作用が出てしまう可能性が高いことには注意が必要です。

以上、分子標的治療薬のご紹介でした!

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