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がんゲノム医療について

「がん」は遺伝子の異常が原因で起こる病気です。
その遺伝子を含む、DNAに刻まれている情報全体を『ゲノム』と言います。
この『ゲノム』をがん治療に応用することで、より良いがん治療ができるのではないか?との考えのもと、とても大きな期待をかけられている治療が「がんゲノム医療」です。

ひとえに「がん」といっても、どの遺伝子に傷がついているのかは、一人一人異なります。
そもそもこれまでは、遺伝子の傷自体を調べることが難しかったので、そのような個人個人の差は考えず、「胃がん」や「大腸がん」「肺がん」といった比較的大きなくくりで治療法が開発、発展してきていました。

個々人の遺伝子異常の差は無視されていましたので、抗がん剤が効く人もいれば、あまりよく効かない人もいるという状況が自然とできます。

例えば、現在も大腸がんの治療で広く使用されている「抗EGFR抗体薬」というものがあるのですが、
大腸がんの90%はこの「EGFR」が活発になっており、そのためがん細胞の増殖が促進されているということが判明しました。
そこで、その「EGFR」の働きを抑える薬ができれば大腸がんの治療に有効だろうと考え、「抗EGFR抗体薬」が開発されました。
「EGFR」が活発になっている大腸がんでないと効果が期待できないと思われたため、この薬を使用する前に「EGFR」が活発かどうか(数が増えているかどうか)を検査して、活発である大腸がんの方のみに使用するという条件がついていました(こういうのも『がんゲノム医療』といえるかな?)。
しかし、その条件を満たしていても、なぜか効果が出ないヒトがいます。
なぜ「EGFR」は活発になっていて、そこを抑える薬を投与しているのに、うまく効果がでないのか?
さらによく調べてみると、効果が出ないヒトは、「RAS」という遺伝子に異常があり、この「RAS」がEGFRの代わりに細胞の増殖を促進してしまっているために、EGFRの働きを抑えてもがんの増殖がおさまらないのだということが判明しました。
この「RAS」の異常は、大腸がんの方の約半数に見つかります。
現在では、「抗EGFR抗体薬」は「RAS」遺伝子に異常があると効果がでないため、「RAS」遺伝子に異常がないことを確認して、異常がない人に使用しましょうということになっています。
(RAS遺伝子異常に対する治療薬は現在治験が進行中です)

頭頸部がん(鼻やのどにできるがん)でも、ほとんどの症例で「EGFR」が活発になっていることが知られています。一方、この頭頸部がんでは「RAS」遺伝子の異常がほとんどない(数%といわれている)ため、RAS遺伝子に異常がないということをわざわざ確認することなく、「抗EGFR抗体薬」を使用してよいことになっています。

あれ?
でも、数%でもRAS遺伝子に異常がある人だったら投与しても意味がないんじゃないの?
という疑問が当然生じるかと思います。

この疑問に答えるのは、なかなかハードルが高いのですが
おそらくコスト的な問題なのかな?って思っています。

コストって、お金の問題かよ!
効かないとわかっている抗がん剤を投与される患者の身にもなれ!
というお叱りは当然あるかと思います(叱る相手は僕ではなく日本国ですからね。お間違いないように)。

日本の医療は、国民皆保険という、とても素晴らしいシステムにより、高額な抗がん剤も格安で治療を受けることができる反面、こういう多少融通が効かない部分もありますよね。

話が逸れました。元に戻ります。

大腸がんと頭頸部がんのように、がんの種類は違えど同じような異常により「がん」になったり、「がん」の悪性度が上がったりしていることがたくさんあります。
というか、研究が進むにつれて、たくさんあることがわかってきました。

しかし、大腸がんの治療薬として開発された抗がん剤を、勝手に他のがんに使用することはできません。
頭頸部がんでも同じに違いないから、投与しちゃえ!っていうわけにはいかず、きちんと頭頸部がんでも臨床試験を行って、効果や安全性を確かめた上でOKとなれば保険適応され、使用できるようになるわけです(時間とお金がとてもかかります)。

そんなこんなしているうちに
肺がんの数%ですが、「ALK」遺伝子異常が原因でなるものがあることがわかってきました。
その「ALK」肺がんに対してALK阻害剤を投与するとほぼ全例でがんが著明に縮小します。
「ALK」遺伝子異常は肺がん以外でも稀に見つかります。
それらの症例に対してALK阻害剤を投与すると、これまたよく効きます。
でも、ALK阻害剤は肺がんにしか保険適応がないため、他のがんで検査することもできなければ、もし何らかの方法で検査して見つけても少なくとも保険では使用することができません。
(現在は、肺がん以外にも少し拡がってきています)

こういうのって、ちょっと何とかならないの?という問題意識がでてきて
オバマ大統領が、「プレシジョンメディシン(精密医療)」と声だかに叫んでくれたおかげ?で
日本でも、2019年から保険で
たくさんの遺伝子(数十~数百)を一度に調べることができる、がん遺伝子パネル検査を受けることができるようになりました。

たくさん調べれば、どれか一つくらいは当たるだろう!
確かにその通りのようですが(一つと言わず、いくつか反応が出ることも多い)、その見つかった遺伝子の異常に対して適した治療薬(抗がん剤)がない場合も多く、
現実的には、治療につながるヒトは10%前後といわれています。

しかも、がん遺伝子パネル検査は、どこの病院でも実施できるわけではありません。
検査を受けられる病院は、厚生労働省により指定された全国12か所の「がんゲノム医療中核拠点病院」、33カ所の「がんゲノム医療拠点病院」、それらと協力してがんゲノム医療を行う180カ所の「連携病院」に限られています。(2021年4月現在)
中外製薬さんが提供してくれているホームページで、全国のがんゲノム医療を受けられる病院を検索できますので、ご活用ください。
https://gan-genome.jp/hospital/facilities.html

その他、検査を受けられる条件などがいくつかありますので、その辺に関してはいずれまたお話させていただければと思います。

本日は、「がんゲノム医療」と題して、
がん治療も結構進歩してきていますよ!
というお話でした。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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