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抗がん剤の副作用はどうしてでるの?  その4

抗がん剤治療による副作用には個人差が大きいので、実際にはやってみるまでどうなるかわからない状況なのではありますが、そうはいっても、以下のような人は副作用が出やすい、ということがわかっております。
それは、
①高齢(70歳以下に比べて、70歳以上)
②全身状態(パフォーマンスステータス:PS)が悪い人
③栄養状態が悪い人

でしたね。
前回①高齢者に関してお話ししましたので、今回は②からお話ししていきます。
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▼パフォーマンスステータス:PSとは?
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全身状態(パフォーマンスステータス:PS)が悪ければ悪いほど、副作用が出やすいのは間違いありませんが、「そもそもパフォーマンスステータスって何ですか?」という方も多いと思いますので、まずはそこからお話しします。
PSは、0から4までの五段階にわかれております。
全身状態が悪ければ悪いほど、数字が大きくなります。
内容は以下の通りです。
PS 0:発病前と同じように生活できる
PS 1:肉体的に激しい活動は制限されるが、軽作業は可能
PS 2:身の回りのことはできるが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。
PS 3:限られた身の回りのことしかできない。日中の50%以上、ベッドか椅子で過ごす。
PS 4:身の回りのこともできず、終日ベッドか椅子で過ごす必要がある。

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▼抗がん剤治療自体オススメできない場合がある
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PSの数字が大きくなるほど副作用が出やすくなります。
その結果として、PSが3もしくは4の患者さんは、体力的に抗がん剤治療に耐えられず、かえって状況を悪化させてしまう可能性が高いことがわかっています。
状況を悪化させるとは、延命効果を期待していたが、抗がん剤治療を受けることで逆に命を縮めてしまったり、そこまでではないにしても大幅に生活の質(QoL)を低下させてしまったりしてしまうということです。
そのため、PSが3もしくは4の患者さんは、基本的には抗がん剤治療そのものを行わない方がよいとされています。
腫瘍内科に紹介されていらっしゃる方の中には、「抗がん剤治療しかない」という説明を受けてきたという方がおります。
そのような方に、害/不利益の方が大きいので、抗がん剤治療はやらない方が良いですよと説明すると、「それしかないといわれてきた治療すらやってもらえないのか!」「見捨てられた!」「あきらめろというのか!」と怒りを露わにされる場合もありますが、
「抗がん剤治療をしないこと」イコール「何もしない」ということではありません。
きちんと「緩和ケア」を受けることで、無理に抗がん剤治療を受けるよりもより良い時間が過ごせることが多いし、場合によってはより長く生きることも可能だということをご理解いただけるように説明したいものだと常々思いながら診療に当たっているのですが、なかなか難しいですね。
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▼PS=2の場合
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PS=2とは、「身の回りのことはできるが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。」状態でしたね。
この状態の方が、抗がん剤治療を受けた方が良いのかどうかは、かなり難しい問題です。
なぜ難しいかというと、多くの臨床試験ではPS=0もしくは1の方が対象になっており、PS=2の患者さんは除外されていることが多いからです。
(臨床試験の中にはPS=2の患者さんを含んでいるものももちろんあるので、そのような治療は受けていただくことが可能です)
PS=2の方が臨床試験に含まれていないということは、臨床試験で評価されていないということです。つまり、「その治療を受けて効果があるのか?」、「副作用は安全に実施できる範囲で行えるのか?」、がわからないということです。
副作用は多少強く出るかもしれないが、PS=0-1の方で効果が実証されたのであれば、PS=2でも効果があるだろうと考えるのは普通だと思いますが、そこは一呼吸おいて考える必要があります。
抗がん剤治療の効果とは、多くの場合、「がんが小さくなる」ことよりも「がんを長く制御できた」という期間(時間)の方が高い評価を受けます。
がんが小さくなったと喜んだのも束の間、1ヶ月後にはすぐ元通りになってしまったというのであれば、抗がん剤治療の満足度は低そうです。
そして、「がんを長く制御する」ためには、抗がん剤治療を継続する必要があるわけですが、副作用が強い場合には、抗がん剤治療を継続すること自体が難しくなってしまう場合も少なくありません。
最初の数回は何とか頑張って抗がん剤治療を受けたけど、もう体力が限界なので中止せざるを得ないという状況であれば、頑張って受けた結果がんは小さくなったけど、治療を中止したからすぐにまた大きくなったということになってしまうかもしれません。
もちろん、「がん」による症状でPSが2になっている方は、がんが小さくなることで、がんの影響が少なくなり、PSが1や0まで回復するという方も多くいらっしゃいます。
このどちらになるかが最初の時点ではわからないので、「難しい」というわけです。
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▼PS=0もしくは1の場合
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「じゃあ俺はPS0(もしくは1)だから大丈夫だな!」ということなら良いのですが、そう単純ではないので困ります。
臨床試験の論文をみると、副作用(正確には有害事象といいます)の発生頻度も記載されています。
そして、結論として「安全に実施できた」とされる臨床試験でも、多くの場合、グレード3/4などの比較的重い副作用がでた方が10~20%程度含まれています。
またわずかですが、副作用により死亡されてしまう場合もあります。
副作用を極端に怖がって、「そもそも抗がん剤治療は受けないぞ」ということもオススメできませんが、全くリスクを考えずに受けたりしてしまうと後悔することにならないとも限りませんので、担当医ときちんと相談して決められるといいかと思います。
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▼まとめ
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全身状態の評価にはパフォーマンスステータス(PS)が使用されることが多い
PSの数字が大きいほど、全身状態が悪い
そして、PSの数字が大きいほど、抗がん剤治療の副作用が強く出る傾向がある
そのため、
PS:3もしくは4の方は、抗がん剤治療を無理に受けない方が良い場合が多い
PS:2の方は、判断が難しい
PS:0-1の方でも、それなりに副作用はでる

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします。


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