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がんと『通院治療』

近年、抗がん剤治療の多くは外来通院で実施されることが多くなってきています。
というか、以前は抗がん剤治療を外来で実施することがとても難しかったのですが、色々な問題が解決、改善したため、外来で実施できるようになったというのが正しいかもしれません。
僕が医学生だった当時は、まだまだ多くの方が入院して抗がん剤治療を行っていました。

昔はなぜ外来で実施できなかったのか?入院が必要だったのか?
最も大きな原因は、副作用がひどかったからです。
特にシスプラチンという抗がん剤を使用した際の嘔吐(吐き気)を制御することが難しく、一度抗がん剤を投与するとしばらく吐き気でつらい思いをし、その間ほとんど食事を摂取することが難しいため点滴で栄養補給をする必要がありました。
その後時間経過とともに吐き気が落ち着いてきて、ようやく食事が摂れるようになったころには2回目の抗がん剤の投与日になるという具合です。
早く吐き気が落ち着いた人は、次の投与日まで退院して自宅で過ごすことができますが、副作用が抜けるのに時間がかかった方は自宅で過ごす時間もなくそのまま入院を継続されている方もたくさんいらっしゃいました。
その後、吐き気止めが進歩してきて、抗がん剤治療を行っても嘔吐・吐き気でつらく感じる方は格段に少なくなってきました。
また、抗がん剤そのものも開発が進み、同じ効果を保ちながら副作用が少ない治療が行えるようになったり、効果は少し低下するかもしれないが、副作用を大幅に軽減した治療方法を選択することができるようになってきています。
そのような進歩によって、抗がん剤治療を外来で実施することができるようになってきたというわけです。

また、がんの告知の問題も大きかったと思います。
昔は、がんであることそのものを患者さんに知らせずに治療が行われていました。
つまり抗がん剤治療を行っていても、抗がん剤だとは知らせていないということです。
抗がん剤と知っていようがいまいが関係なく、抗がん剤の副作用はでてしまいます。
患者さんは、抗がん剤と知らないわけですから、病気のせいで具合が悪いと考えるわけです。自宅で過ごしている時に具合が悪くなれば、ご家族にどうにかしてほしいと訴えるわけですが、ご家族はがんだとも、抗がん剤のせいだとも言えず、なんとも対処に困ってしまうわけですね。
病院に入院していれば、担当医や看護師はなれているので、「それはこうこう、こういうわけで具合が悪いので、このように対処しましょう」と、がんや抗がん剤という言葉を使わずに説明したり対処したりすることができます。
今考えれば、かなり大変な労力だったろうと思いますが、みんなで頑張ってそうしていたのでしょうね。
つまり、がんであることを本人に隠し通すために入院が必要だったという側面があったということです。

さらに、当時は抗がん剤があまり効果的ではなかったということもあります。
効果的ではないということは、今よりもずっと早くがんが進行し、お亡くなりになるということです。進行がんであれば3か月から半年程度もてばよい方という時代です。
がんだけではなく、それ以外の病気(特に心疾患や脳疾患)でも多くの方がなくなっていました。現在はがんが死因のダントツ一位ですが、初めて一位になったのは昭和56年で、当時はまだまだ心疾患や脳疾患、肺炎などでお亡くなりになる方も多かったようです。
進行がんとなれば、抗がん剤するしないにかかわらず、入院が当たり前で、一度入院するとそのまま退院できずにお亡くなりになる方もとても多かったようです。
それでも病院のベッド数は余裕がありました。
満床で入院したくてもできないなんてことはほとんどなかったと思います。
現在は、がんになる方も増え、進行がんと診断された人が皆入院していたら、病院のベッドはすべて埋まってしまいますし、入院したくてもできない人であふれかえってしまいます。
抗がん剤治療の副作用が制御できるようになり、また長期間効果も持続するようになってきていますので、入院してもやることがありません。ただただ退屈になってしまいます。
そもそも進行がんに対して行う抗がん剤治療の目的は、現在の生活を維持することだと思っています。
ですので、現在の生活が一変してしまう入院という行為(?)は極力さけるべきことだと考えています。


そうはいっても、やはり抗がん剤治療を入院で行いたいという方も多くいらっしゃいます。

おそらく、大変な副作用が出てしまったらどうしよう、副作用に耐えられるだろうか?などなど、不安な気持ちがふつふつと湧いてきてしまっているのかなと思います。
もちろんそういう方は、担当医との相談にはなるかもしれませんが、一度入院して抗がん剤治療を受けられてみてもよいかと思います。
『案ずるより産むがやすし』
「ああ、抗がん剤治療ってこんなもんなんだなぁ~。これなら普通に生活しながらうけられるなぁ~」って、自信がつくかと思います。

抗がん剤を外来通院で受けられるのは、時代の進歩のおかげです。
進歩を十分に享受して、生活の質を高めながら、抗がん剤治療を継続できるといいですね。


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