『888の夢』

夢を見た。
怪物が出てくる夢だった。

夢の中で私は学校に通ってた。
私は生徒で、一番前の座席。
授業中すこし体調を崩して、うたた寝をしていたら、先生から心配をされた。
理科の授業が終わった頃、夢の雰囲気が変わる。
怪物を……捕まえなきゃ。
今日は卒業式。だから今日、すべて終わらせなきゃ。

そう思って、私は校舎の中を歩き回る。
怪物はたくさんいて、友好的なものもいれば敵対的なものもいる。
捕まえることが出来たら、スタンプカードのような、怪物の名前が並んだボードに封印される。
形式はちょっと違うけど、これってカードキャプターさくらみたいだな、って思ってた。

怪物は校内のあちこちにいるけど、大抵は物わかりが良かった。
ただ、その前に、やりたいことがあるから……と言ってどこか思い出の場所へ行ったり、会いたい人に会ったり、そんな風に世界との別れを惜しんでいた。

大きな黒い犬の怪物が居た。
彼は、言葉は話せないけれど、行きたいところがあるらしかった。
着いていくと、そこにはいつもはなかったはずのお墓。
その前で横たわる年配の男性。
黒い犬は男性の腕の中に潜り込み、安心した顔で眠りについて、あるべき場所へ還っていった。
その光景はなんとなく、少し悲しかった。

もう怪物は残り数体、数えるほどになった頃。
私は一度教室に帰った。
理科の先生は、生徒たちに今日のことを話していた。
 怪物が出ているから卒業式は気を付けてほしいこと。
 君たちは明日からもしっかり、生きていくこと。
誰かが、先生は今後も先生を続けていくのですか、と尋ねた。
先生は淡々と答える。
 私は怪物なのですから、今日で死んでしまう命です。
誰も知らなかった、だから教室内は驚きで固まっていた。
怪物の封印が死を意味するというのを、私も知らなかった。

先生を封印する順番は最後になっている。
次に封印するのは「888」。
これは、数字の8が3つ並んだとき出現する。
この怪物が手強く、出現させることにも苦労したが、出現したあとの容赦ない攻撃に打つ手がなかった。
近付けないからよくわからないけれど、たぶん、888と書かれた紙から攻撃をしていて、怪物自身の実体は無い。
理屈も物理法則もすべて無視して、888はマグマの波を湧かせたり、ガムのような薄ピンクの何かを波のように走らせて廊下を満たしたり、とにかく危険で近付けない。
ピンクの波から逃げるように私たちは体育館へ走る。

体育館に入るまで忘れていたけれど、そういえば今日は卒業式なんだった。
まるで何事もなかったかのように式が行われている。
私は席について、ぼうっと話を聞く。
さっきまで怪物がたくさん出て、学生たちが慌てていた、あの様子はもうどこにもなかった。
静かに式が進められていく。
怪物ってなんだっけ。
888はどうなったんだっけ。
先生は?

全部、うたた寝が見せた夢だったのかもしれない。