『殺戮アンドロイドの夢』

夢を見た
アンドロイドが居て当たり前の世界だった

私には息子が居て、忠実なアンドロイドの世話係も居る。
夫とは離婚しており、義実家と繋がりがあった時の辛い日々は忘れられない。
私も、幼い息子も、毎日ひどくいじめられていた。

離婚してからは穏やかに、2人と1体で過ごしていた。
家事用アンドロイドは優秀で、何でもこなせる。
私たちにとっては家族の一員だ。

そんな中、息子が学校に行って、私も出掛けようとしたある夏の日に事件は起きた。
元夫が現れたのだ。
「話がしたい、待合室にでも行かないか」
そう口を開いた相手を前に、どうして…居場所なんか教えていないのに…様々な不安に襲われる。
だけどまだ明るい時間だったし、アンドロイドを連れて元夫との話し合いに同意した。
何かいざこざがあるなら、ここで終わらせたいし、息子が居る時間に改めて来られても困ると思った。

近くの待合室は人が多くいたため、少し歩いたところにあるあまり人が来ない、狭めの待合室で話すことになった。
山道に差し掛かり、坂になった国道の脇にある待合室だ。
誰でも利用可能で、こじんまりとしているが、中の椅子や机は綺麗に整頓されていた。
昔……少なくとも平成の時代まではこんな公共施設は無かったそうだけれど、当時から200年、今や全国のどこにでもある。

さあ、じゃあ話そうか。
そう声をかけた瞬間、元夫が突然こぶしを振り上げ、私めがけて殴りかかろうとする。
私は咄嗟に身を屈め、元夫を突き飛ばした。
何が起きているのか私にもよく分からず、止まらない恐怖と焦燥の中、バランスを崩して机の向こうに倒れ呻く元夫を見る。
頭部からの出血がひどい。

(このとき私は突き飛ばしたのではなく、刃物で刺していたような気もする……どちらが正史だろう)

いつの間にか瞼は閉じられ、呻き声も止んでいた。
ああやってしまった。
私は、ついに、殺してしまったのだ。
正当防衛だとしても、こんなことは許されることじゃない。
どうしたら、だって、息子はまだあんなに小さいのに……。
憔悴した顔でその場に突っ立っている私を、アンドロイドが外へ連れ出す。
アンドロイドは手を振り、扉を閉め、待合室の中で死体と共に佇んだ。

どういうこと……?
外からドアを開けようとしても、アンドロイドによって阻止される。
そこに若い女性二人がやってきて、待合室を利用するのでドアを開けてほしいと私に言う。
まずい……まずい!どうしよう!中には死体が……。
そこまで考えて、私はようやくアンドロイドの意図に気づいた。
同時に、見かねてドアを開けた女性たちがすごい声で叫ぶ。

「アンドロイドが人を殺してる!!」

きっと女性たちのような目撃者をアンドロイドは待っていて、だからすんなりとドアを開けさせたのだと思う。
騒ぎが起きると同時に、警察がやってくる。
ああなんてこと、どうしてこんなにも駆けつけるのがはやいの。
女性たちが私をその場から引きずるように遠ざけ、安全地帯へと移動させる。
たぶん、銃撃戦がはじまるのだ。
私の家族が、私たちの家族がいま罪深い私のために濡れ衣だという事実も恨まず、壊されようとしている。

私はそれが辛くて、辛くて、苦しくて、叫んで、泣いて、いつの間にか目が覚めていた。