伝えたいことなど何もない。

このノートを始めたきっかけである推しのディナーショーがもうあと3日後に迫っている。
あと3回寝たら推しに会えてしまう。まったく信じられない。どうにかなりそう。

この二月あまりの私といったら全く冷静さを欠いていて、五里霧中、暗中無策といった風体で何をすべきかわからないのに気持ちだけが焦ってばかりいる。

ただ、今まで生きてきた人生においてここまで生身の人間を推したことがなかったので、せっかくなら、ディナーショーに参画するにあたり悔いのないように全力で挑みたいと思った。

せめてその場にふさわしくありたいと思い、準備したことといえば美容院、ネイル、化粧品の刷新、人生初のまつ毛エクステ等、いい年して大はしゃぎして身の丈に合わないことばかり。
自分の肌に合わせたファンデーションを求めに休日の午前中に百貨店の地下に赴いて化粧を試すなどした。
恥ずかしながらあまり自分の外見に磨きをかけてこなかった自負があるため、美しく彩られた絢爛な空間が恐ろしくて仕方なかった。しかし社会の一員になれたような奇妙な安堵感と錯覚があった。

ショーに着ていくためのドレスも新調した。
夜会に呼ばれても耐えられるような素敵なドレス。
太陽の光を浴びて繊細に輝く刺繍が美しい、私の黄金のドレス。
およそひと月分の生活費と引き換えだが悔いはあるはずがない。
ドレスに合わせたシックなベージュの本革のバッグは借り物。
靴は、ショーが終わるまで耐えられるかわからないけど、大粒のグリッターが散りばめられたキラキラのピンヒールしかないと思った。
美しいものに囲まれているけどこれらは全部ハリボテだ。

ここぞというときにまずは外見から取り繕う様が見て取れるのはいささか正視に耐えない。ここには等身大の私しかいないはずなのに。

ここまで準備をしても心の安寧が訪れることはもちろんない。
全力疾走した後のような動悸と虚脱感が、身を焦がすような地獄が永遠に続いている。早く楽になりたい。

推し活とはこんなにも辛いものでは恐らくないはずだろう。
私だってウキウキワクワク楽しみで煌めく、夢みたいに幸せな時間を過ごしたい。いったいなぜこんなことになっているんだ。こんなはずではなかった。
何がいけないのか全くわからない。強いて言えば私が推し活をするにはあまりに稚拙な精神しか持ち合わせていないことが原因かもしれない。

人生における初恋よりも鮮烈な感情に突き動かされていることだけは確かで、それ以外は何もわからない。自分の心の内さえも全くわからない。
まったく物心ついたばかりじゃあるまいし。いったい人間何年目だろう。

こんな心持ちで当日を迎えることがはたして可能なのか。
ひとまず生きて金曜日を迎えることができれば御の字というものだろう。

余談だがマツエクは施術の時間が辛すぎて、分類するとすれば拷問の類だと思った。眼球のすぐ近くで鋭利なピンセットが軽やかに舞う様は先端恐怖症の人間でなくとも耐え難い状況だと思う。
これに耐えている世の中の人間を本当に尊敬する。

3日後、無事でいる自信が全くないけど、どうなっていても、自分で自分の骨は拾いたいと思う。

我が推しに永遠の幸あれ。


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