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このゲーム一生親子の話してる(逆転検事2ネタバレ感想)

 年末年始にクリアした逆転検事無印に引き続いて、逆転検事2をクリアしました。

 こちらは逆転裁判シリーズの中でも特に色んな方から勧められる機会の多かった作品なのですが、クリアしてみるとお勧めされた気持ちがよく分かる……としみじみ納得するくらい素晴らしい出来のゲームでした。逆転裁判シリーズのスピンオフとしてだけでなく、いちミステリー作品として非常に良質だったと感じます。何よりも端から端までずっと親子の絆の話をしていて、親子関係の話が大好きな身としては終始テンションが上がりっぱなしでした。
 この記事では、そんな逆転検事2の感想について1話ずつ振り返りながら書いていきます。以下ネタバレを含みますので、ご留意のほどお願いします。特に逆転検事2はぜひ何のネタバレも踏まずに遊んでほしいゲームなので、未プレイだけど少しでもこのゲームが気になるという人はすぐにこのページを閉じて遊んでください。元は3DSのゲームだけどスマホでも遊べるよ!!!!

逆転検事無印の感想はこちら




第1話 逆転の標的

 第1話にあたる「逆転の標的」ですが、それまでのシリーズ作品の1話とは異なって、チュートリアルとは思えないほど手強い事件に立ち向かいます。お前ら逆転検事無印はもうクリアしたな!?行くぞ!!と言わんばかりのフルスロットルっぷりですが、その勢いが最後まで途切れずずっと面白いのが本作の凄いところです。

 個人的に嬉しかったところの一つは、逆転検事シリーズのヒロインである一条美雲が1話から登場したことです。無印の頃から父を亡くした辛い境遇に負けることなく明るくひたむきにいられる姿や、正義のヒーローだった父の志を受け継ぎたいと思う気持ちの描写が好きなキャラクターだったので、無印では第3話からと少し遅い登場だったのが勿体無かったな、と感じていました。その点で、逆転検事2では初めから美雲と一緒に事件を捜査できてとても嬉しかったです。


■ロジックチェス

 本作で登場する新要素の一つが、ロジックチェスです。これは御剣が頑なに口を割ろうとしない相手に論理的な話術で立ち向かい、情報を引き出すためのシステムになります。
 1話「逆転の標的」では、逆転検事無印の最終話をなぞるように治外法権の話が出てきます。逆転検事無印では治外法権に守られている相手に序盤は手も足も出なかった御剣ですが、逆転検事2では「西鳳民国の大統領が乗ってきたジェット機の中には治外法権が適用されるから、日本の警察は捜査ができない」と言う相手に、御剣はロジックチェスを用いて自分の捜査権を主張します。このように、逆転検事無印では御剣が困っていると誰かが助け船を出すといった流れが多かった中で、逆転検事2では御剣が自らの力で困難な状況を乗り越える場面も数多く見られます。対話の中相手の隙を突きながら一言の矛盾も見逃さない、個人的に遊んでいてとても楽しかったシステムです。

■過去作キャラクターの登場

 逆転検事2でも、無印と同様に逆転裁判1~3にかけて登場したキャラクターが沢山出てきます。特に一番最初に証言を追究する相手が、逆転裁判2のラスボスだった虎狼死家左々右エ門(以下コロシヤ)であるのは、かなり驚いたポイントでした。「大統領が暗殺者に狙われた」という事件の始まりにコロシヤが登場するのは、絶対こいつが犯人だろ!!!!とプレイヤーを思い込ませるのに最適な人選だと思います。

 また、逆転検事2で初登場するジャーナリストの速水キリコは、自分には師匠がいると頻りに話します。洪水のようにまくしたてられる関西弁と、出会う場所がひょうたん湖であること、スクープへの貪欲な姿勢などを鑑みれば、彼女の「師匠」が一体誰なのか逆転裁判無印をクリアしたプレイヤーならばおのずと分かるでしょう。実際に彼女の師匠が登場した時は、やっぱりこの人か……と矢張に出会った時に似た安心感を覚えました。
 御剣がキリコから取材を受けた流れで「第2の師匠」と呼ばれ、誰かにとっての師匠の立場に立つのも、後々の展開を考えると味わい深い点です。

■手強い犯人

 第1話の犯人、内藤馬乃介は、多少の小物感こそあるもののシリーズ1話目の犯人としては非常に手強い相手です。よく練られているトリック、現場での捏造など、謎解きの難易度もシナリオの密度も逆転検事無印の1話とは比べものにならないレベルになっています。

 特に、逆転裁判シリーズでずっと言われ続けてきた「法廷では証拠が全て」と証拠のみが信じられるものとする言葉に反するように、犯人が現場で証拠をすり替えて捏造するくだりは、御剣が「まさかこの私が証拠を疑うことになるとはな」と思っているとおり中々に驚かされる展開ではないかと思います。
 西鳳民国の大統領暗殺未遂から始まる第1話は、逆転検事無印が最終的に国を股にかける大規模犯罪組織を相手取ったようにまたしても国家ぐるみの犯罪が繰り広げられるのではないか?といった予感を感じさせます。物語序盤とは思えない規模のこの事件は、ひいては逆転検事2の衝撃的な結末を際立たせていると思います。

 また、第1話で事件が起こる場所は、御剣にとって忘れられない思い出のあるひょうたん湖です。かつて逆転裁判無印でひょうたん湖にて起きた事件が御剣にとっての大きな転機となったように、逆転検事2というまた一つ御剣にとっての大きな転機もひょうたん湖から始まるというのは、感慨深いものがあります。


第2話 獄中の逆転

 1話の犯人が裁判を受ける前に殺されてしまうという予想外の展開で、第2話「獄中の逆転」は始まります。逆転検事2のメインとなるキャラクターも数多く登場し、本格的に物語が動き始める回です。

■新キャラクターの登場

 逆転検事無印で美雲やロウ捜査官が登場したように、逆転検事2でも物語を彩るキャラクターがたくさん登場します。中でも特にメインを張るのは、

検事審査会に所属している裁判官であり今作のライバル枠でもある水鏡秤(みかがみ はかり)

今作のライバル枠かと思わせておいてこちらが心配になるくらいポンコツな新人検事・一柳弓彦(いちやなぎ ゆみひこ)

かつて御剣の父親に師事しており、現在は御剣法律事務所の跡を継いで弁護士として活動している信楽盾之(しがらき たてゆき)

の三人です。

 水鏡と弓彦は、御剣が関わる事件でよく二人揃って登場します。初めは逆転裁判シリーズの「検事がライバル枠である」というお決まりに沿って、弓彦が今作のライバルかと思わせられますが、聴いているこちらの気が抜けるような三拍子のBGMにどこからどうツッコんでいいのか分からないめちゃくちゃな推理に、一瞬でこいつ大丈夫か……!?と思わせられます。
 そんな弓彦に対して、水鏡は論理立てられた推理や証拠を提出するタイミングの駆け引きが非常に上手く、とても手強い相手です。どちらかといえば、彼女の方が逆転検事2におけるライバルの立ち位置にあたるのではないでしょうか。また、水鏡の「御剣の検事バッジを剥奪する」といった強引な手段で無罪の容疑者を有罪にしようとする姿からは、逆転裁判無印の被告人をすべて有罪にしようとする御剣の姿が思い起こされます。

 新登場するメインキャラクターの中で、2話から3話にかけて主にその背景が語られるのが信楽です。突然御剣に嫌味をぶつけてきて、なんだこいつは!!と思わせてからの、「御剣法律事務所の弁護士です」と素性を明らかにされた時の多大な納得は、逆転検事2全体に通ずるキャラクターへのヘイトコントロールの上手さを実感させられます。
 2話で語られる信楽の背景は、生前弁護士だった御剣の父親が経営していた法律事務所の跡を継いで弁護士として働いていること、そして父親の死後狩魔検事の教えに心酔していた御剣を憎んでいることです。この話を初めて聞いたときは、御剣が経験した事件の諸々の経緯を考えると彼が犯罪を憎み狩魔に師事する気持ちもよく分かるので、当時小学生だった御剣にそこまで察しろというのはちょっと酷じゃないか……!?と思わなくもなかったのですが、御剣の父親と共に狩魔弁護士と戦った信楽の気持ちを考えると御剣に嫌味を言うのも感情としては理解できます。このあたりの塩梅は、真実を追い求める道半ばで亡くなった弁護士の死に対してずっと後悔を抱いているといった共通点からも、逆転裁判3のゴドー検事を彷彿とさせられました。

 初めは剣呑な空気だった御剣と信楽ですが、共に捜査を進めるうちに信楽は御剣の真実を追究する志を認め、胸のうちにあったわだかまりを解くことを決めます。逆裁無印ではどんな手を使っても被告人を有罪にする姿勢について、成歩堂から悪い意味で「変わったな」と言われていた御剣が、逆検2では信楽さんから逆裁無印での一連の出来事を通した変化について良い意味で「変わったね」と声をかけられる場面には、逆裁無印での御剣の変化を間近で見てきただけに強く胸を打たれました。

「どうやら、かつてのキミとはちがうようだね。なにがキミを考えたのか……。ちょっと興味あるなぁ」
「私を変えたもの……ですか。あえて言うならば、それは……法廷そのものかもしれません。法廷に立って経験した多くのこと。出会った多くの人々。そして……そこで再会した友人たちでしょうか」


■“父を亡くした”という境遇

 2話の中心となるキャラクターの共通点として語られるのは、父を亡くしたという境遇です。最も分かりやすいところでは、2話で逮捕され御剣が無罪を晴らすことになる猿代草太(さるしろ そうた)を通してその共通点が話されます。

「ボクにとっても、内藤にとっても、たった一人の幼なじみなんです……。アイツも……ボクと同じで、ちゃんとした家族が居ないから」
「……ム? キミには、家族が居ないのか?」
「あ……お、幼い頃に、唯一の家族である父を失って……」
(幼い頃に父を失った……か。そのツラさは、私にもわかる)
「ミツルギさんや、わたしと、同じですね……」

 御剣、美雲、猿代の三人は、全員が父親を亡くした過去を経験しています。このことは、御剣と美雲に猿代への同情心を強く抱かせて、猿代の無罪を証明したいという決意を強固なものにさせます。

 また、猿代が働いている職場タチミ・サーカスから、猿代の上司としてミリカが再登場するのも味わい深い点です。ミリカは逆裁2で起きた事件で父親を亡くしており、彼女もまた御剣や美雲、猿代と同じ境遇にあたります。そのことはミリカ自身も話していて、亡くなった父親について「お星さまになったから夜になればまた会える」と逆裁2で初めて彼女と会った時に話していた夢見がちな認識ではなく、「パパは死んじゃったから」と現実を受け止めている姿に、父親の死を経て現実を知りそれでも未来に向かって歩いていくミリカの成長が感じられます。逆転検事シリーズで多く見られる過去作キャラクターのその後の描写の中でも、特に好きな描写です。


■2話の犯人について

 2話の犯人である美和マリー(みわ まりー)は、事件が起きた刑務所の所長という、かなり強い立場にある人間です。彼女の犯行動機は、歴戦の暗殺者である風院坊了賢(ふういんぼう りょうけん)に脅されており、彼の部下に命を狙われるのを恐れるあまり殺人を犯したという、一見すると同情の余地がある動機に思えます。
 しかし、逆転検事2のテーマの一つが「親子の絆」であることを踏まえると、2話の時点で彼女の本性を垣間見ることができます。

 美和は自身が所長を務める刑務所のことをホームと呼び、そこに収容されている受刑者やアニマルセラピーのため飼われている動物を家族と呼んでいます。2話における大きな特徴は、御剣たちと明確に対立する登場人物が皆、刑務所における家族を蔑ろにしている点です。美輪の共犯者だった山野がトリマーの資格取得を目指していながら動物に対して何らの愛情も持っていなかったり、脱獄を目論んでいた折中がパートナーの小グマを置き去りにして脱獄しようとしていたのがその例です。

 彼らと同じ傾向が、2話の犯人である美和にも見られます。彼女は受刑者たちを家族と謳いながら、山野のような自分にとって都合の良い人間は贔屓して、折中のように自分の意にそぐわない人間は懲罰房に送って痛めつけています。懲罰房でどのような懲罰が行われているのかは本編で明らかにされませんが、反抗的な囚人である折中が懲罰房に送られるのを非常に恐れて拒絶しているところからも、決して生ぬるい罰ではないのでしょう。

 そして、美和は内藤を殺害した理由についても「悪いのは全部了賢なのよ! あたくしは何も悪くないの! だからいいじゃない! あんなヤツの手下くらい! あいつが……あいつさえホームに現れなければ、あたくしが……あたくしだけが、ずっとハッピーでいられたのに!」と発言しています。この言葉からは、ホームと家族が自分だけにとって都合の良い存在であればいいという、彼女の“家族”というものに対する身勝手な考えが読み取れます。御剣に追究された後のブレイクシーンで、可愛がっていた動物(=家族)に逃げられてしまう末路は、彼女の利己的な気質が表れているように思います。


■御剣が弁護士になる道

 この2話において、御剣は事件を捜査する間まるで弁護士のような動きをしています。無実の依頼人を信頼し、弁護士の助手という立場で捜査を進め、諦め悪く証言に食らいついて、時にハッタリもかます。プレイヤーにとっては、成歩堂に似た挙動とも感じられます。成歩堂が逆裁無印で初めて尋問した相手である山野を尋問するという流れも、御剣がまるで弁護士みたいだという感覚を強めます。特に、事件が解決した後「内藤は自分を信用してなかったんじゃないか」と悩む猿代に証拠品をつきつけるイベントは、逆裁1~3で成歩堂もよくやっていたイベントです。

 2話の最後、無事に猿代を助けられた御剣の姿に、自分にとっての師匠――御剣信(みつるぎ しん)の面影を見た信楽は、検事審査会に目をつけられて検事バッジ剥奪の可能性を示唆された御剣に「弁護士になってみないか」と声をかけます。
 この話は、プレイヤーにとっても非常に興味深い話題です。御剣が元々は弁護士の父親に憧れていたこと、そんな御剣の憧れが成歩堂を学級裁判で救ったことをプレイヤーは知っています。御剣は逆裁1~3と逆転検事無印で真実を追究するスタンスを固めましたが、逆転検事2で彼に提示される問題は、ただ真実を追究するだけなら弁護士でも出来るのではないか・それでも御剣が検事でなければならない理由は何かといったものです。
 御剣が幼少期に思い描いていたとおり、父の背を追って弁護士になったらどうなるのだろうとは、プレイヤーならば一度は考えた話だと思います。そんなもしもの可能性に対する答えが逆転検事2では描かれていきます。この問題に対して御剣がどんな答えを出すのかは、本作のシナリオを読み解くにあたって注目すべき点の一つです。

「検事として犯罪と戦っていくのか、弁護士として人を助けていくのか。
キミのこれからの生き方を、じっくり考えてほしい」



第3話 受け継がれし逆転

 第3話の見所は、何と言っても御剣の父親、信さんを操作できるところです。その他に若かりし頃の信楽が見られるのも、逆裁無印を遊んだときから気になっていた信さんと狩魔検事の対立が見られるのも、御剣親子の絆が見られるのも、そして話の完成度の高さ自体も素晴らしく、これが最終話じゃないんですか!?と何度も確認してしまいました。


■御剣親子の絆

 3話では、回想を挟みながら過去の捜査パートと現在の捜査パートを行き来しつつ物語が進んでいきます。現在の捜査パートではいつも通り御剣・美雲・信楽の三人で捜査を進めますが、過去の捜査パートでは何と御剣の父親・信さんとその助手を務める信楽を操作して話を進めていきます。御剣が憧れていた信さんの弁護士としての考えや優れた頭脳を直に感じ取れる他、信さんが対立していた狩魔検事や逆転検事無印で登場した馬堂刑事が出てくるのも嬉しいポイントです。

 信さんは、「依頼人を信じて最後まで諦めない」「ピンチの時ほどふてぶてしく笑う」「逆転の発想で困難を切り開く」といった、これまで逆転裁判シリーズで話されてきた弁護士としての心構えを体現している人です。これらは今までのシリーズ作品だと神ノ木弁護士から千尋さんへ、千尋さんから成歩堂へと受け継がれてきた教えですが、本作では信さんから信楽さんへと受け継がれた教えになっています。彼らの心構えが同じなのは、彼らに何かしらの繋がりや交流があるというよりは、弁護士として真摯に働いている人たちが大切だと思うものは示し合わせずとも自然と共通してくるといった表現だと思います。

 個人的に、信さんがダメージを受けたとき御剣のように驚いた顔をしつつも、驚いたままの顔をする御剣と違って信さんはすぐに帽子をおさえて不敵に笑うモーションがとても好きです。「弁護士はピンチの時ほどふてぶてしく笑う」を体現しているようなモーションだと思います。


 また、信さんから御剣への親心や、御剣親子の血の繋がりを感じる二人の似ているところにふれられるのも、3話の醍醐味の一つです。
 お菓子作りの番組を息子に勧めようか考えたり、小学生ながらに六法全書を読んで楽しいと話している息子に友達がいるかを心配したり、信さんから御剣への愛情は端々から伝わってきます。特に信楽が「息子に友達がいるか心配」という信さんの話を聞いていたことを思うと、2話で信楽が問いかけた狩魔に心酔していた考えを変えた理由として御剣が友人の存在を挙げた事実が、より得難いものに感じます。

 過去の回想と現在を行き来する間に、無意識に父親と同じことを考えていたり、父親と同じ行動をとったりしている御剣が見られるのも好きなところです。こういった何気ない挙動から血の繋がりが感じられる親子の描写が本当に好きなので、御剣親子でこういった描写が見られて嬉しかったです。


 3話では、御剣親子がIS-7号事件という十八年前の殺人事件を時を経て共に解決することになります。過去と現在、それぞれの捜査パートで分かれて集めていた証拠品が、回想が終わると同時に御剣の手元で一つになる演出は、プレイヤーの視点からも“時を超えて信さんと一緒に事件を解決している”という気持ちになりました。
 IS-7号事件は、逆裁無印で語られていた「御剣の父親が、依頼人の無罪こそ勝ち取れなかったものの狩魔検事の不正を見抜き、無敗の経歴に唯一傷をつけた事件」です。恐らく逆裁無印の発売当時にはほとんど構想が練られていなかっただろうこの事件を、御剣親子を繋ぐ絆の一つとして昇華している「受け継がれし逆転」は、非常に完成度の高い物語と言えるでしょう。

■親子の絆vs子供を捨てた親

 3話には、御剣親子以外にもお互いを思い合う親子が登場します。それは、IS7号事件で有罪判決を下されてしまった天海一誠(てんかい いっせい)と、彼に拾われて屋敷の手伝いをしている緒屋敷司(おやしき つかさ)です。

 緒屋敷は、捨て子の自分を育ててくれた天海のことを心から慕っています。テレビ番組のアシスタントとして働いているのは勿論のこと、天海の住む屋敷での手伝いもしており、彼女がポール・ホリックという有名な彫刻家の作品を集めるのは他でもない天海が彼の作品を好きだからです。
 天海が有罪判決を受けた後も、緒屋敷は毎日彼のもとに面会へ通っています。そして遂に緒屋敷は、IS-7号事件の真犯人を捕まえるために天海の屋敷を自力で買い戻し、美術館を開きます。IS-7号事件の真実にたどり着けなかった親の無念を晴らすべく事件の真実に立ち向かうのは、御剣だけでなく緒屋敷にも言えることなのです。「受け継がれし逆転」は、子の親を想う気持ちと、親子の絆が真実を導き出した事件でもあります。

 そうして親子の絆を胸に事件の真相を突き止めていく御剣や緒屋敷と対立するIS-7号事件の真犯人は、風見豊(かざみ ゆたか)というパティシエです。
 彼が殺人を起こした理由はサスペンスドラマにありがちな金銭トラブルで、味覚障害を患っていた事情などを鑑みるとそれなりに同情できる理由でもあるのかなと思いきや、「味覚障害が治った後息子を捨てて海外へパティシエの修行に行った」「息子は自分がパティシエの道を極めるための味見係に過ぎず、自分の味覚障害が治った今息子などどうでもいい」と、真実が明らかになるにつれ加速度的にゴミクズ人間っぷりを明らかにしていきます。
 2話「獄中の逆転」の項目にて、御剣たちと対立する登場人物は皆”家族”を蔑ろにしているという共通点があると書きました。これは、2話に限らず逆転検事2全編を通して言える話になります。お互いを思い合っている御剣親子と天海・緒屋敷親子に対し、息子を捨てた親である風見の対比は、それが特に分かりやすい構図ではないかと思います。
 息子を捨て、自分が起こした殺人が時効を迎えたからと得意げに自白する風見へのこいつ何とかして裁けないんですか!?!?!?という怒りが頂点に達してからの、時効が停止する条件を上手く使って風見を裁く展開のカタルシスは言葉にできないものがあります。

 なお、3話でも水鏡が弓彦と共に登場して、御剣と対立する立場で推理を進めます。風見の「息子などどうでもいい」と言い切る風見に対しても水鏡は冷静に「時効を迎えている以上彼を罪に問うことはできない」と口にしますが、同時に「風見さまの行為はたしかに人道にははずれているようですわね」とも言います。後々明らかになる水鏡の家族の話を考えると、彼女がこう言いたくなるのも納得です。

■信楽の後悔

 3話の過去回想を通して語られるのは、信さんの在りし日の姿だけではありません。彼の助手として共に捜査をしていた信楽の胸に残り続けている後悔も、3話で中心となる話の一つです。

 18年前の回想では、信楽の若い頃の姿が見られます。現在のひょうひょうとしていて笑顔の裏に冷静さを保ち続けている雰囲気とは大きく異なり、当時の信楽は感情を露わにしながら憧れの弁護士について回っている純粋な青年です。


 また、回想の中で信さんが身に着けている帽子「信さんのコートは僕が弁護士になった時に貰う約束ですからね」という会話を見た後に、今の信楽さんが被っている帽子と彼に検事バッジを突きつけた時に聞くことができる「お気に入りのコート」の話を思い出すと、信楽さんの湿度に良い感じに浸ることができます。

 信楽は、IS-7号事件の結末をずっと後悔し続けています。天海が無実の罪で重い罰を受け続けていること。天海を慕う緒屋敷を助けられなかったこと。敬愛する師匠を失ってしまったこと。それらの後悔をせめて償うように、彼は18年間ほとんど毎日天海さんの面会のために刑務所を訪れています。
 また、信楽から御剣に対する思いもそれに連なって改めて語られます。「自分自身が何も出来なかった不甲斐なさから目を背けて、被害者の傍に居た人を逆恨みしていた」という胸中は、やはりゴドー検事から成歩堂への思いとどこか重なって感じられます。

「あの日、一緒に帰らなかったこと。……いまでも後悔しているよ。
それに、オジサンは自分のふがいなさを棚に上げて……狩魔検事の弟子になったキミを、裏切り者だとニクんでいたんだ。
……すまない」

 IS-7号事件の真相が解き明かされ、真犯人が捕まったことで、信楽の後悔はようやく拭われます。また、信楽は死体を隠した罪に問われることとなった緒屋敷さんに「あなたの弁護を俺に任せてくれませんか。もう、ガキのころみたいに無能じゃない。あなたを有罪になんて、絶対にさせません」と声をかけます。この言葉からは、18年間無実の罪を背負う人を目の前にしながら何も出来なかった後悔と、それから成長して罪を背負うべきでない人のために何かが出来るようになった喜びが感じられます。

 事件が解決した後、信楽は御剣法律事務所に飾ってある信さんと一緒に撮った写真の前で、御剣が事件を解決したことを報告します。その写真の隣に、構図がよく似た御剣と信楽の写った写真が並べられている光景には、御剣親子の絆と信さんと信楽の師弟の絆が詰まっています。
 3話のタイトル「受け継がれし逆転」とは、信さんという親から御剣という子供にIS-7号事件の捜査が受け継がれた意味の他にも、師匠の信さんからIS-7号事件における弁護士の仕事が弟子の信楽に受け継がれたという意味も込められているのではないかと思います。

■法の矛盾と法の成長

 逆転検事2の大きなテーマは、「親子の絆」の他にももう一つ存在しています。それは、「法の矛盾と法の成長」です。このことは、3話の最後に信楽さんの口から語られます。

「そう……"法のムジュン"だね。
今の法が決してすべて正しいわけじゃない。
ま、どうなるかは分からないさ。法も人も成長していくものだからね。
オジサンやレイジくんが成長したように……さ!」

 御剣は「法を使うのはあくまでも人であり、人が成長すれば法もまた限界を超え成長していく」といった話を逆転検事無印でしていました。この法の矛盾の話は、それに連なった話でもあります。
 決して絶対に正しいわけではない法に、これからどう向き合っていくべきか。その方法として信楽は、法を使う人間が成長していくことを挙げています。御剣はDL6号事件の解決を経て成長し、信楽はIS-7号事件を通して成長していきました。そんな彼らが、目の前にある法の矛盾に立ち向かっていく姿が、逆転検事2では4話以降も描かれていきます。

第4話 忘却の逆転

 まるで最終話のような盛り上がりを見せた3話の後、ここから物語が失速してしまわないか……!?と思いながら4話を始めたプレイヤーの目に飛び込んでくるのが、美雲が記憶喪失になるという衝撃の展開です。
 記憶喪失になった美雲はいつもの活発な雰囲気が打って変わって、大人しく清楚な女の子になっているのですが、逆転検事無印からこれまでの間に「一条が実は結構可愛いってこと、俺だけが知ってるんだよね……」と思い込んでいるモブクラスメイトの自我が生えていた私は自分が想像していた以上に美雲が怪我を負って記憶を無くしてしまったことにショックを受けました。
 一条に落とした消しゴムを拾ってもらって笑いかけられた存在しない記憶を胸に、4話を振り返っていきます。

■ヤタガラスでなくなった美雲、検事でなくなった御剣

 記憶を無くした美雲は、当然自分が大泥棒ヤタガラスであったことも忘れてしまっています。更に美雲は、彼女が怪我を負ったビルで殺人事件が起きたことを切欠に、もしかしたら自分が人を殺してしまったのではないかという恐怖に苛まれます。

 美雲がピンチに陥っている一方で、御剣は美雲の無実を信じて捜査に乗り出すのですが、それに対してまたしても検事バッジの剥奪を盾に脅してくる検事審査会へ、御剣は「真実を追究するためにバッジが邪魔になるのなら、バッジは必要無い」と言って自ら検事バッジを返却します。
 記憶喪失になった美雲の持ち物は一時的に御剣が預かっているのですが、その中には美雲がいつも身に着けているヤタガラスマークのバッジもあります。つまりこの4話は、ヤタガラスバッジを失いヤタガラスではなくなってしまった美雲と、検事バッジを失い検事ではなくなってしまった御剣の物語でもあるのです。

 そしてもう一つ注目すべきが、今まで一緒に事件を解決してきた二人が同時にアイデンティティともいえる肩書きを喪失してしまったイトノコ刑事の立場です。逆転検事無印では、全編をとおして検事と刑事の信頼関係が描かれていました。そんな中、逆転検事2で、御剣は”検事”ではなくなってしまいます。
 検事と刑事という肩書きが無くなってしまった二人の関係性が一体どのようなものになるのかというのは、逆転検事2で注目すべきポイントの一つです。

■家族の絆vs家族への愛が欠片も無い男

 3話に引き続き、2話でも御剣側の家族の絆vs敵側の家族を蔑ろにする人間の構図は続きます。4話で主に描写される家族の絆は、武藤瞳子(むとう とうこ)伊丹乙女(いたみ おとめ)の絆です。
 彼女たちは孫と祖母の関係にあたり、年を取って自分一人では歩けなかったり相手に伝わるよう話せない伊丹に代わって、武藤が彼女の手を引いて他人との会話でも通訳のような役割を果たしています。また、武藤は自分と祖母の関係について「小さい頃からずっとおばあちゃんと一緒だった」「おばあちゃんのためなら、私はどんな看護だってできる」と話しており、祖母を強く慕っているのがうかがえます。実際に二人の「武藤が迷子になったときは日が暮れるまで探してくれた」「転んだ時は自分の力で起き上がるまで見守ってくれた」というエピソードを見ると、伊丹は武藤の祖母でありながら親代わりのような存在だったのかもしれません。立ち絵でも二人は一緒に手を繋ぎ合って登場することが多く、時に伊丹が武藤を叱るため杖でポカリと頭を殴ったり、反対に武藤が伊丹を叱るため頭を小突いたりと、遠慮の無い関係が見て取れます。

 武藤は4話で犯人に協力して殺人の片棒をかついでしまうのですが、協力に応じた理由も「過去に伊丹が行った検死結果の書き換えについてバラされたくなければ協力しろと脅迫されたから」といった、大好きな家族を思いやったからこその理由になっています。
 しかし、武藤は伊丹に「アンタの罪は、ワシが全部受けとめたる。全部、ワシに話してみぃ」と諭されることで、真実を御剣たちに話すと決めます。その時、武藤が伊丹からの”死体に恥をかかせてはならない”という教えを守り、犯人の指示に無かった被害者に赤いレインコートを着せたことが、事件解決の糸口にもなります。家族の絆が真実を追究する手がかりになる構図は、4話でも同じです。

 彼女たち以外にも、4話では記憶喪失になった美雲の代わりに逆裁無印5話で登場した宝月茜(ほうづき あかね)が助手として捜査に加わります。彼女の姉妹同士お互いを思い合っている姿は逆裁無印5話で語られたとおりで、彼女もまた御剣側で真実を見つけ出すのに協力する、家族の絆を携えている一人だと言えます。


 御剣と対立し、真実を隠す側に立っているのが家族の絆を蔑ろにしている人間であるのも、今まで通りの構図です。4話の真犯人・一柳万才(いちやなぎ ばんさい)は、検事審査会会長という今までの逆裁シリーズならばラスボスを飾るような大物の権力者でもあります。実際に、彼は今までの大物よろしく証拠品の捏造やえん罪による逮捕を厭わず、権力を振りかざして真実の隠蔽を行ってきます。そして、彼は名字からも察せられるとおり弓彦の父親です。
 4話では、万才の登場と同時に、プレイヤーの誰もが不思議に思っていた何でこんなにバカな弓彦が検事になれたのかの真実が明らかになります。ちなみに弓彦のバカっぷりは、3話で出会った矢張に「もしかしてこいつバカなんじゃねえのか?」と言われるレベルです。矢張にそれを言われたらおしまいなんだよなあ……。

 4話では弓彦と、シリーズお馴染みの狩魔冥(かるま めい)が初めて顔を合わせるのですが、顔を合わせるや否や弓彦は冥からムチでボコボコに殴られます。冥は割とムチで打っていい人・打ってはいけない人を選んでいる節があるのですが、出会って数秒で「こいつは打っていい」と認定されて殴られる弓彦には笑ってしまいました。
 4話までに周りの多くの人が弓彦に「こいつバカなのでは……?」と思いつつ、真っ直ぐに彼を叱ることはほとんど無かったのですが、冥は次々と弓彦に罵倒という名の正論を浴びせ続けるため、弓彦に苛立っていた多くの人の溜飲がこの場面で下がるのではないかと思います。


 しかし、この後更なる衝撃が弓彦には待ち受けています。それは、自分の優秀な成績や肩書きはすべて親の七光りによって作られていたものだったという真実です。更に父親である万才は、弓彦のことを使えないコマとしか思っていないとも明らかになります。

「でも、オレ、がんばって……がんばったんだ! オヤジ!
オヤジに言われた学校に、言われた通りトップで入学した!
見てくれよこのジャケット! シュセキで卒業した人間の特権だ!
オヤジに言われたとおりにした! だから、シュセキだったんだ!
オヤジみたいになろうって、賞もいっぱい……!」
「おまえは……本当にバカな子だねえ。
テストはなあ、僕が頼んで全部花マルにしてもらったんだ。
弁論大会も語学大会も、審査員は全部、僕の知り合いだった。
なあ、弓彦。そんなことも気づけなかったお前が、僕の子供にふさわしいワケがない。そうは思わないかな?」

 それまで自分で自分をイチリュウと名乗り、気取った話し方をしていた弓彦が、実父に対して褒められたい子供の年相応な口調で必死に思いをぶつけるシーンは、正直に言って逆転検事2で一番興奮したシーンです。親にしか見せない子供の子供らしい側面って……いいよね……。

 3話の風見に続き、万才のクソカスっぷりが明らかになったところで、水鏡の本当の目的も明らかになります。彼女の目的は、検事審査会会長の立場を利用して不正を働いている万才の告発です。今まで御剣を頻りに検事バッジの剥奪で脅していたのは、万才の腹心として怪しまれないようにするための行動だったとこの時に分かります。この展開からは、目的と私情を徹底的に切り分けて自分の成すべきことを成し遂げようとする水鏡の強い意思や高潔な志がうかがえます。
 また、水鏡が弓彦とよく共に行動していたのは、万才に近づくためでした。しかしそのことを万才に指摘された水鏡は、弓彦が”コマ”などではないこと、弓彦が実力に見合わない仕事にも一生懸命だったことを話し、万才に向けて強い怒りを露わにします。

 結局弓彦は父親からの酷い言葉を受けて逃げ出してしまうのですが、その時に父親が現在の自分の在り方に強く影響している子供である御剣・冥・美雲の三人が弓彦に同情的な言葉をかけるところからは、親子の構図をこれでもかというほど重ね合わせてくるシナリオの強さを感じます。また、4話で冥が初登場し、弓彦と顔を合わせたのは、犯罪者であり優秀な経歴を持つ父親を持つ検事の共通点を持ちながら、父に愛され父の期待に応えられる実力を持っている冥/父に愛されず父の期待に応える実力を持っていなかった弓彦の対比だったのだとも気づかされます。
 今まで何も知らなかった弓彦が残酷な真実を知った時、果たして彼はどうするのか。弓彦の物語は5話へと続いていきます。

「……かわいそうなのは、いままで彼が何も知らなかったことよ。
どんなに残酷な現実でも、受け入れなければならない。
そうでなければ……彼自身の人生を歩むことはできないわ。……絶対に」
「……父親の影響というのは、カンタンに消えるものではない。
だが、彼はこれから変わっていくことができるだろう」

■一条親子の絆

 記憶喪失になった美雲が、大泥棒・ヤタガラスとしての記憶を取り戻すきっかけとなったのは、父親との絆を表す約束ノートです。4話で描かれている家族の絆は、武藤・伊丹の関係だけでなく、一条親子の絆も大きな主題になっています。
 約束ノートには美雲と父親の約束が書かれているのですが、特に美雲の心を震わせたのは五つ目の「知らないことは、知る努力をする」という約束です。
 美雲は記憶喪失中に殺人犯の疑いをかけられた時、被害者が目の前で倒れた記憶を思い出しかけて「自分が殺人犯かもしれないから、記憶を思い出すのが怖い」と真実を知ることを拒絶していました。しかし、そんな彼女に御剣は自分の無罪を信じるように願って彼女の無実を証明します。

「あえて、有罪になるような態度を見せているのは、私の身を案じてのことか……実にキミらしい発想ではある。
悪いが……期待には応えられない。私は、良い人になるつもりはないぞ。
キミがどんなに嫌がったとしても……キミを助けようとするだろう。
それは私自身のエゴであり、意思だ。キミへの迷惑など知ったことではない。
ミクモくん、もう一度自分を信じろ。キミは立派なギゾクだ。
殺人を犯したという記憶を、キミ自身が疑うのだ」

 自分が人を殺してしまったかもしれない記憶から目を逸らさずに思い出すこと。それは、正に彼女が父親と約束した、知らないことは知る努力をすることに他なりません。美雲が知らないことを知る努力をして、真実に向き合ったからこそ、彼女の無罪は証明されました。そして、無罪が証明された彼女のもとに返ってきた約束ノートで自分の記憶を思い出すという流れは、一条美雲を形作る根幹を丁寧に描いた良質な物語だったと感じます。

 更に、4話の最後では御剣が美雲へ約束ノートを手渡すスチルが出てくるのですが、彼が約束ノートを手渡す姿は美雲の記憶の中で父親が自分に約束ノートを手渡す姿と重なります。美雲の父親は、御剣と同じ検事です。そして、検事として真実を追い求めるため義賊ヤタガラスとして活動していた父と、自分の無罪を証明するため検事バッジを捨ててまで真実を追究してくれた御剣は、美雲にとって正しく正義のヒーローだったのだろうとこの重なり合いからは感じられます。

 ちなみに、記憶喪失になった美雲は、御剣の検事バッジを見た時に次のような会話を御剣と交わします。

「それは……ダレかを守るためのバッジ、でしょうか?
正義のヒーローが持つという、バッジ……なのでは?」
「いや……これは、検事バッジという。
キミが言っているのは、弁護士バッジではないだろうか?」
「そうでしょうか……? とても、なつかしい気持ちになるのです。
あたしにとって、大事なダレかがよく見せてくれていたような…..」

 記憶を無くしても検事の父親をヒーローだと思う気持ちが残っている美雲に胸を打たれると同時に、弁護士バッジがヒーローのバッジだと思っている御剣もまた、弁護士として人を守っていた父親をヒーローのように思っているのだと感じられる、とても好きな会話の一つです。

第5話 大いなる逆転

 逆転検事2の最終話にあたる「大いなる逆転」では、これまでの逆転裁判シリーズよろしくこれまでの事件を繋ぐ謎の解決と作品テーマの総括が行われます。5話の描写は端から端まで本当に素晴らしく、最後まで失速しないまま面白さを更新し続ける逆転検事2のいち作品としての完成度の高さがいかんなく伝わってきます。

■水鏡親子の絆

 逆転検事2が家族の絆をテーマの中心に据えた作品であるとはこれまでにずっと書いてきたところではありますが、今作のライバル枠である水鏡もまた、家族の絆が描かれます。
 彼女が大切に思っている家族とは、養子でありながら本当の親子のようにお互いを思い合っている息子・相沢詩紋(あいざわ しもん)です。私は5話までの間に、弓彦に対して接する時の水鏡の母親のような言動がとても好きで、水鏡裁判官にも家族概念が生えるなら母親側であって欲しいな♪と思っていたので、詩紋と水鏡の親子確定演出が来た時は心のダンスフロアが沸き上がりました。

 これまでずっと論理的な思考や目的のため私情を切り分ける水鏡の意思の強さを見て来たからこそ、詩紋が誘拐されて狼狽し、裁判官としての務めも疎かになってしまう水鏡の姿は、彼女にとって詩紋がどれだけ大切な存在かがよく伝わってきます。水鏡とのロジックチェスは、彼女がロジック強者なだけあって他のキャラクターと比べれば普通に難敵なのですが、それでも普段より隙の多い発言が頻繁に見受けられて、ここからも水鏡の動揺がうかがえます。

 詩紋は元々水鏡の従姉妹の子供であり、従姉妹の死をきっかけに水鏡は詩紋を養子として引き取りました。それなりに複雑な境遇ではあるものの、水鏡と詩紋の間柄に気まずさや遠慮のようなものは無く、本当の親子と言って差し支え無い関係になっています。それまで清廉とした言葉を口にしていた水鏡の、子供を心配する言葉や叱る言葉から感じ取れる人間味は、彼女の魅力をぐっと引き立てています。また、詩紋も素直でないところこそあるものの水鏡を心から母親として慕っており、水鏡が容疑者として疑いを向けられている時は「母さんをいじめるな!」と彼女を守ろうとしています。

 水鏡は、万才を告発するために検事審査会の内部で孤独に戦っていたことについて御剣に尊敬の念を送られた時、自分を支えてくれていたのが詩紋の存在であったことを話します。しかし、詩紋を誘拐されたことで裁判官としての正しい務めを果たせないところだった点については後悔しており、もっと心を強く持たねばならないとも言います。
 それでも、逆転検事2において、水鏡が詩紋への愛情で裁判官として以前に一人の人間として揺らいだことは肯定的に描かれています。それは、御剣親子や一条親子を中心に描かれてきた親子の絆が今の子供達を形作り、未来がより良い方向へと進んでいっているからだと思います。

「私は、キミの理想に何かをいうつもりはない。
しかし、私の知っている『最高の裁判官』は……とても人間味にあふれた人だ。
裁判中も、喜び、怒り、悲しみ、楽しむ……それでも、最後に必ず正しい判決を下してくれる。
うまく言えないが……カンペキであることだけが正しいことではない……
ときに、そう思うのだ」

 御剣が水鏡にかけるこの言葉は、水鏡の親としての情を肯定する言葉という意味でも、逆裁無印で完璧な無敗の経歴を持っていた御剣が、成歩堂に負けて完璧でなくなったことを切欠に今の自分を確立した背景を思い起こさせるという意味でも、味わい深い言葉だと感じます。


■弓彦の成長

 5話の大きな見所の一つが、4話で心をこれでもかというほどぶち折られた弓彦の成長です。彼は父親に突き放されただけでなく、5話では万才の手下に詩紋と間違われて誘拐されたことで完全に憔悴しきっています。心を折られた後の弓彦のぼろぼろと涙を流す泣き顔のモーションからは、彼が負った傷の深さが伝わってきます。あと泣き顔がとても可愛い。

 逆転検事2で初めて出てきたシステムのロジックチェスですが、これは逆裁2で出てきたサイコロックのように相手の心の在り方がよく分かるシステムにもなっています。例えば矢張が相手のロジックチェスは、御剣が何も言わなくても矢張が勝手にべらべらと喋ってくれるという、矢張のチョロさがよく分かる攻略方法になっています。
 そんな中、ロジックチェスのラスボスとして立ちはだかるのが、これまで論理とは最も遠いところにいた弓彦です。弓彦に対するロジックチェスは、傷心中の相手から情報を引き出さなければならないというのが難易度の高さの理由ですが、それに加えて今まで何も知らなかった弓彦に一つ一つ正しいことを教えること・弓彦を立ち直らせて彼に未来の道を指し示すことも目的の一つになっています。ロジックチェスは相手との対話であり、対話はただ相手を追い詰めるだけでなく激励する手段にもなることが弓彦との対決からは分かります。強敵を打ち倒すのとはまた違った展開ですが、弓彦とのロジックチェスは、ロジックチェスの最終戦として相応しい対決だと思います。
 また、このとき御剣は捜査にタイムリミットを設けられていて、効率だけを考えるならば正しい情報を聞いた後は弓彦を放って置いても良い状況です。それでも「彼のことが他人事だとは思えない」と言い弓彦を導く御剣の姿からは、彼の優しさが滲んでいます。

 御剣との対話を通して「父とは違う検事になる」と決意した弓彦は、一度投げ出した法廷に再び戻ってきます。帰ってきた弓彦のBGMが、気の抜けるようなほのぼのとしたワルツから検事らしい威厳を纏ったタンゴに変わり、泣き顔のモーションもそれまでのどこか情けない顔から上を向いてぐっと涙をこらえるものになり、彼と同じく父が犯罪者だった現実に向き合い乗り越えてきた冥が弓彦に後の裁判を託す展開には、胸が熱くなります。

 法廷に帰ってきた弓彦は、今まで鑑識に命令して証拠品を捜査させていたのが一転して、自分の手でゴミ捨て場から証拠品を探して持って帰ってきます。逆転検事が、御剣が自分の手で証拠を集めるゲームであることも相俟って、弓彦が御剣のような検事の道を一歩踏み出したことが、この弓彦の行動からは分かります。

 更に、法廷で恐らく初めてのまともな裁判に挑む弓彦の隣で、御剣はアドバイスをしながら同じ検事席に立って彼を導きます。この同じ席の隣でアドバイスをするベテランと新人という図は、逆裁無印の千尋さんと成歩堂、逆裁3の神ノ木と千尋さんから分かるとおり、師匠と弟子が取っている構図です。弓彦の着ている赤いジャケットは、4話で万才の隣に立っている時は父親の赤いライダースジャケットに重なった服のように見えますが、5話で御剣の隣に立ってみると御剣の赤いスーツと重なって見えます。父親に庇護される子供から、父と違う検事としての道を歩み始めたことを絵で表した表現として、この赤いジャケットは非常に秀逸な役割を果たしていると感じます。

 また、第1話の項目で、速水が御剣を「第2の師匠」と呼ぶ流れについて話しました。5話では正式に御剣が弓彦にとっての師匠のような役目を果たすことを思うと、5話に引き続き登場する大沢木と速水の二人は単なる賑やかし要員ではなく、御剣が作中で築く師弟関係を表す登場人物だったのではないかと思います。

 更に私が大好きなのは、弓彦から万才へ最後に送る言葉です。自分に何の愛情も抱いておらず、ただ使えないコマとしか思っていなかったという真実を突きつけられてなお、弓彦は万才に彼の息子として決別の言葉を伝えます。

「最後まで、オヤジには嫌われていたけど……。
オレにとっては……ずっと、尊敬する父親だったよ。
いままでありがとう。……さようなら」

 自分を嫌って蔑ろにしていた父に、「ありがとう」と「さようなら」を真っ直ぐに伝えるのは、誰にでも出来ることではありません。この言葉からは、真実から目を逸らさずに自分の足で立ち上がった結果一回り大きくなった弓彦の成長と、彼の心根の善さが感じ取れます。
 逆転裁判シリーズでは、これまで数々の優秀な検事が対立する相手として立ちはだかってきました。そんな中、明らかにポンコツな弓彦の登場には、誰もが驚かされたのではないかと思います。しかし、こうして弓彦の成長を見届けた今、一柳弓彦は「法と法を用いる人の成長」をテーマの一つに据えた逆転検事2において、最も「法を用いる人の成長」を体現したキャラクターだったと思います。


■逆転検事2の黒幕の話

 黒幕の正体は、逆転検事2の最大級の見所と言っても過言ではないものです。実際に私も、十数年前に発売されたゲームでありながら黒幕の正体を思わず伏せて話してしまうくらいには、未プレイの人に絶対黒幕の正体を知らないまま遊んで欲しいと強く思いました。私が逆転検事シリーズを遊んだ理由は、何人かの趣味と価値観に信頼の置けるフォロワーさんにお勧めしていただいたからだったのですが、私が逆転検事を遊ぶと明確に決意する前から黒幕を徹底的に秘匿して勧めてくださったことに強く感謝しています。

 刑務所の所長やら検事審査会の会長やらと大物の犯人が出てきた中、逆転検事2の黒幕は2話で御剣が無罪を証明した猿代草太です。これまでの逆転裁判シリーズでは、黒幕が最終話で初登場することが多かったため、既に登場しているキャラクターが黒幕だったというのは良い意味でシリーズ作品恒例の裏をかかれた気持ちになりました。
 2話「獄中の逆転」は、御剣にとって初めて弁護士のように行動した事件でもあります。依頼人を信頼し、無実を証明し、最後には証拠品で依頼人の心のケアもする。そんな御剣の行動を全てひっくり返すような黒幕の正体には本当に驚かされましたし、猿代に「結局アンタは弁護士ごっこがしたかっただけなんだろ?」とバカにされた時は、うるせーーーーー!!!!!!!(図星)となりました。
 特に猿代にチェスセットを見せて、「内藤が猿代にチェスセットを持ってくるよう頼んだのは、猿代ならチェスセットの中を見ないと信頼していたからこそだ」と話す展開には結構感動していただけに、チェスセットの中身を見ないどころかノミを仕込んでいたのも猿代だと判明した時の感情といったら、マジでこいつ…………ほんっっっっまにこいつ………………。

 これまでずっと親子の絆について話してきた逆転検事2ですが、猿代にも勿論親子の話がされます。猿代の正体は、3話「受け継がれし逆転」の真犯人・風見豊の息子です。しかし、猿代は当時の記憶が曖昧であるため、風見が殺した氷堂が自分の父親だと勘違いしています。幼馴染の内藤を間接的に殺した理由も、自分の父親を殺した男の息子だからだと思ったからです。この真実が明らかになる場面は、「人殺しの息子だから殺してもいいと思った」猿代が、自分こそが人殺しの息子だったと知った瞬間の動揺が見られて、やるせなさとお労しさが襲ってきます。ここ絶対フォロワーの興奮ポイントだ!!!!と思っていたので、クリア後に感想を聞いてその通りだった時は嬉しくなりました。
 更に猿代は、人殺しだった上自分を捨てた親について「あんな奴は自分に関係無い」と言うのですが、死体の隠し方が父親と全く同じであることを御剣に突きつけられます。3話で散々御剣と信さんの親子らしく同じ行動を取る場面でプレイヤーを温かい気持ちにさせてからの、猿代にとっては残酷とも言える「親子で同じ行動を取る」現象の使い方は、思わず舌を巻いてしまいました。

 すべての事件の黒幕である猿代ですが、その境遇はかなり悲惨なものです。3話で明かされたとおり内藤に車に閉じ込められて死にかけて、父親に捨てられたうえ、その後預けられた孤児院では当時孤児院の院長だった美和マリーに尋問という名の虐待を受け、更に一柳万才が事件について捏造した真実を知っているせいで追われるという、これまで出てきた犯人全員に人生をめちゃくちゃにされた被害者にあたります。2話だけを見ると同情の余地がある犯人だった美和が、ここに来て風見や万才に引けを取らないクソカスっぷりを見せてくるのが、逆転検事2のクソカス野郎最強決定戦たる所以です。逆転検事無印の3話で登場してなかなかのカスさを見せつけてきた天野河親子が息子に愛情を持っているだけまだマシという評価に落ち着くとはこのリハクの目をもってしても……。
 猿代の、猿が代わりに操作するを文字った名前と、実際にサーカスで飼っている猿が猿代を操作するモーションから一転して、本性を表した猿代が意のままに動物を操るモーションからは、それまで被害者として自分の人生を操られ続けてきた猿代が反対に彼らを操る側になるという黒幕としての在り方が感じられます。

 猿代の過去には間違い無く同情の余地があります。しかし、彼が殺人を教唆して人を殺したのは事実であり、あまつさえ詩紋に殺人の罪をなすりつけようとする彼を裁かないわけにもいきません。逆転検事が法律を主題に扱った作品であることを踏まえても、猿代の犯罪を裁くことは絶対に譲れない点だと思います。
 ここで光るのが、逆転検事2で描かれる猿代の結末です。彼は御剣たちに殺人の罪を証明されるのですが、逮捕される前に裏切りの代償としてコロシヤに命を狙われかけます。そんな猿代を間一髪で助けに入るのが、2話で登場した風院坊了賢です。

 了賢と猿代は、過去に不思議な縁を繋いで今まで交流を続けている二人です。内藤に閉じ込められた車から二人を助けたのは了賢であり、その後孤児院で暗殺を行った了賢を助けたのが猿代になります。暗殺者でありながら自分が唯一救った命である猿代のことを、了賢はずっと気にかけています。5話ではそれまでずっと続いていた連絡が途絶えたのを心配して、自ら脱獄までして猿代を探しに来ています。

 猿代は実の父親である風見について、孤児院で美和から虐待を受けていた時どれだけ助けに来てほしいと願っても迎えに来てくれなかったことを恨んでいます。そんな猿代が今度はコロシヤに殺されそうになっている時、了賢は助けに来てくれたのです。更に了賢は、腰を抜かしている猿代に「刑務所という名の自分たちの家に帰ろう」と声をかけます。
 助けて欲しいと思った時に身を挺して助けに来てくれる。同じ家に「一緒に帰ろう」と声をかける。二人の関係は、傍から見ればまるで親子のようにも映ります。
 猿代の境遇と、それでも罪を償わなければならない状況を鑑みた時、それまでずっと縁の無かった、自分を守ってくれる親のような存在に手を引かれて、2話で捕まった時とは違いかつて猿代を虐待した美和はもう居ない刑務所で罪を償うというのは、彼にとって最良の結末だと思います。また、同情の余地がある犯人に対してこのような最高のバランスを保って結末を描ききった逆転検事2のシナリオの素晴らしさは言うまでもありません。
 ちなみに、2話の項目で逆転検事において御剣と明確に対立する悪人は動物を蔑ろにしているという話をしましたが、これは猿代と了賢にも通ずる話になります。サーカスの動物たちを何とも思っていなかった猿代は犯罪者として裁かれ、逆転検事2の作中では犯罪を犯さず猿代に手を差し伸べる了賢は盲導犬のクロに好かれています。クロに好かれている描写から、了賢が親子の絆を描写する側のキャラクターであると推測することができます。

 猿代草太が黒幕である事実は、先述したとおりシリーズにおいて大物の権力者が黒幕という展開が多かった中で被害者の側面を持つ加害者が黒幕だったという意外性の他にも、大統領の暗殺に検事審査会の不正といった大規模な事件の黒幕がただの青年であり、更に事件の発端は片や息子を脅して言う事を聞かせ片や息子のことを簡単に捨てる最低な父親二人のしょうもない金銭トラブルだったという意外性も明らかになる、いちミステリーとして完成度の高い展開となっています。逆転検事2の真相は、猿代自身の狡猾さや立ち回りの上手さを含めて、印象深い作品の一つになりました。


■御剣が検事でいる理由

 逆転検事2では、信楽の「弁護士になってみない?」という誘いを皮切りに御剣が検事である理由についてずっと話されてきました。5話では、猿代の存在をきっかけとした、御剣が考える”自分が検事として活動し続ける理由”が話されます。

「……今回の事件が終わって、やっと分かったのです。
私は、検事として人を助けていきたいと思っています。
猿代草太……彼もまたギセイシャの一人でした。過去の殺人で、頼るべき親を失い、すべてが信じられなくなった。司法に助けを求めることもできず、復讐に手を染めるしかなかった。
法の力を悪用する一柳万才の存在が、彼を追い詰めてしまった」
「法は、用いるものによって、その姿を変えます。人を守る盾にも、人を傷つける刃にもなりうる……。それもまた、『法のムジュン』のひとつですわね」
「法のムジュンを正せるのは、法に携わるものだけ……。
猿代草太を救えるのは、弁護士ではない。法の番人たる『検事』です」

 かつて御剣は、信楽から「検事として犯罪と戦っていくのか、弁護士として人を助けていくのか」と問いかけられました。それに対する「検事として人を助けていく」という御剣の答えは、逆転検事シリーズでずっと検事として人を助ける彼の姿を見てきたプレイヤーにとって、納得と同時に喜ばしさも感じる答えです。
 「法の矛盾」をテーマに据えた逆転検事2では、「現在の法が必ず正しいとは限らない。法は様々な矛盾を抱えていく。その矛盾を正すために、人は成長し、法も成長していく」という結論が提示されます。これらは非常に困難なことではありますが、御剣や水鏡、弓彦といった法曹関係者のこれからの成長が描写されているからこそ、明るい未来に希望が持てるようになっています。

 少し横道に逸れますが、4話で言及した検事ではなくなった御剣とイトノコ刑事の関係についても5話では触れられます。
 イトノコ刑事は検事を辞めた御剣に「キミはキミのやれることをしたまえ」と言われてから、”刑事は検事のためだけに捜査するわけではない”という考えに行き着いて、4話で美雲の無罪を晴らすために捜査を続けていました。ただ御剣について来て指示を仰ぐのではなく、一人で捜査ができるようになったと話すイトノコ刑事もまた、作中で成長した人の一人になります。
 そして5話では、検事を辞めた御剣と改めて会話を交わします。御剣は5話で、検事としてではなく、友人としてイトノコ刑事に捜査の手伝いを頼みます。逆転検事無印で二人の信頼関係が描かれてからの、今作で御剣の口からイトノコ刑事を「友人」と聞くことができる流れと、それに対するイトノコ刑事の「刑事は検事のために捜査するんじゃない。だから友人のために捜査する」という答えには、検事と刑事の信頼関係に収まらない絆を感じられてとても嬉しくなりました。

 逆転検事2では、最後に御剣がイトノコ刑事へ「次の給与査定を楽しみにしているがいい」とお決まりの声をかけます。この言葉は普段だとイトノコ刑事の減給を意味する言葉なのですが、今回に限っては事件解決のため東奔西走して御剣に協力したイトノコ刑事の給料をアップする意味の言葉です。こういったシリーズ恒例の台詞の使い方は、シリーズ作品を遊んできたプレイヤーにとって非常に嬉しい演出です。

■復讐を”しない”理由

 もう一つ、逆転検事2のテーマの総括として取り上げたいのが、詩紋の復讐心に関する描写です。
 5話では、詩紋の父親が西鳳民国の大統領であることと、本物の大統領は十二年前に了賢によって既に暗殺されていたという真実が明らかになります。このことで詩紋は了賢への復讐心について口にして、猿代もまた詩紋に復讐を勧めます。
 しかし、詩紋は最後に了賢から「復讐を果たしたいなら自分を刺すといい」とナイフを手渡されてなお、復讐を”しない”道を選びます。

「……さっきまでは、復讐してやるつもりだったさ。……何年かかっても。
だけど、復讐でラクになるのって、オレ一人だけだろ?
オレが人殺しになったら、母さんは逆に何倍も苦しむことになるんだ」
「クックック。角のコゾウ……おもしろいことを言う」
「アンタは絶対にユルさないけど……罰を与えるのは、オレじゃないんだ。
だって、そのためにいるんだろ? 母さんとか……検事のオッサンがさ」

 復讐をフィクション作品で取り扱う上で、復讐を貫徹するか・やめるかは個人の好みこそあれどちらの方が優れているというわけではないと私は思っています。ここ数年の風潮として、「復讐を途中でやめるのは陳腐」といった意見がありますが、私は作品のテーマに沿ってしっかりとした描写が成されていれば復讐をしない展開が陳腐とは一概には言えないと思っています。また、更に踏み込んで言うのなら、敢えて復讐を”しない”理由を作品のテーマに沿ってかつ大多数の読者が納得するように書くというのは、ともすれば復讐を貫徹する描写よりも非常に難しいことだと思っています。実際に復讐を”しない”理由を多くの人が納得できるように描いている作品が少ないからこそ、「復讐を途中でやめるのは陳腐」といったイメージが根づいたのではないかと思います。
 逆転検事2のメインテーマは、何度も書いてきたとおり「親子の絆」「法の矛盾と法の成長」です。そして、作中では詩紋が復讐をしない理由として、「水鏡との親子の絆」「法の矛盾を正してくれる人々を信じる気持ち」が挙げられています。この詩紋の言葉は、猿代のような犠牲者を今後生み出さないようにしたいと願う御剣の気持ちにも重なった、逆転検事2の総括として最高の言葉だと思います。



 記事のタイトル通り最初から最後まで親子の話がたっぷりだった逆転検事2ですが、個人的に大好きな親子の話を抜きにしても本当に完成度の高い作品だったと思います。逆転裁判シリーズのスピンオフとしては満点であるものの、いち作品としてはところどころ惜しい点もあるという評価だった逆転検事無印からのブラッシュアップが素晴らしく、制作陣の熱意が余すところなく伝わってきました。
 長々と感想を書きましたが、特に好きだったのは御剣親子と水鏡親子と記憶喪失美雲の約束ノートのくだりと猿代と了賢の疑似親子と弓彦の成長イベントです。好きなところが多くて最早選べていない。
 作品テーマに即して素晴らしいシナリオが最後まで面白さを更新し続けていく、傑作と言って遜色無い作品でした。十五年ぶりに逆裁1~3を遊んだのを機に、遊ぶことができて良かったです。


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