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逆転裁判を15年ぶりに再プレイした話 ※ネタバレ感想

 先日、人に勧められたことがきっかけで逆転裁判というゲームを遊びました。逆転裁判は現在逆転裁判6まで発売されており、その他逆転検事、大逆転裁判など様々な作品が発売されているシリーズになりますが、私が遊んだことがあるのは15年前にプレイしたシリーズ一番最初の作品のみでした。

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 そしてNintendo Switch版の逆転裁判123成歩堂セレクションを購入し、15年ぶりに逆転裁判無印を遊んだのですが、遊んだ当時の朧気な記憶をたどりつつ遊んでいく内にこのゲームやっぱり面白いな!?!?!?となったので感想を書くことにしました。以下ネタバレだらけ(20年前のゲームなのでネタバレも何も無いような気はしますが)の感想になります。また、筆者は逆転裁判を無印しかプレイしていないためその他のシリーズ作品の知識がありません。「後に発売された作品ではこういう設定になっている」等の心配りができないため、あくまでも無印の物語のみから感じた感想を書いています。心に留めていただければと思います。


第1話 はじめての逆転

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 本作のチュートリアルにあたる話です。主人公の新米弁護士成歩堂龍一が先輩弁護士綾里千尋に導かれ、幼馴染である矢張政志の弁護をする話になります。

 1度遊んだこともあって成歩堂、御剣、矢張の昔話のことは割としっかり覚えていたのですが、改めて見返すと1話の時点からそれとなく昔話の伏線が張られておりやっぱりこういうゲームは2周目まで遊ぶとより楽しくなるやつだな......としみじみ感じました。プレイヤー目線で見るとお調子者で熱くなりやすく、トラブルメーカーの類いにあたる矢張のことをどうしてそこまで成歩堂が信じているのか?が全編を通して明らかになる物語構成には目を瞠るものがあります。

 主な裁判パートでの基本操作を学ぶことができる1話ですが、全編をクリアしてから思い返してみるとこの時から千尋さんや成歩堂の弁護士としての姿勢が丁寧に描かれているように感じます。それは、「依頼人を信じること」です。

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 「......なるほど君、証拠品ってこういうものよ。
見る角度によって、その意味合いはどうにでも変わってしまうわ.....。
人間だって、そう。
被告が”有罪”か”無罪”か? 私たちには、知りようがない。
弁護士にできるのは、彼らを信じることだけ。
そして信じるということは、自分を信じるということなの」

 成歩堂は過去の出来事から、幼馴染である矢張、御剣のことは何があっても信じると決めています。そしてこれからの成歩堂は、彼ら2人のみならず依頼人を信じて弁護をしていきます。この姿勢は弁護士、依頼人、双方にとって大切なものだと後の話からも分かるようになっています。そういった意味で、成歩堂の初めての依頼人が、彼が絶対に信じると決めている矢張であったことには大きな意味があったように思います。


第2話 逆転姉妹

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 本作のストーリーに大きく関わっている事件、DL6号事件についての話が動き始める話です。この話から裁判パートだけでなく事件現場や警察署に行って情報収集を行う探偵パートが加わります。

 1話で隣から心強い手助けをしてくれた千尋さんが、2話の冒頭で亡くなってしまう展開には大きな衝撃があります。そして彼女と入れ替わりでその後成歩堂の相棒を務めるのが、千尋さんの妹である綾里真宵です。また、今回の事件からは成歩堂のライバルとして今後の事件で登場する敏腕検事の御剣怜侍が登場します。

 本作では、弁護士と検事の法廷での在り方についてが成歩堂と御剣を通して丁寧に描写されています。2話において、御剣は「有罪判決を獲得するためには何でもする、冷酷な男」と説明されます。そしてその説明通り、裁判パートでの彼は非常に手強くあの手この手で弁護側の証人へのゆさぶりを妨害したり、証人に重要な情報を言わないよう口止めしていたりといった行動が見られます。

 そしてそういった御剣の行動の理由が分かるのが、2話の後半に成歩堂が犯人として逮捕され、司法や権力を牛耳っている真犯人小中大(こなかまさる)を相手取ることになった直前の会話です。小中は権力者の弱みを握って脅すことで司法を意のままに操っており、自分は絶対に有罪にならないと豪語します。

 そのことについて御剣は開廷前に成歩堂に会いに来て、裁判の前日に検事局長に呼ばれ「小中の言うことは絶対だ」と言い含められたこと、弁護人がどれだけ証拠を突きつけても検事が異議を唱えれば裁判長はすべて聞き入れるだろうと伝えられたことを話します。この時点で、御剣は検察側が真実を歪めようとしていることも、明らかに小中が犯人であることも、それまで自分が有罪をもぎとってきた相手である被告人にあたる成歩堂が有罪ではないことも理解していると考えられます。その証拠に検事局長からの言葉を成歩堂に伝える時の御剣はそれまでの嫌味っぽくて自信たっぷりな態度から一転し、思うところがあるようなしおらしい雰囲気を纏っています。

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 ここで明かされるのが、どうして御剣が被告人の有罪判決をもぎ取ることにこだわっているのか?ということです。

「”罪のない”......?
そんなことが、どうして私たちにわかる?
罰を逃れるためならば、彼らはどんなウソだってつく。
見わけることなんてできない。......それならば。
私にできることは、1つ。被告人を、すべて有罪にする。
それが私のルールだ」

 この理由は、1話で千尋さんが話した弁護士としてのスタンスと対比がとられているように思います。「被告人が本当に無罪かどうかは分からない。だから被告人の言葉を信じる」と言う千尋さん。「被告人が本当に無罪かどうかは分からない。だから疑わしきはすべて罰する」とする御剣。2つのスタンスがここで描かれます。

 この御剣の言葉を聞いた成歩堂は「御剣......。変わったな、お前」と返します。この時点でプレイヤーはまだ成歩堂と御剣の過去を知らないため、真宵ちゃんと一緒に置いてけぼりを食らうわけですが(というか成歩堂はその後もちょいちょい御剣に関して全体的にプレイヤーに置いてけぼりを食らわせるのですが)4話で明かされる2人の昔話を踏まえるとこの言葉に込められた意味が何となく伝わるような気がします。

 成歩堂は、かつて学級裁判にかけられた時自分の無罪を主張しましたが、誰にも信じてもらえませんでした。そんな中で「君はやっていないんだろう?」と成歩堂を信じてくれた数少ない人物が、当時父親のような弁護士を志していた御剣だったのです。罪のない自分を、本当に罪が無いと分からない状況でも御剣が信じてくれたこと。このことは成歩堂に大きな影響を与えています(後々成歩堂が「御剣に会うために弁護士になった」と言い始めてひっくり返るなどします)。そのため、御剣が被告人の無罪の主張を信じずすべてを有罪に仕立て上げる人になってしまったことが成歩堂にとってはショックで、だからこその「変わったな、お前」という言葉だったのだと思います。

 2話において、圧倒的に不利な立場に立たされた成歩堂は、それでも明確な証拠・真実を武器に自身の無罪を証明し、事件の真実を突き止め御剣に勝利します。この事件は、それまで無敗を誇っていた御剣にとって大きな出来事であり、検事としての在り方を見つめ直す機転にもなります。

 この事件でもう1つ好きなところは、真宵ちゃんの霊媒師としての力によって降りてきた千尋さんが犯人の小中に対して行う仕返しです。小中と千尋さんの因縁は、本作のメインとなる事件、DL6号事件に起因しています。
 DL6号事件において、何としても犯人を捕まえようとした警察は霊媒師である千尋さんと真宵ちゃんの母親に依頼して、被害者の霊から犯人を聞き出すという前代未聞の捜査を行いました。しかし霊媒で突き止めた犯人は後の裁判で無罪とされ、極秘で進められていた霊媒のことがマスコミにスクープされたことで2人の母親は日本中から責め立てられ姿を消してしまいます。この情報をマスコミに流したのが、情報収集会社の社長である小中だったのです。
 とことんまで追いつめられてもなお逃げようとする小中に、千尋さんは母の仇を討つため長年調査していた、小中が脅迫していた権力者たちのリストを突きつけて「あなたがここで罪を認めないのであれば、このリストはマスコミに公表されるでしょう」と言います。それを聞いた小中は観念し、自分の罪を認めます。これはつまり、千尋さんは小中が母親にやったことをそのままやり返すことで、母の仇をとったということです。後の4話を含め、本作ではDL6号事件でそれぞれの登場人物が負った傷、抱えた痛みが真実のもとに清算されることとなります。


第3話 逆転のトノサマン

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 子どもたちに人気のアニメ、「大江戸戦士トノサマン」で主人公のトノサマン役を演じる俳優が、悪役アクダイカーンを演じる俳優を殺害した、という導入から始まる話です。一見冗談のような事件のあらすじですが、2話までの展開を考えるとこの話が3話として配置されていることにはかなりの意図を感じます。

 1つ前の項目で話したように、2話「逆転姉妹」では有罪を勝ち取るため何でもするようになった、被告人の無罪を信じることがなくなった御剣に、他でもない彼に無罪を信じてもらったことで救われた成歩堂が「変わったな、お前」と声をかける場面があります。これは、かつての眩しい存在が全く違うものに変わってしまった話です。そしてその後の3話「逆転のトノサマン」では、子どもたちのヒーローという眩しい存在が殺人犯に変わってしまった話が始まります。更にこの話では、後半に現れるトノサマンファンの男の子が事件の現場を目撃した時に「絶対に勝利する筈のトノサマンが負けてしまった」ことにショックを受けたという展開があります。ここでも、それまで裁判で無敗を誇っていた御剣が2話の事件で成歩堂に敗北したことの比喩が入っているように感じられます。実際にこのような意図が制作側にあるのかは分かりませんが、私はこの話の流れに何らかの意味があると遊んでいるうちに感じました。

 2話での敗北を転機とした御剣は、かなりの根回しや妨害を行ってきた以前と異なり成歩堂と同じ目線から事件を捉える場面が多くなります。それは、3話の証人であるオバちゃんの予測不可能な言動にタジタジになる姿からも感じ取れるような気がします。3話は、2話で嫌味なライバルという印象を受けた御剣のそこはかとないかわいげを垣間見られる話でもあります。

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 そして物語の最後、裁判を進めていくうちに真犯人が誰かに気がついた御剣は、成歩堂が疑いをかけている犯人に対して彼と一緒に正確な証言を要求したり、質問をぶつけたりするようになります。この行動に対して裁判長は「検察側の人間のとる行動とは思えません。まるで......そう、弁護人ではないですか!」と驚きの声をあげるのですが、それに対して御剣は「ご心配いただくのはありがたいが......私のとるべき行動を決めるのは、私だ」と返します。

 この展開は、プレイヤーにも大きな衝撃を与える場面ではないかと思います。逆転裁判は当然ながら実際の裁判を忠実に再現しているわけではなく、裁判というシステムをフィクションの世界にゲームとして落とし込んだ作品です。そして裁判をゲームとして落とし込むにあたり描かれているのが「弁護士vs検事」の構図です。ゲームというのは、1つの基本形態として主人公が敵を倒すというものがあります。プレイヤーは倒すべき敵を攻撃する。敵に勝つために頑張る。これほど分かりやすい構図もありません。そのため逆転裁判を遊んでいるプレイヤーは、1話、2話を通して弁護士の主人公が敵の検事と戦う構図を組み入れて遊ぶのではないでしょうか。
 しかし、その構図が良い意味で崩れるのが3話です。真実に気づいた御剣が成歩堂と一緒に真犯人を追いつめることで、弁護士と検事はお互いがお互いを倒す敵同士ではなく、対立した立場から証拠や意見を出し合うことで事件の真実を明らかにする存在であるということが分かります。本来、弁護士と検事とは互いを憎む敵同士ではありません。同じ法曹の道で同じ法律を学び、同じ事件の真実を追究する、異なった立場の人間です。そのことを3話までの話の流れと弁護士の主人公を動かすプレイヤーの実感を以て伝えてくる逆転裁判のシナリオは、本当に凄いと思います。
 更に裁判が終わった後、裁判長は成歩堂が被告人の無罪を証明したことについて「どうやらまた、奇跡が起こったようですね」と声をかけます。それに対して御剣は、「それは違う、裁判長。荷星三郎(今回の事件の被告人)は無実だった。だから、それが証明された。......あたりまえのことだ」と言います。この時、御剣はかつて成歩堂が救われた、罪の無い被告人の無罪を真実として信じる御剣怜侍という人間に戻ったのではないかと思います。

 また、この3話は先述した通り御剣と成歩堂、トノサマンと子どもたちを通して眩しい存在が変わってしまった話をしているのではないかと言いましたが、そう考えるとこの話の結末にも染み入るものがあります。
 この事件で犯人として逮捕されたトノサマンの俳優は、結果として殺人犯ではありませんでした。そしてこの事件の裁判で、御剣はかつて成歩堂が救われたような罪の無い人間の無罪を信じる人へと戻りました。この2つの展開は、冷酷な人間に/殺人犯に変わってしまったと思っていた眩しい存在が、成歩堂の真実を追究する姿勢によって再びその眩しさを取り戻す話として掛け合わさっているのだと思います。

 余談ですが裁判が終わった後の成歩堂と御剣の会話の「プレイヤーすらよく分からない間に何らかの関係性を築いている2人」感は何回見ても我々は何を見せつけられているんだ......となります。15年前も思ったけど今見てもやっぱり困惑を禁じ得ない。

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第4話 逆転、そしてサヨナラ

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 本作の総決算とも呼べる話です。逆転裁判にはもう1つ、第5話「蘇る逆転」が収録されているのですがこちらのシナリオは後にこのゲームがDSに移植される際追加された話であるため、当初の最終話はこちらの4話になります。この話では、2話でも触れられたDL6号事件が深く関わってきます。

 まずこの話で衝撃的なのは、今まで相手側の検事として裁判で顔を合わせてきた御剣が殺人事件の犯人として逮捕され、被告人として裁判に参加することです。いつも依頼人の話を聞きに行くため訪れていた留置所に、御剣の姿がある光景はプレイヤーに衝撃を与えるのではないかと思います。

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 そしてこの後の「こいつスナオじゃないからな。笑ったら、怒り狂うか泣きだすぞ」という成歩堂のお前は御剣の何なんだ発言も見所(?)の1つです。

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 4話では、御剣の師匠である狩魔業検事を相手に裁判を行うことになります。彼は御剣曰く「私の20倍タチが悪い」検事であり、長い検事人生で無敗を誇る、有罪を勝ち取るために正に何でもする人間です。そのタチの悪さは裁判パートでいかんなく発揮されることになります。これまで通り証人をゆさぶったり異議を唱えたりする度にしつこく挟まれる狩魔検事からの「異議あり」の言葉に頼むからちょっと黙っててくれるか!?!?!?!!?!?となったプレイヤーは多いのではないでしょうか。

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 先述した通りこの4話ではDL6号事件が大きなテーマとなるのですが、DL6号事件は千尋さんと真宵ちゃんの母親が捜査に関わっただけでなく、御剣の父親が殺害された事件でもあります。しかも事件当時御剣は父親が殺されたエレベーターに一緒に乗っており、心に深い傷を負っています。一部の記憶を失っている他にも、事件当時エレベーターが止まる原因になった地震をひどく恐れている描写があり、この事件が今でも彼を縛りつけていることが分かります。

 この時逮捕されたのは、御剣と御剣の父親と一緒にエレベーターに乗っていた法廷係官の男、灰根高太郎でした。彼は裁判でエレベーター内の酸素が薄くなっていたことによる心神喪失を理由に無罪となったのですが、彼を通して1話で描かれた弁護士のスタンスというものが再度描写されることになります。

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 灰根は15年前に無罪にはなったものの、「灰根を担当した弁護士は”依頼人のため”ではなく”自分のため”に弁護をした。結果は同じ無罪でも、大きく違う」という話が作中で出てきます。その意味が明らかになるのが、灰根の自供です。
 灰根の弁護を担当した弁護士は、灰根の無罪を信じず心神喪失を理由に無罪を勝ち取りました。しかし、心神喪失では実際に人を殺めてしまったことに変わりはないという結果になりますし、今後の人生で真っ当な人格を持っていないと判断されてしまうことになります。そのせいで灰根はその後の人生を奪われ、名前も指紋も捨てて隠遁生活を送ることになったのです。これを理由に灰根は当時自分を弁護した弁護士を殺し、その罪を御剣に着せようとしたのです。
 千尋さんや成歩堂の姿勢である「依頼人を信じる」ことが弁護士にとってどれだけ大切なことであるかが、灰根という1人の男を通して描写されるのが4話の一幕になります。

 そして裁判は進み、人々はDL6号事件の真相に迫ります。ここで明らかになるのは、狩魔豪こそがDL6号事件の真犯人であるという事実です。4話では狩魔検事が検察側にいることで3話で一度崩れた弁護士vs検事の図式が再び戻ってきたように見えますが、その実狩魔検事が真犯人であることにより、真実を追究する人vs真実を歪めようとする人という本来の裁判の在り方に則った図式であるとここで分かります。
 これまで散々プレイヤーを苦しめてきた狩魔検事に一気に反撃をするというカタルシス、その反撃は千尋さんや真宵ちゃん、矢張に御剣といったこれまで関わった人たちの力が合わさって成されるということ、4話ラストの展開は正に息を呑むものがあります。

 DL6号事件の真実を解き明かすことで、「父親を撃ったのは自分ではないか」という長年続いた悪夢から御剣は解放されることになります。更にもう1つ感動的な構図が、綾里姉妹とDL6号事件の因縁です。
 DL6号事件は、2人の母親が真実を突き止められず、マスコミに追われ姿を消してしまったきっかけの事件です。マスコミに情報を流した小中には千尋さんが「小中の弱みをマスコミに流すと脅す」ことで仇を討ちました。そして4話では、母親が突き止められなかった事件の真犯人に、真宵ちゃんが決死の抵抗で奪ったDL6号事件の証拠品である銃弾を突きつけることで母親の無念を晴らします。狩魔検事は御剣の父親を銃殺しているため、ここでも小中と同じように狩魔検事はかつて他人にしたことをそのままやり返されたことになります。

 つまり、4話は「弁護士の殺人事件で被告人となった御剣の無罪を証明する」という意味でも、「DL6号事件で父親を撃ったのは御剣ではないと証明する」意味でも、「綾里姉妹が母親の解決できなかった事件の真実を突き止める」意味でも、正に逆転続きの裁判だったと言えるでしょう。

 また、私が特に好きな4話での場面は裁判の途中で狩魔検事に追いつめられ万事休すといったところで矢張が新たな証人として飛び込んでくるところです。

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 この裁判の傍聴にわざわざ矢張が来ていたという時点でじんわり心が温まるのですが、1話で依頼人だった彼が逆転の要となる証人として再び証言台に立つこと、かつて御剣と一緒に成歩堂の無罪のため声をあげた彼が今度は御剣の無罪を証明するために成歩堂と一緒に声をあげるという構図の組み方がとても良く、プレイヤーも様々な意味でテンションが上がる一場面かと思います(成歩堂の学級裁判での無罪については後々とんでもない真実が明かされるのですが)。

 また、これは好きとか胸熱とはまた違うジャンルになりますがこの場面のシュールさが何回見返しても好きです。

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 このように、4話は1~3話の物語を綺麗にまとめつつ1つの事件としても完成度の高いものに組み上げた、難易度としても展開としてもプレイヤーを大いに楽しませる話になっていたと思います。初めて遊んだ時も、今も、真実にたどり着くまでの感動は形容し難いものがありました。今まで遊んできたゲームの中でも色あせない物語の1つです。


第5話 蘇る逆転

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 こちらは先述した通り逆転裁判がDSに移植される際追加されたシナリオになります。そのため逆転裁判無印には無かった3Dの使用や科学捜査など、新しい要素が沢山盛り込まれていました。登場キャラクターのモーションも独特かつ動きの大きいものになっており、とても楽しかったです。

 この話はいわゆる”後付け”の話ではあるのですが、逆転裁判での様々な構図をふんだんに盛り込みつつ、完成度の高い1つの事件として仕上げ、1から2を繋ぐ物語にもなっているという後付けとは思えないクオリティになっています。具体的には

・姉の仕事が終わった後一緒に夜ご飯を食べに行く約束をしていたら事件に巻き込まれた姉妹が現れる(綾里姉妹と宝月姉妹)
・子どもの頃無意識に人を殺してしまったかもしれないという記憶に苛まれる人が出てくる(御剣と茜ちゃん)
・法曹界で長年務めてきた強敵が相手である(狩魔検事と厳徒局長)
・検事が被告人である(御剣と巴さん)
・もうすぐ時効/申し送りで世間的に消える事件の真相が明らかになる(DL6号事件とSL9号事件)

など、挙げていけばキリが無いほどの構図の重ね合わせが行われています。

 5話の見所の1つが、御剣と一緒に真実を追い求める裁判です。御剣が有罪判決のためなら何でもする検事になっていた2話、途中から心変わりして真実を追究するようになった3話、同じ被告人側から事件の真実を突き止めた4話を経て、5話では成歩堂と御剣がそれぞれ弁護士、検事の立場から意見を出し合いお互いにただ勝利するためではなく、事件の真実を見つけるために裁判で言葉を交わします。検事側からの理不尽とも感じる妨害だらけだった4話の裁判を経験してからの5話の裁判パートでの動きやすさ、情報収集のしやすさは、狩魔に師事し彼のスタンスを受け継いでいた御剣がどれだけ変わったかを感じられるようになっています。

 また、先述した通り御剣はそれぞれ「昔の事件で無意識に人を殺してしまったかもしれない記憶を持っている」「被告人の検事である」という点でそれぞれ宝月姉妹と似通った立ち位置にあるのですが、そんな彼が妹を庇うために真実から目を背けようとする巴さんに「我々は真実を知らなければならない」と声をかける様は4話での彼を知っていると心に来るものがあります。

 また、最後に無罪を証明し仲直りする宝月姉妹を見ながら成歩堂が考えていることも、作中でとても好きな言葉の1つです。

「......過去を変えるコトはできない。
そして......あやまちはつぐなわなければならない。
では......なぜ、つぐなわなければならないのか?
それは、きっと......その先にまだ”道”が続いているから。
過去を断ち切って、今度こそ。前を見て、歩いて行くために」

 逆転裁判において、1つの話は裁判が終わったところで一区切りとなります。しかし、事件が終わった後も人の人生は続いていくものです。裁判の結果、罪を償わなければならない人がいて、償わなければならないのはそこで人生が終わるわけではないからだ、というこの言葉が、「裁判」をテーマにしたゲームで出てくることに私は大きな意味を感じます。



 そういうわけで、15年ぶりの逆転裁判でしたがとっても楽しかったです。今思えば15年というちょうどDL6号事件が時効を迎えるまでの年月と同じ時を経て逆転裁判を再プレイするという趣深い経験をしたな、と思います。15年経っても結構話の内容を覚えていたことに遊びながら驚きましたし、15年経ったことで分かったことや感じたことが沢山ありました。もう一度遊び直して良かったと心から思います。

 私が遊んだのはSwitch版で、逆転裁判1~3が1セットになっているやつなのでいずれ2と3もやりたいな、と思います。7月には大逆転裁判もSwitchで発売されるそうなのでそちらも手を伸ばしたいですね。
 拙い感想ではありましたが、ここまで目を通してくださりありがとうございました。





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