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TOA15周年なのでルーク・フォン・ファブレの話をしよう

TOA15周年おめでとうございます!!!!やったー!!!!!

 「生まれた意味を知る」という作品テーマに真摯過ぎるほど真摯に向き合っているシナリオ、えげつないほど作品に合っている主題歌、どれをとっても完成度が高く多くの人の心に残るゲームだと思います。私は去年TOAをクリアしたばかりの新参者ですが、十五年経っても色褪せない魅力に惹きつけられっぱなしです。

 TOAのキャラクターは敵味方、メインサブ問わず魅力的で誰が欠けてもTOAという作品は成り立ちませんが、私はその中でも主人公のルークが特に好きなため、この記事で彼についての話をしようと思います。


ルークというキャラクター

○公爵子息
 ルークはキムラスカ王国の貴族であるファブレ公爵家の息子で、現国王の甥にあたり王位継承権を待つ、貴族の中でもかなり位の高い存在です。大きな屋敷に住んでおり、衣食住には困ることのない生活を送っています。
 また、ルークは貴族とはいえ少し度が過ぎているほどの世間知らずでもあります。どれだけものを知らないかというと、キムラスカとマルクトが戦争をしているという世界の情勢はおろか、「お金を払ってからでないとお店の商品を食べてはいけない」という買い物の仕組みすら知らなかった程です。
 ルークが世間知らずなまま育った主な原因は、彼が育った環境にあります。ルークは十歳から今まで、屋敷の外に出たことがありません。その理由はルークが十歳のころキムラスカの敵国であるマルクトに誘拐されたからであり、更にルークは誘拐のショックでそれ以前の記憶を失くしています。そしてその記憶喪失は、ティアに「記憶障害を起こしてるのは七年前まででしょ? その後は勉強しなかったの?」と尋ねられたときルークが「他に覚えることが山ほどあったからな。――親の顔とかさ……」と返していることから、単に自分に関わる情報を忘れてしまっただけでなく一般的な常識も全て忘れてしまっているという深刻なものだと分かります。以上のことから、十歳のときに記憶を全て失って生まれ立ての赤ん坊のような状態になってしまい、大きな屋敷で外に出ることなく不自由の無い環境で育てられたルークは、精神的にかなり幼い子どもであると序盤の情報から読み取ることができます。
 肉体年齢に比べて精神年齢が幼い物語序盤のルークは、自分に優しくしてくれる人を好きになり自分に厳しい人を敬遠しがちです。前者がヴァン、ガイ、イオン、アニス等で、後者がティア、ジェイド等です。ヴァンを慕っていることはチュートリアルでヴァンに稽古をつけてもらっているときのルークの嬉しそうな言動から明らかですが、ガイを慕っていることも「ヴァンに暫く稽古をつけてもらえない間、ガイと剣術の練習をしよう」と時間が空いたときにすぐさまガイのことを思い浮かべるところから分かります。屋敷に軟禁されていたルークにとってガイとヴァンは数少ない外界との繋がりであり、ルークが多忙な父親と疎遠なことからも、二人が家族の代わりのような役目を果たしていたのだと思います。
 また、穏やかかつ優しい気質であり初対面のときからルークを「優しいですね」と評するイオンや、玉の輿を狙っているため公爵子息のルークに猫を被って接しているアニスには態度が柔らかいです。チーグルの森で譜術を使い体調を崩しているイオンを「あの変な術は使うなよ。おまえ、それでぶっ倒れたんだろ。魔物と戦うのはこっちでやる」と言葉こそぶっきらぼうながらも気遣ったり、親書を届けるために別行動をとっていたアニスが合流したとき「ちゃんと親書だけは守りました。ルーク様♡ 褒めて♡」と駆け寄るアニスを「ん、ああ、偉いな」と素直に褒めたりしています。
 反対に、我儘なルークの言動を注意することが多いティアには強く反発しがちです。また、ルークの言動を表立って注意をすることこそ無いものの「ああ、すみません。あなたは世界のことを何も知らない、『おぼっちゃま』でしたねぇ」といったような皮肉交じりの言動で返すジェイドには「嫌味なやつ」と反感を覚えています。
 ここで分かるのは、「優しくしてくれる人」の中にルークを利用するため良き師匠を演じていたヴァンが含まれていて、「厳しい人」の中にルークのためを思って色々と注意をするティアが含まれているように、この時点のルークは相手の表面的な態度しか読み取れていないということです。
 このことは、ルークのみならず教団やキムラスカの王族なども騙しきっていたヴァンはまだしも、明らかに猫を被っているアニスの裏に隠れた強かな一面すら読み取れていないことからも伺えます。こういった価値観は、純粋で素直な一方、幼すぎて危ういものでもあります。
 その他にも序盤のルークは幼さと世間知らず故の我儘な言動が目立ちますが、タルタロスが襲撃された際に譜術を使ったことで体調を崩したイオンに真っ先に駆け寄って「おい、大丈夫か」と声をかけたり、意図したものではないにせよルークを屋敷から連れ去ってしまったことで体調を崩したルークの母親を気にするティアに「あんま気にすんなよ。母上が倒れたのは、元から体が弱いだけだから」と声をかけるなど、根底の優しさを言動の端々から感じ取ることができます。これについてはイオンが「ルークは元々とても優しかった。ただ、それを表に出す方法をよく知らなかっただけなのです」と話していることからも伺えます。
 また、ルークは戦争社会において戦いに巻き込まれたことがないため、「人を殺すのは怖い」「命を奪うのは良くないことだ」という、当たり前のようで戦争が続いているオールドラントでは当たり前でなくなってしまった素直な感性を表に出すことができます。こういった感性は、タルタロスで初めて敵対する兵士を手にかけたときの動揺や、六神将のアリエッタが気を失った際彼女を殺そうとするジェイドに「や、やめろ! なんでそいつを殺そうとするんだ!」と止める様子から伺えます。ルークの考えは戦争社会においては命取りになる甘さですが、人間として捨て去ってはならない優しさでもあります。このようなことから、ルークが粗暴な言動をとる我儘なお坊ちゃんであるものの、救いようのないほど性根が悪い人ではないことも序盤の時点で分かります。
 ルークの事情をまとめると、彼の言動は決して悪気があってやっているわけではなく、我儘な性格は主にルークが育てられた環境によるものだと分かります。
 しかし、それと同時に、ルークの言動には対外的に確かに問題があることも客観的に物語を見つめられるプレイヤーの視点からは理解できます。旅の初めに訪れたエンゲーブを開口一番「貧乏くせぇところだな」と評する態度や、「あんまり離れるなよ」と注意された直後パーティーメンバーから離れて敵に不意を突かれた際に反省を促されても「うるせー! 知るかよ!」と反発するような態度は、ルークの事情を理解した後でも「それは良くないんじゃないか」と思える程度のものであり、事情を知らない人からすれば更に問題があることは明らかです。
 ヴァンに「私にはおまえが必要なのだ」と告げられたルークは、もともと慕っていた彼を妄信するようになり、更に視野が狭くなっていきます。その傾向が顕著になるのがデオ峠で、パーティーメンバーはルークの自分勝手な態度に愛想を尽かしていきます。その結果引き起こされるのがアクゼリュス崩壊です。
 アクゼリュス崩壊は、ルークにとってもプレイヤーにとっても大きな転換点となる出来事です。操作キャラクターがルークから強制的にアッシュに変わるという展開に、初めてプレイしたときはかなり驚きました。この衝撃的な事件を引き起こしてしまった罪悪感から、ルークは今までの自分と決別し変わってみせることを決意します。
 精神的な面から見れば、多くの人を死なせてしまった罪悪感で急に成長を決意するよりは、適切なステップを踏んで少しずつ成長していくのがルークにとって一番良かったのだと思います。しかし、事態はルークの与り知らぬ間に後戻りができないところまで進行しており、ヴァンが常に周囲より一枚上手をとっていた状態でした。
 誰かが何か別のことをしていればアクゼリュス崩壊は起きなかったかもしれません。ルークが心に負荷をかけず成長する道があったのかもしれません。それでも、現実はそうならなかったのです。そして、そうならなかった現実をルークが逃げずに受け止めて、「変わりたい」と思ったことが大切なのではないかと私は思っています。


○レプリカドール
 アクゼリュス崩壊後、ルークはユリアシティで再会したアッシュから、自分がルーク・フォン・ファブレというオリジナルを元に作られたレプリカであることを告げられます。このことはルークに大きなショックを与えます。自分と同じ名前と同じ顔で、自分より優れた能力を持ったもう一人の自分がいるという事実は、ルークのアイデンティティを崩壊させてしまいます。
 仲間たちの信頼を失い、自分自身すら失ってしまったルークは自分の言動を見つめ直し「変わりたい」と決意します。そして決意の証として、ティアの前で長い髪を切ります。
 この髪を切るという行為は、ルークにとっては過去の自分との決別です。そして、プレイヤーの視点からはルークがアッシュと同じ長い髪を切ることで、ルークとアッシュがそれぞれ異なる一人と一人のキャラクターになったという風に見えます。ルークが髪を切る直前まで髪が長いアッシュをプレイヤーが操作していたことも相まって、髪を切ったルークはアッシュとの違いをより感じ取りやすくなっています。
 髪を切り、パーティーメンバーと合流してからのルークは、「変わりたい」という言葉通りアクゼリュスでの出来事を繰り返さないため自分にできることを率先してするようになります。その光景が顕著に見られるのが、崩落しかかっているセントビナーでの救助活動です。突然の崩落に混乱するセントビナーで、ルークは住民たちを避難させるために迅速に動きます。また、アクゼリュスでは魔界の海に沈んでいく子どもを助けられませんでしたが、セントビナーではディストが操作している機械に押しつぶされそうになった子どもを間一髪で助けることができます。こういったルークの姿は、ルークの「変わりたい」という発言に懐疑的だったジェイドとアニスも「彼の『変わりたい』という気持ちは本物だったのでしょう」「ちょ~~~っと認めてやってもいいかな……。熱血バカっぽいけど」と評価を改めるものでした。
 また、ルークはティアに「あなたにお礼を言われたの、初めてだわ」と言われ、自分が感謝の気持ちを周りに伝えていなかったことに気づいてから、積極的に「ありがとう」と言うようになります。ティアに指摘されてから「ありがとう」と伝えることが増えるルークと、ルークの「ありがとう」に驚くパーティーメンバーの姿は、変わろうと決意してから素直に行動するようになったルークと、その変わりように戸惑いながらも傍で見守るパーティーメンバーの空気を感じられる微笑ましい光景です。
 パーティーメンバーがルークの成長を見守る様は、他の場面でも垣間見ることができます。たとえば、アクゼリュスのように崩落していく大地を見て落ち込むルークに、ガイとナタリアは「今はみんなを助けられたってことで良しとしようや」「そうですわよ。負い目を感じ続けることが贖罪ではないと思いますわ」と前向きな言葉をかけます。
 また、セントビナーの崩落を止められなかったことを悔しがって「こんなことじゃ罪滅ぼしにならないってわかってるけど、でもだからなんとかしてーんだよ!」と叫ぶルークを、ジェイドは「ルーク! いい加減にしなさい。焦るだけでは何もできませんよ」と叱ります。また、それを見ていたマクガヴァン元帥の「ジェイドは滅多なことで人を叱ったりせん。先ほどのあれも、おまえさんを気に入ればこそだ」という説明を聞いたことで、ルークはジェイドだけでなくティアが自分を叱っていたのも自分を思いやってのことだったのだと気づきます。
 こういった過程を経て、ルークは周りの人たちから色んなことを学び取って成長していきます。そして、変わっていくルークを見たパーティーメンバーも自らの抱えた事情と向き合い変わっていきます。
 ルークとパーティーメンバーには、それぞれ深い繋がりや似通った業があります。ティアは心から慕っていたヴァンと対立しなければならない苦しみ、ガイはルークの父親であるファブレ公爵への復讐心、ジェイドはフォミクリーの技術を生み出したことへの後悔、アニスは「自分のせいで人を死なせてしまった」という負い目、ナタリアはキムラスカ王家というアイデンティティの喪失といった具合です。また、戦闘には参加しないものの共に旅をした仲間であるイオンにもレプリカ同士という繋がりが、ミュウにも「自分の行動が大勢の人に迷惑をかけた」という罪悪感の繋がりがあります。彼らはそれぞれ、互いの業を映す鏡になっているのです。
 それまで秘匿されていたそれぞれの業が明かされ、互いの事情を知っていくうちに、ルークは誰かの代用品ではなくかけがえのない一人の人間になっていきます。このことはパーティーメンバーだけでなく、旅の中でルークが関わった人々にとっても同じことです。
 また、ルークの「変わりたい」と決意し実際に変わっていく様は、敵対しているヴァンたちの「人は結局預言頼みの世界から変われない」という思想に対抗するものでもあります。このことは、ルークの成長をずっと隣で見守ってきたティアも「あなた……変わったわ。人は変われるのね。でも……兄さんはそう思ってない。兄さんこそユリアの預言に振り回された大馬鹿者だわ」と話しています。預言に詠まれていない存在であり、変わろうと決意し成長していくルークは、傍から見ていると不気味なほど預言に支配されている世界において眩しく映ります。
 教団が預言を詠むことを禁じた後、モースが立ち上げた新生ローレライ教団に預言を詠んでもらいにいく人々を見ていると、ヴァンたちの言うように人々が預言から離れるのは難しいことを痛感します。しかし、それと同時にルークとルークの在り方を見てきた人たちの前向きな姿勢を見て、世界は行き止まりに向かっているわけではないと感じられます。


○ローレライの英雄
 アブソーブゲートでヴァンと決着をつけた後、ルークはファブレ家の屋敷に戻りますが、もう閉じ込められているわけではないにもかかわらず数ヵ月の間屋敷に籠り切りになります。屋敷の使用人たちにレプリカであることを理由に奇異の目や畏怖の目で見られ続けたルークは、自分は所詮オリジナルの偽物で自分が今いる場所にいるべきなのはアッシュだと思い込み、卑屈な性格になってしまいます。ルークを操作して屋敷の使用人に話しかけると、一度目は普通に接する言葉をかけてくるものの二度目に表示される台詞が変わり、「もう帰ってこなくていいのに」「本物のルーク様は……」という使用人の内心がわかる演出は、ゲームならではのものだと思います。ルークはプレイヤーではないため使用人たちの正確な内心を知ることができたわけではいでしょうが、そういったルークに対するマイナスの感情を彼らの言動から感じ取っていたのは確かだと思います。
 時折一般に「アクゼリュス崩壊後のルークは罪悪感で卑屈になった」と評されることがありますが、正確にはルークがあからさまに卑屈になるのはアクゼリュス崩壊から暫く経ったこの時点からになります。アクゼリュス崩壊直後も何度か卑屈な発言をすることはありますが、ガイやティアに叱られるとすぐに「ごめん」と言って考えを改めます。しかし、物語後半のルークは周りに卑屈さを叱られてもなかなか後ろ向きな思考から抜け出せません。
母親に勧められてパーティーメンバーと再会してからもルークの考えはなかなか変わらず、その考えは大詠師モースや六神将によって製造されたレプリカを見て更に加速していきます。
 禁止された預言を詠むという甘言で集めた人々をもとに製造されたレプリカは、生まれたばかりで充分な知識が備わっておらず、お金を払わずに商品を勝手にとったりレプリカ情報を抜き取られたことで亡くなったオリジナルの葬式に現れて人々を混乱させたりといった事件を起こし、世界的に問題視されるようになります。特に「お金を払わずに商品を勝手にとる」というのは序盤のルークがとった行動と同じものであり、ルークにとっては否が応にも自分とレプリカたちが近しい存在だと感じたのではないかと思います。突然現れたレプリカという存在を恐れ憤る人々の発言や、各国の要人がレプリカへの対応に悩む何気ない言葉を聞いたルークは、「レプリカはこの世にいてはいけない存在だ」と思うようになります。これまでの物語でルークやイオンといったレプリカかどうかなど関係なくかけがえのない存在を見た後に改めてぶつけられる「世界にとって人間とレプリカの命の重みは本当に同じなのか」という命題は、問題に直面したパーティーメンバーだけでなくプレイヤーにも重くのしかかります。
 また、ルークはヴァンを倒した際にローレライから送られた宝珠をコンタミネーション現象によって自分と同化させており、自分は宝珠を受け取っていないと勘違いしていました。アッシュはローレライから送られた剣を受け取っているのに自分は宝珠を受け取れなかったと思い込んだルークは、より劣等感を抱くようになります。ファブレ家において疎外感を感じていたルークは、アッシュと両親を無理やり引き合わせ「俺はやっぱりレプリカだし……あいつは本物だし。いつかいらないって言われるなら……」と言って、ガイとティアだけでなくアッシュにも怒られます。
 そんな最中に「命と引き換えに超振動を使えば障気を中和できるかもしれない」という話を聞いたルークは、この世にいてはならない自分が唯一できることとして超振動で障気を中和させようと考え始めます。
 しかし、そんなルークの内心と異なり、先述したようにパーティーメンバーや親類や旅の途中関わってきた人々など、ルークが出会った人たちにとってルークは既にかけがえのない存在になっています。そのため、ルークの自己犠牲的な考えを知ったパーティーメンバーはルークのことを止めようとします。ダアトでそれぞれの言葉と気持ちでルークを引き止める言葉は、同じようにルークという一人の人間と向き合い見守ってきたプレイヤーの心を震わせます。そして、それでもレプリカたちと共に死ぬことを決意してしまうルークにかなりのショックを受けると思います。
 ルークがここで死ぬことを決意したのは、それまで虐げられるレプリカを世界中で見てきたこと、レプリカとしての劣等感に苛まれたことが理由だと思います。そして、仲間たちの言葉を聞いて尚その決意を曲げなかったのは、ルークが個人と世界を天秤にかけることの難しさを理解できるほど成長したことや、ルークが自分の命を容易く投げ出せてしまうほどに大人で幼かったことが理由だと思います。
 レムの塔から帰った後、その偉業を称えられキムラスカで勲章を受けることになったルークは「俺、別に世界を救いたいとかそんなんじゃなかったのに……いいのかな」「俺は英雄なんかじゃありません」といった言葉を口にします。実際に、ルークが障気を中和すると決めたのは世界を救いたいという前向きな気持ちによるものではなく、自分はここにいてはいけないという後ろ向きな気持ちによるものでした。
 英雄というのは、一般的に良い意味で使われることが多い言葉です。英雄のイメージは勇気のある人、強い人、多くのものを守る人といったように定着しています。
 しかし、英雄というのは名前も顔も知らない誰かのため時に命を投げ出すことを恐れない人でもあります。それは普通の精神性ではなかなかできないことで、勇敢で褒め称えられる行動である反面恐ろしいことでもあります。それでも普通ではできないことを成し遂げて、人類の歴史を切り開いた人のことを英雄と呼ぶのだと思います。
 ルークは死ぬ間際、「死ぬのは怖い」「生きていたい」と心から思いました。それは、ルークが英雄ではない普通の人間である証拠です。
 また、ルークという個人を知っている人たちの中で、ルークに死んでほしいと思っている人は一人もいません。パーティーメンバーは勿論のこと、ルーク以外の国民の命を背負っている各国の要人も「おまえがどの道を選んでも俺はおまえを非難しない。だからまず死ぬことを前提に考えるのはやめろ」といった言葉や、「くれぐれも安易な結論を出さないように。障気を生んだのは創世歴時代の人類の悪行だ。それを一人で背負う必要は無い」といった言葉をかけます。
 それでも、ルークは結局事実だけを見れば障気を消し、ローレライを解放して世界を救った英雄になってしまいました。物語の登場人物と共にルークという個人をずっと見つめてきたプレイヤーとして、ルークの在り方は「英雄」というものについて今一度考えさせられるものがあります。


○ルーク・フォン・ファブレ
 レムの塔で死を目前にしたルークは、ようやく「死にたくない」という自分の思いを見つけ、心から生きていたいと思うようになります。医師から音素の剥離について知らされ自分の先が長くないと知ってからは、いつやってくるか分からない死に怯えつつも「まあ、生きてるのって悪くないよ」と言うなど以前より生きることに対して前向きになります。
 ルークが短い人生を通して得た生きることへの答えは、エルドラントでのヴァンとの最終決戦直前に語られます。「あなたは言いましたね。『誰かのために生きなければ生きられないのか?』と。誰かのために生きているわけじゃない。いや、生きることに意味なんてないんだ。死を予感して、俺は生きたいと思った。そのことを俺は知っている。ただそれだけでよかったんだ」というルークの言葉は、当たり前のようで決して誰もがたどりつけるわけではない、生きる意味を求める者の真っ直ぐな解答として胸を打ちます。
 そうして生まれた意味を知り、生きることに意味など必要ないと知ったルークは、それでも医師から告げられた通りローレライの解放と共に消えてしまいます。ルークが切った髪が風に吹かれて無くなったり、イオンが死んだ時その場に体が残らなかったように、レプリカは切り離した体の一部や息をひきとった体が消えてしまいます。ようやく生きていたいと心から思えるようになったのに、これからがルークの始まりだったのに、それでも消えてしまうルークと彼を見送るしかなかったパーティーメンバーの姿は、見ているだけで胸がつまるような思いがします。
 ルークはTOAの主人公です。ただでさえ物語においてキャラクターの死というのは重みがあるものですが、物語の中で一際特別な立ち位置にいる主人公の死というのはプレイヤーに大きな衝撃を与えます。
私も一人のプレイヤーとして、ルークが障気を消すために死ぬと決めたときは悲しかったし、ルークが心から「生きていたい」と思ったときは嬉しかったし、最後にルークが消えてしまうと分かったときは本当にショックでした。EDの後、タタル渓谷の花畑に現れた彼を見てもしかしてルークは生きていたのかと混乱した直後、ジェイドの寂しそうな笑顔で何も分からないまま何かを察してしまったときは様々な思いが喉につまって声になりませんでした。
b私はルークにもっと生きたかったし死んでほしくなかったのですが、それでも彼がこの結末にたどり着いたことが大切だとも思っています。「生まれた意味を知るRPG」であるTOAにおいて、最後に待っているのが主人公のルークの死であるならば、きっとそこに意味があるのだと思います。
 ルークの死というTOAの結末は、罪悪感によって引き起こされた悲劇というだけのものではありません。可哀想で憐れで救いが無いだけのものでもありません。生まれた意味を知らされ、当たり前のようで決して当たり前ではない「生きることに理由は要らない」という答えを得て、ルーク・フォン・ファブレという一人の人間になったルークがそれでも消えてしまう様を見て、プレイヤーも命が生まれる意味や生きる意味について改めて思いを巡らせる、忘れてはならない大切なものなのだと思います。


ルークを取り巻く関係性

 TOAのパーティーメンバーは成り行き上同行することになった六人が、レプリカや世界を取り巻く危機に関わるうちに鏡映しのようなお互いの業に向き合い、かけがえのない信頼関係を築いていく仲間たちです。時折「仲が悪い」と評されがちですが、それは決してTOAのパーティーメンバーの主旨ではありません。

 その中でも特にルークとの関係性に焦点があてられているパーティーメンバーが、ティア、ジェイド、ガイの三人です。勿論アニスやナタリアとルークの関係性も唯一無二のものですが、墜落したアルビオールを救出するメジオラ高原でのイベントで別行動になった時に特殊スキットが発生するのがティアとジェイドとガイであること、レムの塔でルークが消えそうになった時特にルークに対して声をかけるのがこの三人であること等、要所でこの三人からルークに対する思いは重視して描かれているように思います。

 また、正式なパーティーメンバーではないものの作中でルークと深く関わることになるのがルークのオリジナルであるアッシュです。次はこの四人とルークの関係性について書いていきます。

・ルークとティア

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○我儘な貴族、冷血な女

 ルークとティアのお互いの第一印象は、決して良いものではありません。ルークは突然屋敷に侵入してきてヴァンに斬りかかったティアのことを訝しんでおり、軍人として努めて冷徹に振る舞っているティアを「冷血」と評する場面が多々あります。また、ティアもルークの度を超した世間知らずなところと我儘な性格に呆れることが多いです。TOA序盤の料理などのシステムや、現在の世界情勢、音素や譜術といった世界観の説明がティアからされることもよくあります。
 こうしたルークとティアが互いに抱く印象は、二人が作中で出会ったばかりであることや互いの性格を考えると自然なものとも言えます。ティアはルークの記憶障害のことや屋敷にずっと閉じ込められていたことを知りません。何も知らない人から見ればルークの態度は難があるものであり、ティアが呆れるのも無理はありません。反対に、戦争社会のことをよく知らないルークから見れば、意識して非情に徹しているティアが冷たく見えるのも仕方のないことです。また、序盤のルークは自分に優しくしてくれる人には懐き、自分に厳しい言葉をかける人には反発する傾向にあるため、何かとルークの行動を注意するティアに反抗的な気持ちを持っていたのだと思います。
 お互いの第一印象は良いとは言えないものの、二人は序盤ずっと険悪だったわけではありません。ティアは最初に超振動でタタル渓谷に飛ばされたとき「あなたをバチカルの屋敷まで送っていく」と伝えたように、ルークが敵の軍人にとどめを刺し損ねて反撃されそうになったときルークを庇います。そしてその後に「戦うことがつらかったんでしょう? 私はあなたが民間人だってことを知っていたのに、理解できていなかったみたいだわ。ごめんなさい」と伝えます。
 ルークはタルタロスを六神将に襲撃されたときから突然人間同士が殺し合う戦争に巻き込まれるのですが、そのときは状況が切迫していたため、周囲から戦闘慣れしていないルークへの精神的な補助が不足している状態でした。タルタロスから降りて一息つき、自分を庇って傷ついたティアから改めて軍人として戦場に立つ心構えを聞いたルークは、その後他のパーティーメンバーにも人を殺すことについて話を聞いて回ります。この場面で、ルークは人間と戦い命を奪うことに改めて向き合うことになります。そういった心境の変化を迎える際、ティアの行動と言葉はルークにとって契機の一つになったのではないかと思います。
 一方でティアは、ルークとの会話の中で彼の記憶障害の詳細を知ります。ルークの何も知らない様子に呆れて「記憶障害を起こしたのは七年前でしょ? その後は勉強しなかったの?」と言ったティアは、それに対するルークの「他に覚えることが山ほどあったからな。――親の顔とかさ」という何気ない返事からルークの記憶障害が自分の想像以上に深刻なものであることに気づき、「ごめんなさい。私……あなたの記憶障害のことを軽く考えていたみたい。今まで私、あなたに意地の悪いことばかり言っていたわ。自分が恥ずかしい……」と事情も知らずに世間知らずなルークに呆れていたことを謝ります。ガイの過去を知らず女性恐怖症についてからかっていたことを謝る場面と同じく、ルークの事情を知らなかったことを言い訳にすることなく自分の行動を省みることができるティアの優しさが伝わってきてとても好きな場面です。
 それ以降、ティアはルークが常識的なことを知らない発言をしても「いいじゃない。これから知っていけばいいのよ」とルークを見守るようになります。また、バチカルに戻ってきたときは自分が住む街のことすら知らず落ち着かない様子のルークに、ティアとガイが同時にルークへ声をかける場面があります。ティアの「ルーク、あの……」という言葉はガイの「ルーク。ちょっと街ん中見ていかないか?」という言葉に遮られるのですが、ティアが言いたかったのはガイとほとんど同じ内容のことだと思います。世界を知らなさ過ぎるルークがまた屋敷に閉じ込められてしまう前に外の世界を少しでも知ることができたらいい、というティアとガイのルークを思いやる気持ちが感じられるやりとりです。
 そんなティアの優しさを何となく感じ取ったのか、ルークからティアに対する言葉も優しさが垣間見えるようになります。ルークをバチカルの屋敷に送り届けた後、ルークが連れ去られたことでルークの母親が倒れたと知ったティアは母親に謝罪に行きます。そこでルークの母から優しい言葉をかけられたティアは、ルークと別れる間際「優しいお母様ね。大切にしなさい」と声をかけます。ティア自身母親の形見を肌身離さず持っていたこともあり、母という存在を特に大切に思う気持ちがあるのだと思います。そんなティアの言葉に対してルークは「なんだよ。おまえに言われる筋合いねーよ」といつも通りの言葉を返すのですが、その後に「あんま気にすんなよ。母上が倒れたのは、元から体が弱いだけだから」とルークの母が倒れたことに責任を感じているティアを気遣う言葉をかけます。そんな優しい言葉に対して、ティアも「……ありがとう」と微笑んでお礼を言います。こうしてティアは、少しずつルークの乱暴な言動に隠れた根っこの優しさに触れていきます。
 ルークの優しさを知っているティアは、ルークが親善大使になり視野狭窄になってからも最後までルークに声をかけ続けます。それでもルークがそれをはね除けるのは、ティアよりも付き合いが長くずっと慕ってきたヴァンの言葉の方がルークにとって大事だったことが原因であり、ティアが「もういいわ」とその場を立ち去るのは、そうやってはね除けられて尚ルークに声をかける程の信頼関係がこの時点で二人の間に築かれていなかったことが原因だと思います。ヴァンの言葉を盲目的に信じ、癇癪を起こすルークにティアが言う「あなたは兄がいなければ何もできないお人形さんなのね」という言葉は、実際にヴァンにとってルークがオリジナルの代替品であり言うことを聞く人形に過ぎなかったことを考えると重く響きます。
 このように、ルークとティアはお互いに切迫した状況で出会い、信頼関係を0から構築していきます。自分の抱えている業を知らなかった、自分の抱えている業に上手く向き合えなかった頃のお互いを知っている二人だからこそ、その後の旅でお互いを鏡合わせにして業と向き合っていく姿に胸を打たれるものがあると思います。


○変化する二人
 アクゼリュス崩壊後、自身の行動を省みたルークは「変わりたい」と決意しアッシュと同じだった長い髪を切ります。ルークの変わりたい気持ちは、「俺が死んでアクゼリュスが復活するなら……ちっと怖いけど……死ぬ」という言葉や「自分にできることが何かはまだわかんねぇけど、本気で思ってんだ。変わりたいって」という言葉からも分かるように、不器用で拙いものです。特にルークの「アクゼリュスが復活するなら自分が死ぬ」という言葉については、ティアも「やっぱりわかってないと思うわ。そんな簡単に……死ぬなんて言葉が言えるんだから」と否定的に捉えています。
 しかし、拙くとも危うくともルークの「変わりたい」という気持ちはそのときルークが本気でぶつかって考えた結果の思いです。その象徴が断髪であり、「これからの俺を見ていてくれ」というティアへの言葉なのだと思います。そういったルークの気持ちが伝わったからこそ、ティアも「……そうね。見ているわ、あなたのこと」と返すのだと思います。
 それ以降、ティアはより一層ルークのことを代替品のレプリカとしてではなくかけがえのない一人の人間として見つめるようになります。そのため、ヴァンがルークのことをアッシュと比べ「あれは劣化品だ。一人では完全な超振動を操ることもできぬ」と言った際には「その言葉、取り消して!」と真っ先に憤ります。
 ティアはルークを代替品として扱う他人の発言に怒りますが、ルークが自分を蔑ろにするときも怒ります。ユリアの預言に自分のことが詠まれていないというティアの言葉を聞いたルークは、「俺が生まれたから、この世界は繁栄の預言から外れたんだ。だから預言にないセフィロトの暴走も起きたんじゃないか」と自分が生まれたことを否定するような言葉を言います。それを聞いたティアは本気で怒り、「私はただ、あなたがユリアの預言に支配されていないのなら、預言とは違う未来も創れるって、言いたかっただけよ! あなた、変わるんじゃなかったの!? そんな風にすぐ拗ねて! もう勝手にしたらいいわ!」と自分の気持ちをぶつけます。ルークのこの卑屈な言葉は、ルークの変化を見ていると言ったティアの気持ちも、変わると決めたルーク自身も否定する言葉です。ルークの存在に希望を見ている意味で発した自分の言葉を正反対の方向に曲解され、あまつさえ自分自身の存在すら否定しようとするルークにティアが怒るのも理解できます。何よりティアが怒るのは、ティアがルークを大切に思っており、ルーク自身にもルークのことを否定してほしくない気持ちがあるからだと思います。
 ティアのルークという一個人を想う言葉として特に好きなのは、バチカルに戻る前日にシェリダンでティアがルークにかける言葉です。夕焼けを見ながら語り合うアッシュとナタリアを見たルークが、「自分が生まれなければナタリアはアッシュと円満に暮らせていたのではないか」という卑屈な考えを口にすると、ティアは「あなたが生まれなかったら、アッシュはルークとしてアクゼリュスで死んでいたわね」とルークが生まれたことについて前向きな視点での事実を述べます。そして、「自分が生まれなかったらなんて仮定は無意味よ。あなたはあなただけの人生を生きてる。あなただけしか知らない体験。あなただけしか知らない感情。それを否定しないで。あなたはここにいるのよ」と真っ直ぐで優しい言葉をかけます。これはルークだけでなく、TOAの序盤からずっとルークと接していたプレイヤーの心にも染み入る言葉です。
 ティアがこの言葉をルークに伝える直前、ルークはアッシュとナタリアの会話を立ち聞きしてしまうのですが、その会話は自分が本物の「ナタリア」ではないことに落ち込むナタリアに「俺はおまえが王女だからプロポーズしたわけではない」とアッシュが伝え、ナタリアもかつて自分にプロポーズしてくれたアッシュを「ルーク」として想っていることがわかるやりとりになっています。こうした二人の会話を聞いた後にティアからルークへ伝えられる、ルークを一人の「ルーク」として想っているティアの言葉は、ルークもアッシュも間違いなくただ一人の代わりなどいない存在だと実感させられます。
 ヴァンとアブソーブゲートで戦う前夜、ヴァンと戦うことに弱音を吐くティアにルークは「ヴァンをもう一度説得しよう」と前向きな言葉をかけます。そんなルークを見たティアは、「あなた……変わったわ」とユリアシティで決意した通りルークが変われたことを肯定します。そしてティアはルークを見て「人は変われる」ということを実感し、人は預言を盲信している状態から変われないとオリジナルの世界を見限ったヴァンと違う道を歩むことを改めて決意します。
 ルークがティアに見つめられながら変わっていったのは勿論のこと、ティアもルークを見つめるうちに変化していきます。ティアはナタリアとの会話の中で、「ルークは人が変われることを教えてくれた。彼を見て、私もただ兄さんを討つことだけを考えていた自分と決別することができたの」と話しています。旅の中で自分がレプリカだという事実、人を死なせてしまった事実、肉親と戦わなければいけない事実に向き合い、互いに変わっていくルークとティアは、物語のテーマに深く根ざした関係性を築いていると思います。


○惹かれ合う二人
 旅を続けるうちに、ルークとティアはお互いの一見少し分かりにくい優しさを知っていきます。ルークは、髪を切る前には聞く耳を持たなかったティアのルークを叱る言葉が優しさから来る言葉だったと気がつきます。そしてそれに気づいたとき、ティアに「おまえ、最初からちゃんと俺のこと叱ってくれたよな」とお礼を言います。
 また、ティアの方も髪を切る前から垣間見ていたルークの優しさを改めて感じることになります。最も分かりやすいのは、ティアが物語の序盤に馬車に乗るための代金として手放したペンダントを買い戻すサブイベントです。ペンダントを手放したことでティアが落ち込んでいると気づいたルークは、ペンダントの行き先を突き止め十万ガルドという決して少なくない額のお金を払って買い戻します。そんなルークを見たティアは、ミュウと「やっぱりご主人様は、ホントは優しい人ですの!」「ええ、そうね。思慮が足りないところもあるけれど……優しいところもたくさんあるわね」とルークの優しさを再確認するように会話を交わします。二人が徐々に互いの優しさを知り、惹かれ合っていく様は見ているこちらがくすぐったくなるような光景です。
 また、ユリアシティを出たルークとティアがパーティーメンバーと合流した直後から、ルークはティアと超振動の特訓をすることになります。特訓は物語の中盤に何回かに渡って行われるのですが、初めに特訓を始めるときティアから教わるのを渋っているルークを見ていたティアは、特訓に対して積極的かつ特訓の終わりにお礼を言うルークを見て「あなたは私に超振動の制御を習うのが嫌なんだと思っていたわ」と伝えます。それに対してルークは、「ばっ……違うよ! は……恥ずかしかったんだよ。女に……つーか……その、おまえに習うの、かっこわりぃなって……」と歯切れの悪い返事をします。憎からず思っているティアに自分の未熟なところを見せたくないというルークなりの意地が見られる、可愛い会話です。
 そんな二人の関係を、パーティーメンバーも時にちょっかいをかけながら見守っています。石碑を巡礼するサブイベントではルークが同行する解説役のメンバーを教団員のティアかアニスから選べるのですが、ティアを選ぶと「やっぱり胸の差?」と言うアニスにジェイドが「愛の差でしょう」と付け加えてルークが照れる場面が見られます。反対にアニスを選ぶと「あれれ……? そっちを選ぶとは」「意外でしたわね」とガイとナタリアがティアを選ばなかったことに驚く場面が見られます。
 ルークとティアは、物語の中盤と終盤にそれぞれ世界のために自分を犠牲にしようとする展開があります。初めに二人が直面するのは、外殻の降下作業を行うことでティアの体に汚染された音素が取り込まれ、体調を崩すという出来事です。それを聞いたルークは、何でもないような顔をするティアに怒った後「降下作業をやめようって言いたいけど、降下作業をやめたら沢山の人が死ぬからそんなことを簡単には言えない」と自身の苦悩を話します。それに対してティアは、「それでいいのよ。もしもあなたが『やめろ』なんて言ったら、私、あなたを軽蔑するところだった。ありがとう。あなたを信じてよかった」とルークの考えを優しく肯定します。この会話では、世界の命運と大切な人一人を天秤にかけたとき簡単に世界を捨てられない難しさと、旅を通してその難しさを知ったルークの成長が感じられます。ルークが言うように、ティアが「怖い」「悲しい」といった弱音を吐いてくれればルークは世界よりもティアを選べるかもしれないのに、ティアは弱音を言わないからどうすることもできないというルークのもどかしい気持ちが伝わってくる、とても好きなやりとりです。
 そして終盤には、反対にルークが超振動を使ってレプリカと一緒に消えることで世界のために自分を犠牲にしようとします。その事実を知ったティアは、ルークの目の前でルークを犠牲にすることについて言い争うパーティーメンバーに「みんなやめて! そうやってルークを追いつめないで! ルークが自分自身に価値を求めていることを知っているでしょう!? 安易な選択をさせないで……」と感情的な声で叫びます。自分自身に価値を求めているルークが、自分を犠牲にして世界を救うことに価値を見出し命を投げ捨ててしまうかもしれないことを、ティアは危惧しています。
 それでもティアは、先述した降下作業のときに自分の世界のため犠牲になる選択を尊重してくれたルークのことを思って、「みんなあなたを引き止めてくれたんじゃないかしら。でも……私は止めないわ。私は自分がパッセージリングを起動して、自分が病んでいくのを受け入れようと決めた。あなたもそれを許してくれた。あなたも決心したというなら、それだけの考えがあってのことだと思うわ」と伝えます。それでも、ルークの自分を犠牲にする決心を認めたわけではないことや多くの人がルークを英雄として賞賛しても自分はルークの決断を認めないことも話します。
 多くの人々を守って死んだ英雄の死は、えてして世間に立派なものだったと美化されがちです。しかし、多くの人を救うよりその人に生きていてほしかった人からすればそんな美化はたまったものではありません。ティアのこの言葉には、ルークに生きていてほしいと強く願っているからこそ、ルークの死を美化しないという気持ちが籠もっています。実際にティアは、その場ではルークに「あなたが死のうとしても止めない」と告げるものの、レムの塔でいざルークが消えそうになっているのを見ると駆け出して止めようとしてしまいます。その行動で、「あなたが死のうとしても止めない」という言葉がどれだけの思いを抑えたものだったのかが伝わってきます。お互いに世界のために死んでほしくないのに、簡単に世界を犠牲にすれば良いとは言えない現実を知っている二人の葛藤は、プレイヤーの心をかき乱します。
 その後、ルークの消滅を目の前にした最終決戦前夜、ルークとティアは二人で満月を見ながら語り合います。自分がいつか消えてしまうことについて話すルークに、ティアは「これからもずっとルークを見ている」とルークが消えない未来を信じていることを伝えます。このときルークは、ティアに「……ティア。あのさ、俺……」と何かを言いかけるのですが、「……やっぱ、いいや」と言いかけたことを引っ込めます。それと同じように、エルドラントで別れの挨拶をするときルークに「必ず帰ってきて。必ず。必ずよ。待ってるから。ずっと、ずっと……」と言ったあと、ティアは唇だけで「好き」と言うのですがその声はルークには届きません。ルークとティアは、互いに惹かれ合い告白寸前までいったものの、「好き」という気持ちを相手に伝えられなかったということになります。言いかけてやめたルークと違ってティアは「好き」と口にすることができたという見方も考えられますが、「好き」の言葉が文字として出ていないこと、シナリオブックでこの場面のタイトルが「届かなかった告白」になっていることからも、ここで重視されているのはティアの言葉がルークに届かなかったという事実の方だと思います。
 ルークとティアがお互いに告白しなかった理由は色々考えられますが、ここでは私なりの考えを書きます。もしルークとティアが告白して両思いになっていたら、二人の別れは「それでも最後に両思いになった」というポジティブな要素を持ってしまう可能性があります。別れ際に二人が告白しようとしてできなかったことで、もしここで別れていなければルークとティアはいつか両思いになれたのではないかという想像がかき立てられます。別れの悲しさを際立たせるために、ルークとティアは両思いだが自分の思いを伝えられなかったという展開になっているのではないかと思います。
 ここで書いたもの以外にも、ルークとティアはナム孤島でルークが大切な仲間を一人答えるときティアを選んだときの反応やティアがケーキを作ったときの会話、ルークがいつか消えてしまうとティアが知ったときの会話など、惹かれ合っていることがかなり分かりやすく描かれている二人です。だからこそ、二人の最後の別れとエンディングでティアが「好き」と伝えようとしたルークではない青年が帰ってきたときの切なさは胸を打ちます。プレイヤーが読む物語の中で初めて出会い、お互いを見つめることで変わっていったルークとティアは、最後に幸せな結末を迎えたとは言い難いものの作品のテーマに即したとても良い主人公とヒロインだったと思います。


・ルークとガイ

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○幼なじみ兼親友
 ルークとガイは、ルークがアッシュと入れ替わりで屋敷にやってきた時から――言い換えれば、ルークが生まれたばかりの時からの付き合いです。かなり長い付き合いになるため、二人の関係は幼なじみと言えます。
 ガイがルークの世話を焼いていることは、冒頭でルークの部屋に忍び込んできたときやマルクトまでルークを迎えに来たときのガイの態度からかなり分かりやすいです。私が個人的に好きなのは、ガイが料理をしたときのスキットで話される「ルークの誕生日のときに厨房で料理を造っていた」という思い出話です。基本的に料理がメインの仕事ではないものの、ルークの誕生日という特別な日には自分が料理を作っていたガイの思いやりが伝わってくる、何気ないながらもとても好きなエピソードです。
 ルークからガイへの態度は一見ぞんざいに見えますが、物語の冒頭でルークが一人言を言うスキットで、ヴァンが用事で暫く稽古をつけてくれないことを知ったルークが「しょうがねー。ガイも結構剣術イケてるし、明日からはアイツと稽古すっか」と言っていることや、超振動で屋敷から飛ばされた後迎えに来たガイと合流したときの日記に「さっすがガイだぜ!」と書いていることから、ルークもガイにかなり親しみを持って接していることが分かります。
 個人的に特に好きなのは、ルークが自分についてくることになったミュウを「ガイたちへの土産ってことにでもするか……」と言っている場面です。お土産の本質は、何を買って帰るかではなく旅先という普段と違う場所でその人のことを思い出した、という事実にあります。イオンがミュウについて「チーグルはローレライ教団の聖獣です。きっとご自宅では可愛がられますよ」と話したとき、ルークが土産を渡す相手として真っ先にガイの名前を出すのは、ルークにとってそれだけガイが身近かつ親しい存在だからだと思います。
 先程少し書いた、屋敷から飛ばされたルークをガイが迎えに来て合流する場面では、六神将に追いつめられルークたちがピンチになっているところにガイがやってきて形勢が一気に逆転します。このときの「ガイ様、華麗に参上」と言って颯爽とピンチを切り抜けるガイの姿は、屋敷を出てから初対面の人たちに囲まれた上に戦争に巻き込まれたルークにとって頼もしく見えたと思います。また、プレイヤーにとっても絶体絶命かと思われた状況で格好良く助けに来てくれたガイは頼もしく映ります。
 このように序盤からかなり仲が良いことが分かるルークとガイですが、二人の関係は物語が進むにつれてアッシュの存在やジェイドとイオンの反応等からじわじわと「ルークはアッシュのレプリカなのではないか」という疑惑が浮かんできた頃に更に強く響いてきます。それが最も分かりやすいのが、バチカルに戻る船の中でルークがガイに話しかけたときの会話です。このときガイはルークに「おまえ、俺と初めて会ったときのこと覚えてるか?」と尋ね、ルークは覚えていないと返します。その答えを聞いたガイは、「……そうだよな。うん。おまえ、全然違うもんな」と再確認するように呟いたあと、不思議そうな顔をするルークに「いや、おまえがおまえでよかったってことだよ」と言います。この言葉からは、もしかしてルークはアッシュのレプリカなのでは、という不安を抱いたプレイヤーに、それでもガイは目の前のルークを慕っているという安心感を与えます。
 このときのガイの反応が更に如実なものになるのが、ルークがアッシュのレプリカだと判明した後のガイの行動です。アッシュを見張るという名目でアッシュについてきていたガイは、他のパーティーメンバーが無事に外殻に帰ったのを見届けるとアッシュ側のパーティーから離脱します。離脱する際にガイはルークが心配であること、ルークなら立ち直れると信じていることを伝え、「本物のルークはアッシュではないのか」というナタリアの言葉に「本物のルークはこいつだろうさ。だけど……俺の親友は、あの馬鹿の方なんだよ」と返します。そしてその後、ルークを迎えに行ったとき「俺はレプリカだぜ。おまえの主人じゃないんだぜ」と言うルークに対しても「別に、おまえが俺のご主人様だから、仲良くしてたわけじゃないぜ。ま、おまえはおまえ、アッシュはアッシュ。レプリカだろうが何だろうが、俺にとっての本物はおまえだけってことだ」と言います。
 このときルークを待ってくれているガイの姿は、六神将に追いつめられた場面で助けに来てくれたときと同じくらい、あるいは自分がレプリカだと知って自信を失くしているルークにとってはそれ以上に頼もしく見えたのではないかと思います。ガイが待ってくれているのを見つけたルークは嬉しくなって思わず駆け寄ろうとするのですが、自分が本物のルークではないことを思い出して駆け寄る足を止め、「俺……ルークじゃないから……」と後ろめたそうに言います。そんなルークに以前と変わらず接して、「せっかく待っててやったんだから、もうちょっと嬉しそうな顔しろって」と気安く声をかけ、自分は他でもないおまえを待っていたんだと言外に伝えるガイの言葉は、とても温かく感じられます。
 余談ですが、アラミス湧水洞でルークにお礼を言われたとき、ガイはティアと同じように「ルークがお礼だって……!?」と驚きます。このやりとりから、最近出会ったティアはまだしも、七年間付き合いのあるガイにもルークがお礼を言ってなかったこと、そんなルークにガイは今まで特に怒っていなかったことが判明し、ガイへの「良い奴」という印象が強まります。
 ガイがオリジナルのアッシュではなくレプリカのルークが自分の親友だと言う理由は、ガイがルークを迎えに来たアラミス湧水洞を進む道中の会話と、サブイベントで詳しく明かされます。ガイはアラミス湧水洞での会話で、記憶を無くして屋敷に戻ってきたルークと交わしたやりとりについて話します。ルークは覚えていませんでしたが、「記憶がなくて辛くないか」と聞いたガイに、ルークは「昔のことばっか見てても前に進めない。だから過去なんていらない」と返したのだとガイは話します。
 この会話について更に詳しく掘り下げられるのが、ガイの父親の形見である剣についてファブレ家で語られるサブイベントです。ガイはファブレ家への復讐心について、かつて仇として憎んでいたファブレ公爵を前にして「怨んでないと言えば嘘になります。でも、私はルークに教えられましたから。いつまでも過去に囚われているだけでは駄目なのだと」「ルークは自分が失ったと思った記憶を指してこう言ったのです。昔のことばかり見ていても前に進めない。過去に囚われていた俺には、正直、不愉快な言葉でした」「その時思ったんですよ。賭けをしてみようと。もっとも憎むべき仇の息子が、自分の忠誠心を刺激するような人間に成長したら、その時は復讐する気持ちも失われてしまうんじゃないかって」と語ります。これが、ガイが他でもないルークを親友だと思っている大きな理由です。
 ガイが忠誠心を捧げるに値する人物になろうとルークが努力しているだけで、自分にとっては十分だとガイは話します。それは、旅を通して成長していることが、ルークが変わろうとしていることの何よりの証であり、ルークの成長は復讐心に囚われた自分が変わる理由として十分なものだとガイが感じているからだと思います。
「ルークとティア」の項目では、ティアがルークの変化を見ているうちに自分も変わることができたと感じていることを書きました。そして、ファブレ公爵とガイの会話からは、ガイもティアと同様に成長して変わっていくルークを見て自分も変わろうと思った人の一人なのだということが分かります。ルークもまた、ティアに「これから変わっていく自分を見てほしい」と伝えたのと同じように、ガイに対して「俺はガイに信じてほしいからさ。俺が変わるってこと。それを見ててほしい」と伝えています。
 ガイがファブレ家に復讐心を持っており、かつてヴァンと通じていたと分かった後、パーティーメンバーは形式上ガイのことをスパイではないかと疑います。そのときルークは「それでも自分はガイを信じる」と決めるのですが、その直後にガイがヴァンに会いに行くサブイベントが発生します。このときこっそり追いかける選択肢を選ぶと、ガイがヴァンと改めて決別する内容の会話を聞くことができ、帰ってきたガイが「ルーク、俺は過去と決別してきた。もうヴァンに惑わされることはない。俺を信じてくれて、ありがとう」と眠ったふりをしているルークに伝える様子を見ることができます。因みに追いかけない選択肢を選んだ場合はガイとヴァンの会話内容は見られず、ガイがルークに感謝を伝える言葉だけを見ることができます。
 「昔のことばかり見ていても前に進めない」というルークの何気ない言葉を切欠に揺らいでいたガイの復讐心は、ルークを通して自身の業と向き合ったガイ自身によってこのように決着がつきます。変わろうとする自分を信じてくれたガイを信じたいと思うルークと、自分が変わる切欠を与えてくれたルークを信じたいと思うガイの絆は、本編で丁寧に描かれています。オリジナルのルークとレプリカのルークの両方に接したことがある上で、「自分の親友はレプリカのルークだ」と告げるガイは、ルークが代替品ではない世界にたった一人の存在であることを補強するキャラクターの一人になっています。


○兄兼父親
 ルークとガイの関係性を表す言葉として、「兄であり父である」という言葉が出てきます。これは、先述したファブレ公爵とガイとのやりとりで出てくる言葉です。ファブレ公爵は、ルークのおかげで変われたと話すガイに「ルークに永遠の忠誠を……いや、友情を誓ってやってくれまいか」「この子には父親がいない。レプリカだからではないぞ。……父親である私が、預言の下、息子を殺そうとしていたのだからな。父とは呼べまい」「そんな私に比べて、おまえはよくルークの面倒を見てくれていた。おまえはルークにとって、兄であり父であり、かけがえのない友であろう」と言います。
 確かにガイのルークへの言動を見ていると、幼なじみや親友といったものとは別に、家族や身内に向けるような言動も幾つか見られるように思います。
 ガイにとってルークを育てた自覚がかなり強いものだと分かるのが、アラミス湧水洞での会話です。アクゼリュス崩壊について全部自分の責任だと背負い込もうとするルークに、ガイは「その一端は俺のせいでもあるな。記憶がなくてまっさらなおまえを、わがまま放題考えなしのおぼっちゃんに育てた一因は俺だぜ」「歩き方も覚えてなかった……つーか知らなかったおまえの面倒を見たの、俺だからな。マジ反省した」と話しかけます。ガイは、ルークが世間知らずに育ってしまった原因の一端はルークを育てた自分にある、と子どもの罪の責任を一緒に背負う親のような発言をしています。
 ルークのことを「生まれて七年目の子ども」と強く認識しているのもガイの特徴です。アブソーブゲートでヴァンと戦う前日の会話で、十歳の姿で生まれた自分には子どもだった過去が存在しないことに落ち込むルークに、ガイは「馬鹿だなー、ルーク。おまえ、今、まだ七歳だろうが。成人まであと十三年もある。子供時代、満喫しとけよ」と声をかけます。その他にも、ティアに声をかけに行くよう促すとき不思議そうな顔をするルークに「やっぱり七歳児には難しいかな……」と言ったり、超振動を消すためにルークが犠牲にならなければならないという話が出たときに「おまえはまだ七年しか生きてない! たった七年で悟ったような口を利くな! 石にしがみついてでも生きることを考えろ!」と言います。
 そうやって幼なじみや親友といった枠を超え、肉親同様の思いをルークに持っているガイは、自分を卑下するようなルークの発言に誰よりも怒りを露わにします。アラミス湧水洞で合流した後、アクゼリュス崩壊のことをどう償えば良いか悩み、自分が幸せにならないことが償いになるのではないか、といったネガティブな考えに陥るルークに、ガイは「あーあーあーあー。後ろ向きなのはやめろ。うざいっての」と怒りをぶつけます。
 また、レプリカ編で虐げられるレプリカたちを見て「レプリカはここにいてはいけない」「障気を消すために自分が消えれば良い」という考えをするようになったルークにガイは真っ先に気づき、「自分はレプリカだ、偽物だなんて卑屈なこと考えるから、いらないって言われることを考えるんだ。そんなの意味のないことだろうが」と強い口調でルークの自己犠牲的な考えを否定します。それでも尚「俺は……レプリカは本当はここに居ちゃいけない存在なんだ」と言うルークには、「いい加減にしろ!」と怒りを露わにします。
 ガイがこうしてルークの卑屈な言動に怒るのは、ただ卑屈な言動に苛ついているからではありません。先述したように、レプリカだろうが何だろうがガイにとっての親友はルークただ一人で、ガイにとってルークはかけがえのない大切な存在です。そんなルークのことを、ルーク自身にも「ここに居ちゃいけない存在」などと言ってほしくないから、ガイは怒るのだと思います。
 ガイがルークに対して最も激しく怒るのが、障気を消すためルークが消えなければならないという話が出た直後の会話です。ルークがガイに話しかけると、ガイは開口一番「俺は、認めないぞ」と言い、それでも自分がやらなければ障気は消えないと反論するルークに「だったら! 障気なんてほっとけ!」と普段の穏やかな口調からは想像もできないような強い口調で言い返します。この会話の前に、プレイヤーは降下作業で体内に汚染された音素を取り込んでしまっているティアと、ティアのために降下作業を止めたいが世界のことを思うと軽々しく止めることができないルークのやりとりで、世界と大切な一人を天秤にかけることの難しさを知っています。そんな中、ガイが感情のままに叫ぶ「障気なんてほっとけ」という世界よりもルークを選ぶ発言は、かなり衝撃的に感じられます。
 この発言の後、ガイはすぐに「……悪い。そんな風に簡単に言える問題じゃないんだよな。それがわかるぐらい、おまえも成長したってことだもんな」と落ち着いた声で言います。ガイ自身も、ティアを止められなかったルークと同じように、世界と一人を選ぶことの難しさを理解しています。それでも、理性を捨てて感情で思わず世界よりもルークを選んでしまうくらいには、ガイにとってルークが大事だということなのでしょう。そのことは、この会話で最後にガイが言う「だけど俺は……おまえに生きていてほしいよ、誰がなんて言ってもな」という感情を押し殺すような声で発される言葉からも伝わってきます。
 更にガイは、その後結局自分が超振動を使って障気を消すと決めたルークに殴りかかります。そしてルークを殴った後、「……死ねば、殴られる感触も味わえない。いい加減に馬鹿なことを考えるのはやめろ」と最後までルークを引き止めます。お人好しで好青年なガイが本気で怒り人を殴るにまで至っている様子は、彼がどれだけルークを犠牲にしたくないかが十分に感じ取れます。
 このガイの言葉を踏まえて、更に味わい深くなるのがレムの塔でのガイの行動です。レムの塔で消えようとするルークにティアが駆け寄ろうとしたとき、ルークは「来るなっ!」と叫びます。そのとき、ティアを押さえるのは直前にルークを殴ってまで死ぬのをやめさせようとしたガイです。どれだけルークのことが大切でも、死んでほしくなくても、ガイは最後には主人であるルークの意思を尊重した行動をとります。女性恐怖症で女性に触れるのが怖いにもかかわらず、ティアの前に出てルークの「来るな」という言葉に従ってティアを止める姿からは、ガイがそれだけ従者としてルークの決断を大切にしていることが分かります。それに対して「……ガイ。……ありがとう」とお礼を言うルークへの「……馬鹿野郎が」という声からは、ガイだってティアと同じようにルークに駆け寄ってでも止めたかったであろう心情が伝わってきて、苦しい気持ちになります。
 直前までルークに「あなたが死ぬのを止めない」と言っていたティアと、ルークが犠牲になることに一番怒っていて最後までルークを引き止めていたガイが、いざレムの塔でルークが消えそうになっているのを目にしたときにはティアがルークを止めるために駆け寄り、ガイはティアを押さえるという反対の行動をとっているこの場面は、ガイとティアがそれぞれルークを大切に思っていることを二人の言動を対比することでより強く表現している、とても良い場面だと思います。
 その後、レムの塔で消えなかったルークは医者の診察を受け、自分がそう遠くない未来に死んでしまうことを知ります。このときルークはパーティーメンバーに「ちょっと血中音素が偏ってるけど、平気だってさ」と嘘をつき、ガイはそれに対して「そうかぁっ! よかったな!」と返します。
 しかし、エルドラントでの別れ際に、ガイはルークが消えることに気づいていたと明かします。ルークが消えることに気づいていながらガイがそのことについて言及しなかったのは、ルークがティアに吐露した「怖いんだ。みんなに言ったら、みんなが俺に気を遣うだろ。そうされるたびに、俺死ぬんだって自覚させられそうで……怖いんだ」という気持ちを、ガイなりに汲み取っていたからではないかと思います。
 ガイはヴァンと戦う直前、ルークに「世界中がおまえのやってきたことを非難しても、俺はおまえの味方だ。俺はヴァンの六神将とは違うぜ。自分も生き抜いた上におまえも助けてやる」と声をかけます。決して盲目的に味方をするのではなく欠点を指摘してくれるのが良い友達、という話はよく聞きますが、ガイの「世界中が非難しても俺はおまえの味方だ」という言い回しには、そういった良い友達の枠を軽く飛び越えたルークへの思いが感じられるように思います。友達の域を超えたルークとガイの関係性からは、やはり本編で言及されているように家族や身内に近い性質があると思います。
 幼なじみであり、親友であり、使用人であり、兄であり、父のようなガイの存在が、ルークにとって大切な存在だったことは明らかです。同様に、ガイにとっても幼なじみであり、親友であり、主人であり、弟であり、息子のようなルークの存在は、かけがえのないものだったのだと思います。


・ルークとジェイド

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○相性の良くない二人
 出会ったばかりの頃のルークとジェイドは、お互いに反りが合わない相手という認識です。序盤のルークは自分に優しくない人に対して反抗的なので、ジェイドに対しても頻繁に反発します。ジェイドも生来の彼自身の性格と物わかりが悪い人間が好きではないことが合わさって、ルークに対して頻繁に嫌味を飛ばします。
 チーグルの森でジェイドたちに捕縛されたルークがキムラスカとマルクトの和平条約を締結するための協力を仰がれる場面では、突然ローレライ教団の内部事情について聞かされ話に置いてけぼりにされることに怒るルークに対し、ジェイドが「あなたは世界のことを何も知らない、『おぼっちゃま』でしたね」と言って更にルークを煽ります。ルークの方もキムラスカの要人として協力を頼まれた際「おいおい、おっさん。人にものを頼むときは頭を下げるのが礼儀じゃねーの?」と横柄な態度をとり、その挑発にわざと乗って仰々しく頭を下げたジェイドにルークが「あんた、プライドねぇなあ」と言うと、ジェイドは「あいにくと、この程度のことに腹を立てるような安っぽいプライドは、持ち合わせていませんから」と返します。こうして見返してみても、序盤の二人の会話は雰囲気が良いとはお世辞にも言えません。ルークとジェイドは二人とも決して悪人というわけではないのですが、序盤の二人はお互いがお互いにとって好きなタイプの人間の対極に位置している状態であるため、こうなってしまうのも仕方ないように思います。このことについては、本人たちも険悪な関係が解消した後の会話で「正直言って、あなたと最初に出会った時は、絶対に好感を持てないと思ったんですがね」「俺だってそう思ったぜ。嫌味でむかつくって」と話しています。
 このようにかなり悪い第一印象で出会う二人ですが、ルークとティアが決して険悪な会話なかりではないように、この二人も常に険悪なわけではありません。戦争に巻き込まれ、人の命を奪うことに抵抗を感じるルークが「ジェイドはどうして軍人になったんだ?」と尋ね、ルークの心境を汲み取ったジェイドが人を殺すのが怖い感覚は当然であることを告げ、「逃げることや身を守ることは恥ではないんです。大人しく安全な街の中で暮らして、出かける時は傭兵を雇いなさい。普通の人々はそうやって暮らしているんですから」と話す様子は、ルークが命を奪い奪われることが当たり前の戦争社会に向き合う過程の一つとして大切な場面です。
 ちなみに、ジェイドが軍人になった理由は恐らくネビリムを復活させる実験をより効率的に行うためだと考えられえるのですが、これは他人に詳らかに話すことはできない理由です。自分が軍人になった理由を明らかにしないために「ジェイドはどうして軍人になったんだ?」と尋ねるルークに「……人を殺すのが怖いですか?」と質問に答えずルークの質問の意図のみを上手に抽出し質問を質問で返すところからは、ジェイドの頭の良さが感じられます。後にこのときジェイドが言及を避けた彼が軍人になった理由に大きく関わっている過去の出来事について、パーティーメンバーの中でルークが一番に知ることになるのも含めて良い伏線になっているやりとりだと思います。
その他にも、封印術をかけられたジェイドをルークが気遣う、ジェイドたちが初めに頼んだ通りに和平の交渉をするためルークがキムラスカの国王にイオンを謁見させてくれたことにジェイドが礼を言うなど、二人がただ険悪にお互いを嫌っているわけでもないことは要所で描写されます。嫌味や我儘を挟まない二人は、社会を知らなさすぎるほど知らない子どもと、社会を知り過ぎるほど知っている大人として決して悪くない関係のように思います。
 二人の関係に大きな変化が訪れるのは、コーラル城でフォミクリーに関係している装置をジェイドが見つけたときです。ルークが発見された場所にフォミクリーの機械があることやルークが七年前から記憶喪失であること、アッシュの存在などの情報をルークに出会ってから手に入れたジェイドは、ルークがアッシュのレプリカなのではないかと気づき始めます。コーラル城を去り、バチカルに帰る途中の船では、ルークがジェイドに話しかけると「もしも自分が自分でなかったら、どうします?」とルークがレプリカであることを仄めかすような問いかけをします。
 ルークがレプリカだと気づくまでのジェイドは、高度な封印術であるアンチフォンスロットを自力で解読しようとしたりハンデがある状態で六神将と対等に渡り合ったりと、頭が良く高い戦闘能力を持ち感情に流されることのない、少し人間離れしているような人にすら思えます。そんなジェイドが「もしも自分が自分でなかったら、どうします?」と意味深な質問をした後に、「いつかあなたは私を殺したいほど恨むかもしれません」と告げる場面は、ジェイドが当たり前に何かを後悔し人生に瑕疵を持っている普通の人間のように見える、とても印象的な場面です。
 ここでのジェイドの「自分が自分でなかったら」という問いかけは、同じタイミングでガイから聞くことができる「おまえがおまえで良かった」という言葉とリンクしているようにも思います。今プレイヤーが操作しているルークが本物の「ルーク」ではないかもしれないこと、それでも本物ではない「ルーク」自身を慕っている存在がいることがこの時点で示唆されている、とても好きなやりとりです。
 キムラスカから親善大使に任命され、ヴァンから亡命に誘われた後のルークは、目に見えて視野が狭くなりそれまで垣間見えていた他人を気遣う優しさが失われてしまいますが、そんなルークを真っ先に見限るのはジェイドです。元々ジェイドはルークとティアの喧嘩やナタリアとアニスの喧嘩など突っ込むと面倒なことになりそうな会話は静観し、話が終わったらさっさと目的のために動き始める行動をとることが多いですが、ルークが「自分は親善大使だ」と我を通そうとするようになってからは説得したり叱ることもなく受け流す態度をとります。ルークもそんなジェイドに対して反発することが多くなります。
 ジェイドはアクゼリュスに向かう直前の時点でルークとアッシュがレプリカとオリジナルの関係であることに恐らく感づいているのですが、そのことをなかなか説明しようとしません。ガイが「もったいぶるな」と反応しているように、そんなジェイドの態度はじれったくも感じます。ただ、自分にとって苦く重い過去の傷であり禁忌とした技術が勝手に利用されている可能性が出てきた事実を目の前にして、なかなか真実を言い出せない気持ちは理解できます。
 また、ガイに詰め寄られたときに返している「ルークのことはルークが一番に知った方が良い」という理屈も理解できます。自分はレプリカで本物のルークではないという、ルーク自身にとってかなり重要な話をルークより先に他の人が聞くというのが、あまり良くないことは何となく分かるため、ジェイドがこのときなかなかレプリカについて話さなかったことを過剰に責め立てるのも違うのではないかと感じます。ただ、こういった確信を持てない間なかなか事情を話さない癖についてはジェイド自身も反省しており、後に「丁寧に説明する手間を惜しまなければ、別の結果が訪れていたかもしれませんから」とルークに伝える場面があります。
 アクゼリュス崩壊後、ルークを見守る姿勢でいるティア、ガイ、ナタリアに対し、アニスとジェイドは「人は一朝一夕で簡単に変わらない」とルークの決意を懐疑的に見ています。二人はガイやナタリアと違ってつい最近ルークと知り合ったばかりであり、比較的現実的なものの見方をする性格でもあるため、変わろうとするルークを簡単に信用しない立ち位置にいるのは理解できます。二人の態度からは、ティアの「失った信用を取り戻すのは難しい」という言葉の重みを感じさせられます。
 このように初めはルークの「変わりたい」という言葉を半信半疑に見ていたジェイドですが、セントビナーで救助活動に勤しむルークの姿を見て「彼の変わりたいという気持ちは本物だったようですね」と考えを改めます。また、外殻大地を降下させる話題が持ち上がった際に「大陸の降下のこと、俺たちだけで進めていいのかな? 世界の仕組みが変わる重要なことだろ。やっぱり伯父上とかピオニー皇帝に、ちゃんと事情を説明して協力しあうべきなんじゃないかって」と提案するルークを見た後、二人で会話するときに「いずれ地殻静止の準備が完了したら、私から両国へ働きかけることを提案しようと思っていたのですが……正直言って驚きました。あなたも成長していたんですね。それなりに」と声をかけます。「それなりに」という言葉にルークがむくれると「冗談ですよ」と返す辺りを見ると、ジェイドは本当にルークの成長に感心しているものの素直に褒め言葉だけを伝えるのもむず痒く、最後に「それなりに」と付け加えることで褒め言葉を言うむず痒さを軽減しているのだろうと思われます。
 フォミクリーによって起きた事件を切欠に変わろうとする人であるジェイドにとって、ジェイドの罪そのもののような存在でありながらめざましい変化を遂げるルークは、この頃から特別な存在になっていきます。そして物語が中盤にさしかかる頃には、ジェイドがルークに「こうやって旅を続けていくうちに、あなたのことも、そう悪くないと思えるようになってきましたよ」と伝えるまでになっています。序盤の二人が絶対に相容れなさそうな態度をお互いにとっているからこそ、互いの業に深く関わっているルークとジェイドが旅の中で徐々に相手を通して自身の業に向き合う様は、強く印象に残ります。


○変わっていく関係
 ジェイドにとってフォミクリーは大きな後悔の一つです。先述したようにジェイドはそんなフォミクリーから生まれたルークを通して自身の業に向き合っていくのですが、そういった関係が明確になるのがケテルブルクでジェイドの過去をルークが知ったときです。
 ネフリーからジェイドの過去をこっそり聞きに行ったルークは、何とかそのことを隠そうとするもののジェイドにあっさり見抜かれます。そのときジェイドは、ネビリムを復活させようとした理由について「私は、ネビリム先生に許しを請いたいんです。自分が楽になるために。でもレプリカに過去の記憶はない。許してくれようがない。私は一生過去の罪に苛まれて生きるんです」と話します。そして、自分の罪に関して「人が死ぬなんて、大したことではないと思っていた自分自身」が罪だとも話します。
 ルークはこのとき、アクゼリュス崩壊前までは単に嫌味な奴だと思っていたジェイドが自分と同じように罪の意識に苛まれていることを知ります。そして、「俺……俺だって、レプリカを作れる力があったら、同じことしたと思う……」と拙いながらもジェイドの気持ちに寄り添おうとします。
 このやりとりの直後にルークとジェイドがお互いの罪の意識について話すスキットが発生するのも、二人の関係性がアクゼリュス以降から明確に変化したことを感じられる点の一つです。ルークとジェイドは、このスキットで自分の罪について「やっちゃいけない事、やっちまった事、その言い訳を誰かが教えてくれるわけじゃないし、言い訳を探しちゃダメ、なんだよな」「そうですね。過ちを隠すための言い訳などに力を入れてしまうと、人はどんどんそちらに流れてしまう。一番簡単で一番難しいことですが、受け入れなければならないことをきちんと受け入れなければ」と話します。アクゼリュス前の二人からは想像もできないようなお互いの事情に深く踏み込みながらも前向きな雰囲気を感じ取れるこの会話は、こうして互いの罪を知った二人がこの先の旅で罪に向き合っていくことを示しています。ルークとジェイドだけでなく、ルークと似通った「自分が起こした火事で多くの仲間を死なせてしまった」という意識を持っているミュウがこの会話に参加していることも含め、とても好きな会話です。
 ケテルブルクでお互いに一歩踏み込んだルークとジェイドの関係の変化が次に分かりやすく描写されるのが、ジェイドがルークを叱る場面です。セントビナーでの救助活動を終えた後、どんどん崩落していく大地を見たルークは、焦って「アクゼリュスを滅ぼしたのは自分だから、せめてセントビナーだけでも助けたかった」という感情を吐き出します。それに対してジェイドは、本編で初めて聞くような厳しくも決して感情的に怒っているわけではない声で「ルーク! いい加減にしなさい。焦っているだけでは、何もできませんよ」と言います。このときの声は、怒っているというよりも叱っているというニュアンスを感じられる声で、怒りと叱咤という感情の細やかな差異を声で表現できる声優さんの技術に思わず舌を巻く場面です。
 ジェイドと長い付き合いであるマクガヴァン元帥は、このときジェイドがルークを叱ったことについて「ジェイドは滅多なことで人を叱ったりせん。先ほどのあれも、おまえさんを気に入ればこそだ。年寄りには気に入らん人間を叱ってやるほどの時間はない。ジェイド坊やも同じじゃよ」と話します。実際にジェイドは、今までルークがどれだけ我儘な言動をとってもティアのように叱ることはありませんでした。それは、恐らくジェイドが言っても聞かない人間をわざわざ叱ってやるような性格の人ではないことが理由なのですが、この一連の会話でジェイドがルークのことを言葉を割いてわざわざ叱るくらいには好ましく思うようになった変化が見られます。
 アクゼリュス崩壊後、大きく変わった二人の関係は一度目のヴァンとの決戦前夜に交わす会話で一区切りがつきます。ジェイドはルークに対し、初めて出会ったときと異なり今は自分なりにルークのことを好ましく思っていると伝え、更にどういったところを好ましく思っているかについても話します。
 ジェイドがルークに関して好ましく思っている部分は、人の命を奪うことに決して慣れないところです。アクゼリュスの崩落を思い出して夜中にうなされているところ、盗賊や神託の盾など人間の敵を斬った夜は眠れずに震えているところを見て、ジェイドはルークが他人の命を奪う重みを抱えていることを知ります。ルークのそういった意識は、戦闘終了時の台詞で人間の敵と戦った後にのみ聞くことができる「手段を選んじゃいられないんだ」という言葉からも伝わってきます。この、「人間の敵と戦ったときだけ特別な戦闘終了台詞が発生する」というかなり特殊な演出は、人間の命が深く作品全体のテーマに絡んでいるTOAらしい演出だと思います。
 ルークはそんな自分のことを臆病だと卑下するのですが、ジェイドはそれに対して「いいえ。あなたのそういうところは、私にない資質です。私は……どうも未だに人の死を実感できない」と告げます。ここでジェイドは初めてルークに自分が人の死に実感を持てないことを明かすのですが、ジェイドが軍人だから人の命を奪うことを仕事だと割り切っているだけでなく、人の死を実感できないから人の命を奪うことに比較的躊躇いが無いのだということをプレイヤーも初めて知ることになります。恩師を復活させようとして、それは倫理や道徳に反しているという周囲の説得で実験を諦めて、頭では人の死を理解していても心から人の死を理解できているとは言い難いジェイドは、自分と対照的に人の死を痛いほど理解してその重みに苦しみながらも決して投げ出さず前を向いて進んでいくルークのことを好ましく思っている、というのがこの会話の主旨だと思います。
 ジェイドがルークに好感を持つようになったのと同様、ルークもルークなりにジェイドへ好感を持っていることをこの会話で伝えます。「俺、ジェイドと旅して良かったと思う。ジェイドのおかげで、俺がやらなきゃいけないことがわかったんだ。ヴァン師匠とは違うけど、ジェイドも俺の師匠だな」という言葉からは、ルークが以前から多くのことを教わってきたヴァンと名前を並べるほどジェイドから多くのことを学び取ってきたことと、今まで知らなかったことを沢山知った旅路を決して後悔していないルークの気持ちが感じられます。その後に続く、「弟子はとらない主義なんです。人に教えるのは嫌いなので」「いいんだよ。勝手に盗むんだから」「そうですか? フフ……まあ、好きにしてください」という会話も、人に教えるのが嫌いだというジェイドをそれでも色んな事を教えてくれた人として慕っていることを伝えるルークに、弟子をとらない主義ではあるもののそうやって自分を慕うルークを決して拒絶はしないジェイドという、二人の親愛関係が何気ないやりとりから伝わってくるものになっています。
 このように、中盤のルークとジェイドはそれまでのお互いに抱いていた悪印象がルークの成長やジェイドの過去にまつわる秘密の共有を切欠に変化していき、最後には双方が相手を好ましく感じていることを伝えられるような関係になっていく過程が丁寧に描写されています。素直に褒めることこそ滅多に無いもののルークを見守りながら時に叱るジェイドや、ジェイドと自分の気持ちについて素直に話し合うルークといった姿は、出会ったばかりの二人からは考えられないような光景であり、旅の中で二人が築いた関係を得難く感じられる光景でもあります。


○ルークの死
 TOA本編を大きく三つに分けたとき最後の一つとなるレプリカ編で、ルークとジェイドは主にルークの命に関わる話を中心に関係性と物語のテーマをより深めていきます。
 レプリカ編での二人の会話で共通しているのは、自己犠牲的な考えに走るルークをジェイドが止めようとしている点です。少し分かりにくいようでその実かなり分かりやすくルークを引き止めようとするジェイドの会話は、各所で見ることができます。
 ルークが「レプリカの自分が死んで障気を消せばすべてが解決する」という考えを持つ切欠になるのは、シェリダンの研究所でルークの超振動を使えば障気を消せるのではないかという話を聞いたときです。この話が出たとき、ルークとジェイドは同時に何かを考え込むような反応を見せ、ジェイドはすぐに「そういえば先程の口ぶりでは先客がいらしたようですが?」と話題を逸らします。このとき二人は、ルークの方は「超振動で障気を消すことが見失っていた自分の生まれた意味なんじゃないか」ということを、ジェイドの方は「超振動で障気を消せばルークに危険が及ぶだろう」ということを考えていたと思われます。だからルークは研究所を出た後にジェイドへ「さっきの障気と超振動のことだけど……」と話しかけ、ジェイドはそれに対して「馬鹿なことです。忘れなさい」と返事をするのだと思います。
 ここでの会話で、「忘れなさい」と言われても尚食い下がるルークに、ジェイドは「お忘れですか? あなたはレプリカで、ろくに超振動を制御することもできない。下手をすれば、あなたが死にます」と言います。そしてその後も超振動で障気を消そうと考え込むルークに、ジェイドは「アクゼリュスを消滅させ、シェリダンの皆さんを傷つけ、大勢の『敵』と分類された名も知らぬ人々を手にかけ、これ以上まだ両手を血で染めますか? やめなさい。あなたには無理です」と畳みかけます。このときジェイドは、「レプリカ」「アクゼリュス」といった、それを言えばルークが最も傷つくであろう話題をぶつけています。これらの言葉は、決して意地悪で言っているわけではありません。ルークが傷つくような話題を出せばルークが「超振動で障気を消す」という考えを諦める筈だ、と考えてルークが言及されたくない話をわざとしているのです。ジェイドの本音は、「あなたはレプリカで、ろくに超振動を制御することもできない」「アクゼリュスを消滅させ、シェリダンの皆さんを傷つけ、大勢の『敵』と分類された名も知らぬ人々を手にかけ、これ以上まだ両手を血で染めますか?」の方ではなく、「下手をすれば、あなたが死にます」「やめなさい。あなたには無理です」の方に含まれています。
 超振動で障気を消す方法についてルークに説明するとき、ジェイドは一万人の第七音譜術師と超振動の使い手が死ねば障気を消せるだろうと話し、「一万人の犠牲で障気は消える。まあ、考え方によっては安いものかもしれません」と付け加えます。TOAに出てくる為政者の多くがそうであるように、ジェイドもまた多数のために少数を切り捨てる考え方ができる人です。そういう人だから、ここで「一万人の犠牲で世界が救われるなら安いものかもしれない」と言うことができます。そんなジェイドが、ルークが超振動を使って障気を消そうとしていると勘づいたとき、一万人の犠牲が必要なことよりも真っ先に「下手をすればあなたが死にます」と口にしたのは、少数の犠牲で世界が救われるとしてもその少数の中に他でもないルークが含まれることを良しとしない気持ちがジェイドにあったからだと思います。
 ジェイドの多数のために少数を切り捨てる理性的な考えと、それでもルークに死んでほしくないという感情的な考えのせめぎ合いが見られるのが、ルークが障気を消すために死ぬと決断するダアトでのやりとりです。アッシュが障気を消すため死のうとしていると各国の為政者に話した際、ピオニーに「おまえは何も言わないのか?」と促されたジェイドは、「私は……もっと残酷な答えしか出せませんから」と返します。このときジェイドが出した「残酷な答え」とは、「能力的に勝っているオリジナルのアッシュではなくレプリカのルークを犠牲にした方が合理的である」というものです。この答えを聞いて、他でもないレプリカルークが本物だろうが偽物だろうが自分の親友だと本編を通して話しているガイは「アッシュの代わりにルークに死ねって言うのか! ふざけるな!」と激しく憤ります。
 残すならレプリカではなくオリジナル、というジェイドの考えは、本人が言う通り残酷に聞こえるものの感情を抜きにすれば合理的な考えです。ピオニーに促されてすぐに「死ぬならルークの方がいい」と言える辺り、その考え自体はずっとジェイドの頭の中にあったのだと思います。それでもピオニーに促されるまでそれを言わなかったのは、ルークに死んでほしくないから、ルークが死ぬ方が合理的だと分かっていてもそんなことは言えなかったからだと思います。
 自分の命と世界を天秤にかけることに思い悩むルークがジェイドに話しかけたとき、ジェイドはルークの方を見ることなく「恨んでくれて結構です。あなたがレプリカと心中しても、能力の安定したオリジナルが残る。障気は消え、食扶持を荒らすレプリカも減る。いいことずくめだ」と冷たく聞こえる言葉を口にします。これが、ジェイドが国のことを考える軍人として出した答えです。しかし、その後ジェイドは「自分が権力者ならルークに死んでくださいと言うが、友人としては止めたいと思う」とも話します。ジェイドは合理性のもと「アッシュではなくルークが死んだ方がいい」という結論を出したにもかかわらず、未だに友人としてルークに死んでほしくない気持ちを切り捨てられないでいます。
 ジェイドの言葉を聞いたルークは、「ジェイドが俺のこと友達だと思ってくれてたとは思わなかった」と言い、それを聞いたジェイドは「そうですか? ――そうですね。私は冷たいですから。……すみません」と返します。ジェイドがルークに死んでほしくないと思って彼を引き止めているのはプレイヤーの視点から見ればかなり分かりやすいのですが、ルークにはジェイドがルークに死んでほしくないと思っていることはいまいち伝わっていない気がします。実際に、ルークが卑屈な発言をするたびに分かりやすく怒るティアとガイに比べジェイドの態度は些か分かりにくいものです。そのため、ジェイドの「友人」という言葉は多少なりともルークにとって意外なものだったと思います。
 それに対する「そうですね。私は冷たいですから」というジェイドの返事も趣深いものです。たとえどれだけルークに死んでほしくないと思っていても、いざとなれば「死んでください」と言える理性をジェイドは持っています。それは時に冷たく見えるものであり、ジェイドも自分の発言が冷たいものであることは自覚しています。死んでくれと言うような自分がルークを友人だと思っていると思われなくても仕方ないこと、それでもどうしても切り分けられない感情があることが伝わってくる、最後の「すみません」という言葉はどこか寂しく聞こえます。
 レムの塔でルークが消える直前の反応も、ジェイドの反応はガイやティアとまた異なった良さがあります。ダアトでの会話内容に反してティアがルークを止めようとし、そんなティアをガイが止める隣で、ジェイドはルークの代わりに死のうとするアッシュを押さえつけます。そしてその理由を、「残すならレプリカよりオリジナルだ」と話します。ルークが死ぬ直前になるとどうしても死んでほしくない気持ちを割り切ることができないティアとガイに対し、ルークの死を目の前にしても尚ルークに死んでほしくない感情よりも残すなら能力が安定したオリジナルの方だと理性を優先することができるジェイドの姿は、ジェイドが基本的に理性の人であることを感じられます。
 そんなジェイドですが、超振動を起こした後消えずに生き残っていたルークを見たときには「生き残ったとはいえ、本来なら消滅しかねないほどの力を使った。非常に心配です。ベルケンドで検査を受けてください」と声をかけます。滅多に自分の感情を言葉にすることのないジェイドが「心配」という言葉を使う姿からは、ジェイドがアッシュを引き止める裏側でどれだけルークのことを気にかけていたかが分かります。
 ケテルブルクでジェイドの過去という秘密を共有したルークとジェイドですが、二人はレムの塔を去った後にもう一つ秘密を共有することになります。それが、ルークが超振動を使ったことでいつか消えてしまうという秘密です。
 検査を受け医者からそのことを伝えられたルークは、パーティーメンバーには「何ともなかった」と嘘をつくのですが、その嘘を真っ先にジェイドに見抜かれ「……あなたの嘘に私も乗せられておきます。でも無理は禁物ですよ」と声をかけられます。このときジェイドは「見通す人」という称号を手に入れるのですが、ジェイドが豊富な知識量と持ち前の鋭さから人よりも多くのことを見通せること、しかし見通せることは見通した問題を解決できることと決してイコールではなく、多くのものを知れることは時に辛いことにもなることを感じさせられる称号です。
 ルークが消えるという秘密を共有した後のジェイドは、それまでに増してかなり分かりやすくルークに優しく接しています。ベルケンドを出て、「九死に一生を得て、生きることの素晴らしさを実感したというか。……まあ、生きてるのって悪くないよ」という事情を知らなければ突然不自然にポジティブな発言をしているようにしか見えないルークの言葉を不審がるパーティーメンバーの中で、唯一事情を知っているジェイドは「……ええ。そうですね」とルークに同調します。ルークは自分の死を目の前にして心から生きたいと思う気持ちを手に入れましたが、ジェイドにとってもルークが消えるかもしれないというのは大きな出来事だったのだと思います。
 ルークの消滅を知ったジェイドは、時折単独行動をとって自分なりにルークの消滅について調べます。ワイヨン鏡窟で見つけたチーグルの証言を元にアッシュとルークの間でビッグ・バンと呼ばれる現象が起こっており、チーグルと同じ現象がルークとアッシュの間に起こっているならルークが消えるだろうと推察したジェイドは、ルークに対して「ルーク。私はこと研究において、あまり失敗したことがありません」「今度ばかりは、私のはじき出した答えが間違っていればいい、と思います。まあ、あなたは私の想定外のことをやらかしてくれますから、もしかしたらとは思っていますがね」と話しかけます。この言葉を分かりやすく噛み砕くなら、「チーグルの例を見ればルークが消えてしまうだろうと考えられるが、その答えが覆されてルークがどうにか生きてくれればいいと思っている」という意味だと思います。ルークの死を目の前にしても理性を優先できていたジェイドが、ルークが生き延びた後は理性で出した答えよりルークに生きてほしい感情が勝っているような発言をする姿は、見ているこちらの心が痛むような気持ちになります。
 その後ジェイドは、ルークとアッシュの間に起きているビッグ・バン現象の推察のもとになっているチーグルの実験を行ったディストから話を聞き、ルークの消滅に対する確信を更に深めます。ルークとアッシュの間でビッグ・バン(=音素の乖離に伴うオリジナルとレプリカの融合)が始まっていたと話すディストに、ジェイドはそれが覆ることのない事実だと理解していながら「……始まっていないかもしれない」とジェイドらしからぬ理論の伴っていない反論を口にします。先述したルークとのやりとりに引き続き、この時点でジェイドがかなりルークの死に関して理性と感情の切り分けができなくなっていることが感じられる言葉です。
 ルークの消滅が避けられない事態であること、フォミクリーの発案者である自分にすらどうにもできないことを痛感したジェイドは、ディストの「……記憶は残るのですよ」という気遣うような言葉に対して「いいえ、記憶しか残らないんですよ」と残酷な事実を噛みしめるように返事をします。ジェイドが生き残ってほしいのは、ルークの記憶だけを引き継いだルークとアッシュが融合した存在ではなく、他でもない自分が偶然出会って自分と共に旅をして自分に多くのことを教えてくれた「ルーク」なのです。
 ジェイドがどれだけルークの死にショックを受けているかは、他人の感情の機微に特別鋭いわけではないルークに「どうしたジェイド。暗い顔して」と指摘されていることからも明らかなのですが、そんなルークに対してジェイドは動揺を悟られないように「おや、私は生まれつきこういう顔ですが? 我ながら憂いのあるいい男だとは思いますが」といつもの冗談交じりの嫌味を返します。そしてそれを真に受けたルークは、「……はは。心配して損した」と返します。このように、ジェイドがルークの死に対して抱いている複雑な感情の全てがルークに伝わることはありません。
 TOAのラストで赤髪の青年が帰ってきたとき、他の仲間が青年に駆け寄る中でジェイドは一人だけ悲しげな笑顔を浮かべます。このときジェイドは以前自分がはじき出した答えは覆らなかったと気づき、ルークの死を心から痛感したから手放しに喜ばなかったのではないかと思います。このことは、ジェイドが物語の最後に観測したルークの死が、ジェイドがかつてルークに伝えた「私はどうも未だに人の死を実感できない」という発言と繋がっているのではないかという点からも推測できます。
 ルークとジェイドの関係性は、ルークの生まれた意味を大きなテーマにしているTOAにかなり深く根ざしているものです。世界のことを知りすぎるほど知っているジェイドと、世界のことを知らなさすぎるルークが、互いを通して自分の業に向き合い最後に握手を交わす様は、強く胸を打たれると同時に今後二人が同じように握手を交わすことはないだろうと感じられ、やりきれない気持ちにもなります。

・ルークとアッシュ

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○二人の「ルーク」
 ルークとアッシュがレプリカとオリジナルの関係であることはアクゼリュス崩壊後にアッシュの口から明かされますが、それまでにも二人の関係を匂わせる演出は序盤から数多く見られます。
 ルークとアッシュが初めて顔を合わせるのは、六神将がタルタロスを襲撃したときです。このときジェイドがアッシュの顔を見て考え込むような態度をとっていることから、この頃からジェイドはルークがアッシュのレプリカだと気づき始めたのではないかと思います。その後アッシュはカイツールで再びルークを襲撃します。このときはヴァンに食い止められ、アッシュはその場を去ります。
 この場面で印象的なのは、ルーク側(=プレイヤーの視点)からはアッシュの顔が見えないところです。他の六神将は正面を向いている場面が多い中アッシュの顔が頑なに見えない演出は、何かしらの秘密があるのだろうと思わせられます。
 そして頑なに見えなかったアッシュの顔が見えるのが、廃工場を抜けた先でルークたちがアッシュを見つける場面です。この場面では雨が降っており、アッシュのいつも上げている前髪が崩れていてルークと似た髪型になっています。そして振り向いたときに初めて見える顔はルークとそっくりで、ルークはそのことにかなり衝撃を受けます。この場面の同じ剣技を使い同じ顔でにらみ合う二人は、正に鏡合わせのように見えます。
 二人が鏡合わせの存在であることがより分かるのが、ユリアシティで二人が一度目の一騎打ちをする場面です。二人は一騎打ちの間何度か会話をするのですが、その中で同じ技を同時に出し、同時に倒れ、同時に起き上がる場面があります。アッシュが右利き、ルークが左利きであることも相まって、鏡に映った自分と戦っているような感覚を覚えます。
 鏡合わせの二人が一人の人間として分かたれていくのが、アクゼリュス崩壊以降の物語です。ルークがアッシュから徐々に独立していっている姿は、ルークがアッシュと同じ長い髪を切った場面が一番象徴的だと思います。髪を切ると同時に「変わりたい」と決意しそのように行動する様は、ルークにとってはアッシュのことは関係なくただ自分にできることをがむしゃらにでもやって変わっていきたいという思いによるものだったとしても、アッシュの代替品としてヴァンの言いなりになっていたレプリカのお人形からの脱却のように思えます。
 崩落編のルークとアッシュは、お互いにいがみ合いながらも何だかんだと協力する関係です。お互いに負けず嫌いな二人はシェリダンの人たちを裏切って逃げた研究者を捕まえるために張り合ったり、宿屋で寝坊したルークを見たアッシュが「よくいつまでも寝ていられるな。そのうち脳が溶けるんじゃないか?」と言った嫌味に対してルークが「……おまえはそのうち口が曲がるんじゃねーの」と返してにらみ合うなど、まるで年の近い兄弟が喧嘩するようなやりとりをします。
 そんな二人ですが、いついかなる時も仲が悪いわけではありません。ヴァンを止めるという目的は同じであることや曲がりなりにも自分に近しい存在であることから、緊急事態にはしっかり協力し合う関係です。特に、偽物の姫君としてバチカルを追われるナタリアをアッシュが助ける場面では、ナタリアをルークたちに預けたアッシュとルークの「ルーク! ドジを踏んだら俺がおまえを殺す!」「……けっ。おまえこそ、無事でな」という素直ではないものの確かに信頼関係が築かれている様子を見ることができます。
 また、ヴァンと戦うためアブソーブゲートに向かう前日の会話では、厳しい言葉を吐きながらもルークにヴァンとの決着を託すアッシュの姿が見られます。以前ヴァンに斬られたときの傷がまだ塞がっていないアッシュは、出血が完全には止まっておらずもう一度ヴァンと戦うのは難しい状態でした。ルークが頻りに「一緒に師匠を倒そう」と言っても頑なに拒むのはこの怪我が理由です。怪我のことをルークに知られたアッシュは、「こんな体でなければ、とっくに俺がアブソーブゲートに向かっている! ……おまえがヴァンを討ち損じたときは、俺が這ってでも奴を殺すがな」と暗にルークにヴァンの討伐を託すような言葉をかけます。
 そして、ヴァンを倒した後にルークは外殻を降下させるためアブソーブゲートを起動するのですが、ルークの力が足りず起動が失敗しそうになります。そのとき反対側のラジエイトゲートからアッシュが手助けをすることで、外殻の降下作業は無事に終了します。ルークとアッシュが協力して同じ目的を果たす崩落編のシナリオは、初めは敵意を向け合っていただけの二人の関係が喧嘩しながらも協力し合う前向きなものに変わったことを示しています。
 二人がオリジナルとレプリカという関係である以上、どうしても避けて通れないテーマを深く掘り下げるのがレプリカ編です。屋敷に帰り、好奇の目に晒されたルークは「自分はレプリカでアッシュの偽物だ」という旅をしていたときには徐々に感じなくなっていた卑屈な意識を悪化させてしまいます。そのことは、もう一度屋敷を出た後アッシュと再会したとき、ルークがローレライの宝珠を受け取っていないことについて責められたときのルークの反応からも分かります。
 今まではアッシュに厳しい口調で詰め寄られても言い返すことが多かったルークですが、アッシュが受け取ったローレライの鍵を自分は受け取っていないという事実を突きつけられ、「泣きそうな顔してるぞ」とガイに指摘されます。そして一人でひっそりと「アッシュには伝わったことが俺には伝わらなかった……。俺、やっぱりレプリカなんだな……」と卑屈な考えをより深めてしまいます。
 自分がレプリカであることへの劣等感に苛まれたルークは、「俺はレプリカで、あいつは本物で、いつかいらないって言われるなら」という思いでファブレ家の屋敷で両親とアッシュを引き合わせます。このときルークが自分は偽物だという考えに囚われており、アッシュは「自分はルークではない」と引き続き思っている状態であるため、アッシュは両親と自分を引き合わせたルークに「馬鹿なことを言う前にその卑屈根性を矯正したらどうだ。……苛々する!」と言って屋敷を去ります。アッシュはルークに対して苛々していることがほとんどですが、レプリカ編でのアッシュのルークに対する苛立ちは、今までと違いルークの卑屈な発言に腹を立てているものなのだと思います。
 そんなルークの「偽物の自分より本物のアッシュが生き残った方がいい」という思いは世界中で厄介者扱いされるレプリカたちを見たことで加速していき、ダアトでルークが障気を消すために自分が消える決断をするまでに至ります。「おまえを死なせる訳には……いや、死なせたくないんだ!」というルークの言葉には、単純にアッシュを心配する気持ちと同時に、「偽物の自分と違って本物のおまえを死なせたくない」という気持ちも含まれていると思います。
 レプリカ編を通して描かれるアッシュを死なせたくないルークの気持ちと、ルークの卑屈な言動に苛立つアッシュの気持ちがより丁寧に言葉にされているのが、レムの塔でお互いに「自分が消える」と言って争うルークとアッシュの会話です。
 ルークはアッシュからローレライの剣を奪おうとしながら、「俺だっておまえと同じだ。死にたくない! だけど俺はレプリカで能力が劣化してる。ローレライを解放するには、宝珠を預かることもできなかった俺じゃなくて、おまえが必要なんだ。それならここで死ぬのは……いらない方の……レプリカの俺で十分だろ!」と言います。この言葉が、ルークがレプリカ編で終始落ち込んでおり最終的に死を決意するまでに至った理由です。かつては自分の居場所だった屋敷で周りから好奇の目に晒され、自分の居場所はここではないと感じてしまい、アッシュがローレライの剣を受け取れたのに対して自分はローレライの宝珠を受け取れなかったことで「やっぱり自分は偽物なんだ」と強く思い込み、「偽物の自分じゃなくて本物のアッシュでなければローレライを解放して世界を救えない」という考えに至ったから、ルークはダアトで自分が死ぬ決断をしたのです。
 この場面では、同時にアッシュがルークの卑屈な言動になぜ苛立っているのかがアッシュの口から言及されます。自分はいらない存在だと言い張るルークに対し、アッシュは「……いい加減にしろ! いらないだと!? 俺は……いらない奴のために全てを奪われたっていうのか! 俺を馬鹿にするな!」と怒ります。もっと簡単にまとめると、アッシュはルークが卑屈な発言をする度に「おまえがおまえの言うように偽物で劣化していていらない存在なら、そんな奴に全てを奪われた自分は何だって言うんだ」と思っていたことになります。
 ルークからアッシュへの「おまえを死なせたくないんだ」という言葉やアッシュからルークへの「その卑屈根性を矯正したらどうだ」という言葉は一見相手を思いやる言葉のように見えますが、レムの塔でのこの会話から分かるように、これらの言葉にはルークの偽物で能力が劣化しているレプリカとしての苦悩、アッシュのレプリカに自分の居場所も名前も全て奪われたオリジナルとしての苦悩が込められています。
 この後ルークは超振動を使って障気を消すのですが、このときルークが受け取れなかったと思い込んでいたローレライの宝珠が出現し、実はルークが宝珠を受け取れていたということが判明します。ルークがそれまで「自分は偽物だからアッシュと違って宝珠を受け取れなかった」という考えに囚われていたことを思うと、ルークが宝珠を受け取れていたという事実は、ルークの考えは杞憂で彼は決してアッシュの偽物ではなく偽物だから死んでいい存在でもないということが改めて感じられるものになっています。宝珠を受け取れていたことを目にして「自分は偽物で劣化品の死んでいい存在だ」という考えを改め、死を直前にして心の底から「生きたい」と思うことができたルークは、レプリカとしての苦悩から脱してようやく一人の「ルーク」として歩き始めます。
 ここで残っている問題は、アッシュのオリジナルとしての苦悩です。エルドラントに突入する直前、ルークはアッシュに「前に言っただろ。ローレライを解放できるのはオリジナルのおまえだけだって。俺はみんなと一緒に全力でおまえを師匠の元へ連れて行く。おまえはローレライを……」と、役割分担して一緒にヴァンを倒しにいくことを提案します。このときルークは「ローレライを解放できるのはオリジナルのおまえだけだ」と言っていますが、この言葉は以前のようなアッシュに対する劣等感から生じているものではありません。自分とアッシュは違う存在だからできることが違っていて当然で、自分ができないことはアッシュに任せて自分は自分のできることをしてアッシュを手助けしようという気持ちから来ているものです。
 現にルークはこのとき「俺はみんなと一緒に全力でおまえを師匠の元に連れて行く」と言っており、アッシュの代わりになろうとする気持ちやアッシュが行くなら自分は必要ないといった気持ちを抱いていないことが分かります。また、エルドラントでアッシュと出会ったときも「俺はレプリカで超振動ではおまえに劣る。剣の腕で互角なら、他の部分で有利な奴が行くべきだろう」と自分の発言の意図をアッシュに説明しています。これに対してアッシュが「ただの卑屈じゃなくなったぶんタチが悪い」と返しているため、ルークのアッシュに対する劣等感は全く無くなったわけではないと思いますが、以前より劣等感がずっと解消されているのは確かです。
 しかし、レムの塔での出来事の後も自分はレプリカに全てを奪われたという意識が残っているアッシュはルークのこの言葉が以前と同じ卑屈な考えから来ているものだと思い「おまえは俺だ! そのおまえが自分自身を劣ってるって認めてどうするんだ! 俺と同じだろう! どうして戦って勝ち取ろうとしない! どうして自分の方が優れているって言えない! どうしてそんなに卑屈なんだ!」と強い口調で反論します。そして、ルークの「俺はおまえのレプリカだ。でも俺は……ここにいる俺はおまえとは違うんだ。考え方も記憶も生き方も」「おまえが認めようと認めまいと関係ない。俺はおまえの付属品でも代替え品でもない」という言葉に動揺し、ルークに決闘を申し込んでその場を去ります。
 このときアッシュはその場を去る直前に「ヴァンの弟子は俺だ。俺だけだ!」「師匠を倒すのは弟子の役目だ。どちらが本当の弟子なのか、あの場所で決着をつける」とヴァンを尊敬していた気持ちを吐露します。この言葉から、アッシュがルークにヴァンを倒すのを任せていたのは「ルークはもう一人の自分だ」という考えのもと、ルークがヴァンを倒すことで自分がヴァンを倒すことと同義になると考えていたのかもしれないと思います。
 アッシュがオリジナルとしての苦悩から抜け出すのは、エルドラントでルークと一騎打ちをしたときです。ルークとアッシュは以前にも一度一騎打ちをしていますが、そのときの一騎打ちはお互いが同じ存在だと確かめるためのものでした。しかし、二度目の一騎打ちはお互いが違う存在だと確かめるための戦いです。このことは、エルドラントに突入する直前にガイがナタリアとの会話の中で、「傷つけ合うためじゃない。互いの存在を確認するためだよ。もう違う存在なんだと認識するためだ」と二人の戦いについて話しています。初めてユリアシティでお互いがオリジナルとレプリカだと顔を合わせて認識したあのときから、ようやく二人がオリジナルもレプリカも関係ないこの世界に生きている一つの命になるのが、二度目の一騎打ちなのだと思います。
 一騎打ちでルークが勝利したとき、アッシュは「オリジナルがレプリカ風情に負けちまうとはな……」と以前と変わらずまだオリジナルとしての自意識に囚われているような発言をしますが、ルークが部屋を出た後に自分のことを「ルーク・フォン・ファブレ」と名乗ります。このことは、ルークがレプリカとしての苦悩から脱したのと同様にアッシュもオリジナルとしての苦悩から脱し、ルークと違う一人の人間として存在していることを認めたことを表したこれ以上無いくらいの言葉だと思います。
 「ルーク・フォン・ファブレ」と同じ名前を名乗りながら、同じ名前を名乗ることがお互いが違う存在であることの証明になっているルークとアッシュの関係は、TOAの中でとても大きな意味を持つものであり、こうして噛みしめることで物語全体がより味わい深くなる関係だと思います。

 ちなみにルークとアッシュについて考えた時に行き当たらずにはいられない「最後に帰ってきた赤髪の青年は誰なのか」という疑問については、以前別の記事で考察しています。よろしければこちらもどうぞ。



 今日はTOAが十五周年を迎える日であると同時に、テイルズシリーズが二十五周年を迎える日でもあります。生まれたばかりの子どもが社会人になるまで一つのシリーズが続いているというのは、月並みな言葉ですがやはり凄いことだと思います。

 そしてそんなシリーズの節目の一つである十周年記念に発売された作品で、ルークというキャラクターが主人公だったことを、私はとても嬉しく思っています。改めて、テイルズオブジアビス十五周年、本当におめでとうございます。周年記念のルークとアッシュ爆エモフィギュアを眺めながらこの記事を終わります。いやこのフィギュア欲しくないオタクいなくない.........?


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