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房石陽明を素直に好きと言いたくない ※レイジングループ感想 ネタバレ有

 最近色々とすることがあってがっつり操作したり戦ったりするゲームを遊ぶ余裕が無いけど何かをインプットしないと心が......死ぬ......!という思いからレイジングループを遊びました。

 グノーシアでキャラクター相手の人狼ゲームって面白!!という気持ちに目覚めたとか、遊んでいるソシャゲのイベントでレイジングループのシナリオライターさんがシナリオを手掛けておりそれが面白かったとか気になっていた点は色々あったのですが、まあ~~~めっっっっちゃ面白かったですね......。久々に長時間前のめりになってゲームをしたので肩がバッキバキになりました。
 同じ人狼×ループもののノベルゲーム「グノーシア」のネタバレ感想記事は下からどうぞ。

 以下、ネタバレがバリバリに含まれるレイジングループの感想です。


「人狼ゲーム」の世界観への落とし込み方

 人狼ゲームをノベルゲームの題材にするにあたって難しいのが、テーブルゲームだからこそ許されている「吊り」やテーブルゲームだからこそ「そういうもの」として認識されている各役職をどのように表現するか、というところだと思います。これらをレイジングループでは奇妙な因習が残っている田舎村を舞台にして綺麗に落とし込んでいるのが凄いな~!と思いました。現実世界で実行すれば大問題の「吊り」が何故合法とされ行われているのか? 占い師や霊媒師はどうやって調べた結果を知ることができるのか? 人狼はどういった心理で人を殺すのか? が田舎村に残っている伝説という形になり、そしてその伝説自体の真実も用意されているのが凄かったです。これは人狼ゲーム部分以外もそうですが、シナリオから全体的に「楽な方向には絶対に逃げない」という気概を感じました。ここまで理詰めにする!?ってくらいガッチガチに伏線を張って論理を組み立て、それを綺麗に回収していくシナリオでしたね......。
 テーブルゲームではない、生身の人間が本当に自分の命をかけて投票し処刑する人狼ゲームとしての性質も充分に活かされていてすごく良かったです。テーブルゲームの人狼ゲームはプレイヤーが脱落しても陣営が勝てれば陣営全員の勝利になるため全のために個を捨てるのが当たり前ですが、レイジングループで行われる「黄泉忌みの宴」は一人の人間が本当の意味で「処刑」されるかどうかを決める儀式であるため、全員が全のために個を捨てるわけではありません。当然主人公の房石陽明が処刑されたり殺されたりすれば、陣営が最終的に勝とうが負けようがその時点でゲームオーバーです。また、儀式に参加する人たちは決して短くも浅くもない付き合いの、不自由な田舎村で身を寄せ合って過ごしてきた隣人達であるために理屈だけでなく感情で人を疑い、庇います。
 「誰もが理屈で動くわけじゃない」「どれだけ怪しくても『好きだから』信じるし投票しない」が成立するのは、テーブルゲームではない人狼ゲームならではの良さだと思います。実際の人狼ゲームが全のために個を捨てるのは当たり前、怪しい人を処刑するのが当たり前であることを考えると(そういうルールのゲームなので勿論そういった行動は当たり前なのですが)、自分の好きな人が死ぬのは嫌だ、この人が好きだから投票しない/好きだからこそ投票しなければならないと考えて行動するレイジングループのキャラクターは、フィクションの存在でありながら生身の人間を相手にしているような気持ちになります。


読み込むほどに面白いシナリオ

 恐らく何度も読み直し、組み直しを重ねたのであろう伏線だらけのシナリオがとても面白いです。それでいて、細かいところを気にせずのめり込んで読んでも面白いのが魅力的だと思います。個人的にシナリオは「深読みしなくても面白いかどうか」が重要だと思っているので、深読みしてもしなくてもぐいぐい引き込まれていくレイジングループのシナリオは良質だと思いました。

 私はこんな感じで途中からメモをとりながら読んでいたのですが、後々意外な場面で役に立ったり次のルートに入る前に読み直すと気になる点が出てきたりと、めちゃくちゃに楽しかったです。

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  その他メモをとるほどでもないと思った情報や、序盤も序盤に出てきた情報が最後にどんどん回収されていくのは圧巻の一言でした。コンビニ店員とか、連続殺人事件の指名手配犯の張り紙とかね......。


房石陽明

 この記事のタイトルにもなっているレイジングループの主人公。初めは他のキャラクターと同じように「房石くん」と呼んでいましたが途中から房石陽明!!!!!!!と呼ばざるをえなくなった男。諸々後述します。
 こいつのことを素直に好きと言いたくないが、レイジングループの主人公が房石陽明で良かったと思う気持ちも確かにあり......自我が分裂する......。


各キャラクターへの感想

○芹沢千枝実

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 黄泉ルートは、千枝実ちゃんがヒロインのルートです。ボーイミーツガールした後よそからやってきた房石陽明に良くしてくれたり、助けようとしてくれたり、一緒に逃避行したりする入門編的なルートですが、暴露モードまで込みで見ると特に千枝実ちゃんは印象がガラッと変わって良いですね。まさか物語によくあるボーイミーツガールの真実が悪人ミーツ殺人鬼だったとはな......。
 ループしてる割には黄泉ルートでの宴の立ち回りが房石陽明に依ってるところがあったな~と思ってたけど、真面目に宴に参加するのが久しぶりだったんですね。ループ後半はやぶれかぶれで暴れたり殺したり逃げたりしてたんだろうな。狼じじいをしばく手際の良さも納得できるものがある。この辺からも黄泉忌みの宴をコミュニケーションゲームと捉えて勝つために分析を繰り返してもう百回遊べるドン!してる房石陽明との方向性の違いが垣間見えるなと思います。だからこそ房石陽明の言葉を聞いてさるに名乗り出させたり、泰長くんに投票したりするのは契機の一つだったのかもしれないな......。いややっぱり何回死に戻っても宴で勝利を目指すぞい!できる房石陽明の精神力さあ......。
 初めの方はSAN値がガリガリに削れてて裏の思考回路がシリアルキラーのそれだけど、房石陽明に惹かれていって後半になるにつれ暴露モードが少なくなっていく(=本音が多くなっていく)のが本当に好きです。暴露モードの良さはキャラクターの本心が知れることは勿論、暴露モードが無いことで逆説的にその言葉が紛れもない本音であるとわかるところだと思います。千枝実ちゃんも房石陽明も最初からお互いに隠し事しまくってるけど、宴最終日直前の「一緒に逃げよう」から最後に一緒に手を繋いで逃げてるところは全然暴露モードが無いの、泣いちゃうな......。

 機知ルートでは李花子ちゃんがヒロインになること、房石陽明と陣営が敵対していることから、元々ループの繰り返しで壊れていた心が黄泉ルートでの思い出で更にめちゃくちゃになっている千枝実ちゃんの姿が見られます。初見時は房石陽明のように記憶を持ち越しているわけではなくても、無意識下で黄泉ルートで抱いた感情を覚えているのかなと思っていましたが、房石陽明と同様に記憶を持ち越していたのなら初対面とは思えない好意的な態度や李花子ちゃんとの痴話喧嘩のようなやりとりにも納得がいきます。それに対して千枝実ちゃんのように記憶を持ち越しているにもかかわらず、黄泉ルートで抱いた情を完全ではなくとも相当の精度で切り分けられる房石陽明の精神性に改めて怖......となるルートでもあります。
 機知ルートの千枝実ちゃんはおおかみ陣営ですが、おおかみ陣営に割り当てられたことそのものが「やっぱり私には人殺しのおおかみがお似合いなんだ」と彼女が半ばやけっぱちのような思考をする切欠になっています。それまでループの中で人を殺し続けてきた千枝実ちゃんが、黄泉ルートで「このループでは人殺しになりたくなかった」と思うようになってからの、自分の意思に関係無く人を殺さなければならないおおかみ陣営に割り当てられるというのは精神的にかなりきついものがあったと思います。
 黄泉ルートのおおかみ陣営とは異なり、機知ルートのおおかみ陣営には元々どこか壊れている子ども、ループを繰り返すうちどんどん壊れていった女の子、完全に巻き込まれた一般女性というある意味でガチャガチャの構成になっています。暴露モードで知ることができるおおかみ陣営の会話も、会話の治安が全体的に悪かったり仲間割れを始めたりと大変なことになっています。ループの中ですり切れた千枝実ちゃんの心に触れられると同時に、ある意味での千枝実ちゃんの”素”の部分も垣間見えるようなルートです。個人的に、房石陽明の指示で李花子ちゃんが千枝実ちゃんに痴話喧嘩をふっかけたときの李花子ちゃんへ反論するときの若干口の悪い口調が千枝実ちゃんの素のような気がしてとても好きです。黄泉ルートのラストが「愛が無いとできないキス」なのはそれは本当にそう。

 暗黒ルートは、ループで心がすり切れた千枝実ちゃんが、おおかみになった房石陽明が自分のような殺人鬼になってしまわないよう自分の命を以て「私のようにはならないで」と伝えるルートです。房石陽明は千枝実ちゃんの行動を「『血を流すのは一晩に一人』の制約を利用して、おおかみが誰かを襲撃することを防いだ」と解釈していますが、実際には彼女がおおかみを殺して止めるつもりだったこと、その上で房石陽明を見て「やっぱり殺したくない」「私のように狂ったあなたを見たくない」と判断したことを考えるとまた趣の違ってくる場面です。暗黒ルートの千枝実ちゃんは退場こそ早いものの、おおかみになって人間陣営の時とは違う異様な雰囲気に呑まれていく房石陽明の心の引っかかりとなって残り続けます。

 真相ルートでは、彼女が房石陽明のように記憶を持って死に戻りしていることが判明します。その後二人は持ち越した記憶を共有していることを利用し、協力してループを抜ける方法を探し始めます。千枝実ちゃんが見ている「かみさま」の話、ループの終わりは何が切欠になっているのかなど色んな真相が明らかになりますが、個人的に好きなのは二人の方向性の違いから始まる千枝実ちゃんの房石陽明虐殺ループとその後の二人のやりとりです。先述した通り宴をすっ飛ばして早くループを抜けたい千枝実ちゃんと、宴をコミュニケーションゲームと捉え攻略することに重きを置いている房石陽明ではループへのアプローチが異なっており、更に知らないことを知るためなら百回だってループできる房石陽明と違って既に精神に限界を迎えている千枝実ちゃんはとにかく房石陽明を殺しまくるモードに入ります。暴露モードで千枝実ちゃんは房石陽明を殺しまくる行為を現実逃避だと反省していますが、黄泉ルート時点での千枝実ちゃんの精神状態と房石陽明の異常な精神の在り方を考えると、こうなるのはまあ.......正しい......。
 その後「ループの中、出口のない世界で付き合うつもりはない」と千枝実ちゃんを振る房石陽明が私は好きで......いや好きとは言いたくないんですが.......その理由の一つが「終わらないループの中寿命を迎えることもできず、記憶だけが蓄積されて、その中でお互いを憎み合ってしまったら本当の地獄になる」なのがとても好きです。ループの記憶を共有するってことはお互いの良いところを知って繋がってるだけじゃなく、悪いところや普段目にしない側面も知るということで、そうでなくても人の気持ちは必ずしも永遠に続くものではないから終わりの無い世界でそうなってしまったら悲しい、という考えが良いな~!!と思いました。このルートの最後が心中なのも房石陽明と千枝実ちゃんらしくて、好きですね......。
 何より「陽明さんは嘘をつくとき必ず『ええと』をつける」という千枝実ちゃんの指摘と、そこで思い返される房石陽明が初めて名乗った場面の衝撃は言い表せないものがあります。レイジングループを遊んでいるとき度々通過する房石陽明!!!!!!!!ポイントの一つだと思います。

 目に見える「かみさま」を恐れていた、だからこそ田舎村の風習による支配に囚われていた千枝実ちゃんは、「かみさま」を見ることができる=見えるなら殺すことができるという房石陽明の筋書きに則って、正式な手段を踏んで神様を殺し、神殺しの英雄になります。そんな肩書きを持った彼女が、今後どんな不思議に巻き込まれるのかは分かりません。エクストラで見られる後日談では早速ヒグマに襲われるなど大変なことになっていましたが、どんな事件が待ち受けているにしろ詐欺師(のような小説家)が隣で神殺しの物語を語るのならば、それは良い物語になるのではないかと思っています。

 千枝実ちゃんは、ゲームの終わり、全ての真実を知った後、神様が神話ルートでそう言うように「ここまで、本当に、よく頑張りました」と声をかけたくなる人だと思います。ループの果てに、神を見て、武器をとり、それを殺してループの先を歩み始めた彼女のことが私は大好きです。

○回末李花子

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 黄泉ルートでは千枝実ちゃんにヒロインを譲り、様子見に徹しています。千枝実ちゃんも土蜘蛛を復活させるため夢に招いた人なので、彼女も基本お気に入りだし優しいんだな~となりました。いや、気に入り方の表現がちょっと大分アレですが。
 本編で明らかにならなかった黄泉ルートの李花子ちゃん突然のよみびと化真実ですがまさかの狂犬病を注射されていたというね。犬に酷いことをするな......。金持ちの超技術でなんやかんや行われていた黄泉忌みの宴ですが、李花子ちゃんのひきとりの力は恐らくマジもんのすごいオカルトパワーなので長者の人たちも怖......なんか分からんけど言うこと聞かんと......してたのが面白かったです。レイジングループは現実とオカルトの真相への混ぜ込み方というかバランスが凄く良いシナリオだな~と思ったのですが、オカルト周りはかなり李花子ちゃんが担っていたように思います。そしてチュートリアルやエンドリスト暴露モードの胡乱ギャグ感がすごく好きです。実家の味がする。

 李花子ちゃんの本領発揮が始まるのが、彼女の個別ルートでもある機知ルートです。ミステリアスな雰囲気と裏腹によく転びよくぶつかるドジっ子な一面がある彼女ですが、暴露モードでそれらが割と素だと分かることで彼女のアンバランスな魅力が引き立てられていると思います。房石陽明が記者二人を休水に留まらせるため車をパンクさせるとき、てっきり房石陽明の行動には気づいていながらループの流れを変えるため黙認していたのかと思いきや、本当に気づいていなかったという......。思考の端々で寝屋の端女としての淫蕩系ラスボスらしい思考に走りながらも、房石陽明との会話では「寝るまで名前を呼び捨てで呼ぶ練習をしていた」など、恋する少女としての可愛らしい一面が覗きます。
 機知ルートは、ゆめのつちぐもを体内に抱え、回末家当主・寝屋の端女として生きてきた回末李花子という女性がひとときの夢を望んだルートでもあります。機知ルートにで李花子ちゃんは前ルートヒロインかつ記憶を保持している千枝実ちゃんと房石陽明を巡ってちょこちょこキャットファイトするのですが、「やり直しの地獄に囚われている自分の暇潰しをとらないで」と思っている千枝実ちゃんに対し「何千年も続くループの中で一夜だけでも夢を見させてほしい」と思っている李花子ちゃんという、同じループに巻き込まれた者同士でも房石陽明への好意に対し反対の意識を持っているのが興味深いところです。国を滅ぼすラスボスであり、その本懐を遂げたい気持ちは本物だったが、房石陽明への恋心も紛れもない本物だったと暴露モードで分かると、機知ルートで二人が心を通わせ合う姿への感慨もひとしおです。まあここは後々の結婚詐欺に繋がる場面でもあるんですが......。機知ルートラストでも、事実を歪め、自分に向けられている能里さんへの好意を利用して平和な休水をめちゃくちゃに壊し、最後にはループするため自分を好いている男に自分を殺させるというとんでもないことをやってのけた李花子ちゃんですが、そんな彼女のひとときの夢でのたった一つの後悔が「死に顔を好きな人に見られてしまった」ことなのがアンバランスな魅力の表現の一つとして秀逸だと思いました。

 暗黒ルートで李花子ちゃんは遂に夢の土蜘蛛として完全復活を果たします。李花子ちゃんがそれまで重ねたループの数を思うと、幾つかバッドエンドが用意されているとはいえ数十回で夢の土蜘蛛の復活条件を満たすところまで宴を攻略できた房石陽明の優秀さが光ります。暗黒ルートで房石陽明が李花子ちゃんを殺さなかったの、他に襲撃の優先順位が高い人が沢山いたのもあるとは思いますが、機知ルートで抱いた情もそれなりにあったりしたのかな......。くもの加護に当たりながらも李花子ちゃんは擬似的な房石陽明の恋人陣営でもあるので、房石陽明がおおかみだと確信してからは突然房石陽明を鉄板守護し始めていて笑いました。暗黒ルート終盤までくもが残ってそうだったのに、泰長くんや義次くんや馬宮さんの襲撃が上手くいったの何でだろうなって思ってましたがそういうことだったんですね~......。宴の管理をしている三車もびっくりしただろうな。

 暴露モード限定の土蜘蛛として復活した李花子ちゃんと房石陽明が結ばれるエンディングも、思いっきりギャグに走りながらもすごく好きです。春ちゃんとのエンディングもそうですが、「もしかしたらこういう結末もあったかもしれない」と何らかの形で物語の隙間に思いを馳せること、そういう形で作品を愛することが許されているのはとても素敵なことだと思います。このエンディングのスチルの土蜘蛛として房石陽明と向き合う李花子ちゃんは、異形のラスボスでありながら一人の恋する少女でもあって、大好きなスチルの一つです。

 そして最後にラスボスの李花子ちゃんと主人公の房石陽明は相対するわけですが、まさかラスボスを上回る悪人が結婚詐欺でラスボスをだまくらかすとは思わないじゃないですか......。「房石陽明って誰ですか?」、数ある房石陽明!!!!!!!ポイントの一つだと思います。
 結婚詐欺に遭った(何回思い返しても本当に酷い)李花子ちゃんは、房石陽明に「ゆめのつちぐもを復活させる野望を放棄し、一人の女性として幸せになること」と命令を受けます。回末家の宿命に幼少期から浸り、ゆめのつちぐもの復活だけを思いながら生きてきた李花子ちゃんは、その野望が潰えた直後は抜け殻のように生きていきます。しかし、一人の女性として幸せになってほしい、という房石陽明の言葉に、ゆめのつちぐもとも回末家とも切り離された「李花子」という一個人として、能里さんと暮らしながらゆっくり向き合っていこうとするエクストラモードの後日談が好きです。


○巻島春

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 春ちゃんは、黄泉ルートでは無から生えた狂人を担当しています。むじなの存在の演出はレイジングループの中でも好きな演出の一つで、「休水の伝統は口伝だから正確に伝わっていない可能性がある」「しんないもうでの歌詞をよく見てみると言及されていない『むじな』という動物がいる」の仕込みが上手かったな~!と思いました。なので正確には無から生えたわけではない。でも演出がめっちゃ上手かった......。房石陽明は心の底からおおかみに味方する人間っていう存在の異質さにびっくりしていましたが、人狼ゲームのルールを知ってるプレイヤーだとすぐに「これ狂人だー!!!!」って気づける仕掛けなのも良いなと思います。
 黄泉ルートでは泰長くんのことが好きなんだな~とか、子どもらしく情緒不安定なところがあるんだな~とか、狂人だったんですか!?とかに気を取られてたので機知ルートで次のヒロインこの子ですよの匂わせがきたとき結構びっくりしました。でも暗黒ルートすごく良かったですね~......個人的に一番好きなルートまである......。この辺は後々書きます。
 思春期の女の子って感じの態度だったので突然やってきて千枝実ちゃんと親しくしてるチャラいっぽく見える房石陽明はあまり印象良くないのかなと思いきや暴露モードだと割と最初から好印象でマジで!?となりました。房石陽明ほんまこいつ......。

 機知ルートでは春ちゃん自身が寛造さんの弁慶の泣き所でもあるところから、「寛造さんを精神的に潰す」という目的でおおかみに襲撃されます。ここの千枝実ちゃんの「顔はやめてあげて。女の子だから」という思いやっているようなずれているような殺し方の指示も好きなのですが、この時点で春ちゃんの中にいるむじなが千枝実ちゃんの神殺しの素質に気づいていた、と暴露モードで分かるのも楽しかったです。そして実際には千枝実ちゃんの神殺しは最後にむじなを生かすために用いられた、というところまで含めて好きだなと思います。春ちゃん、分かりやすい寛造さんの弱点なので千枝実ちゃんが経験したループの中でおおかみに襲撃されることも多かっただろうな......。

 暗黒ルートでは前二つのルートで触れられていた春ちゃんの中にいるかみさまの話に近づきつつ、春ちゃん自身との距離感も縮まっていきます。機知ルートの千枝実ちゃんが最後に房石陽明に言う「一緒におおかみだったら良かった」が次のルートのヒロインと実現するの、いいですよね......。周囲の普通の人、普通の善人に合わせることで異常を隠し「普通」を保っている房石陽明がおおかみというそれまで普通だと思っていた人たちの「異常」に囲まれて無性に苛立っているのが暗黒ルートですが、その中で春ちゃんを「悪人であれ」と導き、性根が悪人である自分と「悪であろうとする少女」との共犯関係の中で自分の立ち位置を改めて再定義し直していく姿も暗黒ルートの見所の一つだと思います。「どうして人を殺してはいけないのか」というよくある問いかけに対する、房石陽明というキャラクターなりの答えが聞けるのもレイジングループの好きなところの一つです。人の心が無い、冷たい印象を受ける「悪人」ですが、「悪人」になって初めて心が解放され唯一の肉親である祖父の死に涙を流すことができる春ちゃんの場面も、とても好きなところです。
 レイジングループは全体的にどんどん引き込まれる魅力のある作品ですが、私が特に思い入れの強い場面は暗黒ルートで春ちゃんがくくられる直前のスチルです。それまで面をつけて神様として振る舞っていた春ちゃんが、その面が外れたとき夕焼けを背に少女らしいあどけない笑顔で笑って、共犯者を守りきって泣いている表情で振り向く絵には情緒をめちゃくちゃにされました。李花子ちゃんは機知ルートや暗黒ルートで秘密裏に房石陽明の味方をする恋人陣営的な立ち回りをしていましたが、暗黒ルートのへびを騙った房石陽明と春ちゃんも恋人陣営のような動きをしています。「自分はへびの加護者で、春ちゃんを調べたらおおかみだと分かったけど、春ちゃんが好きだから嘘をついた」「他のおおかみを排除して彼女一人を生かそうと思った」という話は、へびの騙りがばれないようにするため房石陽明が作った物語ではありますが、敵対する陣営でありながら好きな人を殺したくなかったという正に恋人陣営のような立ち回りだと思います。プレイヤーが無用な嘘をつかないことを前提としないと成り立たない人狼ゲームの中で「感情で嘘をついた」ということにできる黄泉忌みの宴の性質を生かした、とても好きな展開です。結局この春ちゃんの行動は自己犠牲のふりをして春ちゃんの肉体を捨て、つちぐもと一緒に復活するというかみさまの目論見だったわけですが、それでも春ちゃんの房石陽明の共犯者として相応しくありたい気持ちは本当だったんじゃないかなと夢を見ています。
 おおかみ陣営というとんでもない悪人二人でありながら、それがバレる切欠がお揃いのペンライトを持っていたという些細なことなのも、それを捨てられなかった春ちゃんの思いも好きで、機知ルートとはまた違ったおおかみ陣営のガチャガチャ加減や橋本さんの猛攻など胃痛のする場面も多いですが、総合的にすごく好きなルートですね......。正統派ヒロインっぽい千枝実ちゃんや明らかに何かありそうな李花子ちゃんの後に一見普通の女子高生に見える春ちゃんがヒロインのルートが来るの、初めはかなり意外だったのですが、大トリのヒロインとしてこれ以上無いキャラクターだったと思います。

 神話ルートで、春ちゃんは神様から再び「美しく自由な悪であれ」という言葉を伝えられます。春ちゃんの強さを知り、美しさを知り、可愛らしさを知っている神様に背を押されて未来をゆく春ちゃんは、房石陽明の言う通りむじなの神様と一緒に休水を支える存在になっていくのだと思います。エクストラモードでモッチーや悪霊たちとわちゃわちゃしつつ、進路の話をしていた春ちゃんに好きだな......となりました。というかあのエクストラモードでモッチーと春ちゃんが泊まってた宿、房石陽明が遭難する前に泊まってた宿と同じですよね......? しれっとなんちゅうところに泊まってるんだあいつ......。

 暴露モード限定の春ちゃんエンドも李花子ちゃんエンドと同じくすごく好きです。主人公が奇っ怪な踊りを踊り全裸でラスボスに立ち向かい「はっぴゃっぴゃーーー!」と奇声を発していますが、こういう可能性も......あったんじゃないかな......! 改めて文字に起こすと内容がすごく酷い。でも李花子ちゃんとの結婚詐欺を経てからの春ちゃんとかみさまに対する「結婚しましょっか」がすごく好きです。「読めぬーーーーー!! 悪党殿の心が読めぬーーーーー!!」してるかみさまは可愛い。二人で悪人として都会の闇に消える可能性に思いを馳せたい気持ちになります。スーツ姿の二人のCG、見てみたかったな.......。


○織部泰長

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 黄泉ルートでは優秀な人狼陣営をしていました。勝手に人間陣営が盤面外のところでぽこじゃか脱落するし的確に役職持ちを襲撃できてるし議論の進行はぐだぐだだしで最後に「楽勝でしたね」って言われたときは思わず声に出して「だろうなあ!!!!」って言っちゃったけど、暴露モードでの葛藤を見ると、こう、ええ......!? 好きですけど......!? となりました。機知ルートにて「正しくありたい人」と定義される泰長くんですが、それまで自分が信じてきた開けた世界での「正しさ」と突然おおかみ様から与えられた「正しさ」のギャップに苦しんでたの、すごく良かったな......。一緒に人狼陣営やってたのが多弁で議論を取り回す役目の泰長くんに対して潜伏気味の多恵バアだったのもバランスとれてて良いな~と思ってたんですが、暴露モードまで踏まえると元々信心深くて言い伝えや伝統に「正しさ」の重きを置いているからおおかみ様からの啓示を突然受けてもスムーズに価値観の切り替えができる多恵バア↔若者かつ論理的な思考をするし外の世界に目を向けているため村の外の「正しさ」も身につけてるから思考の切り替えがうまくいかない泰長くん の対比が決まってて、より最高の組み合わせだな......と思いました。人を殺したとき、明確に自分の人生が閉じたことを自覚してる泰長くんがさあ~......。この子に未来を歩んで欲しい気持ちが膨らんでしまう......。
 房石陽明と一緒に観戦席から見てると人狼側にあまりに有利に見えた人間陣営の脱落が、結果としてどんどん泰長くんを追いつめていたのも良かったです。おおかみが襲わないとよみびとになった村の人たちは救えないのに、弟も母親もけがれで死ぬわくくられるわで全く救えなかったしそもそも殺したくはない泰長くんの心境......。そして最後に千枝実ちゃんと春ちゃんを殺すかどうかってなったとき、自分の思う「正しさ」を貫いて二人を手にかけない選択をした、神様に抗うことを決めた泰長くんが好きだな......と思いました。
 個人的な一番びっくりポイントが千枝実ちゃんを房石陽明に逃がしてもらうとき泰長くんが房石陽明に思ってたことが「あなたに助けてほしかった」だったことなんですけど、素直にめちゃくちゃになりませんか!? なる。なった。神話ルートでより房石陽明に対してこいつのこと素直に好きと言いたくない気持ちが爆発した後だったので尚更大変なことになった。「あなたに助けてほしかった」泰長くんが房石陽明に神話ルートで助けられるの、良すぎるもんな......。

 機知ルートは、前ルートで手強い敵として相対した泰長くんが打って変わって同じ人間陣営として協力してくれるルートです。早い段階から房石陽明がへびの加護者ではないかと悟って名乗り出るのを制したり、さるとして名乗り出ることの必要性を説明したりと、「匠さんのへびCOを黙認した」「さるが名乗り出ることを提案しなかった」黄泉ルートでの立ち回りとの比較が楽しいルートでもあります。泰長くん、人間陣営と人狼陣営の時の違いが分かりやすい人でもある。
 一日目の宴から房石陽明がへびなんじゃないかと悟った泰長くんとの接触が多くなる機知ルートですが、二人で話すときに「同じさるの寛造さんと対立しないように」と房石陽明から言い含められるの、後の暗黒ルートの展開を考えると色々考えさせられるものがありますね。機知ルートの人間陣営の描写の一つとして凄く好きなのが、休水に元々あった大人と子どもの対立構造が宴を通して良い方向に解決する様を見られるところなんですが、さる同士の寛造さんと泰長くんから大人と子どもの対立が始まり、それを房石陽明との話し合いの後で色々頭が冷えた匠さんが仲介していくっていう流れが本当に好きです。子どもの泰長くんと大人の寛造さんの思惑のすれ違いも好きですね......。泰長くん、頭はよく回るけど頑張りすぎている子でもあるので「大人が子どもを思いやっている」ことになかなか気づけない子でもあり、それが寛造さんとの和解、母からの遺書で一つの形で改善されるのが機知ルートでもあるのかなと思います。
 機知ルートのおおかみ陣営は憧れのお姉さん+親友という泰長くんの情緒めちゃくちゃメンバーなわけですが、おおかみ大暴れルートで千枝実ちゃんと和解しようと「好きだったのに」と言う善良さが好きだし、おおかみをくくるルートでモッチーのことを自分の手で送る泰長くんも好きで~......。黄泉ルートでおおかみ陣営のとき人を殺して明確に「自分の人生が閉じた」と感じている泰長くんが好きですが、機知ルートで人間側に立ったときも「誰かをくくり殺人を黙認した自分に法曹関係の道に進む資格は無い」と感じている泰長くんが好きです。そういった感覚を持って尚、「親友のことは自分が送り出す」と言う泰長くんが好きです。泰長くんがモッチーに言う「をちなかれ」、好きだな......何かもう全体的に好きですね......。

 そして機知ルートで「対立しないように」と言い含められた寛造さんとバッチバチに対立して大変なことになるのが暗黒ルートです。大人と子どもの対立構造の決着として、これも一つの形だったのかなと思います。この時既に匠さんがおおかみの襲撃で退場していて、中立の立場の人がいなかったのも影響としては大きかったんじゃないかな......。房石陽明のループを通して休水の人たちの人間関係は人となりを把握したからこその悪意の振りまき方、本当に酷い。「寛造さんは議論を仕切りたがっているんじゃないか」というのは機知ルートの泰長くんも抱いていた疑念ですが、それに対してほとんど理不尽な突っかかりを受けたことで大人と子どもが完全に分断されてしまうの、機知ルートを知っているとより「こういった結末もありえたかもしれないんだな」と思わされる展開だなと思います。
 暗黒ルートのおおかみ陣営も大概泰長くん特効の面々ですが、暗黒ルートの房石陽明、泰長くんからすればへびを騙って母親と妹のように大切にしてる女の子を連れて自分を殺しにきた人なので割と最悪である。

 母親は自分を愛していないんじゃないかという不安は全ルートを通して描かれている泰長くんの弱いところで、また母親に楽をしてもらうため法曹関係を目指している彼にはそれとは別に民俗学への興味があり、それを見てきた房石陽明から「自分の本当にやりたいことに目を向けること」「そうしたら母親がどれだけ自分を愛しているか気づける筈だ」という言葉を神話ルートで受け取るのが大好きです。掘り出したおおかみの仮面の扱いについて能里さんと話したとき、房石陽明が「いずれ優秀な民俗学者が休水に現れるだろう」って言うの、良いよね......。エクストラの後日談でも興味のある方面の学部を見学に行っていて良かったです。本編で出てこなかった(気がする)私服立ち絵可愛かったね。
 頭の回転が早く、優秀で、でも子どもで、外の世界へ進んでいく人としての立ち位置がとても良かったキャラクターだなと思いました。


○織部義次

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 義次くんは、黄泉ルートでは盤面外で早期退場してしまいます。ホラーあるあるの幽霊なんかいるわけねえだろ!的な無鉄砲で軽率に死んだのかと思いきや暴露モードで彼なりに色々考えてたんだな~!と分かり一層好きになりました。かおりさんは義次くんについて「義次も頭が良い子に生めたら良かった」って言ってたけど、義次くん普通に地頭良いよね。
 まず暴露モードが無くても「あっこの子根は良い子だな!」って分かる造形がすごく良いな......と思います。義次くんの言動を見た能里さんがかおりさんに対して「一体どういう教育をなさっているのか」みたいなことを言ったとき「俺が勝手にグレてるんだからババアに文句言うんじゃねーよ!」って言うの、すごく良い子じゃないですか......? 反抗期モードのときは「ババア」呼びだけどふとしたときに出る「お袋」呼びが好きだし更に感極まったときの「母ちゃん」呼びが好きです。泰長くんが「外に出て働いて母さんを楽にしてあげないと」って思ってたように、義次くんは「傍でお袋を守ってやらないと」って思っていて、そういう織部家のお互い一所懸命に生きてるからこそのすれ違いがレイジングループで個人的に好きなところの一つです。
 早期退場の理由ですが、ホラーに出てくるチンピラ特有の無鉄砲ムーヴかと思ってたら「もしも本当に夜出歩いたら『おおかみ』に襲われるんだとして、自分が襲われれば今後夜に出歩く奴もいなくなるだろう。自分の命の使い道なんてその程度で良い」ってところまで考えてたと暴露モードで分かってドワーーー!となりました。匠さんがへびであることの重要性も理解して、房石陽明が危惧してた夜番もしないように言い含めてたの、ファインプレーだったと思います。まあ義次くんの命はかおりさんの項目で話すように全く「その程度」ではなく、寧ろ人間陣営の生命線だったわけですが......。

 機知ルートでは黄泉ルートの早期退場を見た房石陽明によってそれを引き止められ、無事に生存を果たします。房石陽明がかおりさんの食堂の手伝いをすることもあり織部家との絡みが多くなる機知ルートですが、房石陽明と色々接した上で「夜に出歩こうとする自分を引き止めた房石陽明の動きは人間陣営らしいと思う」「それはそれとして人格的にどうかと思う」と評価しているのに笑いました。房石陽明、本性がそこそこバレている。かおりさんが言うように義次くんの人を見る目は確かなんだな......と思いました。
 かおりさんのダイイングメッセージを体内から取り出す役目を負っているのもこのルートです。泰長くんが「母さんは真っ直ぐな弟の方が好きなんだろう」と思っているように義次くんも「母ちゃんは出来の良い兄の方が好きなんだろう」と思っており、そのわだかまりをお互いにぶつけ合って解消する一つの形がこの機知ルートだと思います。休水の人たちは一生懸命生きている普通の人間たちで、普通の人間だからこそ人狼ゲームとは別に人生で色々悩みを抱えていて、その悩みの解決策がループの中で散りばめられておりそれを見てきた房石陽明が神様としてそれを伝えるという構成になっているのが良いなと思いますし、その分かりやすい例が織部家だと思います。人間陣営が陣営とはまた別のところにある人間関係の諸問題を乗り越え、結束して勝利に至る機知ルートが人狼ゲームの内容としては個人的に一番好きかもしれません。

 暗黒ルートではからすCOのタイミングを房石陽明に散々に脳内で煽られており、房石陽明お前性格悪いな!(今更ではある)と思わざるをえない展開でした。暗黒ルートの人間陣営の決裂というか、一区切りの一つでもある大人と子どもの対立に子ども代表として参加していたのは泰長くんですが、義次くんも一枚噛んでいましたね。房石陽明の分析通り、アンチ若者している多恵バアと反対にアンチ老人しているのが義次くんなので......。
 泰長くんが機知ルートで「義次は自分がおおかみだったら『自分がおおかみだ』と公言して全員を殺す」と義次くんのことを評していましたが、暗黒ルートでからすCOのとき刃物を持ちだしていたあたりこの分析も当たらずとも遠からずって感じなんだろうな......と思いますし、大暴れバッドエンドがいくつか用意されているかおりさんの血筋を感じるな......と思います。かおりさんは旦那さんの気質を息子二人が分けて受け継いだって言ってたけど、かおりさんも理性的に毅然と振る舞う一面と周りが見えなくなって暴走する鬼子母神の一面があるから、そこをそれぞれ分けて泰長くんと義次くんが受け継いだ感じはとてもある。

 分かりやすく反抗期をしているように見える義次くんですが、これまで言及してきた通り全くの考え無しというわけではなく、家族を思う気持ちもしっかりとある良い子なので、「頭じゃなくて腕っ節が求められる分野はいくらでもある」「兄の背を追うのではなく、未踏の道を行きなさい」という房石陽明の言葉で泰長くんとはまた違う未来への道が開けていたらいいな、と思います。実際にエクストラの後日談でかおりさんに新しい包丁を買ってプレゼントしたりしていて嬉しくなりました。織部家、健やかであれ。


○織部かおり

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 黄泉ルートでのかおりさんは、息子を失った悲しみから鬼子母神と化します。黄泉忌みの宴は普通の人狼ゲームと違って本当に人が死ぬので、親族含む複数人の共同体で母親が息子を失ったらこうなるぜ!!というのを丁寧にお出しされる。残り二つのルートでかおりさんの理性的な振る舞いが見られるから、転じて黄泉ルートの大暴れが際立ちますね。かおりさんの黄泉忌みの宴における「息子二人のうちどっちかが退場するとアウト」という勝敗関係無い特殊条件が判明する分かりやすいルートだと思います。私の絶対に通らないといけないバッドエンド以外で初めて踏んだバッドエンドはバーサーカーと化したかおりさんに生身で立ち向かってぶっ刺されるエンドでした。
 暴露モードでは匠さんとすれ違いの恋のメロディが流れており、ああ~このループを抜けられたら幸せになってくれ~!!と応援したい気持ちになりました。「あの人がいるからここでも頑張れる」って零しちゃうかおりさんは可愛いし、その後のルートでどんどん分かっていく二人の思い合いが大好きなんですね~......。思い合いではあるけどお互いに事情があったり、結局これはエゴに過ぎないと思ってたりする辺りがまた聖人ではなく綺麗なばかりでない人間って感じのキャラ造形ですごく好きです。

 機知ルートでは織部家全員が一緒に人間陣営かつ、息子が二人とも脱落しないこともあり、バーサーカーにならなかったかおりさんを見られます。からすというへびやくも程ではないにせよ重要な役職持ちとしての立ち回りは、へびの加護者である房石陽明や、多数派工作をしたい人間陣営にとって大きなアシストになっていたのではないかと思います。このルートで匠さんがかおりさんの鬼子母神的な側面を理解した上で好いていることを知り、「そこまで理解して好いてもらえているのは、きっと幸せなことだ」と思っているかおりさんが好きだな......と思いました。
 個人的なかおりさんに対する好き!!!!!!が爆発したポイントが、機知ルートで息子二人におおかみかどうかを尋ねて「もしあなたたちのどちらかがおおかみなら、他の全員を殺してでもあなたたちを逃がす」と話すところです。黄泉忌みの宴は単なる人狼ゲームではないので、こういうことが......起こる......! 傍から見れば苛烈に見えるかもしれない、だけど親が子どもを思う気持ちはそれほどまでに強いのだということが分かるこの会話が私はとても好きです。その横で一人だけひと確定してる泰長くんが「義次がおおかみだったら母さんは僕を殺すんだろうな......」としょもしょもしているわけですが......。「あなたたちを逃がす」って言ってるんだからちゃんと話を聞きなさい......。
 このとき義次くんが先述したように房石陽明について「人格的にどうかと思う」と評するのですが、それに対してかおりさんが「あの人は私たちと住む世界が違う人なんじゃないかと思う」と言うのもとても好きなところです。これは単なる比喩ではあるのですが、実際に神話ルートで房石陽明が住む世界の違う「神様」としてかおりさんに声をかけることや、最後に三車の人たちへ休水の人達を物語の登場人物とした物語を語る「作者」の房石陽明のことを思うと、「住む世界が違う人」という表現は言い得て妙だと思います。

 黄泉ルートで鬼子母神と化したかおりさんを見て、機知ルートでルールの裏をかいてダイイングメッセージを残そうとするなど大胆かつ賢い立ち回りをするかおりさんを見た後、更にかおりさんの持つ側面が掘り下げられるのが暗黒ルートで相互おおかみをする暗黒ルートです。チームが初っ端からガッタガタである。
 かおりさんに刺され、春ちゃんに刺された房石陽明がとった行動がかおりさんを騙くらかすことなわけですが、「亡くなった旦那さんが傍についている」と言って心の弱った未亡人に適当なことふっかける房石陽明の姿、完全にインチキ詐欺師なんだよなあ......。この後怪しい壺とかパワーストーンとか売り始めないか心配になるレベルだった。
 房石陽明のインチキカウンセリングによっておおかみとして息子を手にかける決意をしたかおりさんですが、初めの狂乱っぷりとは裏腹に息子にそれとなく探りを入れたり、宴で誰がどういった旨の発言をしたら自然かを提案したり、おおかみとして退場するときの演技や立ち回りが完璧だったりと、機知ルートで触れた理性的な一面もしっかりと持っていたのがすごく良かったです。おおかみとしてくくられる日の春ちゃんとの大喧嘩、房石陽明は「これ演技か本音かどっちだ......?」となっていましたが暴露モードでは春ちゃんもかおりさんもお互いに本気の演技を感じとって「本気で応えよう」って対応してたのが好きだな......と思いました。陣営のために個を捨てる、ある意味人狼ゲームらしいおおかみの動きだったんじゃないかと思います。

 神話ルートでの「あなた自身の幸せを考えても良いんじゃないか」という房石陽明からかおりさんへの言葉はもう本当にその通りで、エクストラの後日談で匠さんとの再婚を真剣に考えているという話があってとても嬉しくなりました。義次くんが素直に親孝行をするようになっていたり、上京する泰長くんの世話をあれこれと焼いていたり、息子二人との付き合い方もお互いにお互いの意識が変わってから良い方向に向かっていったんじゃないかな、と思います。織部家、全体的にすごく好きなんですが、私はまた互いを思い合う親子にまんまと嵌まってしまったのか......?という気持ちがある。でも好きだから仕方無いですね......性癖とはそういうもの......。


○室匠

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 黄泉ルートでは早々にへびCOしたので退場も早かった人。地頭が良いし議論を取り回す力もあるけど、何よりアンチよそもの、アンチ長者の思考が優先されてしまうため投票もよそもの優先、長者優先になるっていう「人間は現実で人狼ゲームをしたとき理屈だけで動くわけじゃない」を如実に表している人だなと思います。ずっと感情一辺倒で動くわけじゃなく、切欠さえあればしっかり理性で議論に取り組める人だからこそ序盤の感情優先の動き方に味わいが出る人だよね。千枝実ちゃんに「かおりさんや多恵バアがおおかみだって結果が出ても嘘つかずに報告できる?」と釘を刺されてるのも納得がありました。そしてこの忠告は後の暗黒ルートで効いてくる。
 実際に人が死ぬと予想できるプレイヤーからすれば「おおかみなんているわけがない」「人が死ぬわけがない」という匠さんの考えは甘過ぎも良いところで、それについては他の人も触れているところですが、皆で肩を寄せ合って生きてきた田舎村で突然この中におおかみが紛れていて人を殺すって言われたら現実的にこういう思考にもなるよな......と思います。それでも初日にへびCOしてしまったことについて若干やらかしたかもって意識がふんわりあるあたり、やっぱり地頭は良いんですよね。

 黄泉ルート時点で協力できたら頼もしそうだなと思っていたので、機知ルートで信頼関係を築けたのはとても嬉しかったです。黄泉ルートでは早々に退場してしまったのであまり触れられなかった「公正でありたい人」という人となりを知れたのも嬉しかった。他の項目でも話したようにレイジングループの好きなところの一つが、人間陣営と人狼陣営といった人狼ゲーム的な対立構造だけでなく、大人と子どもという対立構造が登場人物たちの中にあり、それをどう調整していくかが全体の勝利に繋がっていくところなのですが、その問題を解決する上で欠かせない存在が若者と老人の気持ちをどちらも汲める匠さんだと思います。
 黄泉ルートでは抜けきることが出来なかった「身内同士が殺し合う筈が無い」という意識が多恵バアがくくられたことで崩れ、取り乱しながらもかおりさんや房石陽明の説得で落ち着きを取り戻し、暴走しかけていた寛造さんを止め議論の場を調和させるという、ファインプレーの連続でしたね......。かおりさんが匠さんの目を覚まさせるため投票した真意の中に「厳しくも優しく場を引っ張っていってほしい」というものがありましたが、最後にはその望み通り議論を引っ張ってくれていたと思います。義次くんと同様房石陽明のことを「こいつは善人じゃないし敵対したらすごく厄介な奴だ」って見抜いてたのは笑ったんですが、その後の「だけどこいつは誠意を見せた。智慧を見せた。少なくとも今この場では、善意だけが取り柄の奴より信頼できる」で地頭が良い人だなあ~!!と再確認しました。こういった信頼関係があったからこそ、機知ルートのラストで李花子ちゃんと房石陽明の仲を応援していたり房石陽明から「親愛を抱くべき人」と言われてるの、良かったですね......。

 暗黒ルートでは役職がうっすら透けたことで襲撃され、へびを乗っ取られましたが、黄泉ルートでもそうだったようにへびを乗っ取るためという意味でも議論の場を乱すという意味でもおおかみからすれば早めに消しておきたい存在だな~......と改めて思いました。実際に彼がいなくなったことは暗黒ルートで大人と子どもの対立構造が取り返しのつかないところまで加速した要因の一つなんだろうと、機知ルートを通った後だとより感じさせられます。また、かおりさんが容疑者に浮上したとき匠さんとお互いに憎からず思っていたことを理由に自分が匠さんを殺したのではないと弁明していましたが、こういう既存の人間関係を逆手にとっておおかみ側の無実を主張できるというのも黄泉忌みの宴の特性の一つだなと思います。

 神話ルートで房石陽明が彼に告げた「いずれ里は開かれ、古きもの、新しきものが入り交じるでしょう。そこには必ず、すれ違いやいがみ合いが起きるでしょう」「そんな時、あなたは苦悩するでしょう。迷うでしょう。しかし、己を信じ、考え抜けば、きっと融和の道が開ける」という言葉は、彼が不在の宴、彼が生存した宴を見てきたからこその言葉だと思います。善人であるからこそ感情に左右され、苦悩し、それでも考え続けたとき公正な立場として道を切り開く力を持った匠さんがいれば、休水は隔絶された場所ではなくかつてのように客人を迎え入れる場所になり得るのではないかと思います。


○巻島寛造

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 黄泉ルートでは、寡黙から役職が透けて早期退場してしまいます。他二つのルートを見ると余計に黄泉ルートでの寡黙っぷりが際立つので、そりゃ役職バレもするわな......という納得がある。スケスケだぜ!(跡部王国) 初日に誰もくくらないことに殊更強く反対しなかったのもこのルートだけですね。
 黄泉忌みの宴経験者であり、強い発言力を持っているのでおおかみに襲撃されやすいのも全くの道理なんですが、宴でのやりとりから「おおかみは今夜へびの匠を狙わないだろう」とちゃんと理解してたので頭が良い~!となりましたし、じゃあおおかみが誰を狙うかというと分からないから「せめて春を守ろう」って春ちゃんを守り先に選んでたのを見てメショメショになりました。孫を愛している......。
 議論を取り回す力があり皆から頼られているので影響力の強さが一発で分かるし、だからこそ早期退場したときの不安感が強まるの、良い造形をしているな......となります。黄泉ルートでの寡黙な初手例外が後々効いてくる、ループ物ならではの立ち位置だったな、という印象です。

 機知ルートでは、そんな彼が生存し通常通り議論を取り回していたらどうなっていたのか?を見ることができます。黄泉ルートでは強く反対することもなかった「初日に誰もくくらない」という提案に反対し、経験者であるからこそ宴の定石通り(プレイヤーから見れば人狼ゲームの定石通り)に事を進めようとします。そんな寛造さんの方針に異を唱えるのが同じさるの加護を持つ泰長くんなのですが、泰長くんに宴を先導させない理由が泰長くんの危惧しているような「自分が宴を仕切りたいから」ではなく「頭が良い奴が先導する宴は危ない」「口先で揺らぐ宴を作るべきじゃない」という理由だったの、なるほどな~!!と思います。暗黒ルートでの宴が最終的に橋本さんと房石陽明の弁舌対決になってたのも踏まえると含蓄がある言葉ですね。
 黄泉ルートから既に「これはおおかみ陣営としては噛みたい存在だろうな」と窺い知れたこと、春ちゃんというあからさまな弁慶の泣き所がいるところから「寛造さんを間接的に潰すために春ちゃんが襲われる展開はありそう」と予想していたのですが機知ルートでその通りになったのでやったぜ!となりましたし、そういったおおかみの意図に関して房石陽明に「今回のおおかみは悪質だな」みたいなことを言われてお前にだけは言われたくねえ......となるなどしました。
 それまで朝に見回りをしていたのが春ちゃんのためだった、という真実にメショメショになる暇も無く匠さんとの殴り合いが始まったり、色々と一悶着あったりもしましたが、泰長くん含む若者たちと明確に決裂することなく結束の道をとったのが機知ルートです。最後まで房石陽明への疑念は崩しませんでしたが、匠さんの「房石のことを信じるのが難しいなら、長い付き合いの俺を信じてほしい」という言葉で心を動かしたのも良かったですね......。そしてこのとき房石陽明に対して「これが卑怯者なりの生き延び方か」みたいなことを思っていたあたり、房石陽明、やはり本性がそこそこバレている。

 そんな機知ルートに対し、若者たちと明確に決裂したのが暗黒ルートですが、いやこれは房石陽明が悪いよ............。暗黒ルート、おおかみ陣営に人狼上手太郎の房石陽明がいるので人間陣営に橋本さんという強敵がいるのは納得の構図で、それに対して房石陽明がループで持ち得た情報のアドバンテージをどう活かすかが肝になるルートなのですが、事前に持っている人間関係の情報を踏まえた上での悪意の振りまき方が最悪過ぎて笑いました。寛造さんにとって春ちゃんは大きな弱点である、春ちゃんは泰長くんが好きで泰長くんは千枝実ちゃんが好き、泰長くんと寛造さんは若者と老人として宴で対立しがちっていう黄泉ルートと機知ルートで得た情報の数々をこんなにも上手く悪用するとはな......。
 春ちゃんを思いやるが故に泰長くんに突っかかり、それに理不尽さを覚えた泰長くんが反撃し、もはや宴関係無い言い合いに陥り、宴の方に本筋を戻そうと橋本さんが口を開けば「よそ者は黙ってろ」が飛んでくるの、正に房石陽明の手のひらの上!って感じでぞわっとしました。でも明確な決裂を感じとったとき「自分をくくれ」って言うのはやっぱり予想外だったな......。それだけ筋の通っている人でもあるんでしょうね......。それを見た房石陽明の「あなたにはもっと老害として場をかき乱して欲しかったけど仕方ない」みたいな感想は本当に最悪。大人と子どもの対立構造の中、大人代表として置かれていた人だったなとつくづく思います。寛造さん、泰長くん、匠さんの大人と子どもと中間層の議論を取り回す三人組が私は好きです。

 真相ルートで過去の黄泉忌みの宴について寛造さんから話を聞くのもとても楽しかったです。頑強な老兵の後悔や悲嘆を聞けるのがすごく良かったし、このルートで房石陽明は悪意を振りまくことなく真実を寛造さんに伝えるのが暗黒ルートでの最悪具合との対比として好きだし、このときの寛造さんは房石陽明を撃った後春ちゃんとかおりさんもきっと手にかけたんだろうし、その決意が無かったことになるのはやっぱり寂しいなと思う房石陽明が好きで、真相ルートはやっぱり全体的に大好きですね......。
 黄泉忌みの宴での配役が本当に酷かったのでその分春ちゃんに顔向けすることができず、だけど守りたい気持ちはあり、でも上手く向き合えないから春ちゃんとすれ違っているのが暴露モードだと特によく分かりましたが、過去に二度宴を経験している寛造さんに対する「黄泉忌みの宴が無くなった未来で、光の中を孫と一緒に生きてほしい」っていう神様からの言葉が好きで、結局寛造さんは黄泉ルートでも機知ルートでも暗黒ルートでも春ちゃんと生き残ることが叶わなかったのでそれが叶う神話ルートが光るな、と思います。


○山脇多恵

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 黄泉ルートでは潜伏人狼が上手だった人。議論での立ち回りがチート直感持ちのモッチー以外に怪しまれなかったのもそうだし、他のルートでは多恵バアの話からむじなの存在が判明するのでその辺の情報も上手く絞ってたんだな~と思いました。
 泰長くんの項目でも話した通り、黄泉ルートのおおかみ二人は 元々信心深い多恵バア↔外の世界の「正しい」価値観を持っている泰長くん の対比がすごく良いです。泰長くんと親しいモッチー、義次くん、かおりさんが宴関係無いところで死んだりけがれで死んだりくくられたりしているのに対して、多恵バアと付き合いが長かったり親しかったりする寛造さんや匠さんがおおかみの襲撃先だったのも上手いな~!!と思います。議論を取り回す力があるうえ役職持ちっぽいから人狼側からすれば狙いたい二人、というのは初見時にも分かることですが、暴露モードまで見るとより意図のある人選だったと分かるやつ......組み方が上手い......。最後まで千枝実ちゃんと春ちゃんを手にかけるべきか迷っていた泰長くんと、匠さんを襲撃することに一瞬躊躇いつつも「早く楽にしてあげた方が良いかもしれない」とすぐに思える多恵バアの違いが暴露モードで分かったのが楽しかったです。銃を扱えるばあちゃんが見られたのもテンション上がりました。
 黄泉ルートのおおかみ二人の会話、血の繋がりがあるわけじゃないけど田舎で何かと付き合いがあるばあちゃんと若者って感じで可愛くて好きです。いや話してる内容は全然可愛くないんだけど......。他ルートで若者たちと対立しがちな多恵バアですが、「置き場」の意味について考察する泰長くんに賢いね~!となってる多恵バアが好きだし、多恵バアが素行の悪い義次くんを目の敵にしがちなあたり反対に素行の良い泰長くんには元々好印象なんだろうな、と思います。房石陽明に対して「茶髪だから」とあまり良い印象を持っていなかったり、こういう田舎のおばあちゃんいる~!という質感がある。
 それはそれとして、黄泉ルート序盤の房石陽明が休水にきたばかりのとき、朝に多恵バアが謎の目隠しをつけてるのを見て何だあれ!?ってびっくりしてた格好の真実が「虫除けにこのお面使お......」だったのは笑いました。曲がりなりにも山祭りで使う大切な道具じゃないんですか!? てっきり黄泉ルートで多恵バアがおおかみだったことの伏線かと思ったら全くそんなことは無かったですね。
 機知ルートと暗黒ルートの序盤でも「茶髪の男が回末様に○○しようとしているうううう!!!!」で滑り込んでくるのがめちゃくちゃ面白かったです。お茶目なおばあちゃんだ......。この場面が好きすぎてキャラクター毎につけるスクショもこれにしてしまいました。

 潜伏が上手だった黄泉ルートとは打って変わって、多恵バアが人間でありながらくくられてしまうのが機知ルートと暗黒ルートです。くくられてしまう要因はへびの占い結果や議論の流れなど色々ありますが、一つの要因として考えられるのは(特に暗黒ルートでは)寛造さんと同じような若者との対立構造があると思います。この辺については房石陽明も「若者に喧嘩売りまくって大丈夫でちゅか~?」みたいな煽りをしていましたね(実際にはここまで酷い煽りではないです)。若者と老人の対立構造の中で、寛造さんほどの発言力があるわけではなく、しかし信心深く長い間培ってきた価値観はなかなか変えられないため、コミュニケーションゲームに柔軟な発想を持って参加するというのは多恵バアにとって難しかったのではないかと思います。というか寛造さんと匠さんを退場させたあたりから、房石陽明はこの辺の対立も利用する腹づもりもあったんじゃないかな......みたいな気持ちもありますね。

 そういった彼女の言動を見ているからこそ、房石陽明は多恵バアの信心深さを肯定し、「若い人のことは許してあげてください」と声をかけます。能里屋敷で房石陽明が知った休水と黄泉忌みの宴の歴史的な真実は決して高尚な宗教から成り立っているものではなく、多恵バアが信じていた言い伝えの正体は権力者が都合良く統治するために作り上げられた宗教だったのですが、たとえそれが虚飾であったとしてもそれを信じて大切に思うあなたの気持ちは尊いものだと房石陽明が多恵バアの信心深い心を肯定するのがとても好きです。実際に多恵バアの信心深い心は今後むじな様が休水で祀られるにあたって欠かせないものだと思いますし、他ならぬ「神様」からの言葉であれば多恵バアも今までほど若者たちに向けて対立するようなことはしないんじゃないか、と思います。

○醸田近望

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 黄泉ルートではチート直感を発揮した後謎死してしまいました。多恵バアを一人だけ怪しんでいた慧眼、凄かったですね......。
 モッチーは論理は特に無いけど全ての結果が”わかる”人なので、暴露モードを読み返すと楽しい部分が多かったです。初っ端から房石陽明のことを「狼じじいや自分と同類」と見抜いてるの笑ったし、実際モッチーと普通に会話が成り立っている時点でだいぶヤバいかもなって房石陽明の方も悟ってるのに笑う。
 泰長くんによって「大事なもの以外は全て捨てられる天才」と表現されているモッチーですが、反対に大事なものはずっと大事にしたい人でもあり、泰長くんや春ちゃんのことを自分なりに大切に思ってるのが好きだな......と思います。その大事な人たちへのスタンスや気持ちを改めて見直すのが機知ルートになっているのも良いですね。逃げ出した春ちゃんを探すとき気合いを入れて学生服になるのが好きだし、周りが春ちゃんを探すべきか迷っているときに「探しに行こう」って提案した房石陽明に「ハッさん~!」って嬉しそうにするのも好き。というかモッチーの学生服姿、好きなんですよね......。全体的にぶかぶかで......。男の子はそのうち大きくなるからってサイズが大きめのを買われたのかもしれないし、モッチーのキキョーのフルマイの一環かもしれない。
 狼じじいの悪意も当然しっかり見抜いていて、「死んでくれる?」ってさらっと言えるのもすごく好きでした。黄泉ルートでモッチーは狼じじいに殺され、機知ルートで狼じじいはモッチーを殺した状況を作り出せずモッチーは房石陽明を殺そうとして、暗黒ルートで房石陽明がモッチーを殺し、神話ルートではモッチーが千枝実ちゃんに頼まれていざというとき狼じじいを撃とうとしていたの、同類三人組の構図が上手いことできてて好きです。

 先述した通り泰長くんと春ちゃんという「大切な人たち」への向き合い方や感情についてモッチーが向き直るのが機知ルートです。大きな切欠の一つはやはり春ちゃんを殺したことではないかと思います。春ちゃんがいなくなった後の「春ちゃん、死んじゃった......」という言葉を「悲しんでるフリ」と言いつつ宴の場に春ちゃんがいないことを気にしていたり、房石陽明が死にそうになると動揺する千枝実ちゃんに「自分には春ちゃんを殺させたくせに」と苛立ったり、それまで興味を持っていなかった自分自身の感情についてモッチーが新たな気づきを得ていたことが暴露モードでは分かります。房石陽明が死ぬのを悲しむ千枝実ちゃんに対して苛立つの、要するに「春ちゃんが死んだことに思うところがある」ということなので.......。モッチー......。それを見抜いた千枝実ちゃんから「次は大事にしなよ」と言われているのも千枝実ちゃん側の事情も相まって切ないです。
 モッチーが泰長くんと春ちゃんを大切に思っているのは「自分が何をしても自分のままでいさせてくれるから」で、キキョーのフルマイを疎まれて廃嫡になったモッチーからすれば自分の振るまいを受け入れてくれる二人はかけがえのない存在だったんだろうと思うのですが、それを踏まえてのおおかみだと自白しくくられる直前の泰長くんとのやりとりが沁みるな、と思いました。泰長くんはおおかみとして春ちゃんを殺し、母親を殺し、それでも何でも無い顔をしているモッチーのことを殴るのですが、それは恐らく泰長くんが初めてモッチーの振るまいを許容しなかった場面なんだと思います。それを感じたモッチーが「こういうことをしたらヤッスんでも友達でいてくれなくなるのか」と理解しているのがすごく寂しい場面です。

 暗黒ルートでは唯一おおかみ側のメンバーをチート直感で全員把握していながらも、「春ちゃんが幸せならそれでいいか」と黙認しています。これは休水の片思い男たちに共通して言えることなのですが、「たとえ傍にいるのが自分でなくとも好きな人が幸せならそれでいい」を地で行けるの、良い男たち過ぎないか......!? 該当項目で言及し損ねましたが、泰長くんも千枝実ちゃんに対してこのスタンスでしたね。君たち本当......恋愛の価値観が高校生のそれではない......。

 春ちゃんが幸せならそれでいい、悪い人になった春ちゃんを房石陽明が連れ出してくれるならそれでいいと思っておおかみ側を黙認していたため、モッチーは春ちゃんが房石陽明を庇って死んだことについて彼なりに怒ります。それと同時に、春ちゃんが自白したとき何故春ちゃんに投票したのか(モッチーが房石陽明に投票していれば春ちゃんをくくらずに済んだかもしれないのにどうしてそうしなかったのか)と聞かれたとき、モッチーは自分の中にヤキモチを妬く気持ちがあったことを自覚します。「僕らの春ちゃんじゃなくなるなら壊しちゃおうって思うのはおかしいことなのかな?」「別におかしくないだろ。それは嫉妬っていう、普通の感情だ」というモッチーと房石陽明の会話は、”同類”同士の会話としてすごく好きなやりとりの一つです。機知ルートが顕著ですが、暗黒ルートでもまたモッチーはそれまで興味を持っていなかった自分自身の感情を見つめ直しています。この後モッチーは房石陽明に命をかけたじゃんけんを持ちかけ、無敵のピストルの手を出したのに対して隠し持っていた本物のピストルを房石陽明に出されそのまま射殺されるのですが、お互いにまともに勝負する気などさらさら無かったこと、服にピストルを隠し持って暴れられた機知ルートのバッドエンドの仕返しを房石陽明がしているような構図になっていることなどを含めてすごく好きな場面です。

 そうして各ルートで自分の感情を見つめ直すことがあったモッチーに、房石陽明は神様として「自分が興味無いと思ってるものが、興味深いものに繋がっているかもしれない。例えば、人の気持ちとか、恋心とかな」「そういうものにも、目を向けてみな。でないと何かを失っても、痛みにすら気づけないぞ」と言葉をかけます。これだけで既に機知ルートと暗黒ルートでのモッチーへの答えとして充分過ぎるほど充分な答えなのですが、それを更に締めくくるような「本当はもう全部、分かってるんだろ?」という言葉が房石陽明が見つめてきたモッチーという人間への"同類”としての信頼が滲んでいるようで、本当に大好きです。エクストラの後日談ではその言葉通り人の気持ちや恋心に目を向けて休水公認のデートを春ちゃんとしたりしていて、良かったね~!!!!となりました。しかしモッチーが春ちゃんの鑑になったということはもしかして春ちゃんエンドの房石陽明のようにモッチーが全裸で「はっぴゃっぴゃーーー!!」をするのか......?という一抹の不安が過ぎりましたが、モッチーなら余裕でやってくれそうだからいいかと思い直しました。


○狼じじい

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 どのルートでもボケたような発言をしつつ途中退場していくので、何だったんだあいつ......と思っていたら裏で色々やらかしているのがどのルートでも共通の動き。暴露モードでお前めちゃくちゃ長者のスパイやっとるやんけ!!となりました。狼じじいはどのルートでも投票でくくられますが、寛造さんが宴に残っているルートといないルートで展開が違う、又は既視感を覚えるような展開になっているのがループものらしくて良いなと思います。

 宴の決まりから外れた人の処理役、事情を全て知っている宴の参加者と、正しく「休水という村の中での人狼(裏切り者)」として働いてましたね。いやーマジでろくでもねえなこの老人......。黄泉ルート初見時では完全に痴呆の入った老人でしかない狼じじいですが、ルートを追うにつれこいつろくでもない奴なのでは......?というのが明らかになっていく情報開示が上手いなと思います。宴に関しても「役職が無いからつまんねえな」みたいな考え方してるあたり、房石陽明が言っていた「神様は善人に対してこそ効果がある」みたいな話がよく分かりますね。よそから来た記者二人や房石陽明はまあともかくとして、休水にいながらこの神様の効いてなさの狼じじいはやっぱりどうしようもなく悪人なんだと思います。多恵バアに対して「若い頃手を出してやろうかと思った」って思ってたり、李花子ちゃんに対して「くくったらどんな声出すか楽しみ」みたいなこと思ってたり、マジで最悪だなこいつの感情が高まっていく。李花子ちゃんが暴露モードで「大抵の人は愛せるけどこいつはマジで無理」って言ってて笑いました。ラスボスにも受け取り拒否されている......。

 主人公の房石陽明が「悪人」と定義されており「正しさ」について深く根ざした話が出てくるからこそ、同じく「悪人」である狼じじいの存在が際立ちますが、この辺は上手く言えないんだけど房石陽明と狼じじいが完全に"同類"かというとそういうわけではないと私は思っています。何だろう......房石陽明は周りに合わせる努力をしているけど狼じじいはそうではないみたいな......房石陽明や春ちゃんの「悪」としての在り方と狼じじいのそれは違うというか......この辺自分の中に適切な考えや語彙が不足している部分なので、もうちょっと詰めたいですね。「房石陽明は大団円の円環の中に入った」「狼じじいはそうではなかった」ことが二人の違いの証明なんじゃないかとは思います。
 羊さんも言っていた通り狼じじいの結末は「天網恢々」という言葉がぴったりで、善は栄え悪は滅びる、の中の「悪」を狼じじいに適用しそれをどのルートでも貫徹させているところがレイジングループの好きなところの一つです。神話ルートでも房石陽明が善良で一生懸命に生きている休水の人たちに言葉を贈るけど狼じじいに対しては特にそういうの無いのも含めて好き。寛造さんが狼じじいをしばいて殺した構図が「元々の黄泉忌みの宴の目的である私刑制度と同じ使い方をされた」と暴露モードで説明されているの、なるほどね~!!と思いました。

 ある種の個別ルートのような真相ルートですが、まさかの狼じじいとの個別ルートがあることに笑いましたし、明かされた真相もなかなかに衝撃的なものでびっくりしました。ボケた老人の声から狡猾で悪辣な老人の声に変わる瞬間は今思い返してもぞわっとしますし、暴露モードを聞いていても声優さんの演技が凄いな~!!と思う点の一つです。


○能里清之介

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 黄泉ルートでは着眼点自体は悪くなかったものの、絶妙にワンテンポ遅い!となる立ち回りだった印象です。自分がくくられやすいことを理解して確白を取りにいったり、「議論で役に立たない人をくくる」っていう考え方だったりは間違ってないんだけど、マジでワンテンポ遅い......!となり初見時は何度も頭を抱えました。そこからの他ルートで彼に合っている立ち回りが見られるようになったり、議論外でのかわいげが見られるようになったりするの、良いキャラしてるな~!と思います。

 物言いが人に好かれるタイプではないし、そもそもヘイトが日頃から溜まりがちな長者だったりで、初手吊りされそうな人だな~と思っていたら千枝実ちゃんが今まで経験したループで本当にしばしば初手吊りされていて笑いました。いや全く笑い事ではないんですが、そうだろうな......という納得がある。「誰でもいいから一人吊る」のときの「誰でもいい」に入りがちな立ち位置なの、分かってしまうので......。でも能里さん、よく喋る割に暴露モードの本音がほとんど無いので、難のある物言い以上の悪意は無いし裏表が無いんだよな~........と思います。そこもまたプレイヤー以外に伝わりづらい可愛げ。
 寛造さんと匠さんがいなくなった後に房石陽明から見て悪手を打ち過ぎているので、早々に確白になったにもかかわらず襲撃が後回しになっているのを見て「あんたは生きてると思ったよ」って房石陽明に思われてるの笑ってしまうんですが、暴露モードでは議論が上手く進んでないことをしっかり自覚しており、伝わりづらい可愛げー!!となりました。余談ですが匠さんと能里さんのお互いに心なしか親しみが籠ってる「清」「室」って呼び方が好きです。匠さんの中で泰長くんに対する「泰」とか義次くんに対する「義」みたいな呼び方って親しみの表現の一つだと思うので、能里さんに対してもそういう気持ちがあるんだな......と嬉しくなります。エクストラの後日談で触れていたように同年代同士学校で交流があったのかもしれない。休水には長者が二人いますが、同年代のよしみか能里さんに心なしか親しみを持っている匠さん、女性としての苦労に寄り添う形で李花子ちゃんを何かと気遣っている多恵バアで二人をそれぞれ気にかける休水の住人がいるのが好きです。

 黄泉ルートで下手を打ってからの機知ルートでは、彼に本来合っているポジションや立ち回りを見ることができます。議論の取り回しが上手い人たちの横について理性的な意見を出したりリスクヘッジに努めると光る能里さんの能力を見られたのが楽しかったです。後々それを本人も自覚していると分かるのも含めて良いな......と思います。暴露モードでは早々に房石陽明の言い回しの意図を見抜いて「へびなんじゃないか」と察してそのように立ち回っていたのも好きでした。能里さんが比較的房石陽明の味方に立ってくれてたの、機知ルート序盤のプレハブの鍵を借りるための太鼓持ちが効いたのかと思ってたんですがちゃんと能里さんなりに房石陽明が人間側なんじゃないかと推察できる材料があったんですね。選択肢で房石陽明が多数派工作のため調べないといけない二人が匠さんと能里さんなの、なるほど~!!となる。私は初見時能里さんを調べた理由が「ひとだと報告すれば味方してくれそうだし、万が一おおかみでもくくりやすそうだから」という割と酷い理由で、多数派工作のことを全く考えていなかったので、そこは反省ポイントでしたね......。
 更に多くのプレイヤーが能里さんを見直すのが李花子ちゃんのことについて房石陽明と話す場面だと思うのですが、「外の世界では当人同士の気持ちが尊重される時代なのだろう」「長者の縛りが無い世界に他の男が彼女を連れ出していってくれて、それで彼女が幸せになるのなら、それも良いと思う」という話を聞いてお前いい奴だなあ!!!!!!の気持ちが限界突破しました。モッチーの項目でも書きましたが、休水の片思い男たちの「たとえ傍にいるのが自分でなくとも好きな人が幸せならそれでいい」の精神さあ......。ここまで深く李花子ちゃんのことを思っていながら機知ルートで迎えたのがあの結末だったの、あまりにも可哀想過ぎる......と思います。

 暗黒ルートでは橋本さんという取り回し役が終盤までいたものの、へびを騙った房石陽明に上手いこと利用されてくくられてしまいました。正直あそこで黒出しするのは残っている能里さん以外にも李花子ちゃんや馬宮さんでも良かった筈なんですが、能里さんに黒出しする房石陽明の気持ちすげーーーーーー分かるんですよね.......。なぜなら私は機知ルートでへびをやったとき「万が一おおかみでもくくりやすそうだから」という理由で能里さんを調べたので.......。
 これまでずっと休水には人間陣営と人狼陣営の対立の他に大人と子どもという括りの対立がある、という話をしてきましたが、もう一つ存在している対立構造が休水の住民とよそ者という構造だと思います。この「よそ者」には最近村にやってきた房石陽明、めー子、記者二人が入っているのは当然ですが、そこに時折長者二人も含まれることがあります。女性の李花子ちゃんや馬宮さん、幼女のめー子、暗黒ルートではさるでひとだと確定している橋本さんに対して万人に好かれる振るまいでもなく性別や年齢で容赦する要素の無い能里さんは......圧倒的に吊りやすい......! しかし真実を知っていると能里さんに嘘をつくなって言われたときの房石陽明の「何を言っても嘘だと言われるのはもう沢山だ!」が白々しすぎて笑ってしまうな。

 真相ルートで個人的に一番楽しかったのが能里さんとの屋敷探索です。まさかのエンド名がイチャイチャだった。公式で個別ルートがある男。
 様々な歴史的な真実が明らかになりどんどん謎が紐解かれていくのは勿論のこと、他ルートでも滲み出ていた能里さんの可愛げが束になって襲いかかってくるルートだと思います。序盤のピンポン連打からの房石陽明渾身の仏舎利ロックからの仏舎利ロックが通じてる能里さんで絶対におもしれールートだと分かってしまうんですよね......。房石陽明の歌う仏舎利ロック、房石陽明に関することで数少ない素直に「好き」と言えるものの一つ。
 オタク趣味ならループ物のこと、分かってくれるよな!というノリで房石陽明がループの話をするのも好きだし、一緒に能里屋敷を探索するのも好きだし、隠し扉のパスワードに関する能里の教えをど忘れして焦る能里さんが可愛くて好きです。この能里の教えを思い出す選択肢、それまでずっととっていたメモが感想をまとめる以外で初めて役に立った場面だったんですが、正解の選択肢がご丁寧に選択肢の一番最後に配置されていて笑いました。当てずっぽうで上から試す人を丁寧に何回もゲームオーバーにさせようとしている......。これは能里の教えを忘れていた能里さんがうっかりしていたのか、廃嫡になっても教えを覚えていたモッチーが凄いのかどっちなのか。隠し部屋にウキウキしたり文献をウキウキで読み進めたり、房石陽明と能里さん趣味合うんだろうな......って感じで楽しいルートでした。最後に三車に毒殺されながら、「ループの終わりにはこの人を救わないと」とまた一つ義理を抱える房石陽明の終わり方も好き。

 神様として語りかける神話ルートでも房石陽明はループの中で見た能里さんの人柄について声をかけつつ「あなたと組んで色々するのは楽しかった」とうっかり神様らしからぬことを零してしまうのが好きでした。やっぱり房石陽明、能里さんの個別ルート楽しかったんだな......と思いましたし、事件が終わった後もループのことは無かったことになってる筈だけど連絡を何度か取っている二人がいてニコニコしました。エクストラの後日談でも李花子ちゃんのやさぐれに困惑しつつ根気良く向き合おうとする能里さんがいて、すごく良かったですね......。どうでもいいことですが能里さんがAVとかエロ本じゃなくて官能小説持ってるのなんかすごいわかるな。廃嫡にしたモッチーを呼び戻そうとする兄に向かって「祟られるからやめておけ」って能里さんが忠告するのも地味に好きなポイントです。あの言葉、意訳すると「春ちゃんが怒るからやめとけ」ということだと思うんですが、宴を取り巻く迷信について全体的に懐疑的だった能里さんが「祟られる」と神様を信じている言葉を使うの、後日談として良すぎる。


○めー子

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 めー子周りと羊さん周りはレイジングループとはまた別枠の気配がしたのでちらっと調べたら別作品のキャラクターなんですね~! こういったミステリー系のゲームに本編内の情報で解決しない別作品キャラを入れるのは諸説ですが、制作陣の遊び心なのでそれはそれで良し。

 どのルートでも生存するのは勿論別作品キャラクターだというのもあると思うんですが、幼女なので”とりあえず”でくくられることもほとんど無いし脅威になるような意見を言うわけでもないから襲撃もされないという真理が働いていて良かったです。実際めー子の票、終盤まで読めない浮動票だったな......。本編では無邪気可愛い子だったけど一方その頃割と悪戯もしてましたよっていうのが暴露モードで分かったのが可愛かったし、めー子が作った罠に躓いて死んだ狼じじいの結末に対するどうしようもなさが引き立つの良いな~と思いました。
 あとこっちもモッチーと狼じじいみたいな同類だからなのか、李花子ちゃんと房石陽明のこと「おかしい人」って分かった上で懐いてるんだな!?と分かり面白かったです。類は友を呼びまくっているふさゆきさん。

 黄泉ルートではさる、機知ルートではくも、暗黒ルートではむじなと加護を引きまくっており、生存率の高さから各ルートでの役職対比が捗るな~と思います。黄泉ルートでおおかみが楽勝だったのは機知ルートの泰長くんと寛造さん、暗黒ルートの橋本さんみたいな早々にさるとしてひと確定しているかつ場の統率力がある人がいなかったのもあると思っていて、人間陣営の地力がさるの配役で大きく変わってくるのが分かって面白かったです。逆にくもはできるだけ長く生き延びれば生き延びるほどGJを出せる確率が上がるから、くくられにくく襲われにくいめー子に向いてる役職だったなと思います(指示を出す李花子ちゃんが一緒に生き残ってたのも当然あると思いますが)。
 むじなは最初から完全にバレていたので最早向き不向きの問題ではなかった(でも脅威度の低さから吊られず最後に人狼陣営の投票源になることができた点では貢献していたと思う)んですが、めー子にむじなのことを伝える三車の人たちの場面がめちゃくちゃ面白かったですね......。古い言葉遣いで喋っても当然何も通じなかったので「お嬢ちゃん......分かったかな......?」って砕けた言葉遣いになってからの、「こんな小さい子に宴させるの無理だってー!!」ってじいちゃんが文句を言い始める舞台裏......。三車のじいちゃんはラスボスの一人なわけですが、ずっと続いてるこの風習に辟易しててもう一人のラスボスの李花子ちゃんと同じように(だけど李花子ちゃんとは違う意味で)「外から来た人がこの現状を変えてくれないか」と願っていたのが構図として良かったし、房石陽明の物語に満足して撤収ー!!!!撤収ーーー!!!!するのが良かったです。

 神話ルートで房石陽明と一緒に神様をするのも良かったですね~......。かおりさんが房石陽明のことを「別の世界に住んでいる人」と表現していることの良さはかおりさんの項目で触れたところですが、めー子もある意味で「別の世界(別の作品)の人」なので、そんなめー子が異世界側として神様の方に立っているのが好きだなとなりました。
 めー子が登場している別作品、デスマッチラブコメもホームページを見たんですが封入特典でふさゆきさんと一緒に成長しためー子がいて可愛いね~♡♡♡となるなどしました。エクストラの後日談で見る限り、めー子にとってふさゆきさんってやっぱり忘れられない人になってるんですかね。


○馬宮久子

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 機知ルートから本格参戦する記者の人であり、機知ルートでただただ可哀想なおおかみ陣営に割り振られた人。色々とぶっ壊れている二人とおおかみやらされた上、物理的に身内切り食らったのあまりにも不憫過ぎる。突然殺し合いに巻き込まれた外部の人としてかなり真っ当(それでも普通より度胸は据わっている方だと思いますが)な反応をするので、房石陽明の状況の理解の早さや黄泉忌みの宴に対する思考の馴染みの早さの異常さが馬宮さんの反応と比べると分かるような気がする。
 外の世界の常識が当たり前に根付いているので突然おおかみ様からの啓示があっても何のこっちゃ分からないし殺しはしたくないのは当然過ぎるし、命がかかってる場で嘘をつけって言われても困るのも当然だし、おおかみの仲間二人は身内切り激しすぎるし、頼むから馬宮さんを解放してやってくれ......と暴露モードを読みながらなっていました。休水の人たちは休水の住人たちが家族みたいなものでその家族を救うためにおおかみとしてひとを殺すというのが黄泉忌みの宴ですが、最期に馬宮さんが「おかあさん」って言うように馬宮さんには休水の外に大切な家族がいるんだよな......と分かる最期の言葉も切ない。テーブルゲームの人狼ゲームならともかくとして、現実の黄泉忌みの宴でおおかみやるのは本当に向いてなかったとつくづく思います。なっ! 橋本さんがひと陣営にいないと釣り合いがとれないくらいおおかみ陣営がクッソ上手い房石陽明!

 暗黒ルートでは知識や常識を以て人間陣営として人狼陣営を追いつめる役割で、信頼できるペアの橋本さんがいることもありとても安定してましたね。何の役職も持っていなかったから終盤まで残れたのも大きかった。機知ルートでも暗黒ルートでも途中から分岐する真相ルートでもそうですが、馬宮さんが民俗学やオカルトの観点から話す話は事件の核心に掠っているところも多く、そうでなくても聞いていて面白いので好きなパートの一つです。難しい話を聞いていて面白く書ける才能、凄いな......とライターさんの手腕に思いを馳せるなどしてしまう。人狼ゲームのように黄泉忌みの宴での発言内容だけが推理材料になるのではなく、「無くなった銃がどこにあるか調べてみよう」みたいな現実的な捜査も手がかりになり得るっていうのがレイジングループの面白さだと思わされた暗黒ルートでした。まあその的確な捜査のせいで房石陽明はボッコボコにされるわけですが......。房石陽明も言及していたところですが、鋭い切り口で議論を進める馬宮さんとそれを柔らかく制しつつ意見を押し通す橋本さんのペアはかなり強敵だったな......と思い返す度に感じます。

 神話ルートでは休水の人たちとは別方面で動いてくれてましたね。房石陽明、普通に馬宮さんのこと知っとるやないかい!!!!ともなる。千枝実ちゃんと馬宮さんと橋本さんの大暴れスチル、物語最後の大暴れ!!って感じで大好きです。エクストラの後日談でもクトゥルフ案件に巻き込まれていたりと大変なことになっていましたが、房石陽明や橋本さんのように余程でないと揺らがない精神があるわけではないものの頭を回し立ち上がる力がある人で、休水でのことに関わりながら生き延びられたのも納得だなというのがあって良かったです。あと本編でも伝わってきたことですが、馬宮さんから橋本さんへの信頼が全面的に高くて良かったですね......。


○橋本雄大

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 事件の謎を解くためにとりあえず生き延びさせてみたらクソバカ高いステータスの敵になってしまった人。暗黒ルート、全体的な話として凄く好きだけど人狼パートの胃痛っぷりが凄かった......次々に仕掛けられる橋本さんからの罠......。機知ルートでの多恵バアへの意見の通し方といい、コミュニケーションゲーム強そうだな~!宴に参戦するの楽しみだな~!と思ってたらとんでもない強敵を増やしてしまったというね......。

 他の項目でも触れた通り房石陽明が宴においてかなり強いので橋本さんレベルの人がひと陣営にいないと釣り合わないというのはそれはそうなんですが、橋本さんがひと確定のさるなことといいステータスが全体的に房石陽明の完全上位互換なことといい、本当に強かったです。だって房石陽明より立場がしっかりしてるし......年の功や見た目の貫禄も桁違いだし......。強いて言うなら橋本さんが房石陽明のように流れるように嘘をつけるかは分かりませんが、暗黒ルートの橋本さんはひとなので嘘をつく必要が......無い......! おおかみ陣営で誰を襲うかの選択肢に定期的に橋本さんが入ってくるの、房石陽明早く橋本さん排除したいんだろうな~!!!!というのが伝わってきて面白かったです。逆にそんな橋本さんの隙を突く方法として「ループによって知っている休水の人間関係に付け入る」を使う房石陽明の手管も面白かった。橋本さんから房石陽明への第一印象が詐欺師なの面白過ぎるんですよね。大正解です。
 「奥さんと娘がいるから帰らないと」と言いつつ、宴の終盤には馬宮さんを生き残らせることを最優先に考えて行動しているあたり良い人......!!となったし、家族の存在は戦場カメラマンとして死地に赴いたとき写真を持って帰るための原動力の一つでもあったんだろうな、と思います。馬宮さんの項目でも話しましたが休水の住人にとっては休水の人達全体が家族のようなもので、それに対して記者二人にも村の外に大切な家族がいるって構図、良いなと思います。そして際立つ身内の話がほとんど出ない房石陽明の異質さ。

 馬宮さんが橋本さんのことを強く信頼しているのは分かりやすいですが、橋本さんも仕事仲間として馬宮さんを大切に思っているのが好きだし、論理的に頭を回しながら柔らかな口調で追いつめてくるのが本当に凄かったです。馬宮さんが実行した「銃がどこに行ったのか調べてみよう」と同様にカメラを回して犯人の姿を映そうとしてるのも強かったですね~......一瞬マジでヒヤヒヤした......。房石陽明は「結婚してたのか!」ってびっくりしてたけど、橋本さんを好きになる女性がいるの分かるよな~とエクストラの後日談での馬宮さんの回想を見て思いました。自分が生きている中で物事をしっかり考えられる人、それだけで凄いことだと思うので。


○房石陽明

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 人狼初心者卓のグダグダっぷりにキレ散らかしている黄泉ルート。あまりにもシームレスにキレ散らかしていたので気づきませんでしたが、冷静に考えて全体的な反応が「明らかにクソやばい風習が残っている田舎村で奇怪な連続殺人事件に巻き込まれた若者」とかけ離れ過ぎている。黄泉ルート最後の感想が「せめて自分も宴に参加していれば......!」だったの面白過ぎますからね。命をかけた儀式に積極的な参加を求めるな。

 初めこそ戸惑うような素振りこそあったものの、宴の内容を千枝実ちゃん伝てに聞いてからの「初手で誰も吊らなかったの悪手だよね?」「(義次くん退場に対する)人間陣営が議論外で一人減ったの痛くない!?」「(自由に行動する休水の人たちに対する)くそ! 必要最低限の連絡ができてない!」「(かおりさん発狂に対する)料理作る担当の人がいなくなったのは痛いな」「(かおりさんをくくる人間陣営に対する)人狼一人も吊れてないからこれはダメですね......」エトセトラエトセトラに笑ってしまう。黄泉忌みの宴をすぐに「良く出来たコミュニケーションゲーム」として捉えるの、プレイヤーとしては話が早くて助かるけど話が早すぎるんだよなあ......。

 初見時からこの主人公、ただの平凡主人公ではないな!?という片鱗があった房石陽明ですが、暴露モードに入ると平凡主人公どころの騒ぎではなくて笑いました。まずコンビニに入って早々元カノと赤の他人プレイ茶番でイチャつくな!? 何が黒ごまプリンじゃ。お釣りをいつも募金箱に入れるな。
 房石陽明が偽名なのも後々判明することですが、内心で「偽名の中でも誠実な方」みたいなこと言ってるの面白過ぎるんですよね。初対面の人に偽名を名乗る時点で誠実でも何でもないと思います。そしてそこそこ長い付き合いの元カノにも本名を教えていないという......。お前はもうそのままでいろ......。李花子ちゃんエンドの痛いカップルのノリの目覚ましボイスにはめちゃくちゃ笑いました。房石陽明にもそういうノリってあるんだな......。
 職業まで詐称してたのも本当になんやねんこいつと思うし、「理詰めの考え方だから理系?」って聞かれた時適当に受け流しながら頭の中で「残念! 超文系でーす!」してるのこいつ......。でもその後の「学問は突き詰めれば文理問わず理屈っぽいもの」って言い分には納得できるから余計こいつ......。謎の検死技術(?)も明らかに怪しいサークルで培ったものだったし、しれっと毒キノコ調理してるし、もう本当に嫌だこいつ......。
 レイジングループを最後まで進めると、房石陽明は「分からないことを知りたい」知的好奇心が主としてあって、トライアンドエラーを繰り返しながら謎を解き明かしていくループ物の作品に合った性格だったんだなあと思います。この辺は暗黒ルートでも指摘されていた「恐怖と快楽の区別がつかない」にも通じる性質ですね。分からないことは怖い。怖いことは楽しい。楽しいから知りたい、みたいな。常人を何回も死んでは戻るループに巻き込むとどうなるかは千枝実ちゃんが体現しているし、やべー状況を解決するにはやべー奴を放り込めば良い理論、正しいけど毒を以て毒を制し過ぎている。

 そんな房石陽明ですが暴露モードでも各ヒロインに対する口説き文句は本心からのものだったんだなと分かり、やっぱり情はあるんだよな~!!!!と思います。寧ろ情があるからやばいというか、情が確かにあるのにそれを完全に理性と切り分けられるのがやばいですよね。
 顕著なのが恐らく多くの人が房石陽明!?!?!?!?!!?となるポイントの機知ルートでの「片方のおおかみは手足を切断して、片方のおおかみはくくりましょう」なんですが、発言内容が道徳的にやばいのは勿論のこととして、暴露モードで千枝実ちゃんは前ルートのことをずっと引きずってるのに対して房石陽明もまあ引きずってないわけではないけどそれはそれ、これはこれで前ルートで恋人になった女の子に向かって「手足を切断しよう」って言える切り分け具合も大概やばいなと思います。それを聞いた千枝実ちゃんとの「私は自殺するから、その間にモッチーをくくれば」「おや、それはどんな作戦なんだい?」「......手足をもがれるのは、やだよ......」って会話、房石陽明の異常性の表現として好きです。代案として出した「一日後に死ぬ毒を能里さんに処方してもらう」に対して「医者なので毒は処方しませんが!?!?」という能里さんの反論が真っ当過ぎて沁みる。房石陽明、周りの普通に合わせて常人をやっている人なので、この時はおおかみの残虐性に合わせてこっちの対処法を考えたらそれが常人の考える倫理から外れすぎていてええ......?って顔された場面なんですかね。何にせよこの発言をした男とその後普通に接してくれた休水の人たち、優しいな......。いや、匠さんやら義次くんやら寛造さんにはだいぶ本性見抜かれてますが......。

 暗黒ルートでの人狼陣営としての優秀過ぎる立ち回りも房石陽明さあ..........ポイントだと思います。そもそも圧倒的に数的不利の状況で、さるの橋本さんを相手取ってこれだけのバッドエンド数で勝利できるのが異常過ぎるんだよなあ......。これまでの項目で触れた通り房石陽明はループ特典で休水の人たちの人間関係や言い伝えに対する深い思い、よそ者に対する冷たさなどを知っているわけですが、議論外の動きでそれを結束の方向に持っていったのが機知ルートで、不和の方向に持っていったのが暗黒ルートなんだなと各ルートでのキャラクターの行動を追っていると実感します。

 房石陽明はこんななので(こんななので)やっぱり素直に好きと言うのが憚られるんですが、私が房石陽明のことを好き......いや素直に好きと言いたくないが......と思う気持ちの根本にあるのが、神話ルートでの彼の立ち回りです。

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 ループ物の定石として、ループしているのは主人公であり、主人公以外のループしていない人にはループ中の記憶は無いというのがあると思います(レイジングループでは千枝実ちゃんも記憶を共有したりむじな様が房石陽明の記憶をすっぱ抜いたりしていましたが)。なのでレイジングループでも房石陽明が経験した黄泉ルートや機知ルート、暗黒ルートでの出来事は「無かったこと」になっており、当然神話ルート時点で房石陽明と休水の住人たちはほぼ初対面の状態です。房石陽明が各ルートで抱いた情や、義理や、彼らを救いたいという気持ちは休水の人たちの知るところではありません。
 そういったループ物ならではのもの寂しさを「神様――すべてを知る者として住人たちに親愛の情を伝える」という形で昇華しているのが、レイジングループの凄いところだと思います。無かったことになった世界で、それでも房石陽明が触れた休水の人達の人となり、悩み、美点、欠点、善良さ。それらを房石陽明が自分の本領であるストーリーテリングの手腕で彼らに伝え、初対面でありながらそれまでの関係性の総決算をするのが神話ルートだと思います。房石陽明がそれまで何度も殺し、殺され、会話し、義理や情を重ねてきた住人たちへの言葉には今までの項目でもいくつか触れましたが、房石陽明と一緒にループを繰り返し休水の人たちに接してきたプレイヤーにとっても強く感情を動かされる言葉だと思います。

 また、この時に房石陽明が住人それぞれに「信じてください」と言うのも大好きなところの一つです。
 房石陽明の「信じてください」には二つの意味が込められています。一つは、神様として田舎村の因習を(程度の差こそあれおおかみ様に「おおかみとしてひとを殺せ」と言われれば隣人を殺してしまえるくらいには)信じてきた人間たちに対する、「神様を信じてください」という意味です。房石陽明がループを繰り返す中で知った真実は、藤良村に伝わっている宗教は決して清廉潔白なものではなく、権力者が楽に統治をするために生み出したものだったという真実でした。しかし、休水にはこれからむじな様という新しい神様が生きていくし、何より言い伝えを――神様を信じてきた休水の人たちの善良さには何の罪もありません。「神様は善人に対してこそ効果がある」と房石陽明は話していますが、転じて黄泉忌みの宴でおおかみをくくり、ひとを殺す休水の人たちは(三車と通じていた狼じじいを除いて)皆善良な人たちです。だから房石陽明は、言い伝えに隠された真実や現実を詳らかに伝え「こんな言い伝えは信じなくていい」と言うのではなく、「本当の言い伝えを語り継いでほしい。信じてほしい」と告げます。今までの神様を殺すため、これからの神様を生かすために房石陽明は「信じてください」という言葉を使います。
 そしてもう一つの意味は、「房石陽明という人間を信じてください」という意味です。レイジングループでは、黄泉忌みの宴というコミュニケーションゲームの本質を「誰を信じ、誰を信じないか」だとする話が時折出てきます。これはきっと、人狼ゲームでも同じ事が言えるのだと思います。誰を疑うか、ではなく、誰を信じるか。それこそが疑心暗鬼の人狼ゲームの本質だと私は思っています。
 黄泉忌みの宴で、房石陽明は多くの人に疑われ、そして信じられてきました。その信頼を糧に人間陣営として勝利を収めたこともあれば、信頼を裏切って人狼陣営として勝利を収めたこともありました。それは房石陽明だけでなく、他の参加者も同じことです。黄泉忌みの宴は、常に誰かが誰かを信じながら一日、また一日と繰り返されてきました。
 神話ルートはそもそも「黄泉忌みの宴をやめてください」と伝えるルートなので、黄泉忌みの宴が開かれることはありません。ですが、房石陽明はかつて黄泉忌みの宴に参加した参加者の一人として、同じように黄泉忌みの宴に参加していた参加者たちに、改めて「自分を信じてください」と伝えています。人狼ゲームを題材にしたゲームで、「信じてください」という言葉はこれ以上無い親愛表現だと思います。

 この二つの意味をもって、神様として、房石陽明として、ループを共に繰り返してきた住人たちへ「信じてください」と声をかける神話ルートが私は本当に大好きです。

 息をするように嘘をつくわ、ガチで命をかけた人狼ゲームがちょっと引くくらい上手いわ、悪人だわ、ラスボスに結婚詐欺をかますわ、作中で「歪曲系主人公」「悪党」「善人じゃない」「卑怯者」「敵対したら厄介」「人間陣営だと思うけど人間として問題があると思う」「サイコパス」等々散々な言われようだわで本当に素直に好きというのが憚られる......という感じなんですが、それでも「素直に好きと言いたくない」気持ちの根底にあるのは「好き」という気持ちだと思うので、何だかんだ自分は「レイジングループの主人公である房石陽明」のことを好ましく思っているんだろうなとこの記事を書き上げて思いました。


 そういうわけで何となしの思いつきで始めたレイジングループですが、めーーーーっちゃ面白かったです!! 面白さを知っている人はとっくに遊んでいるかもしれない名作として有名なゲームですが、それでもより多くの人に触れて欲しいと思うような、全力で引き込まれる物語だと思います。ここまでネタバレ全開の記事を読んで未プレイの方はいないのではないかと思いますが、こうして一つ記事を書いたことで何かしらレイジングループに触れる人が一人でも増えることがあればいいなと思います。




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