TOAの最後に帰ってきた赤い髪の青年について今更考える

 一年程前、かなり今更ながらテイルズオブジアビス(以下TOA)というゲームをプレイしました。テイルズシリーズには多くのシリーズ作品がありますが、十周年記念作品ということやアニメ化や舞台化などがされていることから、シリーズの中でも知名度が高い作品ではないかと思います。

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 多くのRPGでは、主人公が仲間と力を合わせて世界を救い、その後も前を向いて生きていくというのが王道のラストだと思います。そんな中、TOAのラストは少し変わった、意味深な終わり方をします。

 主人公のルークは世界を救うために自分が持っている特殊な力を使い、その反動で命を落とします。ラスボスを倒した後ルークはローレライを解放し消えていくのですが、このときルークが消える少し前に敵との戦いで命を落としたアッシュの遺体が落ちてきて、ルークはそれを受け止めます。そしてルークがアッシュと共に消えていって、エンディングが流れます。

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 その後、場面は数年の時が流れ、ルークを思いながら花畑で譜歌を歌っているティアとそれを見守るパーティーメンバーのシーンに切り替わります。ティアが歌い終わり、その場を離れようとしたとき花畑に赤い髪の青年が現れます。赤い髪の青年は、外見も声もルークともアッシュとも断定し難い、二人のちょうど真ん中のような姿をしています。

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 それを見たパーティーメンバーが青年に駆け寄り、ジェイドが一人寂しそうな表情をして、青年の顔と後ろで輝く満月が映るーーというのがTOAのラストです。

 この時帰ってきたのがルークなのか、アッシュなのか、それとも別の誰かなのかが作中で明言されることはありません。それと同時に、何となく答えが分かるような情報は本編に散りばめられています。しかしそれも結局考える側の推定に過ぎず、真実は分からないままです。明確な答えを示さないのは、制作側がプレイヤーの考えた答えを大切にするためにわざと残された余白なのだろうと思います。
 こうやって残された余白に明確な答えを求めるのは野暮ではありますが、TOAをプレイしたいちプレイヤーとして自分なりに考えて出した答えを残しておきたいと思ったので、今更ながらあの赤い髪の青年はどういった存在なのか、本編の情報をもとに考えていきます。

1.チーグルの実験

 最後に現れた赤い髪の青年について考える時、かなり重要になってくるのがワイヨン鏡窟で実験に使われていたチーグルの存在です。二つの牢屋の中には二匹のチーグルが入れられており、それぞれオリジナルとレプリカのチーグルです。

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 少し分かりにくいですが、二枚目と三枚目はナタリアがいる向かって左側の牢屋にアニスが様子を見に来ている状態であるため、左側の牢屋にいるのがオリジナル、右側の牢屋にいるのがレプリカということになります。更にここでは、通常ならば能力が劣化するのはレプリカだが、このチーグルはオリジナルの方が能力が弱いということも分かります。

 そしてその後、再びワイヨン鏡窟を訪れると二匹のチーグルは一匹だけになっています。

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 空になっているのは左側の牢屋、チーグルが残っているのが右側の牢屋です。つまり、この時消えたのはオリジナル、残っているのはレプリカということになります。

 そして更にその後、この時保護したチーグルにジェイドが話を聞くサブイベントがあります。ジェイドとチーグルの会話は以下のようなものです。ちなみに「スター」とは、保護したチーグルの名前です。

「スター。あなたはオリジナルですか?」
「はいなのです」
「ではレプリカーーもう一人の自分を作られましたか?」
「はいなのです。ディストという気持ち悪い人にやられたのです」
「やはりディストか。それはいつ頃ですか」
「多分半年ぐらい前なのです。」
「コーラル城でルークとアッシュが完全同位体と知ったのなら、時期は合うな......」

 ここで驚くのは、牢屋に残っていたのはレプリカのチーグルである筈なのに、このチーグルは「あなたはオリジナルですか?」という質問に「はい」と答えていることです。更にこのチーグルを使った実験が、ディストの手によってルークとアッシュの情報をもとに行われたものだと分かります。ジェイドが言っているように、ディストは以前コーラル城でルークの情報を抜き取っているため、この研究はルークとアッシュにかなり近い状況の実験だと考えられます。

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 加えてジェイドは、もう一つスターから重要な話を聞きます。

「最後にもう一つ。もう一人のあなたはどうなりましたか?」
「......多分死んだのです」
「......多分?」
「実は自分は一回死んだのです。その後何かが入ってくる感じがしたと思ったら、自分は死んでいなかったのです。その時はもう一人の自分はいなかったのです」

 レプリカである筈なのに「自分はオリジナルだ」と名乗るスターは、「自分は一回死んだ」と話しています。「一回死んだ」というのは、オリジナルのチーグルが牢屋からいなくなっていることを指しているのでしょう。スターの話をもう少し分かりやすくまとめると、「オリジナルのチーグルは一度死んだ。その後何かが入ってくる感じがしたと思ったら、レプリカの体でオリジナルのチーグルが生きていた。レプリカはいなくなっていた」ということになります。もっと要約するならば、「今のスターは、レプリカの体の中にオリジナルの意識が入った状態である。レプリカのチーグルはいなくなっている」ということです。

 以上が、チーグルを使った実験とチーグルの証言から推察される事実になります。


2.アッシュの焦り

 本編を通して、アッシュはずっと何かを焦っているような態度をとっています。初めにそれを感じられるのがオアシスでの会話です。

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 この質問に対し、ルークは「アッシュが回線を繋いでこなければ変なことは起こらない」と返します。つまり、この時の二人は「アッシュはルークと意識が混ざり合うような感覚を感じている。ルークの方は特にそういった感覚は無い」という状態だと分かります。その後もアッシュは、ローレライの剣を受け取った時のことについて「おまえがあの時、ローレライと繋がっていれば......。いや、俺が音素化してるってだけか」と自身が音素化していることを示唆するなどしています。

 アッシュの焦りが頂点に達するのが、レムの塔周りでの出来事です。アッシュが自分を犠牲に障気を消そうとするのを止めようとするパーティーメンバーに対し、アッシュと共に行動していた漆黒の翼のメンバーは、「旦那は二言目には、時間がないだのなんだのって、今回も、無駄に死ぬぐらいなら障気と一緒に心中するってんですよ」と言います。また、ダアトでルークとどちらが障気を消すか争う時にも、「俺だって死にたい訳じゃねえ。......死ぬしかないんだよ」と言います。

 このことから分かるのは、アッシュは自分がもうすぐ死ぬと思っていることです。意識が混ざり合うような感覚や音素化というのは、アッシュが感じている自身の死の兆候だと思われます。それでは、何故アッシュは自分が死ぬと思っているのでしょうか。答えは次の項目に続きます。


3.スピノザの話

 ベルケンドの研究所にて、ジェイドはアッシュのレプリカを作る際に実験に関わった研究者であるスピノザから話を聞きます。以下がその会話です。

「私たちと協力する前の話になると思いますが、アッシュがあなたのところへ来ませんでしたか? 多分話題は、ワイヨン鏡窟で行われていたディストの実験について」
「......確かにその通りです。アッシュはコーラル城で自分とルークがただの同位体ではなく、完全同位体であることを知ったようでした」
「それで、ワイヨン鏡窟のチーグルが、自分たちと同じ完全同位体ではないかと気付いた」
「はい......そしてそれは正しかったのです。ネイス博士はバルフォア博士の理論を元に、ルークレプリカ作製時の事故を再現したのです」

 この会話から、実験に使われたチーグルの状況はルークとアッシュの状況にかなり近いものだと分かります。つまり、「オリジナルの意識がレプリカの体に入っている」という今のスターに起こっている状態が、ルークとアッシュにも起こる可能性があるということです。オリジナルのチーグルが牢からいなくなっているのを見たアッシュが、内心で「やっぱりいなくなってやがる」と思っているのは、自分たちとチーグルの状況がほぼ同じであると悟ったからでしょう。

 次に話されるのは、前の項目で触れた、アッシュが「自分はもうすぐ死ぬ」と思い込んでいる理由についてです。

「アッシュは完全同位体が誕生した場合のオリジナルの負担について聞きましたか?」
「はい」
「では音素乖離による、緩やかな放出現象を説明した?」
「学術的な説明では難しすぎますから、大爆発(ビッグ・バン)の時期に向けて徐々に体力や譜術力が失われていくことは......」
「その説明では......アッシュが誤解している可能性もありますね」
「誤解?」
「いえ......。彼の無謀な行動の理由が、ようやくわかっただけです。もう......手遅れでしょうがね」

 専門用語が一気に増えたので、順を追って説明します。まず、完全同位体が誕生した場合のオリジナルの負担ーーつまりレプリカが作られたことによってオリジナルのチーグルやアッシュにかかる負担とは、会話の中に出ている「音素乖離による緩やかな放出現象」「大爆発(ビッグ・バン)の時期に向けて徐々に体力や譜術力が失われていくこと」です。具体例を挙げると、「音素乖離による緩やかな放出現象」とはアッシュが「自分が音素化している」と言っていたこと、「大爆発(ビッグ・バン)の時期に向けて徐々に体力や譜術力が失われていくこと」とは初めにワイヨン鏡窟で出会ったチーグルのうちオリジナルの方が力が弱まっていたことです。チーグルがレプリカルーク作製時の事故を再現していることから、チーグルと同じようにアッシュの体力や譜術力も徐々に落ちていっていたと考えるのが妥当でしょう。

 ここで重要なのは、アッシュはオリジナルにかかる負担に関して「音素乖離によって、徐々に体力や譜術力が失われていく」という話しか聞いていないことです。そして自分と同じ状況のチーグルに関しても、オリジナルの力が弱まっていることと、オリジナルの体がなくなっていることは見ていますが、ジェイドが確認した「オリジナルの意識がレプリカの体に入っている」ことについてはアッシュは知りません。ジェイドが「その説明だとアッシュが誤解している可能性もある」と指摘していることと、アッシュがやたらと生き急いでいることからも、牢からいなくなったオリジナルのチーグルと「徐々にオリジナルの力が弱まっていく」という話だけを元にして、アッシュは「完全同位体のレプリカを作られたオリジナルの自分は、もうすぐ力が弱まって死ぬ」と誤解したと考えられます。

 そう考えると、エルドラントで一騎打ちをする前にアッシュがルークに言う言葉にも説明がつきます。

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 一騎打ちの直前、アッシュはルークに「過去も未来も奪われた俺の気持ちがおまえにわかってたまるか!」と言います。レプリカに取って代わられることで過去を奪われたのは理解できますが、何故「未来も」奪われているのでしょう。今までのチーグルの実験や、アッシュがスピノザから聞いた情報を合わせると、ここでアッシュが言いたいのは「完全同位体の自分とルークの間にはいずれビッグ・バンが起き、自分は死ぬ。自分はレプリカを作られたことで未来を奪われた」ということではないかと思います。

 それでは、この会話で突然言及されたビッグ・バンとはどういった現象なのでしょう。次の項目で話します。

4.ディストの話

 レプリカネビリムを倒した後、ジェイドはマルクト軍に拘束されたディストとビッグ・バンについて話します。以下がその会話です。

「アッシュが死にました」
「ビッグ・バンですか?」
「......そう聞くということは、アッシュのビッグ・バンはそろそろだったと?」
「そうですね。そちらこそ、その聞き方はアッシュの死がビッグ・バンではないと言っているようですが」

 アッシュの死因は、沢山の敵に剣で串刺しにされたことです。ジェイドはそのことをルークから聞いて知っています。そのためアッシュの死因はビッグ・バンではないのですが、あの時アッシュが敵に刺されなくともビッグ・バンという現象によっていずれアッシュは死んだのだろうとこの会話から察せられます。二人の会話は続きます。

「何が原因で死んだにせよ、この時期ならビッグ・バンは始まっていたと思っていいでしょう」
「......始まっていないかもしれない」
「なんですか、それは! あなたが完全同位体の理論をまとめたんじゃないですか! いいですか? コンタミネーション現象は免れません。たとえあなたの才能を持ってしてもね」

 ディストの「ビッグ・バンは始まっている」という言葉に対しジェイドは「......始まっていないかもしれない」と返していますが、いつもならば反論する時にはしっかり理由まで話すジェイドが全く理由無く反論していることから、これはジェイドが「ビッグ・バンが起こっていてほしくない」という感情によって反論したに過ぎないと見るべきでしょう。実際にジェイドも自分の反論が恐らく間違っていると本心では理解しているから、若干言葉に詰まっているのだと思います。

 この会話から分かるのは、ビッグ・バンとはコンタミネーション現象が起こることであるということです。コンタミネーション現象については、序盤に発生するサブイベントでパーティーメンバーが説明しています。以下がその説明です。

「おまえの槍って、何もないところから出てくるよな。どうなってるんだ?」
「コンタミネーション現象を利用した融合術です」
「こんたみ......?」
「コンタミネーション現象。物質同士が音素と元素に分離して融合する事象よ」
「ああ。合成なんかに使われる物質の融合性質か」

 この説明をそのままビッグ・バンの説明に当てはめると、ビッグ・バンとは物質同士が音素と元素に分離して融合する事象が起こることになります。完全同位体のオリジナルとレプリカに物質同士が融合する現象が起こるーーそう聞いて思い出されるのは、チーグルに起こっていた「オリジナルの体が消え、レプリカの体にオリジナルの意識が入っている」、あの現象です。

 これまでの情報を改めてまとめると、「ビッグ・バンとは完全同位体のオリジナルとレプリカの間に起こる、物質同士の融合現象である。融合に向けて、オリジナルの体力や譜術は徐々に弱まっていく。そして融合によって、オリジナルの体は消えレプリカの体にオリジナルの意識が入る」ということになります。ディストがルークとアッシュについて「コンタミネーション現象は免れない」と話していることから、別の項目で予想した通りルークとアッシュにも実験に使われたチーグルのような融合が近いうちに起こると考えられます。

 ルークとアッシュの意識が融合しかかっていることについては、エルドラントでアッシュが死んだ直後に交わされるジェイドとルークの会話で触れられています。

「ルーク。辛い話を聞くことになりますが......アッシュはどのようにして亡くなったんですか」
「......神託の盾(オラクル)兵に囲まれて、剣を......体中に刺されて......」
「その後、あなたに何かが入ってくる感じはしませんでしたか?」
「......そういえば......。何だか温かいものが全身に降ってくるような気はしたけど......」
「......何かが出ていく感じは?」
「うん? アッシュが死んだ瞬間、虚脱感はあったけど、別に......」
「そうですか......」

 ジェイドの質問の意図を一つずつ確認すると、アッシュの死因を聞いているのはアッシュがビッグ・バンによって亡くなったのかを確認したかったから、ルークに何かが入ってくる感じがしたか聞いているのはオリジナルの意識がルークの体に入ってきたか確認したかったから、何かが出ていく感じがしたか聞いているのは入ってきたオリジナルの意識が融合せずそのまま出ていったかを確かめたかったからだと思います。そしてルークは、「温かいものが全身に降ってくるような気はした」と答えています。この「温かいもの」が恐らくアッシュの意識であり、「温かいものが出ていった感覚は特に無かった」と言っていることから、アッシュの意識はルークに融合したと考えられます。質問の意図をガイに尋ねられたジェイドが「......いえ......なんでも......なんでもありません......」とかなりショックを受けている様子からも、それが分かります。


 更にこの後、ディストとジェイドは意味深な会話を交わします。

「......記憶は残るのですよ」
「いえ、記憶しか残らないんですよ」

 「記憶は残るのですよ」はディストの言葉、「いえ、記憶しか残らないんですよ」はジェイドの言葉です。この会話の前にディストが理論を無視してビッグ・バンは起こっていないかもしれないと言うジェイドに対し、「そんなにあのレプリカが大事ですか?」と言っていることから、「記憶は残る」というのはディスト曰くの「あのレプリカ」ーーつまり、ルークに関するものだと考えられます。
 ジェイドの「記憶しか残らない」という言葉から察するに、オリジナルの意識がレプリカに入っても、レプリカの記憶まで完全に消滅するわけではないのでしょう。しかし、スターが自分のことを「オリジナル」と名乗っていることや、ジェイドの記憶「しか」残らないという表現から、レプリカの記憶は残るがメインの意識はあくまでもオリジナルと考えるのが妥当かと思います。

 以上のことから、ルークとアッシュの間に起こる現象は、「完全同位体のオリジナルとレプリカの間に、物質同士の融合現象(ビッグ・バン)が起こる。融合に向けて、オリジナルの体力や譜術は徐々に弱まっていく。そして融合によって、オリジナルの体は消えレプリカの体にオリジナルの意識が入る。その際メインの意識はオリジナルだが、レプリカの記憶も残る」というものだと予想できます。

5.その後の結果

 先程の予想を踏まえて、エルドラントで別れる直前のルークと、最後に現れた赤い髪の青年について見ていきます。

 まず、エルドラントで別れる直前のルークです。別れ際、ジェイドはルークに向かって握手を求めて左手を差し出します。これは、左利きのルークに合わせて握手する手を差し出している親愛表現だと見てとれます。しかし、このときルークは自分の利き手が左であり目の前で左手を出されているにもかかわらず、右手を出しかけます。3Dモデルの挙動がずれただけかとも思いましたが、テイルズオブジアビス公式シナリオブックにてこの時のルークの動作について「一瞬、右手を出しかけるが、途中で気づいて左手で握手するルーク」と説明されているため、意図された動作だと思われます。

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 このルークの動作を見ていると、まるで左利きのルークが右利きになりかかっているかのように感じます。そう考えた時に思い起こされるのが、アッシュが死んだ後アッシュの意識がルークに入ってきていることと、ルークの利き手は左でアッシュの利き手は右であることです。

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 この二つの事実から考えられるのは、この時点でアッシュの意識が融合しかかっているから、ルークは利き手が右になりかかっているのではないか、ということです。更に考えを深めるなら、ジェイドが握手を求めて左手を出したのは、ルークの利き手を確かめるため=ルークの意識がアッシュと融合しかかっていないか確かめるためなのではないかとも想像できます。

 最後に、花畑に現れた赤い髪の青年について見ていきます。

 まず、青年の髪型についてです。

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 数年で伸びたとは思えない髪の長さであるため、長さはアッシュに近い気がします。髪の色はルークの方に近く見えますが、髪の先の黄色いグラデーションは無くなっています。

 次に、青年の利き手についてです。これは彼が持っている剣の向きから分かります。

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 この剣は一騎打ちの後アッシュがルークに託したローレライの剣です。剣の形が特殊なので分かりにくいですが、左側に持ち手が来るように付けられています。

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 アッシュの剣の持ち方を見れば、黒い縁がある方が持ち手で銀色の方が剣の刃だと分かります。左側に持ち手が来るようになっているということは、この青年の利き手は左利きです。ルークと同じ利き手ということになります。

 最後に、青年の言葉についてです。青年は花畑でティアと会話を交わします。

「どうして......ここに?」
「ここからなら、......ホドを見渡せる。それに......約束してたからな」

 ここで青年が言う「約束」は、二通りの解釈ができます。一つは、ルークとティアが別れ際に「......必ず帰ってきて」「......うん、わかった。約束する。必ず帰るよ」と話していた約束を指しているという考えです。そしてもう一つは、一騎打ちの後にルークとアッシュが「......約束しろ! 必ず生き残るって! でないとナタリアも俺も......悲しむからな!」「うるせぇっ! 約束してやるからとっとと行け!」と話していた約束を指しているという考えです。短い会話ではどちらを指しているのか判別がつき難いと感じます。

 こうして見ると、赤い髪の青年は比較的ルークの方に寄って見えるがアッシュらしいところも多々あり、どちらとは明確に判断できないようになっていると感じます。青年の声がルークともアッシュともつかない声になっていることからも、恐らく彼をルークともアッシュともとれるようにしたのはプレイヤーに答えを委ねる制作側の意図だと思います。赤い髪の青年だけを見て明確な判断ができないようになっている以上、重視すべきはわざと判断できないようになっている赤い髪の青年の特徴ではなく、拾い集めて組み立てれば答えが分かるようになっているエンディングの前に本編で明かされる情報の数々ではないか、と私は考えています。

6.その他

○女性の像

 かなり深読みになるため考察材料に入れるか迷ったのですが、一つ気になるのがアッシュが死んだ場所に飾られている二つの銅像についてです。二つの銅像は、それぞれ短い髪と長い髪の女性の像になっています。

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 この像は、ルークがローレライを解放した時エルドラントの崩壊と共に崩れ落ちるのですが、この時壊れるのは短い髪の女性の像だけになっています。

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 少し分かりにくいですが、向かって左側の像だけ真っ二つに壊れています。短い髪と長い髪と聞いて思い浮かぶのは、やはりルークとアッシュのことです。短い髪の像が壊れていくということは、サブイベントから導いた予想の通りビッグ・バンの結果アッシュの意識がメインになりルークの記憶は引き継がれるのみとなった、と考えられるのではないかと思います。


○チーグルの実験との違い

 チーグルの実験とルークとアッシュの状況には、異なるところがあります。それは、レプリカのチーグルと異なりルークは超振動を使った反動によりエンディングの時点で体が消えかかっている点です。

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 このように、ルークの体はアッシュと比べて薄くなっており音素の乖離により消えていっていることが分かります。そして、この後死んだ筈のアッシュの体が僅かに動くシーンがあります。このことから、チーグルの実験では「音素の乖離でオリジナルの体が消え、残ったレプリカの体にオリジナルの意識が入っていった」のに対し、ルークとアッシュは「音素の乖離で消える筈のオリジナルの体がビッグ・バンより前に死んだことで残り、反対にレプリカの体は音素の乖離で消えたので、一旦レプリカの体に入っていたオリジナルの意識とレプリカの記憶がオリジナルの体に入っていった」のではないかと考えられます。

 チーグルの実験とルークとアッシュの状況に異なる点は他にも幾つかありますが、スピノザやディストの話を聞く限りかなり近い状況を作って行われた実験であることは確かです。そもそも全く違う結果が出ているのなら、わざわざチーグルの実験の話を限られたデータ容量の中に入れないと思います。そのため、「オリジナルの意識がメインで残りレプリカの記憶は引き継がれる」という結論に大きな違いは無いとここでは判断しています。


○ジェイドの表情

 TOAのエンディングで赤い髪の青年の他にもう一つ印象的なのが、ジェイドの表情です。他のパーティーメンバーが青年に歩み寄っていく中で、ジェイドは一人どこか寂しそうな表情を浮かべます。

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 レプリカ編以降が特に顕著ですが、ジェイドは劣等感から世界を救うため死のうとするルークに何度も「死なないでほしい」と声をかけています。また、スピノザからビッグ・バンの話を聞いた後はルークに「今度ばかりは、私のはじき出した答えが間違っていてくれればいい、と思います」「あなたは私の想定外のことをやらかしてくれますから、もしかしたらとは思っていますがね」と話し、ディストからビッグ・バンは始まっていたことやコンタミネーションは免れないことを聞いた後はルークから「顔色が悪い」と指摘される程落ち込んでいます。この時のジェイドは、フォミクリーの発案者であるが故にルークとアッシュにビッグ・バンが起きると頭では理解していながら、ルークに死んでほしくないという心が頭に追いついていない状態なのだと思います。

 物語の中盤、ルークとジェイドはケテルブルクで人の死について会話を交わします。

「......知っていますよ、私は。あなたが今でも夜中にうなされて目を覚ますこと。......あなたにとってアクゼリュスの崩落は、まだ過去のものではないのですね」
「......当たり前だ」
「盗賊や神託の盾(オラクル)の兵を斬った夜は、眠れずに震えている」
「......臆病だろ、俺」
「いいえ。あなたのそういうところは、私にない資質です。私は......どうも未だに人の死を実感できない」

 ジェイドはレプリカネビリムの研究を通して、頭では生体レプリカの製造や死者の復活が倫理的に良くないことだと理解しているものの、心では人の死を実感できていない状態です。そんなジェイドが心で人の死を実感したのが、理性と感情の切り分けができないほど死んでほしくないと願ったルークが死んでしまったと理解した瞬間なのだと思います。
 ジェイドはルークとアッシュの間に起こっている現象について、パーティーメンバーの中で一番多くの情報を持っています。そのジェイドが寂しそうな顔をしたのは、あの時帰ってきた青年は少なくともジェイドが死んでほしくないと願って最後に握手を交わしたあの「ルーク」ではないからだと思います。

7.まとめ

 以上のことから、私は最後に帰ってきた青年は「アッシュの体にアッシュの意識とルークの記憶が入っている(メインの意識はアッシュ)」状態ではないかと考えました。本編で示されている多くの情報がルークの死を示しており、ルークの生存を示しているような情報は最後に現れた赤い髪の青年の利き手や髪の色のみです。しかし、先程も述べたように赤い髪の青年の特徴は恐らくかなり意図的にルークとアッシュのどちらか判別できないようにされていることから、重視すべきは青年の特徴よりその他の本編での情報だと判断しました。
 外部の媒体で最後に帰ってきたのがどちらなのかの答えに言及されている物もありそうだな、と思いつつ、ここではあくまでも本編の情報だけで判断することに重きを置いています。外部で出た情報は本編を出すにあたって削ぎ落とされた情報であり、本編のラストの答えは本編の情報のみを元に考えようと思ったからです。(ルークとジェイドの握手の挙動についてのみシナリオブックを参考にしていますが、本編で出た情報の確認にとどめているので見逃してください)

 ここでは私なりの考えを書きましたが、赤い髪の青年がどちらともとれるように描かれている以上、あくまでも制作側がプレイヤーに提示した答えは「プレイヤーの判断に委ねる」ということなのだと思います。TOAのこういった様々な想像が膨らむ余白の残し方と、拾い集めれば自分なりの答えを導き出せるような情報の散りばめ方が大好きなので、今後もTOAについて色々と思いを馳せていきたいな、と思います。

追記(2020/7/20)

・私はこうだと思います系の反応
反応ありがとうございます。記事にも書いているように結局答えはプレイヤー次第だと思うので、あなたはあなたの考えを大切にしてください。私も私の考えを大切にします。


・インタビューで公式が答え言ってますよ系の反応
有名な話なので重々承知してますが、記事に「本編の情報のみをもとに考えたいと思った」と書いているように外部の雑誌等の情報は敢えて参考にしていません。あれはオフレコで明かした話を勝手に零した雑誌が悪い(直球悪口)し、何故オフレコにしたのかというとやはり原作で残した余白を大切に思う気持ちが制作側にあったからだと思うので、そうして与えてくれた余白に私なりの答えを原作の情報から出したいと思いこの記事を書きました。



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