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FE風花雪月 支援会話の感想~紅花の章編~


 ファイアーエムブレム風花雪月を遅ればせながら遊んでいます。ずっと方々からお勧めされていて、一年ほど前に購入し手元に積んでいるゲームや空き時間と相談しつつようやく手をつけたのですが、いや......面白......!!と引き込まれる日々です。

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 どの学級から選んでも良いゲーム体験ができると聞いたので、一周目は記事のタイトル通り黒鷲の学級を選びました。特にエーデルガルトとカスパルに惹かれて選んだ学級でしたが、紅花の章を終わらせた今、この学級を初めに選んで良かったと心から思います。これは黒鷲に限らず、どの学級を選んだプレイヤーもそう感じられるような作品に作り上がっていると感じます。

 風花雪月の感想も他の作品を遊ぶ時と同じくツイッターで色々つぶやいていたのですが、感想を話す際にどうまとめようか迷ったのが支援会話です。
 支援会話は本編のシナリオとは別に診られるキャラクター同士の会話で、主人公が居ない場所でのキャラクター同士の交流を見ることができます。一人一人がどういった人生を歩み、どんな価値観を育んできたのかを他の人との対話で感じ取れるのが、キャラクターの魅力を掘り下げるシステムとして非常に秀逸です。しかし、一気に多くの支援会話を見たり、支援レベルごとに続きを読むまでに間が開く関係上なかなか感想を書き留める手と頭が追いつかず、もっと丁寧に感想を残したい......!!と歯噛みする日々でした。

 そこで、紅花の章をクリアした今、改めて好きな支援会話の感想をしっかりまとめておこうと思いこの記事を書いています。主に黒鷲の生徒同士、他学級や生徒以外のキャラクターと黒鷲の生徒の支援会話について書きますが、それでも全て取り上げるとキリが無いため特に好きな支援会話をピックアップしています。

◆プレイ中のツイートまとめはこちら◆

 以下、紅花の章のネタバレを多大に含みます。ご留意のほどお願いします。


○ベレト・エーデルガルト

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 紅花の章最後にエーデルガルトへ指輪を渡したのもあって、個人的に特に大切に思っている支援会話の一つです。ファイアーエムブレムシリーズに触れたのは今作が初めてだったのですが、主人公が宿している紋章が「炎の紋章」だと分かる物語中盤はシリーズタイトルの回収にテンションが上がりました。そんな中でエーデルガルトから告げられる「自分も炎の紋章を持っている」という話は衝撃的で、同時にエーデルガルトが学級の級長として主人公の隣に並び立ち物語を駆け抜ける主要キャラクターであると強く印象づけられました。

 支援C、C+でエーデルガルトは他人に滅多に話さない苦しい過去や二つの紋章についてベレトに話します。振り返ってみれば、この支援会話でエーデルガルトは自身の決意やそれに連なる生い立ちについて少しずつ明かし、力を貸してほしい・共に並び立って同じ道を歩んでほしいとベレトに伝えていたのかもしれないと思います。このことについては、本編でのヒューベルトとエーデルガルトの会話からも感じ取れます。

「……エーデルガルト様。あの教師に情報を与え過ぎなのでは?」
「そうかしら……。そうね、そうかもしれない」
「なかなか得難い人材だというのは、私にも感じられますが……“天帝の剣”を使う時点で、危うさのほうが勝っているでしょう」
「……前に言ったわね。私には力が足りないと。あの者たちに借りている力を、師が代わりに負ってくれるのなら……それが良いと、私は思うのよ」

 エーデルガルトを守ると決めた後に解禁される支援Bからは、彼女は皇帝エーデルガルト以外の少女としての側面を垣間見せるようになります。支援Bでの「甘いものを食べながらごろごろしたい」といった、士官学校にいた時の凜とした姿からは考えられないエーデルガルトの話は、彼女が17歳の少女だと改めて感じさせられます。また、五年後の戦争編でもエーデルガルトは少女らしさを時々覗かせます。ヒューベルトの口調を真似する、ねずみを怖がって悲鳴をあげる、ベレトの似顔絵をこっそり描くなどがその例です。エーデルガルトは、支援Bで次のように話します。

「きっと私一人だったら、心の余裕を失って、冷徹で非情な皇帝にでもなっていたわ。貴方が私の隣にいてくれるおかげで、私はエーデルガルトでいられるの」

 エーデルガルトは、個人の感情と皇帝としての決断を切り分けられる人です。その点についてはフェルディナントも戦争編での散策で話しています。

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(この文章だけだと少し分かりにくいですが、「感情に囚われている王にエーデルガルトは負けない」=エーデルガルトは感情に囚われていないと読み取れます)

 私はまだ紅花の章以外の物語をクリアしていませんが、もしもベレトが傍に居なくとも、エーデルガルトは己の覇道を曲げることなく、皇帝として自身の決意と共に歩んでいくのでしょう。しかし、紅花の章でエーデルガルトが皇帝でありながら少女としての内面を忘れず、一人の人間として人の世を統べるため歩いていけるのは、他でもないベレトが傍にいるからこそなのではないかと思います。エーデルガルトが支援Aで「私を『エル』と呼んでくれる?」と、少女の頃のエーデルガルトを象った名前をベレトに預けることからもそれが感じられます。

 紅花の章は、ルート分岐の選択肢からも分かる通り”エーデルガルトを守る”物語です。エーデルガルトの次期皇帝としての決意、その決意と共に行くと決めたとき彼女が見せる少女性を描いた支援会話は、ベレト(=プレイヤー)がエーデルガルトを選び取った紅花の章を象徴する内容になっていると思います。

○ベレト・ヒューベルト

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 初っ端から命を狙っている発言をされた衝撃と、エーデルガルトと同じく紅花の章へ進んだ時”ヒューベルトを選び取った”という実感が強くあったためとても思い出深い支援会話の一つです。

 何と言っても忘れ難いのは、支援Bの最後にヒューベルトがベレトへ告げる言葉です。

「貴殿が優秀であればあるほど、私の警戒は増すばかりです。エーデルガルト様の役に立てばいいと以前は言いましたが……いささか役に立ち過ぎるようですな。貴殿は悪くないのですが。
くくく……お願いしますよ、先生。私は貴殿と殺し合いなど、ご免こうむりたいのですから」

  私は初めてこの支援会話を見たとき、「支援Bになってもまだ命を狙われているのか......」と戦々恐々としていました。初めてのお茶会を色々あってヒューベルトに挑むことになったり白鷺杯の代表にヒューベルトを選びだる絡みしたりどうもエーデルガルトやヒューベルトと通じている雰囲気の炎帝に誰よその男!?!?と騒いだり、生徒たちの中でもひと際ヒューベルトと学校生活を楽しんでいる気分だっただけに炎帝くんのことはそんなに信用しているのか!?!?先生のことはまだ命を狙っているのに!?!?と対抗意識を燃やしていました(後々振り返ってみるとヒューベルトが炎帝を信用しているのは当たり前なのですが)。

 しかしある日、ぼんやりとこの支援会話について考えていた時にベレト・ヒューベルト支援Bの会話の主旨はヒューベルトがベレトの命を狙っていることではなくヒューベルトがいざとなったら殺さなければならないほどの危険性をベレトから感じていながら、それでも「貴殿と殺し合いなどご免被りたいのですから」と口にすることなのではないか?と気づき、そこから唐突にヒューベルトって支援Bの時点でもしかして結構先生のこと好きなのか!?と思い至ってしっちゃかめっちゃかになりました。支援Cでは「エーデルガルトの害になるならば消す」「それが嫌ならどれほど役に立つのかを示せ」と言っていたヒューベルトが、支援Bでは先生がエーデルガルトの役に立つほどの力を持っていると認め、殺し合いは出来れば避けたいと思ってくれているのは、間違いなく絆が深まった証なのだと時間差で気が付きました。
 ヒューベルトなりの好ましさの表現に気づくのが遅れたのは彼の「くくく......」という暗黒卿笑いの怪しさに引っ張られて物騒さを感じ取ったせいかと思われるのですが、ヒューベルトは自分が他人に怖がられている、怪しまれていることすら自覚してああいう笑い方をしているんじゃないかと思うので、暗黒卿笑いに忍ばされた好意の言葉にすぐに気づけなかったのはしてやられた......という気持ちです。

 支援Aではベレトがエーデルガルトを守ると決め、主従と同じ道を歩むと決めた後ということもあり、二人は全幅の信頼を互いに寄せています。「自分が人の道理を外れたときはヒューベルトに後始末をしてほしい」「もしも命が二つあったならもう一つをあなたに預けるのも悪くはなかったかもしれない」と言葉を交わす姿には、一歩道を違えれば命を奪い合う関係になっていたかもしれない二人が命を預け合っても良いと思える関係を築けたことの得難さを感じます。

 余談ですが、私が紅花の章を遊んでいて特に胸がいっぱいになった場面は、ヒューベルトが炎帝の正体を明かすエーデルガルトへ「学校ごっこは終わりですな」と声をかける場面と、ベレトが「エーデルガルトを守る」の選択肢を選んだ後にヒューベルトから「貴殿の選択に、言葉を絶するほどの感謝を」と伝えられる場面です。

 「学校ごっこ」という言葉は一見すれば仲良く過ごしていた学校生活は茶番でしかなかったと級友たちと過ごした日々を蔑ろにする発言のように見えますが、実際には間違いなく楽しかった日々を惜しみそれでもこの日々を自分たちの手で壊さなければならない決意を伴った言葉です。このことはエーデルガルト・ヒューベルトの支援C会話を見れば分かります。

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 私は勝手にヒューベルトと過ごす学校生活を楽しんでいたつもりでしたが、ヒューベルトもまた士官学校での日々を楽しいと感じていたことを「学校ごっこ」の言葉から改めて感じ取れて嬉しかったです。そして、楽しい日々を一緒に過ごした二人と共に覇道を行く選択をしたとき、彼らを選び取ったプレイヤーの選択に贈られるヒューベルトの感謝の言葉が、選択肢によって物語が変わるゲームに弱い心に深く刺さりました。そういったゲーム体験もあり、初めは警戒心から殺意を向けていたヒューベルトと殺意を向けられていたベレトが絆を深め信頼を結ぶこの支援会話が大好きです。


○ベレト・ベルナデッタ

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 こちらもゲーム体験の話になるのですが、自分が初めてベレトの笑顔を見たのがこの支援会話だったため思い出に残っている会話です。ベレトは口数が少なく表情の動きも少ない、自分で名前を変えられる主人公によくある性格なのですが、生徒たちと学校生活を送るうち少しずつ実父のジェラルトでも一度も見たことがなかった笑顔を見せるようになります。その笑顔を初めて見て、ベレトからベルナデッタへの優しさを感じ取りとても好きだなと感じたのが非常に印象的でした。

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 また、ベルナデッタと他の人の支援会話はその多くが引きこもりかつ人見知りのベルナデッタが相手の言動に悲鳴をあげ、支援Cではほとんどまともに会話が成立せず、少しずつ距離を縮めていき最後には良好な関係を築くといった内容が多いのですが、ベレトとの支援会話は流れが少し違っているのも印象に残った理由の一つです。
 ベルナデッタはベレトについて、次のように話しています。

「初対面の時は部屋の隅で顔を見ないようにしてましたよ! ちゃんと話すようになってからは、不思議と怖く感じたことはないんですけど」
「なぜなんでしょうねー。平気だった人って、先生がほとんど初めてなので、理由はちっともわからないです」

 ベレトは先述した通り口数が少なく、落ち着きのある性格です。そんなベレトに、一人でいるのが一番良いと引きこもっているベルナデッタが安心感を覚えるのは何となく納得がいきます。反対にドロテアとの支援会話では、そういったベレトの性格が「意味ありげな視線が心を見透かしているようで落ち着かない」と評されているのも面白いポイントです。
 また、この支援会話ではベルナデッタがどうして引きこもりになったのか、の話がされます。この話をする時も「なぜそんな引き籠もりに?」と単刀直入に尋ねるベレトへ「えっ、それ聞いちゃいますか。まあ先生なら良いですけど」と言いよどむことなく話を始めるベルナデッタからベレトへ感じている居心地の良さが感じられます。

 支援Aではベレトがベルナデッタに対して付き合いが長くなったが故のからかい交じりの対応をしていて、楽しそうな二人の会話が見られるのがとても好きな点です。「見知らぬ人や場所に耐え切れなくなって、騒いだりすることも減った」と話すベルナデッタに「ならば今度は知らない街へ一人で……/ならば今度は自分たちとは別行動で……」と言ってみたり、「先生がついて来てくれるって言うなら、どこでも行けそうな気がするんですけどね」と好意を示すベルナデッタに「後ろからこっそりついて行こう/心だけ参加で/他の先生に頼んでおこう」と三つも選択肢があるのにまともにベルナデッタについて行く答えが一つも無かったりとこの会話のベレトはいつになく相手をからかうのを楽しんでいるように思います。

 このように、初めは関わり始めたばかりの相手との会話にパニックになることの多いベルナデッタがベレトに安心感を覚え落ち着いて話をしているところ、ベレトが口数こそ少ないながらも確かに持っている感情を分かりやすく表に出すところが最初から最後まで二人の会話から感じられて、非常に好きな支援会話の一つです。


○エーデルガルト・カスパル

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 初めに書いた通り私が黒鷲の学級を選んだ切欠はエーデルガルトとカスパルに惹かれたからなのですが、考え方の異なる二人が対話を通してお互いの価値観を知り、認め合い、好ましく思い合う支援会話を、特に好きな二人というのを差し引いても素敵だと思った会話です。

 エーデルガルトはカスパルの努力家な面を評価していると同時に、貴族の家に生まれながら次男であるが故に地位や財産を引き継げないカスパルを貴族制度の被害者だと感じています。これは、身分や出自に関係無く能力のある者が評価される社会を作りたいと考えている彼女の思想を考えれば納得できる考え方です。
 しかし、そんなエーデルガルトにカスパルは次のように答えます。

「貴族とは難儀なものだわ。すべてを継ぐ者に苦しみがあれば、何も継げぬ者にもまた苦しみが……」
「はあ? 何言ってんだよ。オレは別に苦しんじゃいねえって。オレの未来はオレが切り拓く。何も継がねえことのどこに苦しみがある? 何でも自分を基準に考えるのが、エーデルガルトのよくねえとこだよなあ」
「っ……カスパル? その言い方……喧嘩を売っているのかしら?」
「いや、そういうつもりは全然……。あ、でも喧嘩なら受けて立つぜ!」
「はあ……。カスパル、私は喧嘩したいわけではないの」

 この会話の時点で既に二人の好きなところが沢山含まれているのですが、まず「何も引き継げない」ことを「自分で自分の未来を切り拓く自由がある」と捉え悲観的に捉えていないカスパルが本当に好きな点です。また、「何でも自分を基準に考えるのが、エーデルガルトのよくねえとこだよなあ」と直截な物言いをして一触即発の空気になるかと思わせつつも、「喧嘩を売っているのかしら?」と言うエーデルガルトに「いや、そういうつもりは全然」と素直な返事をして、険悪になるのを回避しているのもカスパルの性根の明るさや善さが出ていて大好きなところです。

 「喧嘩なら受けて立つぜ!」と的外れな答えを言うカスパルに対する「私は喧嘩したいわけではないの」というエーデルガルトの返事もとても好きな部分です。この返事には、カスパルの返事が的外れであるのを指摘する意味と同時に、「私はあなたと対話がしたい」といった意味も含まれているような気がして、異なる考えを持つ二人の会話がそれでも行き止まりに突き当たらずこの先も続いていくだろうと思わせられる支援Cならではの内容になっていると思います。

 二人はカスパルのお家騒動の話やこれからの社会の話を通し、支援Aで改めて互いの人柄を見つめ合います。特にここでのエーデルガルトからカスパルへの所感は、カスパルというキャラクターへの評価として作中でも個人的に特に好きなものになっています。

「私はね、貴方のことをずっと犠牲者だと考えていたのよ。優秀で努力家なのに、自分より劣る兄がいるせいで、何も得られない貴族の次男……要らぬ努力をさせられ、それでもめげずに戦い続けている者。腐った貴族制度を壊してしまえば、貴方を救えると思っていた」
「だけど、私の考えは、間違いだとわかった。私の思い込みだったわ。貴方は……自分で選んで、その生き方を貫いているのね。単純に努力が好きで、強くなることが好きで……そして諦めることを知らない。そんな純粋な人がいるなんて、私は思いもしなかった」

 また、カスパルもエーデルガルトへ支援Cで「よくないところ」を伝えたのと対照的に支援Aでは「よいところ」を伝えます。

「オレにだって、あんたみてえな生き方はできねえ。それに、あんたのほうがすごい。どんなもの背負っても、下向かねえで、どんなしがらみだってぶっ壊していく。それと実は……ついさっき、あんたを見直したぜ」
「あんたもあんたなりに悩んで、間違いに気づいたりするんだなって」

 カスパルの何にも囚われず自分で自分の生き方を選び進んでいく力強さ、エーデルガルトの多くの物に囚われながらそれを打ち壊して前に進んでいく凜とした強さは、二人の大きな魅力です。また、エーデルガルトはこの記事では取り上げていないリンハルトとの支援会話やベルナデッタとの支援会話でも級友との交流を通して自らを省みる場面があり、そうやって自分の間違いに気づき正せるところも彼女の素敵なところで、そこに触れているのも好きな部分です。

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 二人の支援会話は、エーデルガルトの「私たちの未来……切り拓きなさい、カスパル」という言葉で締めくくられます。これは、支援Cでカスパルが言っていた「オレの未来はオレが切り拓く。何も継がねえことのどこに苦しみがある?」に重ねられた言葉です。エーデルガルトが考えもしなかったカスパルの生き方を彼女が理解し好ましく感じたこと、プレイヤーの選択次第では分かたれていたかもしれない二人の未来が同じものであることの尊さが感じられる終わり方になっています。


○エーデルガルト・ペトラ

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 帝国の次期皇帝、属国の次期国王としての二人の対話が良質な支援会話です。ヒューベルト・ペトラの支援会話で触れられていますが、ペトラは留学生として士官学校に通っているものの、その実態はかつて反乱を起こした属国が二度と逆らわないようにするための人質です。

「わたし、幼い、でした。……恐ろしい、体験、する、します。祖父、突然、わたし、命じました。フォドラ、行け、と。覚悟なく、見知らぬ土地、見知らぬ人の中、放り出され、珍獣の扱い、受けました」
「そうでしょうな。客人とは言っても、実のところは人質。ブリギット諸島が再びダグザと手を組んで、帝国に攻めてくることがないようにと……ブリギットの王たる貴殿の祖父を脅して、貴殿を帝都に連れてこさせたのですから」

 ペトラはそんな自身の境遇を理解し、王として帝国との関係を改善し、属国ではなく一つの国同士として対等に付き合える未来を目指して努力しています。エーデルガルトとの支援会話でペトラを気遣うエーデルガルトに、頻りに「心配しなくていい」と伝えるのは、そういった帝国と対等に付き合いたい思いがあっての事だと思います。

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 また、ペトラはエーデルガルトへ「貴方は何かもっと大きい野望を持っているのではないか。自分を気にかけている場合ではないのではないか」と伝えます。この野望とは、エーデルガルトが皇帝となり教会に戦争を仕掛け、社会の仕組みを変えようとしている事にあたります。ペトラはそんなエーデルガルトの状況を、「一本の矢、二羽の鳥、射止められない」とブリギットの格言を持ち出して表現します。一本の矢とはエーデルガルトで、二羽の鳥とはフォドラの仕組みを変えるという野望と、属国であるブリギットです。

 自身が野望を抱いているとペトラに見抜かれていると知ったエーデルガルトは、しかしペトラの言葉に力強く返事をします。

「私はエーデルガルトよ。他の誰でもない。誰もできぬことを、成そうとしている。そのためなら、一矢で二羽だろうと三羽だろうと射止めてみせるわ。ペトラ、気遣いが無用だと言うなら、貴方がその力を見せなさい。矢に射止められる鳥でなく、貴方自身が矢になるの」

 これは、簡単に言いかえるならば「属国の人質として気遣われるのではなく対等でありたいのなら、エーデルガルトに一本の矢で射止められる鳥の側になるのではなく、エーデルガルトと同じく手段をもって野望を成す側であると行動で証明しなさい」と言っているのだと思います。ペトラの気遣いは要らないという姿勢が、属国ではなく一つの国として帝国と対等に付き合いたい思いから来ていることを理解した上での的を射た言葉です。

 そして支援Bで、ペトラは実際に一本の矢で仕留めた二羽の鳥を用意して、エーデルガルトを仲間として見つめ続けて学び取った思いについて話します。

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「あなた、言葉どおり人、です。皇帝として、指揮官として、戦士として……そして、仲間として。すべて、こなします。あなた、帝国のすべて、背負います。もちろん、ブリギット、関わることも。
わたし、負けません。ブリギットのすべて、背負います。そして……いつか、あなたとわたし、向かい合う、立つ、握手、です。」

 級友として、仲間として、エーデルガルトの決意とそれに裏打ちされた行いを見てきたペトラは、そんな彼女と対等であるために頑張りたい、そしていつか武器ではなく握手を交わし合いたいと話します。そんな未来のために初めに見せた力が、一本の矢で仕留めた二羽の鳥だったのでしょう。支援Cでエーデルガルトが伝えた通り、ペトラは矢に仕留められる鳥ではなく鳥を仕留める矢となっているのが支援Bでは分かります。

 ペトラの言葉を聞いたエーデルガルトもまた、「今のペトラに気遣いは不要で、自分と同じ負って立つ者と認めざるを得ない」としてペトラを認めています。属国の人質だからと無下にせず、相手の実力を認め対等に向き合う様は、身分に囚われず実力ある者を評価するエーデルガルトが理想とする社会の在り方を体現しているように感じます。

 過去の因習や因縁を断ち切るとは、紅花で何度も語られるテーマです。エーデルガルトの教会を倒し紋章を無くすという野望は勿論、後述するカスパル・ペトラの支援会話でもそのような話がされています。そういった中で、帝国の皇帝エーデルガルトと属国の国王ペトラが互いの実力を認め対等で良好な関係を築く未来が示唆されているこの支援会話も、紅花で交わされることに大きな意義のある会話だと思います。


○ヒューベルト・フェルディナント

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 支援Aの途中までは黒鷲の学級で散見される異なる主義主張を持った人間同士の衝突と対話と認め合い、支援Aの途中からはぶっちぎりで様子のおかしい支援会話です。

 ヒューベルトとフェルディナントはキャラクター性こそ周りと比べてもだいぶ濃いものの、他人と無闇やたらに衝突するわけではなく言葉と思考を割いて付き合うことができる人です。特にフェルディナントは、初めて彼を見た時はもっと自信家で完璧なタイプの人かと思っていたので、様々な場面で自身の至らない部分を認め、省みて、その改善のために行動できる姿に意外性を感じると同時に好ましく感じました。そのため、お互いに非常に険悪な空気のヒューベルト・フェルディナントの支援会話には驚かされました。

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 ヒューベルトはエーデルガルトの従者として付き従っていて、フェルディナントはエーデルガルトのライバルを自称して彼女と張り合っています。そんな二人が衝突するのは然もありなんといった感じですが、それでも風花雪月の支援会話はどれだけ合わなさそうな性格や生い立ちの者同士の会話でも分かりやすく険悪な雰囲気のものが少ないため、やはりこの支援会話は衝撃でした。余談ですが、合わなさそうな性格のキャラクター同士を会話させるときただ険悪に喧嘩させるだけでなく、言葉を交わさせ様々なパターンで”合わない”関係性を描いているところは風花雪月のとても好きな点です。

 エーデルガルトに何かと張り合っているフェルディナントが、エーデルガルトに従者として付き従っているヒューベルトを「主体性が無い」と評するのは納得です。それと同時に、エーデルガルト・ヒューベルトの支援会話やヒューベルト・ドロテアの支援会話を見ていればヒューベルトがただ盲目的にエーデルガルトに従っているわけではないと分かるのも、支援会話システムの醍醐味だと思います。

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 ヒューベルトとフェルディナントのいがみ合いは学生時代の間ずっと続き、果てには五年後にも同様にいがみ合っていると支援Bで分かります。主人公が眠っていた五年の間、ずっと互いの気にかかる点に口を出し、応戦して......を繰り返していたのかと思うとそれはそれで逆に仲が良いのでは?という気もしてきます。

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 こうして五年後も諍いを起こしているヒューベルトとフェルディナントですが、二人が何の進展もなくただ喧嘩し合っていたわけではないのがフェルディナントの「君の手腕や従者としての器量を、ようやく認めてやる気になっていたというのに!」という言葉から分かるのも好きな点です。実際に、支援会話の進行度によって変化する食堂で一緒に食事をしたときの特殊会話でも、支援Cでは隠す気もなくいがみ合っていたのが支援Bでは「決着は先生のいないところでつけよう」と合意を取り合っているなど成長が見られます。

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 そして支援Aでは、他の支援会話と同様にお互いの自分とは異なる良い点を伝え合い、言葉通り主人公のいない場所で決着をつける二人が見られます。

「貴族として、常に貪欲に成長を望み、知識を入れ、壁を乗り越えんと切磋する。普通なら回り道したり、諦めたりする場面でも、貴殿は止まらない。なかなか真似できることでは、ありませんよ」
「ヒューベルト? ど、どうしたというのだ? 風邪か? いや、もしや危篤か!? 私は君の遺言など聞きたく……」
「私は、自分の判断に感情を挟まない。それだけのことですよ。たとえ貴殿を苦々しく思っていても、それと貴殿の評価とは別の話ですから」
「……すべて理性的に判断するからこその、絶対の忠義、絶対の自信というわけか。君への認識を……また、改めねばならないようだ」

 余談ですが、この会話はヒューベルトとフェルディナントが互いを認め合う部分のほか、フェルディナントが自分を褒めるヒューベルトに対してさりげなく「私は君の遺言など聞きたくない(=死んでほしくない)」と言いかけているところが個人的にとても好きです。

 先述したように、どれだけ心を折られる状況になっても己を省みて行動に移し真っ直ぐに前進できるところはフェルディナントの美点であり、全てを理性的に判断し盲従ではない絶対の忠誠を成しているところはヒューベルトの美点です。それをお互いに認め、仲間同士として信頼を築く二人の姿は、帝国の明るい未来を感じさせられます。ヒューベルト・ハンネマンの支援会話で「皇帝と宰相の権力争いが続いている状態が改善されれば良いのだが」といった話が出ているのを鑑みても、皇帝の側近であるヒューベルトと宰相の息子であるフェルディナントがお互いを認め合うことには大きな意義があると感じます。

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 ここまでは主義主張、人生観のぶつかり合いがよく起きている黒鷲の学級での支援会話でよくある流れです。しかし、次のフェルディナントの言葉から状況は一変します。

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 なんか流れ変わったな......

 何故か赤面するフェルディナント。褒め言葉をしたためた手紙を要求するフェルディナント。「億が一その機会があれば次は手紙を書きますよ」と返事するヒューベルト。それは俗に言うラブレターでは?と全てに置いて行かれるプレイヤー。そして何とまだ続きが残っている支援会話。ヒューベルトとフェルディナントは色んな相手と支援Aまでの支援会話がありますが、支援A+まで会話があるのはこの組み合わせだけです。特にフェルディナントは方々の女の子と運命的な恋のメロディーを響かせまくっている全身フラグ人間であるため、それに負けず劣らずのヒューベルトとのロマンチックなやりとりにプレイヤーはただただ戸惑います。

 そしてこのやりとりの続き、支援A+で交わされる会話がこちらです。

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 この二人ずっと少女漫画してる......

 引き続き何をどうして赤面しているのか分からないフェルディナントに困惑するプレイヤーを置き去りにしながら、二人はお互いがお互いに贈り物をするため普段口にしない飲み物を持っていたのだと話します。

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 なにわろとんねん!!!! こら!!!!

 ヒューベルトって他人との会話で赤面することあるんだ!?という思いや何で贈り物をし合って赤面し合ってるんですか?という思いや初めのとんでもないギスり合いはどこにいった!?という思いを何もかも置いて行き、二人が仲睦まじくお茶会の準備を始めて支援会話は終わります。我々は何を見せられたんだ......? 改めて記事を書きながら二人の支援会話を見直しましたが、何がどうしてこうなったのかは未だに分かりません。でも本人たちが楽しそうだから......いっか......!

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 因みに私のセーブデータではこの二人が無事ペアエンドを迎えました。お幸せに。


○ヒューベルト・カスパル

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 皇帝エーデルガルトに従者として付き従いその仕事を楽しんでいるヒューベルトと、貴族としての責務を重んじて日々研鑽しているフェルディナントは「成すべきことを成す人」です。反対に生まれや家柄に囚われず自分の未来を自分の努力で切り拓くカスパルと、興味がある物事の研究には比類の無い才能を発揮しつつそれ以外では眠りこけているリンハルトは「成したいことを成す人」です。こういった価値観の違いから、この二組は支援会話でよく価値観のぶつけ合いをしています。ヒューベルト・カスパルの支援会話もその一つです。

 二人の支援会話は、カスパルが戦闘中に出す大声にヒューベルトが苦言を呈する場面から始まります。

「……貴殿は攻撃の合間にしきりに叫ぶのが癖になっているようですが……」
「ああ、そのほうが勢いがつくからな。それがどうかしたか?」
「仮に戦場で同じように声を出したとしましょう。それを聞いて次の行動を読む敵が現れる可能性は高いですし……突然の大声に驚いた味方が、武器の扱いを間違えたらどうしますかな。隠密行動の時に思わず声を出してしまい、敵に察知されることさえ起こり得る」
「いや、流石にオレだってそんな真似はしねえよ! 出す時は出す! 出さない時は出さない! 切り替えるっての」
「カスパル殿……実戦では訓練以上のことはできません。いざ戦いとなれば、皆必死になります。自然と声も出てしまうのですよ」

 「大声を出した方が勢いがつくから」と精神的な面での利点を挙げるカスパルに対し、「戦場で大声を出せば敵に気づかれ行動を読まれる危険性があり、大声で味方を驚かせる危険もある。隠密行動で思わず声を出してしまうことさえあるかもしれない」と論理的に欠点を挙げるヒューベルトの会話は、二人の思考回路の違いを如実に感じさせます。

 ヒューベルトの「実践では訓練以上のことはできない」という言葉も真理を突いていて、とても彼らしい意見だと思います。私には戦争で戦うため訓練をした経験はありませんが、たとえば普段勉強していて出来ること以上の成果は本番の試験ではあげられないと置き換えると身に染みる言葉です。それに対するカスパルの反論が「うるせえなあ! できるったらできるぜ! 見てろよ?」と理屈の欠片も無い物なのも、カスパルらしくて大好きな点です。

 支援Bでは、ヒューベルトに大声について注意された後のカスパルの姿を見られます。

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 支援Cでヒューベルトの注意を無視していたように見えたカスパルは、実際に戦闘で失敗した事実を受け止めて反省しようとしています。理屈で物事を考えることの多いヒューベルトに対し、体を動かして理解を得ようとするのがカスパルですが、体を動かした上でヒューベルトの理屈に基づいた注意が正しかったと分かったならただ反抗するのではなく言われた通り大声を出すのをやめようとするのが、二人の思考の違いとカスパルの素直さを感じられる点です。

 そんなカスパルに対し、ヒューベルトは支援Cの時と一変して「大声を出した方がいい」と話します。

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 ここでもまた、ヒューベルトが「利点と欠点を比較した結果、大声を許容する」と論理的に話しているのに対し、カスパルは「大声を出した方が強いんだもんな!」と感覚的な答えを返しています。実際にカスパルは、「やっぱ何も考えない方がいいよな、オレは!」と自分の感覚的な思考を自覚しています。自分は理屈で物を考えるのに向いていない、と自覚しているのは、カスパルの頭が良いわけではないが決して頭が悪くもない点です。本当に頭が悪い人は、自分が理屈で物を考えられていないことに気づくことすらできません。

 このように、ヒューベルト・カスパルの支援会話では論理的な思考のヒューベルトと感覚的な思考のカスパルが衝突を経て、その上でお互いがお互いの思考を変えることはないまま仲間として共に戦うまでが描かれています。支援Bでヒューベルトの「特に貴殿が率いる兵たちは……もはや貴殿の大声なしでは使い物になりません」という(ヒューベルトにとっては)何気ない物言いにカスパルが「使い物にならないって、その言い方はねえだろ、おい!」と怒るなど、心から互いの価値観を受け入れ合う仲には至らない二人ですが、そうして違う考え方の二人が肩を並べて同じ戦場で肩を並べて戦えると示唆されている点に、様々な価値観の人たちが言葉を交わす支援会話システムの良さが現れています。支援Bで止まる関係性が、必ずしも中途半端で悪い物ではないこと、支援Aより劣る関係性ではないと思える支援会話の一つだと思います。


○フェルディナント・リンハルト

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 先述したヒューベルト・カスパルと同様に「成すべきことを成す」人と「成したいことを成す」人のぶつかり合いが見られる支援会話です。

 リンハルトは帝国貴族にあたるのですが、普段の会話から見られる通り興味のある分野以外にはとことんやる気が無く昼寝を好んでいます。対してフェルディナントは、帝国貴族としての責務を重んじて、どんなことにも全力で向き合う人です。このような二人の支援会話は、当然と言うべきかフェルディナントがリンハルトを正しき貴族として生きるための鍛錬に誘う場面から始まります。そして更に当然と言うべきか、リンハルトはフェルディナントの誘いを上手く躱して昼寝に向かいます。

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 ここでリンハルトの言う「貴族の中の貴族」という言葉にフェルディナントはとても嬉しそうにするのですが、実際にエンディングを迎えた後のフェルディナントがエンドロールで「貴族の中の貴族」と称号を得ているのが、フェルディナントのきっと本編後も続けられたのだろう絶え間ない努力が垣間見られて好きな点です。

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 話が少し逸れましたが、フェルディナントとリンハルトの会話は当然なかなか噛み合いません。こういった二人の考え方の違いは、どことなく論理的な考えと感覚的な考えがなかなか噛み合わないヒューベルト・カスパルの支援会話が思い起こされます。
 しかし、ヒューベルト・カスパルの支援会話同様、フェルディナント・リンハルトの支援会話も一つの歩み寄りの形を見せます。

 引き続きリンハルトを鍛錬へ誘い続けるフェルディナントに、リンハルトは本気の相手に応えるため本気で走って逃げ出します。結局リンハルトはフェルディナントに捕まるのですが、お互いに疲れたため休憩しながら、二人は会話を交わします。

「……それにしても、君は意外と速く走れるのだね。本を読んでばかりで体が鈍っていると思っていたが、この私が追いつけないとはな」
「面倒事から逃げてばかりだったしね。それで足が速くなったのかも。だけど君の脚力もたいしたものだったよ。流石、鍛えている貴族は違う。久しぶりに本気で走ったし、何だか気分がいいなあ」
「ふっ、そうか。今日のところはこの逃走劇を、君の鍛錬ということにしておいてやろう。さて……私はもう少し走り込むよ。次こそ君に追いつけるようになるためにな!」

 本気で走ったことを「気分が良い」と言うリンハルトにフェルディナントが微笑む点、フェルディナントがいつもそうしているように全力で何かに取り組んだことを「気分が良い」とリンハルトが評する点が、異なる考えを持つ二人が歩み寄っている点です。更にリンハルトは、何事にも全力で向き合うフェルディナントに対して「全力なことは悪くなんてないよ。君を見ると、心からそう思える」と話します。

 支援Cでも、二人は似たようなやりとりを交わしています。

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 非常に似ているやりとりですが、支援Cでのリンハルトの「全力なのは悪いことじゃない」は鍛錬の誘いから逃げるため並べた褒め言葉の一環として描写されているのに対し、支援Bでの「全力なのは悪いことじゃない」は二人が築いた絆の結論として描写されています。これは”支援Cの時点からリンハルトはフェルディナントの全力で取り組む姿勢を心から悪いものと思っておらず、それは支援Bでも変わらない”とも、”支援Cではそれらしく並べていた褒め言葉の一つが、共に過ごすうち本心からの褒め言葉になった”とも捉えられる部分ですが、私は支援Cでは見られなかった支援Bでのリンハルトの心からフェルディナントの姿勢を良いものだと思う声と笑顔が好きなので、どちらかと言えば後者の表現かな、と理解しています。

 貴族としての責務を重んじて何事にも全力で取り組めるところはフェルディナントの美点で、自分と違って何事にも全力で取り組む人を馬鹿にせずその姿勢を心から良いものと思えるところはリンハルトの美点です。きっとリンハルトは今後も貴族の責務を重んじたり、興味が無い事にも全力で取り組んだりはしないだろうと思いますが、どこまでも異なる生き方の二人の良さと二人の築いた絆が感じられる点で、こちらも支援B止まりながら、支援B止まりだからこそ好きな支援会話です。

 また、ヒューベルトとフェルディナント・カスパルとリンハルトの二組は互いが互いに支援B止まりであり、似た思考の二人同士は支援Aまであるという構図になっていますが、ヒューベルトやフェルディナントに近しい「成すべきことを成す」思考のエーデルガルトはカスパルやリンハルトとも支援Aまであるのが面白い点です。

 彼らの親世代の話になりますが、ヒューベルトとフェルディナントの父は反皇帝派、カスパルとリンハルトの父は親皇帝派とこの二組は親世代でも対立している関係です。

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 そんな親世代の子どもをとりまとめる新しい皇帝のエーデルガルトが、ヒューベルト、フェルディナント、カスパル、リンハルトの全員と支援Aまであるのは、先述した皇帝と貴族の権力争いの連鎖が断ち切られる事を意味しているように思います。その意味でもこの五人の支援会話がB止まり、Aまである構図が私は好きです。


○リンハルト・カスパル

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 「成すべきことを成す」ヒューベルトとフェルディナント、「成したいことを成す」カスパルとリンハルトは思考が異なる者同士の支援がB止まりであるとは先述しましたが、その上で噛みしめたいのがカスパル・リンハルトの支援会話になります。

 カスパルとリンハルトは「成したいことを成す」点では確かに共通していますが、カスパルは体を動かすタイプであるのに対してリンハルトは頭を動かすタイプです。一見全く反りが合わないのではと思われますが、予想に反して二人は長年の付き合いを重ねた幼馴染です。その二つの要素が感じられるのが支援Cでの会話になります。

「君はどんどん父親に似てくるね。昔、君の父親に会った時、無理やり訓練に付き合わされそうになったのを思い出すよ」
「確か、お前の親父が、私の息子に何をする!って激怒して喧嘩になったんだよなあ」
「ああ……あの二人、ずっと仲が悪いよね。いい大人がまったく何をやってるのか……」

 こちらは二人の付き合いの長さがしみじみと感じられるやりとりです。「あの二人、ずっと仲が悪いよね。いい大人がまったく何をやってるのか......」というリンハルトの言葉から、さりげなく逆説的にカスパルとリンハルトは仲が良いと分かるのが地味に好きな点です。

「力で相手をねじ伏せた方が勝つ! それが喧嘩だぜ!」
「勝負を決めるのは腕力だけじゃないさ。上背がある人は総じて手足が長いからね。手足が長いと、攻撃できる範囲も広くなり、脚力も増し、拳や足先にも力を込めやすい。さらに背が高いと体重も多く……、ああ、まあ、いいや。十分わかったよね?」
「いや、さっぱりわかんねえ。手足の長さなんて近づいちまえば……」

 こちらはカスパルの感覚的な思考、リンハルトの論理的な思考がよく分かるやりとりです。カスパル・ヒューベルトの支援会話を思い起こしても、やはり二人は気が合わないのではないか?と感じられます。
 しかし、カスパル・リンハルトの支援会話が支援Aまである理由は、支援Bでの会話で明らかになっていきます。どうしても身長が高い相手に勝てないカスパルは、リンハルトに勝つための策を教えてもらいます。

「まず、君が得意な先制攻撃、そして連打、こういったものをすべて我慢しよう。相手の攻撃を避け、受け流し、耐え続け……そして必殺の一撃で急所を突くんだ。背が高いということは内に入り込めば、逆に有利になる。その隙を見つけるんだ」
「なるほど! ……オレには向いてねえな」
「じゃあそのまま負け続けていなよ。これしかないし」

 カスパル・ヒューベルトの支援会話がヒューベルトの「私がしっかりと手綱を引いてやりますか」という言葉で締めくくられていることからも分かる通り、ヒューベルトからカスパルへの論理的な提言は主にカスパルを一人の兵として上手く動かすために成されています。それに対して、リンハルトは長い付き合いのある”カスパル”個人を見て得意・不得意を分析し、彼が願う勝利を手に入れるための手助けをしています。これはどちらが悪いわけでもなく、ただヒューベルトとカスパルの関係の形と、カスパルとリンハルトの関係の形が違っているという話なのですが、カスパル・リンハルトの支援会話が支援Aまである理由は二つの関係を見比べれば何となく分かるのではないかと思います。

 また、支援Bではカスパルがリンハルトを特訓に誘うのですが、リンハルトはフェルディナントとの支援会話の時のように初めから逃げるのではなく、「はあ……適当なとこで逃げよ」と言って一応訓練場まではついて来て暫く鍛錬に付き合っています。この違いも二人の積み重ねた年月が光る部分です。

 そして支援Aで、カスパルはリンハルトの教えた策を実践し、自分より背の高い相手に見事勝利を収めます。

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 カスパルはリンハルトに「自分が勝ったところを見せたかった」と言っていますが実際はリンハルトはきちんとカスパルの奮戦を見ていた点、だけどリンハルトはカスパルに「ちゃんと見ていた」とは特に伝えない点が好きなやりとりです。そして二人は、的確な助言をする賢さ助言を実行した弛まぬ意思をお互いに最高だと褒め合います。

 この支援会話で特に好きなのは、自分と正反対に見えるカスパルに対してリンハルトが「......ああ、そうだね。君はそういう奴だ」と微笑んで言うところです。
 黒鷲の学級関連の支援会話はお互いの主義主張や価値観のぶつけ合いと衝突を経た認め合いが多いとは既に話したところですが、それは要約すれば「あなたはそういう人だ」と自分と違う考えを持つ相手を認める会話だと言えます。カスパル・リンハルトの支援会話も例に漏れずそういった内容の会話です。
 そして、この二人の素敵な点は、様々なものが異なっているお互いを「あなたはそういう人だ」と認めながら、カスパルはカスパルのまま、リンハルトはリンハルトのままで居心地良く一緒に生きていける点です。この二人は凹凸が綺麗に噛み合っているのかと言えば、恐らく別にそうではありません。カスパルはリンハルトを苦手な鍛錬に誘いますし、リンハルトはカスパルの話の途中で寝ます。異なる正義を掲げる可能性もきっとあって、だからカスパルは支援Aで「オレたちの正義がぶつかることがあっても……オレたちは絶対に争わない。約束だぜ!」と言うのだと思います。

 互いに強く影響を与えて考え方を変えるわけではない、全てが噛み合っているわけでもない、それでも一緒に生きていけるのはカスパルとリンハルトの関係性の唯一無二なところです。黒鷲では特有の”幼馴染”という二人の関係性の描写がとても良い支援会話になっています。


○フェルディナント・ベルナデッタ

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 後々全身フラグ人間だと分かるフェルディナントに対し「フェルディナントってもしかしてかなり王子様気質なんじゃないか!?」と気づきを得た切欠の支援会話です。また、他人と接するのが苦手で悲鳴をあげていることが多いベルナデッタなりの物の考えに触れられたのが、新鮮かつ嬉しかった支援会話でもあります。

 二人の支援会話は、ベルナデッタ関連の支援会話ではお決まりの、あまり馴染みが無い相手に話しかけられたベルナデッタが大騒ぎする場面から始まります。フェルディナントは引きこもりのベルナデッタを外に連れ出そうとして、それに必死でベルナデッタが抵抗した結果フェルディナントが手首を捻る、というのが支援Cの流れです。

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 フェルディナント・リンハルトの支援会話でもそうですが、フェルディナントは自分と同じ貴族の人間が貴族の責務を果たせるようにと働きかけることが多いです。しかし当然ながら全ての貴族がフェルディナントと同じく貴族であることを責務と捉え、身分に相応しくあろうと努力したいわけではないので、リンハルトに逃げられたように熱意が噛み合わないことが多々あります。ベルナデッタとの支援Cも、「引きこもって立派な貴族になれないのをベルナデッタは恥じているだろう」と考えているフェルディナントと「自分が好きで引きこもっている」ベルナデッタのすれ違いが起こっています。

 更に、ベルナデッタは人の話をなかなか最後まで聞かないところがあるとエーデルガルト・ベルナデッタの支援会話で触れられています。

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 フェルディナント・ベルナデッタの支援Cでも、「少し落ち着きたまえ」と声をかけても「その顔は絶対怒ってます!」と思い込みでパニックになるベルナデッタへ、「ああ、聞く耳も持たないか」と難儀しているフェルディナントが見られます。各々の考え方の違い、そしてコミュニケーションの取り方がお手本のように衝突事故を起こしている、ある意味支援Cらしい会話です。余談ですが、フェルディナントの誘いに対してパニックになりつつも「絶対無理」「断固拒否」と嫌なものは嫌と力強く断るところに、ベルナデッタのただ気弱なのではなく寧ろ割と図太い性格が感じ取れるのが個人的に好きなところです。

 こうして盛大にコミュニケーション事故を起こした二人ですが、支援Bでは一転して穏やかに会話を交わします。前の項目でも何度か書きましたが、フェルディナントは自分の失敗を省みてすぐに反省を生かした行動をとれる人です。そのため、ベルナデッタは引きこもりを恥じているわけではないと気づいた彼は扉越しに対話を試みます。

「この前は勝手に話を進めてしまい、本当にすまなかった。私は君が引き籠もりを恥じていて、そこから抜け出したいのだと思っていた。だが、君の反応から察するに、それは間違いだったのだな」
「あ、あたしは、このままで、いいんです。いえ、このままがいいんです」
「……そうか。やはり君への理解が足りなかったようだ。それに、無理強いするつもりはなかったのだが……君をあれほど怯えさせてしまうとは。
貴族にあるまじき振る舞いだった……」
「そ、そうですね」

 ここで反省から謝罪を述べるフェルディナントに嘘でも「そんなことはない」と言うわけではなく「そうですね」と返すところに、またベルナデッタの肝の太さが感じられるのが好きな点です。

 ベルナデッタへの行動を反省したフェルディナントは、反省の余り「誇り高き貴族に相応しい言動が何一つできていなかった」「私が積み上げてきたすべてが崩れていく……」とネガティブな思考に陥ります。それに対して自分なりの考えで反論するのがベルナデッタです。

「あたし、引き籠もりが嫌ってわけじゃないですけど……それでも外に出なくちゃいけないことがあるのはわかってます。だから、少しずつ、外に出ることを積み上げて、生きてます」
「でも失敗しちゃった日は、やっぱり外に出られません。怖くて。でもでも、翌日はまた、頑張ります。それまでの努力は消えたりしないと思って」

 「引き籠もりが嫌なわけじゃない」というのはベルナデッタの言動を見ていて察していた部分ですが、「外に出なくちゃいけないことがあるのも分かっていて、だから少しずつ外に出る努力を積み重ねている」という考えはこの支援会話で初めて触れた部分でした。紅花の章は既存の社会を”このままではいけない”と打ち壊す物語で、紅花の章に分岐する可能性のある黒鷲の学級に所属しているベルナデッタもまた、好きで引き籠もってはいるものの必要な時には外に出られるよう(=現状を変えられるよう)努力している人なのだと分かります。

 こうやってベルナデッタは自分なりの考えを話しますが、最後は「ええと……その、何と言うんでしょう。はい。そんな感じです。おしまい」と何だか締まらない終わり方で話を締めくくります。この締まらなさもベルナデッタらしくて好きな部分で、この終わりにフェルディナントは「ははは! そこで話が終わるのかい。あはははは!」と笑います。
 フェルディナントは声高らかに笑うことが多いのですが、この時の笑い方はとても穏やかで、彼の気遣いの心や丁寧さ、優しさが滲み出たものになっています。この声を聞いて私はフェルディナントにどことなく王子様らしい気質を感じました。同じ笑い方一つとってもキャラクターの異なる側面を見いだせる、声優さんの技量を感じさせる台詞の一つだと思っています。

 支援Aでは、実は昔フェルディナントのもとにベルナデッタとの縁談話が来ていたとまるで少女漫画のような事実が明かされます。過去の縁談話を思い起こしつつ、二人は自分たちの出会いが親の取り決めた縁談ではなくこの士官学校で良かったと話します。

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 二人がそう思っているのは勿論、二人の交流を学生時代から見つめてきたプレイヤーからしても「あなたにここで出会えて良かった」というフェルディナントとベルナデッタの言葉は心に染みます。フェルディナントとベルナデッタの他人と衝突しがちなコミュニケーションの取り方を再確認しつつ、二人の内面の柔らかさや芯の強さに触れ、生徒たちが共に過ごした五年間のかけがえの無さを感じられる、支援会話として王道かつ好きな会話です。


○フェルディナント・ドロテア

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 グループ課題で初めて特殊会話を見つけた組み合わせであり、支援会話を追いかけるのがとても楽しかった組み合わせの一つです。貴族といえばRPGでは時に権力を振りかざす嫌味で無能な存在として描かれがちですが、フェルディナントがそういったキャラクターでないとはかなり序盤から感じ取っていたので、ドロテアがどうして彼を”貴族様”と呼んで嫌っているのかが不思議で続きが気になる支援会話でした。

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 ドロテアはフェルディナントを嫌っていますが、フェルディナントはグループ課題の特殊会話で「私は君に隔意は無い」と告げ、その上で「嫌われている理由が気になる」とも話しています。嫌われているからといって嫌い返すわけではない性根の良さと、それはそれとして嫌われている理由は気になるといった塩梅が何ともフェルディナントらしいと感じます。実際に支援Cでは、「良ければ嫌う理由を聞かせてほしい」とドロテアに直接尋ねる姿が見られます。

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 「蜜蜂のよう」とは二人の支援会話で最後までキーワードとなる言葉です。これを聞いたプレイヤーも、フェルディナントと一緒にこの言葉の意味を考えながら支援会話を読み進めていくことになるかと思います。フェルディナントはドロテアに「君が訳も無く人を嫌うとは思えない」と言いますが、実際に他の支援会話や普段の言動を見ていればドロテアが無闇やたらに身分だけで相手を嫌う人ではないとプレイヤーも分かるため、何故かフェルディナントを嫌う理由が一層気になります。

 なお、この後フェルディナントは「蜜蜂のよう」の意味について「役割を全うしている」と解釈するのですが、それは多分違うと思う......とプレイヤーからは何となく分かるところに可愛げを感じます。

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 支援Bでは、自分なりの解釈にもとづいて行動を起こしたフェルディナントと、少し彼を見直すドロテアの姿が見られます。
 「蜜蜂は巣を持ち、甲斐甲斐しく働く。つまり、安定した財産と家を持ち、努力する貴族なのだと私は考えた。ならば、何も持たないところから、何かを始めれば……君も見直すのではないか。そう思ったのだ」と言い、フェルディナントは自分の腕一本で材料を集め、慣れない料理をして作り上げた焼き菓子をドロテアに見せます。
 初めは信じがたい顔をしていたドロテアですが、フェルディナントが手に負っている火傷を見て彼が本当に自分の力だけで焼き菓子を作ったのだと気づき、彼への印象を少し改めます。最後には「貴方は、今も蜜蜂に見えるわねえ」と言うものの、この支援B以降の食堂やグループ課題の特殊会話は、支援B以前に比べてかなり態度が柔らかくなっています。

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 そして「蜜蜂のよう」の意味が明らかになるのが、支援Aの会話です。貴族の子息が多い黒鷲の学級で、ドロテアが何の後ろ盾も無い平民であり安定した将来のため結婚相手を探していること、何も持たない自分自身を嫌っていることは各所で語られますが、孤児時代のドロテアの暮らしが詳細に話される会話の一つがこの支援会話になります。

「私が孤児だったのは、どうせ知ってるでしょ? 貴族街の裏通りで施しを乞うたり、残飯を漁ったりして飢えを凌ぐ毎日だった」
「やはりそうなのか……。浮浪孤児、何度か見かけたが……」
「その後マヌエラ先輩に見出されて、私は歌姫になったの。歌姫の私に対する貴族たちの態度は、それはそれは素晴らしいものだったわ。私に唾を吐きかけた貴族たちが、その口で私の歌と見目を褒めるの。私を蹴り飛ばした貴族が、美しい靴を私に贈るのよ。本当に滑稽だった」

 孤児に対して酷い態度をとる貴族が、見目の違いだけで態度を一変させる様を見たこと。それがドロテアの貴族を嫌う理由です。ここで浮かぶのは何故そんな貴族とフェルディナントを同一視したのか?という当初の疑問でしょう。フェルディナントが人の見てくれで態度を翻すような人でないとは、二人の支援Aが解放される五年後までゲームを遊んだプレイヤーにも分かっているかと思います。

 ここからフェルディナントはまたしても少女漫画パワーを発揮して、実は子どもの頃ドロテアとフェルディナントは一度会っていた事実が明かされます。

「あれは、歌姫になることが決まった日……私、浮かれてたわ。少しでも汚れを落としておこうと、街の噴水でこっそり水浴びして……歌いながら、はしゃいでた。そこに貴方が現れたのよ」
「わ、私が……!? いや、まさか、それは……」
「やっぱり心当たりあるんでしょ。貴方は、私を睨んで、すぐに走り去った。次に学校で会った時には、貴方は別人のような笑顔で、私に話しかけてきた。花に群がる、蜜蜂のようにね。蕾の頃は見向きもしなかったくせに」

 ドロテアの言う「蜜蜂のよう」とは、蕾と花に対して態度を変える人間の姿を現しています。歌姫として輝かしい舞台に立っても、孤児の自分と歌姫の自分に対して大きく態度を変える貴族たちに、彼女は辟易としていて心の穴も埋まらなかったのではないかと察せられます。このことは後述するドロテア・シルヴァンの支援会話でも語られています。

 ここでフェルディナントは、かつてドロテアと出会った時のことを思い出し、あの時自分はドロテアを睨んでいたのではなく見とれていたことを明かします。普通に聞けば言い訳にも聞こえかねないその言葉をドロテアが信じられたのは、自分の力だけでお菓子を作るフェルディナントを見たからで、偏にフェルディナントの自分を省みる気持ちと真摯な努力が実を結んだ結果です。

 また、支援Aではずっと二人を隔てていた「蜜蜂のよう」という言葉が締めくくりとして使われます。

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 ”蕾に見向きもせず花にばかり群がる蜜蜂のように、外見で人への態度を変える滑稽な人間だ”と嫌悪の意味で使われていた「蜜蜂のよう」という比喩は、二人が絆を築いた結果”あなたを献身的に守りたい”と好意を示すものに変わります。一人の人間同士が絆を深める会話としては勿論、一つの小さな物語としても好きな支援会話です。


○カスパル・ペトラ

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 どの支援会話でも明るく楽しそうなカスパルが、重い業に向き合う姿がとても印象的だった支援会話です。また、ペトラの抱える複雑な思いとその上で彼女が出している結論に胸を打たれた会話になります。

 二人の支援会話は、支援Cでいきなり衝撃の事実が明かされます。それは、カスパルの父親がペトラの父親を殺した張本人であるというものです。カスパルの父親が軍務卿であり、ブリギットが帝国へ反乱を起こした戦争で敗北したことを組み合わせれば想像できるかもしれない因縁ではありますが、それでもやはり初めてこの話を見た時は驚かされました。

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 エーデルガルト・カスパルの支援会話でも触れたように、カスパルは家柄によるしがらみに縛られていない、とても自由な人です。自分の生き方は自分で定め、己の力で未来を切り拓くと決めています。そんな彼が、親同士の因縁に向き合い苦悩する会話があることが意外でした。

 支援Cではカスパルの話を聞いたペトラが黙って走り去ってしまいますが、ペトラ側の思いに触れられるのが支援Bです。

「オレの親父が、お前の親父を殺したんだぜ? 親の仇とよく一緒にいられるな! ほんとは憎いんじゃねえのか? オレのことだって気に入らねえだろ?」
「……わたし、何も、思う、ありません。あなた、仇、違います。親同士、因縁、ありました。けれども、わたしたち、子供、無関係。だから、あなた、気にしない、です」
「気にしないったって……。オレにはできねえよ……」
「する、しなければ、なりません。親の因縁、子、継がない。もし、継ぐ、わたしたちの子孫、未来永劫、殺し合います。それ、望みです?」

 紅花の章が既存の社会を変え、犠牲を生み出している因習を打ち壊す物語だとは既に語ったところですが、それと似た話をこの支援会話のペトラもしているように思います。過去の因縁を絶ち、親は親、子どもは子どもとして関係を築かなければならないと語るペトラの姿は、彼女が黒鷲の学級に所属していることに深い納得を感じさせます。

 それと同時に、「私たち子どもは親の因縁を受け継ぐべきでない」と話す時のペトラの声は、強い感情を押し殺したようなものになっています。この声を聞いただけで、ペトラはきっと心の底から親同士の因縁を割り切れているわけではないんだろうとも察せられます。ただ文章をなぞるだけでは分からないキャラクターの感情の機微が伝わってくる、声優さんの手腕に舌を巻く台詞の一つです。

 また、家柄に囚われない生き方をしているカスパルが親世代の業に向き合うのが意外だったと少し前に書きましたが、支援Bでカスパルは「逆の立場だったらオレ、絶対許せねえもん!」と話しています。カスパルにとって自分の父親が同級生の父親を殺したというのは、家同士の因縁というより、大切な家族を殺されたら殺した人を自分は許せないといったミクロな感覚での話なのかもしれません。

 そして、支援Bで押し殺していた感情をペトラが吐露するのが支援Aの会話です。ペトラはカスパルに対し、二つの相反する感情を抱いていると明かします。

「あなた、楽天的、おかしい、です。憎さ、ない、あり得ません。わたし、父、殺されました。帝国、しかも、あなたの父、手、下した。この剣、あなた、貫きます。それ、わたし、願いの片方、です」
「願い、もう一つ、あります。わたし、あなた、仲間、思います。共に、戦う、生き延びる、願いです。自分の父、誇って、話し、笑う、あなた、許せません。しかし、誰より、必死、努力する、あなた、殺す、できません、わたし……」

 どれだけカスパルに詰め寄られても話さなかった自分の憎しみを支援Aでペトラが打ち明けたのは、それだけ二人が信頼を積み重ねてきた証です。完全に割り切れたわけではなく、確かに憎悪を持っていながら、それでも仲間としてカスパルを大切に思っているから殺したくないと話すペトラからは、彼女の心の強さを感じさせられます。そんな彼女にカスパルも、逆の立場だったらきっと自分はペトラを許せなかっただろうと話しつつ、「だけど、お前はそうじゃねえ。オレのこと仲間だって、認めてくれた。一緒に戦って、一緒に生き残りたいって、言ってくれた。ほんとに凄え奴だ」と声をかけます。

 この支援会話は、難しいことを考えるのが苦手で、家柄に囚われないからこそ”父親を殺した相手の子どもは許せない”と感情に素直な考えを持っているカスパルと、勉強家で次期国王として大きな枠組みで物事を考えられるから”親の因縁を子が受け継ぐべきでない”と考えられるペトラの話です。そしてそういった家柄に対する考え方の違い以上に、一緒に過ごすうち相手を大切に思えるようになったという個人から個人への好意が二人の関係を決定づけています。エーデルガルト・カスパル、エーデルガルト・ペトラの支援会話を見比べれば特に分かりやすいかと思われるカスパルとペトラの考え方の違いと、過去の因習を断ち切るという紅花の章自体のテーマを合わせ、二人の複雑な関係が丁寧に描かれている点でとても好きな支援会話です。


○ドロテア・シルヴァン

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 女性と支援会話自体は多く発生するもののそのほとんどが支援B止まりという、彼の境遇を合わせて考えると何とも業の深いシルヴァンが支援Aまでたどり着く数少ない会話の一つです。それだけにこの支援会話はシルヴァンの内面深くにまで突っ込んだ興味深いものになっています。

 ドロテア・シルヴァンの支援会話は初っ端の支援Cからフルスロットルでシルヴァンの内面に突っ込んでいきます

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 シルヴァンは息をするように女の子をナンパしている姿がよく見られるキャラクターですが、同時に時々”紋章を持っている貴族”の自分に群がる女性に辟易しているのではないか、といった態度も見られます。非常に分かりやすいのはやはりベレト・シルヴァンの支援会話ではないでしょうか。こちらの支援会話については青獅子の学級を担任しているデータをクリアしたら感想を書きたいと思っています。そんなシルヴァンの様子を見ていると、ドロテアの「付き合うことが好きなだけで、女の子自体は嫌いなんじゃない?」という言葉はなかなかに的を射ていると感じられます。

 この時シルヴァンはドロテアの指摘を笑って受け流しますが、彼の複雑な内面が見られるのが支援Bでの会話です。支援Bでドロテアは、独りで食事をするのを避けるためシルヴァンを食事に誘います。孤児の頃はずっと孤独だっただろう彼女の過去を思うと、誰かと一緒にいたい、と思う姿には染み入るものを感じます。

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 面倒臭いなこの男...... 

 青獅子を担任していないルートでもちらほらと垣間見えるシルヴァンの複雑な家庭環境や生い立ちを考えれば面倒くささも致し方無しですが、それはそれとしてこの質問を聞いたドロテアが「……たかが食事にこの問答、必要なの?」と呆れる気持ちも分かります。この次にドロテアがシルヴァンへ返す言葉が、個人的に今まで見て来た支援会話の中でもトップクラスに好きな言葉の一つです。

「じゃあ聞きますけど。私が声のしゃがれたお婆さんでも……貴方は口説きにかかるの? 手を取って愛を囁くの?」
「私は、シルヴァンくんがお爺さんでもいいわよ? 家から絶縁された元貴族でも、貧民街に暮らす孤児でも……なーんてね」

 シルヴァンは「自分が紋章持ちの貴族じゃなくても食事に誘ったのか?」とドロテアに尋ねましたが、この質問は恐らく”紋章持ちの貴族”としての自分に群がってくる女性への不審から来ています。この質問に対応するドロテアの言葉が、「私が声のしゃがれたお婆さんでも貴方は口説きにかかるの?」という質問です。「声のしゃがれたお婆さん」とは、美しい歌声と見目を持った歌姫と正反対の存在です。シルヴァンが”紋章持ちの貴族”としての自分しか見られないことに辟易しているように、ドロテアもまた、”歌姫”の自分しか見て貰えないことに虚しさを感じています。これについてはベレト・ドロテア支援Aで彼女自身が語っているところでもあります。

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 どこか似た境遇を感じさせる質問の後、ドロテアは「私はあなたが家から絶縁された元貴族でも、貧民街に暮らす孤児でも食事に誘う」と冗談交じりに話しています。この”家から絶縁された元貴族”とは、本編でも出てくるシルヴァンの兄と重ね合わせた言葉です。紋章を持っていないが故に廃嫡された兄と、紋章を持っているが故に不自由を強いられた自分を見つめるシルヴァンは、時折「自分と兄が逆の立場だったらどうなっていただろう」とも話します。そして”貧民街に暮らす孤児”とは当然ドロテア自身の境遇に重ねた言葉になります。冗談交じりではあるものの、”紋章持ちの貴族”として見られ続け、更に”紋章持ちの貴族”でない者がどれほど酷い扱いを受けるかを間近で見て来たシルヴァンにとって、ドロテアの言葉は多少なりとも響くものがあったんじゃないかと思います。

 また、シルヴァンが自学級に所属している場合彼の兄が率いていた盗賊の残党を倒しに行く外伝クエストが発生するのですが、この外伝のタイトルは「持たざる者たち」です。持たざる者、とは当然貴族のように財産や地位を持っていない盗賊たちの他、彼らを率いていた紋章を持たず生まれたシルヴァンの兄のことをも指しているのでしょう。それに対し、紋章を持って生まれ、次期当主として英雄の遺産を受け継ぎ、騎士として戦う才覚もあるシルヴァンは全てにおいて「持っている者」だとも実感させられるのがこの外伝クエストです。

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 「持っている者」のシルヴァンに対し、ドロテアは自身を「何も持っていない」と評します。他人が羨むものを全て持っているシルヴァンと、他人が羨むものを何も持っていないドロテアが、しかし似た境遇に置かれていること。そして何も持っていないドロテアは、盗賊たちや兄がシルヴァンに向けた嫉妬の視線を向けることなく「あなたが何も持っていなくても構わない」と言葉をかけるところに、二人の支援会話の良さが詰まっていると思います。

 そうしたよく似たしがらみを踏まえて、二人が絆を築いた結果が見られるのが支援Aでの会話です。お互いの境遇を明かし、どこか似ていると感じた二人は、「自分が紋章持ちの貴族じゃなくても食事に誘ったのか?」「自分が声のしゃがれたお婆さんでも貴方は口説くのか?」という質問への答えを出します。

「なあ、ドロテアちゃん。今なら俺、こう言えるぜ。たとえ君がしゃがれた声の老婆でも、口説き倒して、必ず君を手に入れる…… ま、今の君を口説いて、婆さんになるまで一緒にいるのが一番いいけどな!」
「そりゃあそうよねえ。私も同じ。今の貴方に口説かれて、お爺さんになるまで一緒にいるほうがいいわ」

 ドロテアがシルヴァンに「貴方が紋章持ちの貴族じゃなくても食事に誘った」と返したのと同じく、シルヴァンもまた「たとえ君がしゃがれた声の老婆でも口説く」とドロテアに返します。これは、虚しさを感じている”紋章持ちの貴族”や”歌姫”の肩書きを抜きにして好ましく思い合える関係を二人が築いたことの表れです。また、二人が異性から声をかけられる度にきっと何度となく考えた”もしも”の話を抜きにして、「今ここに居る貴方自身と一緒にいたい」と伝え合っているのも、とても素敵です。

 支援Cではシルヴァンの口説きをすげなくあしらっていたドロテアは、支援Aの終わりにシルヴァンからの食事の誘いを心から微笑んで受け入れます。二人の支援会話はどれも片方が片方を口説いたり食事に誘ったりといった会話なのですが、初めはシルヴァンの女嫌いを見透かしたドロテアが誘いを断り、次にドロテアからシルヴァンを食事に誘って「貴方が紋章持ちの貴族じゃなくても構わない」と伝え、最後にシルヴァンからドロテアを食事に誘って「たとえ君がしゃがれた声の老婆でも構わない」と伝える、相手を口説く行為を通して空虚な異性への感情が次第に温度を灯らせていくものになっています。二人の境遇を上手く重ね合わせており、一つ一つの言葉選びの巧みさに唸らされる、語っても語り尽くせないほど好きな支援会話です。


○カスパル・アッシュ

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 風花雪月を遊び始めた当初から惹かれていたキャラクターがエーデルガルトとカスパルでしたが、実際に遊び始めて予想外に大好きになったのがアッシュです。そんな彼と元々好きだったカスパルに支援会話があると分かった時は本当に嬉しかったですし、好きなキャラクター同士の支援会話であることを抜きにしても質が良く何度も噛みしめてしまう会話です。

 この支援会話を考えるにあたって初めに見ておくと分かりやすいのは、ベレト・カスパルの支援会話と、ベレト・アッシュの支援会話です。まずはこの二つの支援会話について簡単に説明します。

 ベレト・カスパルの支援会話は、カスパルが自身の正義の在り方について悩む話です。学生時代、カスパルは怪しい人間を見つけ、その人が子どもの集まる広場に向かっているのを見て大声をあげて止めようとします。カスパルの大声を聞いた怪しい人間は実際に悪人だったため自決するのですが、それに関して教団の騎士はカスパルを強く注意します。

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 そして騎士が注意した通り、五年後に発生する支援Bの会話で、カスパルはかつて自決した悪人の所属していた盗賊団が自軍を襲い、何人か自軍の仲間が死んだと報告を受けます。騎士に怒られたことについてずっと悩んでいたカスパルは、実際に自分のせいで被害が出てしまった現状を見て、苦悩を吐き出します。

「オレがあの時、飛び出していっちまったせいで、犠牲が増えたんじゃねえか? 先生の言うとおり、黙って後をつけてりゃ、盗賊団もあの時に討伐できてたんじゃ……」
「代わりに子供に危害が及んだかも」
「そんなこと、わからねえじゃん。でも、騎士が死んだのはひっくり返らねえ。オレのやり方が間違ってたんだろ? そう言ってくれよ、先生」

 そしてカスパルが支援Aで出す結論は、次のようなものです。

「やっぱオレ、自分を裏切れねえなって思ったんだ。もちろんあの時の騎士や、先生の言うことが正しいってことはわかってるよ。
でも、それでも、もしあの怪しい男が子供たちを傷つけてたら……オレ、一生悔やんでも悔やみ切れねえ。悪いけど、死んだ騎士より、そっちのほうが大事だ」

 カスパルが話しているのは、自分が守りたいもののため犠牲を飲み込む正義の話です。明るく前向きなカスパルが、子供も騎士もどちらも守りたいではなく将来犠牲になる騎士が居たとしても目の前の子供を守りたいとある意味で犠牲を良しとする結論を出すのは、どこか意外に感じると同時に納得もあります。
 カスパルのこの結論に何故納得が行くのか。それは、彼の所属する黒鷲の学級で級長を務めるエーデルガルトが掲げる信念こそ、自分が守りたいもののため犠牲を飲み込むものであるからです。カスパルがたどり着いた自身の正義は、紅花の章で語られる信念と非常に似通ったものとなっています。

 次にベレト・アッシュの支援会話を見てみましょう。この支援会話はアッシュが自身の正義の在り方について悩む話です。ベレト・カスパルの支援会話と内容が非常に良く似ています。ベレトとアッシュは一緒に街へ買い出しに行っている時に、高価な本をひったくる泥棒に出会います。それを追いかけたアッシュは「病気の子供のため薬代が必要だから本を盗んだ」という泥棒の理由を聞き、本の代金を肩代わりします。そしてアッシュは、ベレトにかつて自分が盗みを働いていたと明かします。

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 優しく善良な少年といった第一印象を受けるアッシュからは想像できない過去ですが、彼の固有スキルである「生きるための知恵」のスキル名とその内容を見れば初見からこの境遇については何となく察せられるようになっています。

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 アッシュは自身の過去を振り返りながら、「僕が悪事を働いてきた分、
たくさん良いことをして埋め合わせたい」
と言いつつも、「自分が少しお金を払ったくらいでは全ての人を救えないとも分かっている。だからといって何もしないでいることもできない」と悩んでいる胸中を打ち明けます。
 そんなアッシュもまた、支援Aで自身の正義について結論を出します。

「困ってる人すべてを助ける方法なんてない。お金や力があれば違うかもしれないですけど……今の僕は、無力すぎますから」
「僕のやり方じゃ、すぐにみんなを助けてあげるのは難しいかもしれない。だけど目の前で困っている人を助けることは無駄じゃない。きっと意味があるんだって。僕は……そう信じたいです」

 アッシュが話しているのは、困っている人全てを助けられなくとも目の前の虐げられている個人に手を差し伸べる正義の話です。カスパルの正義が紅花の章で語られる信念を表していたことを考えると、アッシュの正義はやはり青獅子の担任をした時に語られる信念に共通するところがあるのではないでしょうか。私はまだ青獅子の担任をしているセーブデータをかなり序盤までしか進めていませんが、紅花の章で聞いたディミトリの慟哭や青獅子の担任をした時ディミトリが話す思いを聞いていると、根本的な解決にはならないとしても犠牲を出さず個人を助けたいという思いがこのルートでは語られるのではないかと感じます。

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 このように、カスパルとアッシュはそれぞれベレトとの支援会話で紅花の章に通ずる正義、青獅子のルートに通ずる正義を掲げています。以上を踏まえて二人の支援会話を見ていきましょう。

 カスパルとアッシュの支援会話は、修道院の食料庫に入った泥棒を捕まえる際の二人のスタンスの違いが描かれています。

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 カスパルは「泥棒を見つけ次第斬る」という考えで、アッシュは「泥棒を見つけたらまずは事情を聞く」という考えです。この違いは、そのままベレトとの支援で怪しい人間を見つけるなり飛び出していったカスパルと、泥棒を捕まえて事情を聞き代金を肩代わりしたアッシュの違いに通じています。カスパルは貴族であるため盗まれる側・盗みを取り締まる側の視点から考えているのに対し、アッシュはかつての貧しい生活から盗みを働く側の視点で物事を考えています。結局支援Cでは、二人で異なる正義について言い争っている間に他の人が泥棒を捕まえてしまって会話が終わります。これは結局泥棒を捕まえられない終わり方で、二人の未熟さが描写されているようにも思えます。

 支援Bでは支援Cと同じく食料庫に泥棒が入り、二人は無事に泥棒を捕まえることができます。この時点で二人の成長が見てとれます。

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 しかし、二人が捕まえた泥棒は猫でした。支援Cでカスパルが話していたように捕まえ次第斬るのも躊躇われる相手ですし、アッシュが話していた通り事情を聞くのも難しい相手です。悩んでいる間に猫は逃げ出してしまい、それを見た二人は笑いながら言葉を交わします。

「今度捕まえたら、オレがばっちり対処してやる。実はもう、どうするか、
しっかり思いついてるからな」
「君もですか。僕もですよ。負けませんからね」
「もちろんだぜ! オレのやり方が正しいって次こそ証明してやるからな!」

 ベレトとの支援会話で見たように、カスパルとアッシュの掲げる正義は違っています。異なる正義によって支援Cではぶつかり合っていた二人ですが、支援Bでは異なる正義で切磋するより良い関係性を築いているのが分かります。

 二人の正義がどうなるのか、それが描かれているのが支援Aです。カスパルは「他の奴に見つかったら始末されるかもしれない」という思いから、アッシュは「また食料庫を荒らされたら困る」という思いから自分で猫の面倒を見ると決め、世話をしていたところにお互いかち合います。辿った過程こそ違うものの、同じ結論に行き着いた事について、カスパルは「同じ正義を志す者同士、根っこは同じなのかもしれねえ!」と話します。

 何故紅花の章に通ずる正義を持っているカスパルと、青獅子のルートに通ずる正義を持っているアッシュが同じ結論に行き着いたのかは、やはり二人のベレトとの支援会話を見比べれば分かるのではないかと思います。正義の形こそ異なっているものの、カスパルとアッシュが守りたいと願っているのは、”子供”という同じものであるからです。

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 志す正義は違っていても、守りたいものが同じで、形は違えど”正義”を掲げているのなら一緒に切磋琢磨しながら歩んでいける、というのがカスパルとアッシュの関係性です。お互いの所属している学級に深くまつわる信念の話をしながらも、異なる正義が共に歩んでいける姿を提示しているこの支援会話は、二人の学級の級長であるエーデルガルトとディミトリの同じ道を共に行けない様がシステムとしてもシナリオでも描写されているからこそ染み入るものがあります。


○エーデルガルト・マヌエラ

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 紅花の章を遊ぶにあたって、非常に好きな支援会話の一つです。紅花の章を進めれば自ずと気にかかる部分を丁寧に補完している良質な会話になっていると思います。

 エーデルガルト・マヌエラの支援会話は、マヌエラの信仰についてエーデルガルトが触れるところから始まります。

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 また、支援Bでもエーデルガルトは引き続きマヌエラから神を信仰しながら自分の力で生きようとする考えについて話を聞きます。

「貴方は、女神は心の支えだけれど、体を支えるのは貴方自身だと言った。その意味が、私にはわかりませんでした。どういうことなのでしょう?」
「主の授けてくれた歌声は、あたくしを舞台の袖まで連れて行ってくれた。でもそこから……競争相手に勝ち、人々に認められ、舞台の真ん中に立つには……あたくし自身が、苦労を重ねながら独りで成し遂げるしかなかったの」
「……私は、誤解していたみたいです。女神を深く信ずる人は皆、どこか心が弱く、独りでは立てないのだと思っていた……けれども、貴方のような人もいたのですね」

 こういった話を通してエーデルガルトが考えるのは、やはり自分が成そうとしている野望についてです。エーデルガルトが教団を破壊しようとしているのは、教団の全てを否定しているからではありません。社会を変えるにあたり既存の仕組みを都合良く一部だけ残すのは非常に難しく、自身の理想とする社会を作るためには教団を徹底的に破壊しなければならないと判断したからです。しかし、ただ弱い心で神に縋っている人ばかりではなく、マヌエラのような考えを持っている人に出会って、エーデルガルトは改めてセイロス教を打ち壊すことについて悩みます。実際、フォドラ全土で信仰されている宗教を一度無くすとなると、多くの信徒が混乱に陥るでしょう。

 「貴方の心の支えを私は無くそうとしている。それでも貴方は私について来てくれるのか?」とは、エーデルガルトがマヌエラに抱く当然の疑問だと思います。それに対するマヌエラからの答えが聞けるのが、支援Aでの会話です。

「エーデルガルト、心配しないで。人は、あなたが思うよりずっと弱いわ。
そして同時に、あなたが思うほど弱くない。女神様はあたくしたちの背をそっと包み、歩き出すのを待ってくれる存在。でもあなたは……あたくしたちの背を、強く押して進ませようとしているの。未来へ」
「………………」
「ふふ、でも本当に荒療治ね。あなたらしいと言えばあなたらしいけれど。ただ、あなたが背を押さなければ、立ち上がれない人がいるのは確かよ」

 女神を心の支えとしながら自分の力で生きていこうとするマヌエラは、しかしエーデルガルトの理想を否定するのではなく肯定する存在として描かれています。それは彼女がエーデルガルトより少し長く生きている大人で、彼女を教え導いていた教師で、エーデルガルト一個人を好ましく思う一人の人間だからなのでしょう。プレイヤーから見ても教師として先輩にあたるマヌエラから、エーデルガルトの覇道が「あなたの理想でなくては救えない人がいる」と肯定される様は、心に響くものがあります。

 セイロス教を打ち壊すエーデルガルトの道について考えた時に避けては通れない”今まで女神を信仰してきた人はどう生きていけばいいのか?”といった疑問について語られているのが、この支援会話です。実際にマヌエラの言う通りエーデルガルトが思うほど弱くない人間ばかりなのかといえば、きっとどうしようもなく弱い人間も沢山居るとは思いますが、それでも風花雪月がこういった形で人の弱さを認めるのと同じだけ人の強さを信じている作品であることを、私は得難く思います。


○エーデルガルト・ハンネマン

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 エーデルガルト・マヌエラの支援会話に引き続き、紅花の章を遊ぶにあたって非常に好きな支援会話の一つです。エーデルガルト・マヌエラの支援会話ではセイロス教を無くすことについて語られましたが、こちらの支援会話では紋章について語られます。

 ハンネマンが紋章学の研究に携わり、熱中しているのは本編のシナリオからも十二分に感じ取れます。正体不明のベレトの紋章にテンションを上げ、気づかないうちに髪の毛を採取していたり、血を置いて行って欲しいと頼まれるやりとりからは、彼がどれだけ熱意を持って紋章を研究しているかが伝わってきます。

 そんなハンネマンに対しエーデルガルトが気にかかることと言えば、やはり自分が紋章の無い社会を作ろうとしている点です。支援Bでエーデルガルトはこの事についてハンネマンへ切り込みます。

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 エーデルガルトがマヌエラに対して「私の野望は貴方の心の支えを無くしてしまうのではないか」と考えているのと同様、彼女はハンネマンに対しても「私の野望は貴方の夢を壊してしまうのではないか」と考えています。これは当然、紋章学の研究に没頭しているハンネマンと、紋章を無くそうとしているエーデルガルトを見てきたプレイヤーにも浮かぶ疑問でしょう。実際に、私はエーデルガルトの支援会話一覧を眺めていた時ハンネマンと支援Aまで会話があることに非常に驚きました。支援Bでハンネマンは「エーデルガルトの思想に自分は強く共感しているから心配は要らない」と断言しますが、それでもエーデルガルトは納得のいかない顔をしています。

 一見エーデルガルトと相容れないように見えるハンネマンが、何故彼女に強く共感しているのか。その真相が明らかになるのが支援Aで明かされる、ハンネマンが帝国貴族を辞めてまで紋章を研究している理由です。
 ハンネマンの家系は紋章が発現しやすい家系で、実際にハンネマン自身も紋章を宿しています。彼の妹は紋章を宿していませんでしたが、その血筋を期待されて没落しかかっていた貴族に嫁ぎました。しかしなかなか紋章を宿した子供を生むことができず、虐げられ、心を病んだ妹は亡くなってしまいました。
 普通の人なら妹を追い詰めた嫁ぎ先の人々を憎むだろうところで、ハンネマンは紋章を重んじる風潮こそが元凶だと考えます。そうして彼は、「紋章の謎を解き、望む者なら誰もがその力を宿せる世界がくれば、貴族など意味がなくなる」と考え研究を続けていたのです。紋章を中心とした貴族制度に辟易していたのはハンネマンも同じであり、紋章を特権に根ざした物にしたくないという思いもまた、エーデルガルトに通ずるところがあった、というのがハンネマンが彼女に力を貸している理由です。

 この会話で好きなところは、エーデルガルトを「この世界の犠牲者」と言おうとするハンネマンに「それ以上は、口にしないで。私の過去は、すでに葬られたもの。ただ前のみを見て、私たちは戦うのです」とエーデルガルトが告げるところです。彼女は私的な復讐心で社会を変えようとしているのではなく、自分を可哀想な犠牲者だとも思っていません。傍から見れば”可哀想”な過去を暗闇に置いて、ひたすらに前を向いて覇道を行く姿が、彼女の生き方です。そういったエーデルガルトの在り方を再確認できる点もこの支援会話の好きなところです。

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 余談ですが、風花雪月は特定の章をクリアするとその章に対応した紋章アイテムを貰えます。これは、操作ユニットに装備させることで紋章を持っていないキャラクターにも紋章を付与できるアイテムです。二周目以降を楽にクリアするための特典なのだとは思いますが、誰にでも紋章を宿せるこのアイテムを見ると、エーデルガルト・ハンネマンの支援会話で語られる「誰もが紋章の力を宿せる世界……それは、誰もが紋章の力を持たぬ世界と同じですね」という言葉に、何となく思いを馳せてしまいます。


○リシテア・ハンネマン

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 この二人はどちらも黒鷲の学級に所属している生徒というわけではないのですが、エーデルガルト・ハンネマンやヒューベルト・ハンネマンの支援会話でハンネマンの過去やそれに連なる思いを知り、更にエーデルガルト・リシテアの支援会話でリシテアの境遇に触れた紅花の章で読んだからこそより感慨深い支援会話だったため、この記事で感想を書こうと決めました。魅力的なペア揃いの風花雪月の中でも、個人的にかなり好きな組み合わせです。

 二人の支援会話は、ハンネマンのバッドコミュニケーション祭りから始まります。リシテアは自身が二つの紋章を宿していることを不幸だと考えています。それは、彼女が家に押し入った研究者に無理やり二つの紋章を宿す実験を施され、代償として短命を宣告されたからです。明言されているわけではありませんが、エーデルガルト・リシテアの支援会話から察するにリシテアに施された実験はアドラステア帝国の次期皇帝に二つの紋章を宿させてより完璧な存在にするための前準備のようなものだったのでしょう。複雑な事情を抱えているリシテアに、ハンネマンが研究者としての興味に突き動かされて質問を重ねるためリシテアは非常に気分を害します。

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 更にハンネマンのリシテアに対するバッドコミュニケーションは支援Bでも続きます。

「君の能力は、同年代の者たちと比べて、多くの面で格別に優れている。君が持つ2つの紋章の効果を上乗せしても、余りあるほどにな」
「その『余りある』部分が、すべて紋章の力だとお考えなら、心外です。それが、これまでにわたしが積み上げてきた努力の成果だとは考えてくれないんですか」
「だが、人一倍努力できるというのも、また才能……」
「才能じゃありません。これは覚悟の問題です。人並みの生活を犠牲にしても成長したい、その覚悟が、わたしにはあるんです」

 リシテアはベレト・リシテアの支援会話で自身の努力を褒められた時とても嬉しそうにしています。だからこそ、望んでもいないのに宿された紋章を理由にして、自分の努力を「才能」と呼ばれることを嫌います。

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 支援Bでリシテアはハンネマンに自身の短命について明かし、その場を去ります。この二人には食堂での食事やグループ課題で特殊会話が用意されているのですが、支援B後の二人は非常に気まずそうにしています。

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 こういった支援C、Bの会話を経て、ハンネマンがリシテアを気にかける理由を話すのが支援Aになります。ハンネマンはリシテアへの言葉を謝罪して、望む者誰もが紋章を宿せる方法を見つけたいと考えていること紋章の有無が人の価値を決める世界に嫌気が差していること紋章を宿す仕組みが解明されれば紋章を消す手段もわかるかもしれないと思っていることを離します。何故ハンネマンがそんな方法を見つけたいと思っているのか、紋章が価値を決める世界に嫌気が差しているのかはエーデルガルト・ハンネマンの支援会話で語られるところです。短命を克服できるかもしれないこと、そして何より自分と同じ紋章が価値を決める世界を良しとしないハンネマンの信念に触れたリシテアは、改めてハンネマンの研究を手伝うと決めます。

 リシテア・ハンネマンの支援会話で特に好きなところは、支援Aの締めくくりに二人が未来について話すところです。リシテアは支援Bで、短命について明かした時「わたしをこんな体にした者たちから、わたしは短命を宣告されています。おかげでわたしは……、仲間と未来を語ることすらできない。それでも先生は、2つの紋章が良い効果を生んでいると言えますか」と言います。そうして仲間と未来を語ることを諦めていた彼女が、ごく自然に自身の将来について考えるのがハンネマンとの支援会話の最後です。傍から見れば何でもない会話が、リシテアにとってどれほど得難い物であるか、考えるだけで胸が締めつけられます。

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 また、支援A後の特殊会話でも二人はリシテアの未来について話をします。

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 どの学級でもこの二人を引き抜きさえすれば、一緒に未来を語るリシテアとハンネマンの姿が見られるのだと思います。しかし、紋章の無い世界を目指す物語であり、更にエーデルガルトやヒューベルトといったこの物語でしかリシテアやハンネマンと支援会話を見られないキャラクターがいる紅花の章で、二人の過去や抱いている思いに触れ、彼らの築いた絆を見届けられたのは、大切なゲーム体験の一つです。



 以上が紅花の章で見た支援会話の感想になります。全部の感想を書くと一生書き終わらないと思ったためかなり厳選したのですが、それでも結構な数になって必死に文字を打っていました。大変でしたが、どれも好きな支援会話ばかりなので、感想をまとめられて満足しています。
 黒鷲の学級は生徒の多くが自分の主張をしっかりと持っているため、そのぶつかり合い、認め合いを見つめるのがとても楽しかったです。今は青獅子の学級を遊んでいるのですが、黒鷲とはまた違った雰囲気の支援会話に今からワクワクしているので、また時間に余裕があれば感想をまとめられたらと思います。


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