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逆転裁判3を今更プレイした話 ※ネタバレ感想

 先日記事を書いた通り、逆転裁判無印と逆転裁判2を立て続けにプレイしました。1つ1つの話が独立した面白い事件でありながら、すべての話を最終話で1つのテーマとしてまとめ上げる構成にひたすら面白い!!!!と唸りを上げてしまうゲームでした。

 今回はその続編であり、1つの区切りでもある逆転裁判3の感想を書いていきます。前回までと変わらずネタバレ満載+3までの内容のみをもとに書いた感想になります。ご留意のほどお願いします。



第1話 思い出の逆転

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 主人公である成歩堂龍一の先輩弁護士、綾里千尋が学生時代の成歩堂の弁護を担当した時の事件です。一作目では成歩堂の初めての法廷、二作目では成歩堂の記憶喪失という形でチュートリアルを担っていた1話目ですが、三作目のチュートリアルはどういった形で行うのだろう?というのはプレイヤーが気にかかるポイントの1つだと思います。それを過去に先輩弁護士が担当した事件を追体験するという形で行う逆転裁判3は、シリーズ物としての構成の組み方がやはりとても上手だと感じられます。第1話が始まった時の第一声も、無印、2と同じ台詞になっています。

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 この1話では、無印と2で頼もしい先輩として力を貸してくれた千尋さんが新人だった頃の初々しい姿を見ることができます。初法廷の時の成歩堂と同じように被告人控え室で緊張していたり、焦って法廷記録の確認を忘れていたり、検察側からの主張にパニックになったりと千尋さんにもこんな時代があったんだな、とほっこりさせられます。普段の頼りになる千尋さんを知っているからこそより感じられる彼女の魅力に、何度も「可愛い!!!」と声をあげてしまいました。
 また、可愛いだけでなく成歩堂の師匠らしくふてぶてしいところがあるのも新人時代の千尋さんの魅力の1つだと思います。「弁護士はピンチの時ほどふてぶてしく笑うものよ」というのは千尋さんが成歩堂に教えてくれた言葉ですが、実際に法廷でふてぶてしく笑う千尋さんの姿を目にするとどこかじんとくるものがあります。

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 そんな千尋さんの魅力満載の「思い出の逆転」ですが、驚かされるのはやはり学生時代の成歩堂の浮かれぽんちっぷりです。

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 プレイヤーは無印と2をプレイして、時々抜けているところもあるものの大胆不敵に笑いハッタリをかましながら真実を追究する弁護士の成歩堂の姿を知っているだけに、まるでバカップルの彼氏が着るかのような明らかに手編みのRYU♡というデザインのセーターを着て彼女のことを証言台で「ちいちゃん」と呼びハチャメチャな証言をしまくる学生の成歩堂に衝撃を受けるのではないでしょうか。私は1話の間何回も千尋さんと一緒にやり場の無い拳を隣にいる星影先生に叩きつけたい思いでいっぱいになりました。無印が発売された当初は恐らく逆転裁判3の構想はまだ無かったのではないかと思いますが、無印の1話で法廷での矢張の態度に冷や汗をかいていた成歩堂がかつて自分が被告人となった時には矢張の5倍は色々とやらかしていたと後々判明する光景には、何となく感慨深いものがあります。

 そんな浮かれぽんちで風邪っぴきの成歩堂ですが、この1話で彼が芸術学部の学生でありながら進路を変更して弁護士を目指していることが明らかになります。

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 千尋さんが彼の弁護を担当していたと知った時は、千尋さんに助けられたことも弁護士を目指す理由の1つになっているのかなと思ったのですが、成歩堂はこの事件が起きる前から弁護士を目指して勉強しており裁判所に立ち寄っていたと後の話で分かるため、無印で話された情報と合わせると小学生の頃1年間クラスメートだった御剣が悪徳検事になっているのを見て、かつて自分を助けてくれた彼がこんなことをするはずがないと根拠も無く確信し、芸術学部という全くの畑違いの学部から進路を大幅に変更して御剣に会うために弁護士を目指している(そしてその後恐らくストレートで司法試験に合格している)という真実が明らかになります。お前は御剣の何なんだ......?(n回目)

 前作から引き続き登場している千尋さんや成歩堂の他に1話で注目すべき人物は、逆転裁判3において欠かせない人物である美柳ちなみです。

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 お淑やかな雰囲気、端正な顔立ちから法廷中の男性を味方につける彼女に、千尋さんは苦戦を強いられます。また、彼女は成歩堂が「ちいちゃん」と呼ぶ彼の恋人でもあります。成歩堂は彼女にとにかくべた惚れであり、千尋さんが成歩堂の弁護を通して彼女をこの事件の真犯人として告発した時は、被告人であるにもかかわらずちなみの有罪に異議を勝手に申し立てたり、彼女の有罪を決定づける重要な証拠品であるペンダントを食べてしまったりします。

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 裁判を通して明らかになるのは、一見美しく優しい天使のような人間に見えるちなみの恐ろしいまでの二面性です。それまで繊細な性格を演出しつつ証言を繰り返していた彼女は、追いつめられた途端にその本性を表して成歩堂を「宇宙のはてまでたよりにならないオトコ」と一蹴します。

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 今回の裁判で、かつて付き合っていた薬学部の学生の研究室に忍び込んで調達した毒薬を用いて自分を調査していた弁護士を毒殺したこと、その時毒を入れていた小瓶の形をしたネックレスを裁判所で出会った成歩堂に押しつけて捜査の目を逃れたこと、成歩堂からネックレスを取り返すため彼を殺そうとしていたこと、薬学部の元恋人に自分の所業がバレていると気づき急遽元恋人を殺してその罪を成歩堂に擦りつけようとしたことといったちなみの悪行が次々と明らかになります。この時点で、彼女が関わる者すべてを狂わせて死に追いやる魔性の女だということが十二分に理解できます。
 自分の有罪を立証し追いつめた千尋さんを、ちなみは悪魔のような形相で睨みつけ「今日のところは花を持たせてあげますわ。また、いつか。お会いするわ......かならず」と不穏な言葉を残して有罪判決を受け入れます。

 また、この裁判で千尋さんはいい加減な証言を繰り返す成歩堂のことをそれでも無罪だと心から信じており、裁判でかなり不利な状況になっても「逃げるくらいなら、弁護士バッジなんて、捨てた方がマシよ!」と自身の弁護士としての生命を賭けて事件と向き合います。そして、美柳ちなみを追いつめた時、往生際悪く食い下がろうとする亜内検事が裁判の序盤に「私は証人・美柳ちなみさんをイノチを賭けて信頼している」と言ったことを引き合いに出して、「あなたの主張通り美柳ちなみが無罪なら、彼女が持っていた成歩堂の風邪薬に毒が入っていたわけがない」「本当に命を賭けて美柳ちなみを信頼しているのなら、この風邪薬を飲んでみせろ」ととどめを刺します。当然亜内検事は風邪薬を飲むことができません。

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 この展開は、ちなみを心から信じていたから毒が入っていた瓶を飲み込んだ成歩堂・成歩堂を心から信じていたから弁護士としての命をかけて裁判に取り組んだ千尋↔口先だけでしかちなみを信じておらず毒入りの風邪薬を飲めなかった亜内という信頼関係の対比になっています。

 この裁判が終わった後、成歩堂は有罪判決を受けたちなみを思い返しながらこのようなことを口にします。

「今日のちいちゃん、本当にホンモノだったんでしょうか!
ボクのちいちゃん、あんなヒドいコト、言う子じゃないし......
もしかしたら、よくできたニセモノ......」

 この言葉は、1話を終えた時点では成歩堂の浮かれぽんちが極まった発言のように思えますし、実際に千尋さんも彼女のことは忘れた方がいいと成歩堂を諫めるのですが、後々最終話で明らかになる真実のことを思うと聞き流せない言葉となっています。


第2話 盗まれた逆転

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 逆転裁判としては珍しく、殺人事件ではなく窃盗事件を取り扱う事件です(後半では結局殺人事件を取り扱うことになるのですが)。「盗まれた」というタイトルに相応しく、今回の事件には探偵と怪盗が登場します。

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 事件に登場する探偵は星威岳哀牙(ほしいだけあいが)、怪盗の怪人☆仮面マスクは天杉優作という青年です。この2話は、複雑かつ巧妙なトリックに頭を悩まされつつも、2話の時点で既に散りばめられている逆転裁判3全体を通して組まれている構成に唸らされる話となります。

 2話において、明らかになる真実は主に2つです。それは哀牙探偵と怪人☆仮面マスクの戦いは哀牙探偵の自作自演であったこと、更にその自作自演を利用して哀牙探偵は殺人事件の有罪判決を逃れようとしていたことです。哀牙探偵は「実は名探偵こそが怪盗の正体だった」というドラマチックな真相を裁判で明らかにして大衆からの支持を得つつ、犯行当時自分は怪人☆仮面マスクとして窃盗を行っていたという判決を貰うことで、哀牙探偵の指示で怪人☆仮面マスクとして活動していた天杉に殺人の罪を擦りつけようとしていたのです。

 哀牙探偵が天杉に指示を出して怪人☆仮面マスクとの戦いを自作自演していた理由は、彼の自己主張の激しい事務所の内装や彼の名前を見れば分かる通り、偏に「愛(=世間からの賞賛)が欲しいだけ」だったのでしょう。どれだけ明晰な頭脳を持っている名探偵も、それに見合う事件が無ければ輝くことはありません。そんな自分の頭脳に見合う事件を自分で引き起こし、名探偵として活躍することが、哀牙探偵の目的だったのだと思います。実際、その目論見は怪人☆仮面マスクの正体が明らかになるまで成功していましたし、1回目の法廷で「大怪盗の正体は名探偵」というドラマチックな真相を明らかにすることで彼は世間からの賞賛を浴び、彼の窃盗罪を明らかにする法廷は大きな注目を集めていました。

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 しかし、彼が本物の怪人☆仮面マスクである天杉を脅迫して動かしていたこと、怪人☆仮面マスクとしての窃盗罪の判決を受けることで殺人罪を逃れようとしていたことが明らかになり、彼は犯罪に手を染めてまで欲しがっていた愛(=世間からの賞賛)を失うことになります。

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 そんな哀牙探偵と対比の構図になっているのが、彼が脅迫して動かしていた怪人☆仮面マスクその人である天杉優作と、彼の奥さんである天杉希華(あますぎまれか)です。

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 希華は天杉の無罪を心から信じており、彼の無実を裏付ける証拠品を哀牙探偵の事務所から法廷まで持ってくるなどアクティブな女性です。そんな彼女は曲がったこと、卑怯なことが大嫌いで、それ故天杉は彼女に自分が怪盗であることを隠しています。
 しかし、一連の裁判が終わって天杉が怪人☆仮面マスクだと分かった時、希華は「アタシがユルせないのはヒキョウなマネをするヤツだけだよ。ユーサクくん、正々堂々と予告状で宣戦布告しちゃって。アタシ、大スキなんだよねー。そういう、スポーツマンシップ」と若干ずれたことを言いながらも、「そんなスリリングなこと、見逃すハズがないじゃない!」と言って天杉と一緒に怪人☆仮面マスクの活動を続けていくことを決めます。
 こういった2人の関係は、真実が明らかになった時世間からの愛を失った哀牙探偵と、真実が明らかになっても希華からの愛を失わなかった天杉の対比の構図になっています。名前でまで「愛が欲しいだけ」と主張している哀牙探偵が結局その愛を失ったのに対し、彼が脅迫していた怪盗は愛を手に入れているというのが皮肉の効いている構成です。一連の事件を見ていた成歩堂も、事件の最後に天杉と一緒に怪盗の活動を続けると決めた希華を見た時は「まれかさん......優作くんのこと、ホントに好きなんだな」と心の中で感じています。

 更に、この2話では逆転裁判3全体を通したテーマ、そして逆転裁判3の核心部分についても丁寧な構図が組まれています。
 まず注目すべきは、今作で成歩堂と対立する検事となるゴドー検事です。彼は来歴、年齢、本名その他諸々が謎に包まれており、何故か成歩堂に強い敵意を向けています。また、裁判の時には健康状態が心配になるほど無限にコーヒーを飲みます。

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 2話で扱われる探偵と怪盗は、対立する立場でありながらお互いの存在をより引き立てるための関係です。それは、対立する立場でありながら共に真実を追究することでお互いの存在をより引き立てる検事と弁護士の関係と似ています。今回の事件で成歩堂が弁護を引き受けたのが天杉、検察側の証人が哀牙探偵だったことから、探偵=検事・怪盗=弁護士と置き換えができるのではないでしょうか。

 以上を踏まえて2話の事件を見ていきます。2話の1回目の法廷で明らかになった真実は、名探偵の正体が大怪盗であったということです。

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 これをそのまま先ほど言ったように弁護士と検事に置き換えてみると、検事の正体は弁護士だったということになります。
 ゴドー検事は「検事として法廷に立つのは初めて」と本人が言っているように、新人の検事にあたります。しかし、彼の立ち回りはおよそ新人とは思えないほど手慣れており、イトノコ刑事も彼について相当の手練れじゃないかと推測しています。
 この情報から考えられるのは、ゴドー検事は検事として法廷に立つのは初めてではあるが、検事とは異なる立場で法廷に立ったことがあるのではないかということです。そして2話での探偵と怪盗、検事と弁護士の置き換えを踏まえるのであれば、ゴドー検事はかつて弁護士だったのではないかとこの時点で推測することができます。

 更に推測を進めます。1話の美柳ちなみと成歩堂龍一、2話の天杉優作と天杉希華の存在から感じ取れるのは、逆転裁判3では「恋人」が大きなテーマになっている、ということです。1話において美柳ちなみがかつて毒殺した弁護士は千尋さんの恋人だったと軽く触れられることからも、今までのシリーズ作品以上に「恋人」が核心部分にあることは理解できます。
 逆転裁判シリーズでは1つ1つの事件に作品全体のテーマが散りばめられていることが多く、更にその散りばめられた要素は成歩堂と対立している検事に収束していくことが多いです。すべての事件が御剣の大きな過去であるDL6号事件の裁判に繋がっていく無印、不在の御剣やタチミ・サーカスの在り方を通して冥のこれからの生き方が描写される2の構成を見ても、それが分かると思います。
 それでは今回、1話と2話に共通したテーマである「恋人」は誰に収束するのか。自然と思い当たるのは、今作で成歩堂と対立している検事であるゴドーです。それを裏付けるように、2話の裁判の終盤にゴドー検事は真宵ちゃんが霊媒している千尋さんの姿を見て僅かに動揺した様子を見せます。更に彼が検事になる前は弁護士だったのではないかという推察と掛け合わせれば、かつて美柳ちなみに殺害された千尋さんの「恋人」である弁護士と、ゴドー検事には何か関係があるのではないか、と2話の時点で考えられます。


 更に、2回目の法廷で明らかになるのは名探偵は殺人犯人だったということです。

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 これを再び検事と弁護士に置き換えると、検事は殺人犯人だったとなります。この構図が意図するところは、逆転裁判3の最終話にあたる5話のことを鑑みれば分かってくるのではないかと思います。


第3話 逆転のレシピ

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 いつもの装束と違ったウェイトレス衣装を着た真宵ちゃんがとても可愛らしい回です。同時に1話と2話の時点で何となく感じられる作品全体のテーマをより深められる話であると言えます。

 まず3話で起こる出来事は、偽物の成歩堂が弁護を引き受けた裁判で大敗した、というニュースが成歩堂のもとに飛び込んでくることです。ここで注目すべきは、2話と3話で共通して同じ人間が2人いる事件が描かれていることです。2話では怪人☆仮面マスク、3話では成歩堂がそれにあたります。

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 この同じ人間が2人いるという2話と3話の繋がりは、逆転裁判3の総決算とも言える最終話で大きく関わってくることになります。偽物の話を聞いた時の成歩堂の「双子の兄弟なら、いないぞ」という反応も最終話のことを思うと興味深い一言です。

 また、3話では1話と2話で共通していた「恋人」のテーマをなぞるように恋人関係にまつわる登場人物が出てきます。その1人目が、偽物の成歩堂に弁護され有罪判決を受けるという憂き目に遭った須々木マコです。

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 彼女は逆転裁判2の1話目で成歩堂が弁護を引き受けたかつての依頼人でもあります。その時の彼女の罪状は「恋人を突き落として殺害した」ことであり、逆転裁判3のテーマとの繋がりを感じます。また、シリーズおなじみの登場人物であるイトノコ刑事はひっそり彼女に片思いしていて、そういった意味でも「恋人」と関係のある人物となっています。

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 イトノコ刑事はマコを助けるために成歩堂の調査をいつも以上に協力的に手伝います。しかし、彼は刑事であるため必然的にマコの有罪を明らかにしようとする検察側の証人となり、1回目の法廷では図らずもマコを追いつめる形になってしまいます。このことでマコは「裏切りに遭った」と怒り、イトノコは激しく落ち込むことになります。
 しかし、それでもイトノコはマコのために調査の手伝いの続け、判決が下る2回目の法廷では無罪を勝ち取る決め手となる証拠品を法廷に持ってきます。

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 初めはマコを追いつめてしまったイトノコ刑事が、最後には彼女を救うための要になる証拠品を持ってきてくれるという展開は、思わず胸が熱くなるものがあります。

 そして恋人関係にまつわる登場人物のもう1人が、今回の事件の関係者である鹿羽うらみ(しかばねうらみ)です。

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 彼女は強力な暴力団である鹿羽組組長の1人娘です。今回の事件の真犯人であり偽物の成歩堂としてマコに有罪を押しつけた芝九蔵虎ノ助(しばくぞうとらのすけ)も、彼女には頭が上がりません。

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 うらみは、芝九蔵のことを愛しています。そのきっかけは彼女が四ヶ月前に遭った交通事故です。その交通事故でうらみが負った怪我の治療費を出してくれたのが芝九蔵であり、その時芝九蔵が自分に言ってくれた「うらみちゃんだから助けた」という言葉をうらみは嬉しいと感じて、それ以降彼の傍にいます。
 しかし、うらみが鹿羽組の孫であり、芝九蔵が法外な高利貸しをしているチンピラである以上そんな甘い話はありません。芝九蔵がうらみの治療費を支払ったのは、うらみが乗っていた鹿羽組の車にスクーターでぶつかったのが芝九蔵本人であり、その落とし前をつけさせられたからです。そして、芝九蔵が本当は「うらみちゃんだから」助けてくれたわけではないことにうらみは薄々勘づいています。
 逆転裁判3には、前作に引き続きサイコ・ロックが登場します。様々な人物に登場するサイコ・ロックですが、私が今作で特に印象に残っているのはうらみのサイコ・ロックです。

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 芝九蔵がうらみの怪我の原因を作った張本人であることを証明してサイコ・ロックを解錠していく成歩堂が、会話の途中でうらみに「芝九蔵はどれくらいの治療費を支払ったのか」と問いかけた時、うらみは「とても......とても、たくさん.......」とだけ答えて具体的な金額を言おうとしません。しかし、最後の錠が解錠される直前、うらみが鹿羽組組長の孫娘であることを提示し「その手術代にもよりますけど......、もし、あなたが鹿羽組組長のマゴでなかったら......芝九蔵さんは、そのカネを出したでしょうか?」と突きつけられた時、うらみは小さく「......いちおくえん......」とそれまで口にしたがらなかった金額をつぶやき、サイコ・ロックはすべて解錠されます。
 1億円などという法外な治療費を「うらみちゃんだから」という理由だけで支払ってもらえるわけがないということは、うらみ自身も理解しています。それでも、「鹿羽組の孫娘」ではなく「鹿羽うらみ」として誰かに好かれたかったし、誰かと恋をしたかったから、彼女は芝九蔵の言葉を信じていたのだと思います。そして、芝九蔵がうらみを助けてくれた理由が「うらみちゃんだから」ではなかったとしても、うらみちゃんは「芝九蔵だから」犯罪に加担したのだと思います。
 芝九蔵とうらみの命の危機を助けてくれた男性に女性が惚れるという関係は、2話の天杉と希華の関係と同じです。しかし、心から希華を愛している天杉に対して芝九蔵はうらみのことを煩わしいとすら思っています。様々な「恋人」を描いている逆転裁判3において、2話の天杉と希華を見た後に出てくるうらみの恋の結末は、もの悲しい気持ちにさせられます。

 また、芝九蔵とうらみの関係は1話で登場した成歩堂とちなみの関係とも重なっています。うらみは今回の事件で、芝九蔵の助けになりたいという思いからマコのふりをしてコーヒーに毒を入れる演技をするという手伝いをしています。この彼女の行動は、1話でちなみの助けになりたいという思いから毒が入っていたペンダントを食べてしまうという成歩堂の行動に重なっているように思います。実際に、うらみの思いを知った成歩堂は「ぼくには、どうしてもユルせないものが2つある。”毒薬”と”裏切り”......。最もヒキョウで、最も深く人を傷つける......」と内心で強い怒りを露わにし、うらみから受け取った診断書を奪い取ろうとする芝九蔵に「......うらみさんは、あなたを信じていた。だから......”あなたを手伝った”。そう言っていましたよ。この診断書はわたせない」と言い切っています。これは、単に芝九蔵の悪行に対する怒りだけでなく、かつて自分が経験した出来事とうらみの境遇を重ねているから出てくる言葉ではないかと感じます。

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 こういった今作のテーマになっている「同じ人間が2人いる」「恋人」について更に描写されている3話ですが、当然1つの事件として見ても面白い点が沢山あります。私が特に面白いと感じた点は、5000万円の宝くじを当てたという幸運が不幸にも被害者の命を奪うことになったというところです。

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 うらみの治療費である1億円を用意しなければならなくなった芝九蔵は、腕利きのプログラマーである被害者に1000万円の借金を盾にして億単位の価値があるコンピュータ・ウイルスを作らせそれを売ることで治療費を稼ごうとしていました。しかし、5000万円の宝くじが当たれば芝九蔵のもとには1000万円しか入ってこず、うらみの治療費を支払うことができません。1億円を何とか手に入れるために被害者のコーヒーに毒を盛った、というのが事件の真相です。
 本来であれば幸運の証であるはずの宝くじの当選が事件のきっかけになったことは、3話の依頼人であるマコが不幸体質であること、マコを雇っていたレストランの店長である本土坊薫(ほんどぼうかおる)が多額の借金を抱えていたこと、芝九蔵が1億円の治療費を払わなければならなくなったことなどを思うと、幸運やお金について今一度考えさせられるような出来事になっています。

 余談ですが、見るからにチンピラであり裁判中も周囲に威嚇し続ける芝九蔵に成歩堂や真宵ちゃんだけでなく裁判長も怯える一幕が法廷パートではあるのですが、その中で1人正々堂々と芝九蔵に向き合うゴドー検事の姿は成歩堂も思わず「カ、カッコイイ......」と思ってしまうかっこよさがあります。

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 また、3話の最後に芝九蔵が観念して大声で吼えたとき、法廷の電気がすべて消えるというトラブルが起きます。この時目玉しか見えない成歩堂に対して暗闇の中でゴーグルの赤い光が光っているゴドーの姿は笑いを誘いますが、最終話のことを思うとこちらも見逃せない場面です。

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第4話 始まりの逆転

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 まるで作品の1話目のようなタイトルであり、それでいてこの4話にこれ以上無く相応しいタイトルの話です。こちらでは1話と同じように、千尋さんをプレイヤーキャラクターとして操作します。そしてこの事件は、彼女が初めて法廷に立った事件であり、同時にシリーズおなじみの御剣怜侍が初めて法廷に立った事件でもあります。若かりし頃の御剣の、師匠である狩魔豪と似た服装やモーションには一見の価値があります。

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 4話が始まってまず驚くのは、千尋さんの先輩弁護士である神乃木荘龍(かみのぎそうりゅう)の登場です。成歩堂と同じように名前に「龍」の漢字がついています。

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 髪型といい、片耳のピアスといい、キザっぽい口調といい、服装といい、3話まで散々目にしてきたどこかの誰かを彷彿とさせる外見です。更に彼は千尋さんに付き合って入っている弁護人席でコーヒーを飲んでいます。

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 2話の時点で何となく察していたことではありますが、ここでゴドー検事の正体がほぼ確信できるのではないかと思います。更に、1話の証拠品の中にあった事件記録を思い返すことで、彼が後にちなみに毒殺された千尋さんの恋人であることも思い返されます。


 この事件では、1話で強烈な存在感を放っていた女性、美柳ちなみが再登場します。1話で軽く触れられた千尋さんと彼女の因縁は、この事件から始まったのだと分かります。

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 1話でそうであったように、彼女は今回の事件の真犯人でありながら、でたらめな目撃証言を繰り返します。そうしてこの裁判を進めるうちに、彼女は何と14歳の時に父親から2億円のダイヤを盗むため当時恋人だった尾並田美散(おなみだみちる)と義姉の美柳勇希を唆し狂言誘拐を企てたこと、狂言誘拐の途中で尾並田を裏切り死んだふりをして今まで生きてきたこと、それを世間に公表されそうになった口封じのため姉を殺害したことが次々と明らかになります。1話の裁判だけでも数々のとんでもない犯罪に関わっていたちなみですが、更に多くの事件に関わっており、しかもその全てを彼女が首謀していたことが4話では分かります。

 4話で千尋さんが弁護したのは、1話と同じく美柳ちなみの恋人です。1話の成歩堂がそうであったように、4話の被告人である尾並田もちなみを必死に庇おうとして嘘の証言をします。

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 そして更には、かつて恋人だった時に交わした「この先お互いのことが信じられなくなった時は、小瓶の中身を飲み干す」というちなみとの約束を果たして尾並田は服毒自殺してしまいます。小瓶とは勿論1話で成歩堂がバリバリと食べてしまった瓶の形をしたペンダントであり、中に入っていたのは毒薬です。14歳にして自分に心酔している男に毒薬を飲ませる約束をしていたという、ちなみのとんでもなさがまた明らかになった瞬間です。 

 ここで思い返されるのは、今までの話で共通して描かれてきた「恋人」のことです。4話で描かれている恋人は尾並田とちなみになりますが、これまで出てきた恋人たちはすべて信頼関係の話をしています。1話でちなみの無実を信じている成歩堂、2話で天杉の無実を信じている希華、3話でマコの無実を信じているイトノコ刑事と芝九蔵が善意から自分を助けてくれたと信じているうらみ、4話でちなみを信じ盲目的に庇っている尾並田、といった具合です。
 信頼関係は、逆転裁判において今までのシリーズ作品でも描かれてきたテーマです。詳しくは各作品の記事を参照していただきたいのですが、信頼関係の中でも無印では依頼人と弁護士の信頼関係が、逆転裁判2では弁護士と検事の信頼関係が特に焦点をあてて描かれています。そして、この逆転裁判3では恋人同士の信頼関係が描かれているのではないかと4話の時点で考えることができます。

 この裁判で目前まで迫っていた真実をちなみによって絶たれた神乃木と千尋さんは、もう一度ちなみが関わった事件を調べ上げることを決意します。そしてその後、2人の動きを煩わしく思ったちなみにより神乃木は毒殺されてしまいます。この事件は、逆転裁判3の1話に繋がる話であり、最終話で起こった事件の発端となる、まさに始まりの事件と言えるでしょう。


第5話 華麗なる逆転

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 シリーズ初の5話構成ということで、そういった意味でもテンションの上がる最終話です。無印には蘇る逆転という5話が収録されていますが、あちらは逆転裁判3が発売された後に追加された話であるため、正確なシリーズ初の第5話目はこちらの「華麗なる逆転」になります。逆転裁判3の、そして逆転裁判無印から3までの、すべての総決算と言っていい話です。

 5話の注目したいポイントの1つは、何と言っても御剣をプレイヤーキャラクターとして操作できる点です。今までなりを潜めていた御剣が再び登場するというだけでもテンションが上がるのに、更に御剣視点で話を進められるというのは、非常にワクワクする展開です。
 更にいつも開いている証拠品の一覧や関係者の一覧も御剣視点の説明になっているため、御剣が成歩堂と矢張のことを親友だと思っていることなどが明らかになり心をときめかされます。

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 この5話にて、御剣は入院中の成歩堂に代わって今回の依頼人である葉桜院あやめの弁護をすることになります。かつて父親の背を追いかけて志していた弁護士という彼の夢が、不思議な形で叶ったとも言えます。なお、今回の依頼人である葉桜院あやめは登場人物たちと少なからず因縁のある女性、美柳ちなみに酷似しており、更に成歩堂のことを知っているような素振りを見せます。このことが5話の事件を一層興味深いものにしています。

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 このような形で、1日目の法廷までは御剣を操作しながら物語を進めていくことになります。御剣の顔が警察関係者に知れていることや、持ち前の明晰な頭脳によって調査は滞り無く進んでいくのですが、

サイコ・ロックのことを「さいころ錠」と呼ぶ

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手先がかなり不器用であると判明する

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ガールフレンドをポイ捨てしているようなイメージを持たれて落ち込む

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次々と現れる矢張のサイコ・ロックに発狂する

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など、御剣の愛おしさがどんどん跳ね上がっていく調査パートとなっています。検察側のキャラクターでありながらプレイヤーが操作するキャラとして大抜擢されるのもさもありなん、といった魅力の詰まり具合です。

 こうして調査を進めた御剣は、遂に弁護士として法廷に立つことになります。法廷に立つ前の控え室で、彼は依頼人のあやめにこのような話をします。

「検事のシゴトは......人を疑うことです。
しかし......。今日の私は、弁護士だ。
弁護士のシゴトは、人を信じ抜くこと.......私の友人は、そう言っていました。
私に、そのシゴトができるかどうか......被告席で、シッカリ見ていただきたい」

 これは、逆転裁判無印で描かれていた依頼人と弁護士の信頼関係を、今日この時限り弁護士となった御剣を通して描かれている会話だと感じます。

 弁護士として法廷に立つ御剣に対して検察側を務めるのは、逆転裁判2で成歩堂と対立する検事として登場した狩魔冥です。

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 冥は逆転裁判2で、同じように父親に師事し検事となった天才の御剣を超えたいという思いから、御剣を負かした成歩堂に勝負を挑んでいました。そんな彼女が、正式に弁護士と検事という立場で御剣と相対するという展開は、逆転裁判2を遊んだプレイヤーにとってかなり心が沸き立つ展開です。
 そして法廷パートの御剣は、調査パートに引き続き

証人をゆさぶって謂われのない風評被害を受け弁護人席のことを「いじめられっ子の席か?」と言う

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弁護士側で矛盾を暴く感覚にちょっと楽しそうにする

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矢張の矛盾だらけの証言に困惑しまくる

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仮にも親友である矢張の証言のめちゃくちゃ加減に「こいつにだけは自分がトドメを刺す」と決意する

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など相変わらず愛おしさに満ちあふれています。

 1日目の法廷で問題点の1つとなるのが、あやめが2人いるとしか思えない目撃証言についてです。自室にずっといたというあやめと、燃え尽きた橋の向こう側にあやめがいたという目撃者の証言の食い違いは、まるであやめが2人いるような錯覚を覚えさせられます。これは、今まで2話では怪人☆仮面マスクが、3話では成歩堂龍一が、同じ人物が2人いるとして問題になっている今作を通しての共通点の1つとなっています。

 紆余曲折がありながらも御剣は事件の矛盾を暴き出し、まだ調査の余地があるとして法廷を一度中断させ、成歩堂にこの事件を引き継ぎます。
 法廷が終わった際、御剣は冥に「君は最高のパートナーだった」と告げます。冥は御剣を負かすために法廷に立ちましたが、御剣の目的はあくまでも真実の追究です。そして真実の追究のために必要なものは、弁護士と検事の信頼関係であるというのは逆転裁判2にて描かれていた通りです。対立した立場から意見を出し、とことんまで事件を突き詰め、矛盾を無くしていくため自分と対立する検事として、御剣は冥のことを信頼しこの法廷を終えたのだと思います。
 また、御剣は2日目の法廷が始まる前に改めて成歩堂に対し「後は頼んだぞ......相棒」と声をかけます。逆転裁判2で2人の深い信頼関係が描かれていた通り、御剣に弁護士バッジを預けた成歩堂の行動からも、こうして成歩堂に声をかける御剣からも、強い信頼関係が見られます。
 このように、御剣を操作するパートがこの5話に存在することで、ここでは逆転裁判2のテーマの1つであった弁護士と検事の信頼関係が描写されています。

 5話においてもう1つの注目したいポイントは、2日目の調査パートでいつも真宵ちゃんやはみちゃんが務めている成歩堂のパートナーが冥になることです。これは法廷パートに引き続き、前作を遊んだプレイヤーにとっては驚きの展開だと思います。

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 前作では成歩堂を強く敵視しており、今作でも当たりの強さはあまり変わらない冥ですが、「まだ、お父さんのことで、このぼくを......?」という成歩堂の質問に対して「成歩堂龍一。私は、あなたを倒す......必ず。でも......それは、私自身のため。父は、関係無いわ......もう」と前作の最後に触れられた父親に依存する気持ちからの脱却が描写されています。逆転裁判2では全体を通して冥の在り方が描かれていたこともあり、彼女の成長が感じられるこのやりとりはかなり感動するところです。成歩堂も明らかに当たりが強いわけではないものの静かに敵意を向けてくるゴドー検事と暫く相対していたからか、わかりやすく敵意を向けてくる冥を見て(なんだか微笑ましいな)と思うなど、何だかんだと打ち解けている2人の姿がこの調査パートでは見られます。

 暫くの間一緒に行動する冥と成歩堂ですが、成歩堂から「せんべいブトン」の意味を教わったり、手水鉢のことを「大きなおちゃわん」と表現するなど冥の可愛らしいところが垣間見られ、御剣に引き続き5話は今までの検察側のキャラクターの魅力を深堀りするという意味でも良い総決算の話になっています。

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 この事件をまとめるにあたり欠かせないのは、今作で何かと強い印象をプレイヤーに与えてきた美柳ちなみです。有罪判決を受けた後死刑になった彼女は、死んでなお霊媒の力によって再び現世に蘇ります。

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 事件の調査を進めていくうちに明らかになることですが、葉桜院あやめと美柳ちなみは双子の姉妹です。1日目の法廷で問題点となった同じ時刻、違う場所にいるあやめの謎の正体は、霊媒したちなみがいたから、ということになります。

 今回の事件は、逆転裁判2の2話で登場した綾里キミ子によって計画されたものでした。次期家元である真宵を始末し、娘の春美を家元にするという彼女の執念じみた計画は未だに続いていたのです。更にここで、あやめとちなみは元々キミ子の娘であり、春美とは異父姉妹にあたることも明らかになります。春美にちなみを霊媒させ、ちなみに真宵を殺害させ、その罪をちなみと同じ姿形のあやめに擦りつける。これがキミ子の一連の計画です。彼女の計画は、次期家元という自分がかつて失った栄光をその手にするためだけに自身の娘3人に人殺しをさせるという、悪辣としか言いようのない計画です。曲がりなりにも自分の娘であるちなみの死刑を計画に織り込んでいるというのも反吐の出る話ですが、何より許しがたいのは何も知らず母親を慕っているはみちゃんを「あなたのため」と宣いながら彼女が真宵ちゃんを慕っている気持ちには見ないふりをして、都合の良いように動かしているという点です。

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 「綾里家のため」という母親の捻れた執念を慕っている「真宵のため」と信じて疑わず、殺人に手を染めかけてしまっていたはみちゃんの笑顔は、見ているだけで辛くなるものがあります。「キミ子の心はとっくに壊れている」とちなみが評するのも納得の話です。

 話は法廷に戻りますが、2日目の法廷が始まる前にあやめは突然「告白することがある」と言って検察側と打ち合わせをし、突然殺人の罪を真宵に着せるような証言を始めます。穴だらけの目撃証言を崩していくうちに、1話と4話で何度も同じように”彼女”の目撃証言の矛盾を暴いてきたプレイヤーは、証言台に立っているのがあやめではなくちなみだと気づくのではないでしょうか。この妹のふりをして証言台に立っている姉というのは、5話と深い繋がりのある逆転裁判2の2話で真犯人として告発された葉中未実が思い起こされます。

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 ちなみは何も親子の情でキミ子に協力したわけではありません。彼女には彼女の目的があって、キミ子に手を貸しています。それは、真実を暴き自分を有罪にした綾里千尋への復讐です。

 復讐をしようにも、千尋さんは既に亡くなっているため直接手を下すことはできません。そこでちなみが考えたのは、千尋さんの大切な存在である妹の真宵ちゃんを殺すということです。この目的が一致したために、彼女はキミ子の計画に協力したのです。姉の千尋さんにとって妹の真宵ちゃんは大切な存在だろうという思考を持っている一方で、自分の妹のことは罪を着せても構わない裏切り者だと思っているあたりに、母親に負けず劣らずのちなみの性格の破綻っぷりが窺えます。生者がどうあがいても死者には手が届かない。そんな当たり前のようで、霊媒が現実に存在している世界では致命的な点を突いてちなみは復讐を遂げようとしたのです。

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 これまで様々な事件を引き起こしてきたちなみですが、この事件で遂に引導が渡されます。
 ちなみは証言台に立った時点で、自分は春美に霊媒されて真宵を殺し、復讐を遂げたと思い込んでいます。しかし、成歩堂ははみちゃんがちなみを霊媒していないこと、そして今ちなみを霊媒しているのは他でもない彼女が殺そうとしていた真宵ちゃんであることを指摘します。真宵ちゃんは千尋さんの指示に従い、自分を殺そうとしている霊を自ら霊媒することで身を守ったのです。
 またしても自分が千尋さんに一杯食わされたと知って動揺するちなみに、はみちゃんに霊媒されて法廷に立った千尋さんは更にとどめを刺します。

「......美柳ちなみさん。やっと、わかったかしら。
......あなたは、私には勝てないの。
一生かかっても......いいえ。死んでも、勝てやしない。
この私の前で......永久に、恥をかきつづけるのよ!」

 ちなみの言う通り、死者を法的に罰することはできません。しかし、霊媒が現実の物とされている逆転裁判の世界では死者の魂は残り続けます。その魂が持っているプライドをへし折り、屈辱を与えることこそが死者への罰なのだと千尋さんは語ります。
 成歩堂に「あなたの計画は一度も成功したことがない」と指摘され、復讐を遂げることもできず、プライドを打ち砕かれたちなみの霊はおぞましい叫び声をあげながら真宵ちゃんの体から出ていきます。数年に渡る美柳ちなみとの因縁は、この裁判でようやく決着がつきます。
 余談ですが、逆転裁判シリーズでは無印のオウム、2のトランシーバーと普通ではありえないものが証言台に立つ、というのが恒例になっています。そして今作では死者が証言台に立つという、見た目のインパクトこそ他と比べて薄いものの、他に負けず劣らず異質なものに尋問する展開になっています。

 ここで焦点を当てたいのが、今回の事件の被害者である天流斎エリスです。絵本作家として葉桜院に宿泊している彼女は穏やかな雰囲気の女性で、はみちゃんは絵本の大ファンとして彼女によく懐いています。

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 彼女の正体は、千尋さんと真宵ちゃんの母親でありDL6号事件をきっかけに世間から姿を消した綾里舞子です。倉院流の家元である彼女がこの葉桜院にやってきた理由は、姉のキミ子が計画していた真宵ちゃんの殺害計画を止めるためです。この殺害計画の阻止には舞子の他にあやめも加わっており、真宵の殺害を企てるキミ子とちなみ、真宵の殺害を阻止する舞子とあやめという、姉妹の姉同士・妹同士の対立になっています。
 はみちゃんを1人にさせないように目を配っていた舞子ですが、はみちゃんを見失ってしまったことから苦肉の策として彼女がちなみを霊媒するより先に自分がちなみを霊媒し、協力者にちなみごと自分を殺させることで計画を阻止します。真宵ちゃんはこの事件で、知らずのうちに再会した母親を亡くしてしまったことになります。
 しかし、舞子は離れていても千尋さんと真宵のことを愛していたということが、葉桜院の住職である葉桜院毘忌尼(はざくらいんびきに)から語られます。その証拠に、舞子が肌身離さず持っていた倉院流の家元である証の印籠の中には幼い頃の千尋さんと真宵ちゃんの写真が入っています。毘忌尼は幼い頃寺に追いやられてやってきたあやめの母代わりの存在でもあるため、同じ母親である舞子の気持ちには特に寄り添えるところがあったのではないかと思います。

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 この写真は、まだ倉院の里にいた頃の千尋さんの服装と今の真宵ちゃんの服装を見比べると色合いなどがどことなく似ていて、お姉さんの真似をして今の服装になっているのかな、と感じられる微笑ましい一枚です。

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 姉妹の圧が2話以外控えめだった逆転裁判2から一転、今作では逆転裁判2の2話を絡めつつかなり重厚な姉妹の話をしています。綾里キミ子と綾里舞子もまた、今作で描かれている姉妹のうちの一組です。この5話では、3人の娘全員を利用して自分の悲願を叶えようとした身勝手な母であり姉のキミ子と、娘を愛し娘を守るためその身を擲った母であり妹の舞子の姿が、対比として描写されています。

 ちなみは真宵ちゃんを殺すことに失敗し、ちなみを霊媒していた舞子は彼女の協力者によって手を下されました。では、真宵ちゃんを守るために舞子と協力し、ちなみごと彼女を殺した真犯人は誰なのか。ちなみと決着をつけた後の裁判は、初めの問題に立ち返ります。
 舞子が殺された場所は、葉桜院の本堂から高い崖に架かっている吊り橋を渡った先にある奥の院という場所です。この吊り橋は事件が起こった直後に落雷で焼失してしまい、奥の院にいる人間は1日目の法廷が開かれた後警察が橋を補修するまで、奥の院側に取り残されてしまいました。つまり、それまでの間に葉桜院側にいなかった人が犯人ということになる、と千尋さんは教えてくれます。
 逆転裁判では、その事件に関わっている人たちの事件ファイルをいつでも確認することができます。1人1人の動向を思い出し、葉桜院側にいた人を1人ずつ消去していった時。プレイヤーは1人の人物の存在に行き当たります。
 それは、1日目の法廷になぜか姿を現さず、橋が補修された後奥の院側に渡った成歩堂を待ち構えていたゴドー検事です。

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 容疑者として全く候補に入っていなかった彼が犯人かもしれないと気づいた瞬間の、心臓がドッッッッッッとなる感覚はこの作品をクリアしてから数日が経った今でも忘れられませんし、この先もずっと覚えていると思います。

 2日目の調査で成歩堂と顔を合わせたゴドーは、真宵ちゃんが行方不明である現状を指して「お前は綾里真宵を見殺しにした」「綾里千尋がかつて死んだのはお前が傍で守ってやらなかったからだ」と成歩堂を責めます。私はこれまでの話で、千尋さんを亡くした後の成歩堂が後悔を抱えながらもその時できる最善を尽くしていたことを知っていたし、危ない目に何度も遭った真宵ちゃんを絶対に助け出し、今回の事件でも真宵ちゃんを助けるため燃えさかる橋を躊躇いなく渡ろうとしたことを知っていたので、このゴドーの言い分には正直「めちゃくちゃなこと言うなこいつ!?」と思いました。
 しかし、この時点でゴドー=神乃木荘龍であることがほぼ確定していたため、彼が成歩堂に向けている言葉はそのまま「死んだことになっていた間、千尋さんの傍にいて守ってやることができなかった自分」に向けられたものではないかと推測し、それなら気持ちは分からんでもないな......と思い直しました。また、理屈はともかく感情だけで考えれば、自分が毒殺された証拠の小瓶をころっと女に騙され持ち帰った挙げ句、自分の恋人の傍にいながら彼女の死を防げなかった男に敵意を持つというのは分からないでもありません。

 この5話は、霊媒が大きな鍵となる事件です。時に死者が証言台に立ち、弁護席ではいつものようにはみちゃんが霊媒した千尋さんが手助けをしてくれます。しかし、こんな事件に関わってなおゴドーは「死者は蘇らない」と話します。

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 個人的な好みの話になりますが、私はフィクション作品では死者は蘇らない方が好みです。死者は決して蘇らないからこそ失われた命と遺された物に重みがあり、作中で死亡したことも含めてそのキャラクターが生きた形だと思うからです(勿論その作品の文脈やテーマによりけりではありますが)。その上で、まるで死者が蘇っているように見える逆転裁判の霊媒というシステムは、一体どういった立ち位置なんだろう?というのが前作までで気にかかっていた点でもありました。
 この5話で、死刑になった後証言台に立ったちなみが自らを「死者」と言ったこと、公的な記録では死亡扱いとなっており死の淵から蘇ってきたゴドーの口から「死者は蘇らない」と話されたことで、霊媒は決して死人が生き返っているわけではないことが強調されたように思います。先述した個人的な好みもあり、私は他でもないゴドーの口からこの話が出てきたことが嬉しかったです。

 死者は蘇らない。ゴドーの愛した女性は帰ってこない。そんなゴドーに対して成歩堂が答えを見せることで、この裁判は決着がつきます。
 千尋さんから真実を聞き、ゴドーが自分を守ってくれていたことを知った真宵ちゃんは、彼の姿を事件現場で見ているにもかかわらず彼をかばおうとします。この真宵ちゃんの姿は、事件現場で犯人の姿を見たはずなのに犯人をかばうため「見てない」と主張する4話の尾並田と重なるものがあります。嘘をつくが故にどんどん矛盾していく彼女の証言を、成歩堂はどんどん崩していきます。
 「事件現場は真っ暗で犯人の姿が見えたはずがない」という主張に対して「暗闇だからこそ、そこにいるのがゴドーだと分かったんだ」と返した成歩堂は、法廷の照明を落とすように要求します。そこで浮かび上がる赤い光は、3話の裁判で最後に停電した場面がさりげなく伏線になっていたことを示します。

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 そうして最後に「ちなみに反撃された犯人は傷を負っていたはずだ。ゴドーはどこにも傷を負っていない」という主張に、成歩堂は1つだけ証拠品を突きつけることを命じられます。逆転裁判シリーズでは間違った証拠品を突きつけるとペナルティとしてHPゲージが削れるのですが、この時のペナルティは脅威の残っているHPゲージすべてです。

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 これを見たプレイヤーは、少なからず動揺すると思います。少なくとも私はこの時点で突きつけなければならない証拠品が全くわからず、このままではゲームオーバーになってしまうとかなり焦っていました。
 しかし、そんなピンチの状況でも、そんなピンチの状況だからこそ、成歩堂はふてぶてしく笑います。

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 それは彼が、「ピンチの時ほど弁護士はふてぶてしく笑うものだ」と千尋さんから教わったからです。そして、この教えを千尋さんに教えたのは、他ならぬ神乃木荘龍です。成歩堂は、師匠の更に師匠にあたる元弁護士に、受け継がれた教えを胸に千尋さんの弟子として立ち向かいます。そんな成歩堂を見て、焦っていたプレイヤーも頑張ろうと思えます。きっと、成歩堂に弁護を頼んだ依頼人も、彼のふてぶてしい笑顔にこんな風に勇気づけられたんじゃないかと思います。

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 ゴドーに突きつけなければならない最後の証拠品は、ゴドーの人物ファイルです。これは、ゴドーが怪我をしていないのは怪我を隠したからではなく、元々ゴーグルで隠れている箇所を怪我したからだということを主張するための証拠であり、改めてこの事件の真犯人を突きつける証拠であり、ゴドーが許せないのは成歩堂ではなく他でもない自分自身だと突きつける証拠です。逆転裁判3の最後に突きつける証拠品として、これ以上無く相応しい証拠だと思います。
 これを突きつけた瞬間、ゴドーは成歩堂の姿にもう蘇ることのない千尋の姿を見ます。

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 「死者は蘇らない」と話すゴドーに必要なものは、死者との会話ではありません。死者が遺したものを受け継ぐ人がそこにいて、そうする限り死者はその人の中に生きていると成歩堂が自らの弁護士としての姿で示すことこそが、ゴドーを救うために必要なものだったのだと思います。

 自分が犯人だと認め、成歩堂を一人前の弁護士と認め、千尋を守れなかった自分自身を許せない思いがあったことを吐露したあと、ゴドーのゴーグルからはちなみに反撃された時の血が流れます。この血のことを、ゴドーは「涙」と表現します。これは、かつて4話の裁判が終わった後に彼が「オトコが泣いていいのはすべてが終わったときだけだ」と言っている言葉に繋がっています。千尋さんと初めて法廷に立った事件から数年。この瞬間、ようやくゴドーはすべてを終えることができたのだと思います。

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 それまで成歩堂のことを「まるほどう」と呼んでいたゴドーが、最後に彼を「成歩堂龍一」と呼び、一緒にコーヒーを飲むこの裁判のラストシーンは、これまでの伏線が見事に回収された感動も相俟って胸に迫るものがあります。

 最後に触れておきたいのが、今回の事件の依頼人である葉桜院あやめについてです。彼女はこの裁判の最後に、ゴドーと協力して真宵ちゃんに舞子を殺害した疑いがかからないようにするため死体に工作をした罪を認め、それと同時にかつて成歩堂と恋人として半年間付き合っていたのはちなみではなく自分であったことを明かします。

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 警察に見張られて身動きがとれなくなっていたちなみの代わりにあやめがペンダントの回収を買って出たこと、ペンダントを回収するため成歩堂と付き合っているうちに彼のことを心から好きになっていたこと、そんなあやめに業を煮やしたちなみが成歩堂の殺害を計画したことを彼女は話します。成歩堂が1話の裁判の後に「裁判に出ていたちなみは偽物だったんじゃないか」と言っていた言葉は間違いではなかったとここで分かります。
 そんな彼女に、成歩堂はこう話します。

「あなたは、やっぱり......ぼくの思ったとおりの人でした。
『美柳ちなみ』が有罪判決を受けてからも......
それだけは、信じていました」

 葉桜院あやめは、成歩堂の依頼人であり、恋人だった女性です。ここで思い起こされるのは、これまでのシリーズで描かれてきた信頼関係の話です。
 逆転裁判無印では依頼人と弁護士の信頼関係、2では検事と弁護士の信頼関係、そして3では恋人同士の信頼関係が描かれてきたと前の項目で書きました。このうち、無印で描かれた依頼人と弁護士の信頼関係と、2で描かれた検事と弁護士の信頼関係は、5話前半の御剣を操作するパートで改めて描かれています。そして、5話の最後に描かれたのは、成歩堂とあやめの依頼人と弁護士としての信頼関係であり、恋人同士としての信頼関係だったのだと思います。そういった意味でも、逆転裁判3の最終話は、3作品の総決算として素晴らしい構成になっている話だと思います。


 逆転裁判無印から3までの物語は、無印発売当初に3までの構成が考えられていなかったであろうことが不思議なくらい丁寧に構成が組まれており、読み込めば読み込むほど全体に敷かれたテーマと最終話でのそのまとめ上げ方が素晴らしいシナリオになっています。正直私もこの話のすべてを読み解けている気がしませんし、こうして感想を書いているうちに「そういうことか!」と気づいて慌てて記事を書き足すところがいくつもありました。
 様々な媒体で遊ぶことのできる逆転裁判無印から3までの詰め合わせパックですが、様々な媒体に移植されていることも納得の完成度です。この物語を15年越しに再び遊び始め、没頭することができて、本当に良かったと心から思います。



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