羨ましい

   何もかもが器用な俺に比べて、友人のMはとても不器用だった。

    仕事はまあ、そこそこできているらしい。でも、とにかく恋愛が苦手。最後に彼女がいたのはいつかと、少し小馬鹿にしながら(彼がそれに気がついた様子はなかった。不器用人間を体現している)尋ねた。はあ、・・・っ年かなあともごもご答えた。つまり、ずいぶん長いこと女性と触れあってないってこと。恋愛至上主義の俺には考えられない。

    いじられキャラは、少し間違えるといじめられているイメージをもたれる。✕✕さんってキスしたことないですよねぇ、などと女性たちからセクハラまがいのことを言われおもちゃにされてもヘラヘラしている。

   同僚や後輩に仕事を押しつけられるのは日常茶飯事。それを察してするっと逃げればいいのに、彼は全てを受け入れる。利用されてんじゃん。会社で仕事をしてるなんかより、女性と体を重ねている方がよっぽど充実した時間を過ごせるのに。

   だけれど。

   感情が表に出にくい俺に比べて、彼は 笑顔を絶やさない。『笑っとけば敵はできないし、ゲラなだけ』羨ましい。

    上司や同僚にとにかく可愛がられ、後輩には慕われている。女性に好かれる自信はあるけれど男性に対しては自信がない。第三者に好かれる、好かれ続けるというのは一種の才能なんじゃないか。羨ましい。

   彼より仕事はうんとできる、彼と異なり女性が切れたことがない、彼に比べて貯金もある。負けているのは身長だけ。それは努力ではどうこうできない。そんな俺が彼に劣っている訳がない。

    羨ましくない、羨ましくない。決して、羨ましくなんて、ない。


❇️読んでいただいてありがとうございます。自身が不器用なので器用な人が大嫌いです。今まで生きてきて、A地点に行くまでに大回りばっかりしてる気がするな。でもストレートな道よりも道草食ったほうが人生に厚みがでると思ってます😀