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短編小説『チュッパチャップスの花束を』

 彼女にプロポーズをしよう。お互いの両親公認で付き合い始めて来月で3年目。一緒にいると自然体でいられる、彼女はことあるごとにそう言ってくれる。

 でも、バラの花束を持って、ひざまずいて《結婚してください》なんて、恥ずかしくて言えない。赤いバラが恥ずかしい?だったら黄色のバラなら?白?ピンク?紫?青?違う、色じゃない。バラが恥ずかしいんだ。シュッとした、背が高くて、イケメンの男がひざまずいて、真っ赤なバラの花束を持ってプロポーズしたら、彼女は即座に《よろこんで》と言うだろう。平均的な身長で、平均的な顔立ちで、平均的な体格の僕がそんなことをしたらクスクスと笑われるだけ。お別れなんてことにはまさかならないだろうけど。

 印象的で、驚いてくれて、恥ずかしくないもの。うううん。思いつかない。あううう。

  彼女の誕生日にプロポーズをしようか?年齢分のバラの数。大きな花束は印象的にちがいない。でも僕の給料じゃむりだ。解約する定期もない。驚くものはなんだろう?今どき、花束なんて驚くかな。彼女は気をつかって、驚いたふりをしてくれるかもしれないけど。恥ずかしくないもの・・大きな花束が恥ずかしいなら1輪はどうだろうか?≪バラを1輪ください≫フラワーショップの店員さんに言う勇気はない。それにやっぱり大きいものがいい。

   プロポーズは僕の部屋で。人目が気になったから。僕が作った夕ごはんのあと、話があると言って、彼女と向かいあって座った。

  「かわいい。うれしい。ありがとう」    彼女は僕の差し出したチュッパチャプスの花束を両手に収めた。
「どうやって作ったの?」
  4、5歳ぐらいの子供の両手にならすっぽり収まるくらいの小ささ。大人ならば、片手に収まってしまう程度の。「チュッパチャプスとリボンと周りのフワフワの紙を買ってきて・・」
「うん、うん。それから?」
「チュッパチャプスを束ねて持って、棒のとこを紐でぐるぐる回して、でもしばろうとしたらゆるんじゃって。それを繰り返して、しばるのに10分くらいかかっちゃって」
  僕はチュッパチャプスを4件目のスーパーで見つけたこと、それをかごに入れていたら、お菓子売り場にいた子どもたちにクスクス笑われたこと。リボンのしばりかたが分からなくて、スマホを見ながら何度も何度もしばり直したことを長々と話した。
「不器用なの人なのに。ほんとにありがとね」
  気がつくと彼女の右目から、つつつと涙が流れていた。少し時間を開けたほうがいいかな。それとも今すぐに?ーいや、勢いで。それでいい。違う。それがいい。

「結婚してください」


❇️読んでいただいてありがとうございます。最近行ったイオンモールのPLAZAで、チュッパチャップスの花束を見ました。かわいいなと思って、次の日にチュッパチャップスの大と小を買ってきまして。それが、まあ、大変!!大の棒のとこをテープで止めて、取れて、止めての繰り返しから始まり、ふんわりの紙で包み、大のあいだに小を突っこみ、小が取れてのループ。理想とはかなり違ってしまいましたが、まっ、いいかな。これはこれでいいや😃