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愛をこめてゴディバをきみに

   シブチンというのは関西弁で、りんしょく家というらしい。簡単にいえばケチってこと。パパのおじいちゃんは昔、関西に住んでいたらしく関西弁がよく出る。カンカンとか、おおきにとか。あとなんだっけ?たまに意味がよくわかんないけど、ふんふんと言って聞いている。

  バレンタインには彼とパパと、パパとママのおじいちゃんに手作りのチョコをあげた。

  コスパがものすごく良かったことを彼氏は当然知らない。
『生まれて初めての手作りなの。おいしくなかったらごめんね』
  その言葉も嬉しかったのか、お返しと言って手渡されたプレゼントはヴィトンのお財布だった。
『アルバイトをもう少しがんばったらバッグも買えたんだけど、ごめんな』
『あたしこそごめんなさい。こんなに高いものもらっちゃって。アルバイト、むりしなかった?うれしい、ほんとにほんとにありがとう』
  そんなことを言いながら、心のなかではプラスマイナスいくらだろうと思っていた。この財布、新作じゃないけど、軽く見積もって8万円ってとこね。

   パパには化粧水なんかを買ってもらった。ドラッグストアのカウンターに一緒に行って、dプログラムをフルセットで。広瀬すずちゃんが大好きで、ずっとずっと欲しかった。化粧水、美白化粧水、乳液、美白乳液、ファンデーション、ソープ、クレンジング・・。娘と2人で出かけたことがよほど嬉しかったのか、パパはあたしにねだられるまま買い、レジでカードをだした。家に帰ってママにお説教を食らっていたけど、どこ吹く風だった。

   ママのおじいちゃんにはアクセサリーを買ってもらった。ママをお供にショップに行った。ケイトスペードとかサマンサシルヴァとか欲しいブランドはたくさんあったけど、ティファニーにした。ネットで見て一目惚れしたペンダントがあったから。オープンハート、これに。ダブルハートがモチーフのもの、4つのハートが組み合わさったラビングハート。胸元にあて、鏡で見てみるとどれも欲しくなった。でもやっぱり欲しいのはオープンハート。おじいちゃんは好きな物をと言ってくれたけど、値札を見たママからはいくつかの物にはオーケーが出なかった。でもこのオープンハートはどうしても欲しい。おじいちゃんを味方にして、泣き真似をしたりどれだけ欲しいのかを力説した。ママが白旗をあげたのは、店に入ってから1時間以上経っていた。

   ま、  あの人からは、お返しは期待できそうもないな。別にいいけど。シブチンだから。

  「これな。お返し」
  ママのお使いでパパの実家のおじいちゃんの家に行った。託された、おばあちゃんの好きな福砂屋のカステラだけ置いてすぐに帰るつもりだった。
「え?」
  玄関口で、おじいちゃんは小さな白いビニール袋に入った何かを渡してきた。
「お返しってなに?」
「あの、その、家に帰ってから見なさい」

   なんだろ、これ。駄菓子でも入ってんのかな。グミとかガムとかウエハースとか嫌んだけど。そんなことを考えてたら、中身が気になってきた。見つけた公園のベンチに腰を下ろした。あ・・・。中にはゴティバのチョコが入っていた。うそ。デパートとかのホワイトデー催事で、初日に売れちゃったゴティバのチョコ。ピンク色のハート型の缶が可愛くてどうしても欲しかったヤツだ。催事の日、学校帰りに伊勢丹や大丸や高島屋、西武に行った。でも、どのデパートの店員さんに聞いても、売りきれましたって言われたゴティバのチョコ。

   おじいちゃんはあたしがゴティバが好きってことを知ってたんだろうか?まさか。ママに聞いたと思う。バレンタインやホワイトデーの催事に来るのはほとんどが女性。おじいちゃんがそこに行くのは恥ずかしかっただろうな。もしかしたら開店を待って、チョコを奪い合いしたかもしれない。涙がでてきた。あたしはばかだ。コスパだのプラスマイナス
の言っていたあたしは本当にばかだ。立ち上がった。泣きながら、歩いてきた道を走った。すれ違った人たちがみんな変な顔をしていた。けど、あたしは気にせずにどんどんどんどん走った。途中で足がもつれかけて転びそうになった。それでも足を止めずに、息を切らしながらどんどんどんどん走った。


✴️読んでいただいてありがとうございます。以前に書いた『愛をこめてゴティバをあたしに』の続編です。他人を小馬鹿にしていた主人公が、本当の馬鹿は自分だと気がつくストーリーです。とうの昔に亡くなった、おとうの親のおじいちゃんもこういう口下手で不器用な人だったなあ。と、モデルにしました。16年しか一緒に居られなかったけど、もっともっと一緒に居たかった。