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短編小説『ぼくの忍者とバニラカー』

  忍者って、伊賀流とか甲賀流とか美濃流とか松葉流がいるって聞いたことあるなあ。ぼくの忍者は何流なのかなあ。

   忍者はぼくの近くをのんびりのんびり歩いているときもあるし、うんと遠くを忍者走りをしているときもある。彼らは男性のときもあるし、女性のときもある。大人の忍者のときもあるし、こどもの忍者のときもある。いろんな忍者がいる。

  バニラバニラバニラバニラバニラバニラ、高収入。そんなことを宣伝しながら、きらびやかな宣伝カーが繁華街を走っている。どこからか忍者が現れ、ぼくの真横にしゅっと立った。信号が赤なのだから、歩をすすめたら車にひかれるってのに、ぼくの忍者は猛ダッシュをした。バニラに追突し、倒れこみ、タイヤに巻き込まれた。べちゃっ。そしてシュルュシュルュシュルュシュルュ。ぼくの忍者はいなくなった。これで何人目かなあ。遠ざかっていくバニラをぼんやり見た。信号が点滅していることに気がつき、ぼくは横断歩道を慌てて渡った。視線の先には別の忍者がいた。



  忍者は電車や地下鉄にはひかれない。なんでか分かんないけど。車にもカブにも自転車にも三輪車にも。忍者は渋谷や新宿なんかにたくさんいる。特に歌舞伎町に。歌舞伎町はバニラがよく通る気がする。バニラカーが好きなのかな。それともキャバクラかな。車が好きなのか、女の子が好きなのかわかんない。りょうほうかもね。

   忍者はぴょんぴょんぴょんぴょんっと飛び、バニラの屋根にのぼりそこに伏せた。あたりを見渡し、道路にさっと降りた。バニラは左に曲がった。べちゃっ。ぼくの忍者はバニラに引かれてしまった。どうして右に曲がるバニラの屋根に飛び乗らないんだよ。ばかな忍者だな。

  ある日は、ベビーカーの真横を抜きあし差しあし歩いていた。そこに乗っているのは赤ちゃんだよ。武器なんて持ってないし、襲ってもこないと思うよ。忍者は赤ちゃんをちらりと見た。赤ちゃんは忍者に気がついたらしい。恐怖からか目をすっとそらした。お母さんも同様なのか、ベビーカーを押すスピードを早めた。忍者は並走した。やめてあげなよ。おかあさんも赤ちゃんも怖がってんじゃんか。スピードはどんどん上がった。ぼくの忍者は負けじと走った。ぼくはたちどまった。やめなよ。こころの中の言葉が伝わるはずもなく、忍者たちはやがて視界から消えた。

 バニラバニラバニラバニラバニラバニラ、高収入。

  やかましいなあ。バニラカーって、1日になんじかん走ってんだろう。横断歩道をのんびり歩いていたら、近づいてきたバニラがぼくの体に乗ってきた。ぼくは車のタイヤに巻き込まれた。

バニラバニラバ、ニぃぃ、ラぁぁぁぁ、こおおおおおおおおおおしゅ

べしゃっ。


「俺の忍者ちゃんが」

べちゃっ。

「私の忍者クンが」

べちゃっ。


べちゃっ。


べちゃっ。


べちゃっ。


べちゃっべちゃっべちゃっべちゃっべちゃっべちゃっべちゃっ



                                                 バニラバニラバニラバニラバニラバニラ、高収入。バニラバニラバニラバニラバニラ、高収入



✴️読んでいただいてありがとうございます。ランジャタイのユーチューブで、国崎さんが、ぼくの忍者がよくひかれると言っていたことから着想。変なことを言う人だな。こういう変な人だから、ああいう奇想天外なことが思いつくのかな。