バイトの話

「バイト先に奥村さんっていう人がいるんだけどさ、その人ってオッチョコチョイでミスばっかりしてるんだけど、お客さんからすごい信頼されてて人気あるんだ」
「そういう子いるよね」
「うん。私とかきっちりやってるんだけど、お客さんとの間に結界っていうか社交辞令的な?対応になっちゃって」
「仁美はそうだね、キャラ的に。でも、そういう人のほうが安心して買い物できるって人もいるでしょ?」
「まあ・・・いるっちゃいるけど、少ないかな・・・」
「その奥村さんみたいになりたいって話?」
「ちがう・・・男として見たらどっちがいいんだろうって思って」
「それはさっきもいったけど人それぞれでしょ・・・まあ、仁美の場合、隙がないってことだろうね」
「その隙ってさ、昨日今日でつくれるものでもないじゃん」
「たしかに」
「接客やっててずっとある問題なんだよねこれって」
「でも、奥村さんが仁美をマネするのって簡単じゃないけど、仁美が奥村さんの接客態度を参考にするってできるんじゃない?」
「できるかな・・・」
「結局お客さんって人間的なひとを求めてるんじゃないかな。接客マニュアルとかにはないその人なりの率直な意見とか考えありきでのつき合いがあれば信頼も生まれるってことでしょ?」
「そうか、たしかに。隙をみせるとかそういうことじゃなくって裏表なく人としていることが大事ってことか」
「そうそう、そうしてるうちに仁美の隙も見えてくると思うんだよね」
「え?わたし隙あるの?」
「あるよ。そんなことより速く待ち合わせ場所に来てよ。寝起きでしょ?」