サイン会にやってきたナンバーワンのファン

「こんにちは、川越先生」
「こんにちは、ありがとうございます」
「ボク、先生のインディーズの頃の初期作品のファンでして」
「ああ、そう?」
「『目下戦闘中』はロボバトル漫画の先駆けかなって思いますし、出てくる女の子のタッチもすごくエッチできわどくて、人物描写も言葉の中に当時の政権に対する痛切な批判が隠されたりしてて」
「そうだね、あの頃は俺も尖ってたからね。今、なかなかああいう作品を描ける編集者も出版社もいないよね。時代って言えば時代だよね、わざわざありがとうございます」
「いや、先生、時代のせいにしないでください」
「・・・・・?」
「先生、その後の初期三部作のあと、メジャー週刊誌に行ってから、なにも当初のメッセージ性がなくなりましたよね?ロボットとセクシーな女の子を描いて、グッズとかアニメの売り上げだけに注力してボクたちファン層を完全に切り捨ててしまって」
「いや、そんなことないよ。やっぱりさ、作りてだからどんどん新しいこととかにアップグレードしていかなきゃいけないわけだし、いつまでも80年代の画風、切り口でファンが受け入れてくれるもんでもないよ。よくキミみたいなやつがいるんだよ。ファーストアルバムしか認めないガチ勢かしらないけど・・・そういった人たちに向けて制作してたら結局音楽でも漫画でも作家を殺すことになるんだよ。常に変わり続けないと・・・キミも変わらないとだよ。実家で親に養ってもらいながら気がついたら40。そんなとこじゃない?」
「自分の弱さをすべて受け取りてのせいにしてしまうその姿勢は、ファンに対する裏切りです」
「ありがとね、はい、サイン。次の人待ってっから。警備員さん、コイツ連れてって・・・・あっ!!オマエ、なにしてんだ!オイッ!!誰か!!痛っ!!!」