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【医師直伝】実は危険!明日まで待てない風邪症状!の見分け方と予防法(髄膜炎編)



こんにちは、森田です。

前回こんな変な記事を書いてしまったので、各方面からお叱りを受けております。

「医者が市販の風邪薬を推奨してどうするんだ!」

「風邪症状にも危険なものだってあるんだぞ!」


とかですね。

確かにそのとおりです。

僕も、病院当直や救急外来などをしていると、風邪症状で来院される方や電話での問い合わせなどを数多くいただきます。もちろん、「風邪薬飲んで寝なさい」なんて全員に言っているわけではありません(言うときもたまにありますけど)。


「では、それはどんな基準で判断してるの?」


そう、そこが問題。その判断基準の一つとして超重要なのが、


緊急性があるのか?ないのか?


ということです。

簡単に言えば


明朝まで待てるのか?


というところ。

これは、我々医師にとってとても重要な判断基準であると同時に、当たり前ですが患者さんが受診を判断する際にも大事な判断基準ですね。


というわけで、今回はその見分け方のうち超重要なもの=髄膜炎の見分け方、についてご紹介します。
(風邪薬編と合わせて、自宅での対応法・考え方の一つとして参考にしてみてください。)



**なお、大事なこと(予防法)が一番最後に書いてありますので、最後までお読みいただけますと幸いです。




■明朝まで待てない風邪症状


明朝まで待てない、つまり、時間単位で進行し、かつ生命に関わるかもしれない風邪……そんなものあるの?と思われるかもしれませんが、実はあります。

その代表的な病気がこちら。


◎細菌性髄膜炎


いかにも怖い感じですね(漢字ばっかりだし)。

ではその概説と見分け方を解説していきましょう。



■髄膜炎


髄膜炎とは、イメージで言うとこんな感じ。

(イラスト:筆者)


簡単に言えば、イラストの「脳」とか「脊髄」、それを包んでいる袋にバイ菌やウイルスが感染してしまうことです。

そもそも脳とか脊髄は、神経の塊のようなところですので厳重に保護されています。

脳みそは頭蓋骨に囲まれてますし、脊髄も硬い背骨に囲まれています(これを脊柱管といいます)。で、骨の中ではきちんとした袋に包まれていて(これが髄膜)、その中で液体(髄液)の中に浮いてる感じで存在しています。これだけ厳重に囲まれているので、基本的にバイ菌もウイルスも入らないようになっています。だから逆に、入ってしまうと大変なんですね。

で、入ったのがウイルスの場合は比較的症状は軽いのですが、細菌の場合は結構たいへん。無治療の場合の死亡率は30%とも言われています(出来るだけ早く「抗生剤」による治療を開始することで死亡率は劇的に下がります)。しかも日本では年間1500例くらい発生しているとのこと。


((((;゚Д゚)))) 怖いですね!


そんなに怖い病気、どうやって見分けるんだ!

ということになります。

もちろん病院では専門的な検査(血液検査・髄液検査など)をしますが、今回はそこじゃない。家で判断するときの話です。自宅で髄膜炎と普通の風邪を見分ける、なんかいい手がかりはないのか?



■髄膜炎の3徴


髄膜炎には自宅でもわかる3つの徴候があります。それが、



◎発熱

◎意識障害

◎項部硬直


です。(これに◎頭痛も入れて4徴という場合もあり。)



最初の1つ『発熱』はわかりますね。

でも…発熱って(頭痛も)通常の風邪症状だから、見分け方の参考には全然ならない…(^_^;)



そこで2つ目の『意識障害』です。

これもイメージは分かると思います。ま、具体的に言うとこんな感じ。


 Japan Coma Scale(JCS)

300.痛み刺激に全く反応しない
200.痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめる
100.痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする

30.痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する
20.大きな声または体を揺さぶることにより開眼する
10.普通の呼びかけで容易に開眼する

3.自分の名前、生年月日が言えない
2.見当識障害がある
1.意識清明とは言えない


『痛み刺激に反応しない(揺すってもつねっても目が開かない)』から、『意識清明とは言えない(なんかちょっとおかしい)』まで…結構幅が広いですが、まあこうなっています。

さすがに『意識障害』まで来ると、

「ちょっとおかしいぞ!?」

「病院行こうか!?」

となりますよね。

…とはいえ、子供なんかの場合、

ただ寝ぼけてるだけなのか、

もしくはぐっすり寝てて反応が乏しいだけなのか、、

そのへんの判断も難しいところです…。



ということで3つ目。『項部硬直』です。

これはあまり聞かない単語ですね。

誤解を恐れず超簡単に言うと、


項部硬直=首を前に倒せない



ということです。

具体的には、

「仰向けに寝ている人の後頭部を持って首を前に曲げようとしても抵抗されて曲げられない」

「自分で首を前に曲げて顎を胸に付けようとしても痛くてできない(neck flexion test)」

などです。

ちなみに、この3つが全て揃うことはそんなになく(全体の40~50%くらい)、このうちの1つ2つあるだけでも髄膜炎を疑うことはあります。ま、よっぽどでない限り「発熱・頭痛」のありふれた2症状だけではあまり疑いませんが・・(^_^;)。あと、嘔吐、痙攣、知覚過敏などの徴候もあり、これらも参考にします。


ということで、上記「髄膜炎の3徴」(頭痛まで入れて4徴でも)は、ご家庭や自宅でも判断材料として使えるものだと思いますので、覚えておいて損はないですね。


是非、参考にしてください。そして、疑わしいときは躊躇せずに早めの受診をおすすめいたします。(決して風邪薬だけでごまかさないでください!)


最後に

 実は、細菌性髄膜炎の原因菌はほとんど

◯インフルエンザ菌(冬に流行るインフルエンザウイルスとは全く別モノ)

◯肺炎球菌


の2つで、この2つだけで細菌性髄膜炎の8〜9割を占めると言われています。(生後3ヶ月までの赤ちゃんの場合のみGBSなどが多く話は別になります)


 そして、なんとこの2つの菌は『予防』が出来るんですね〜。それが!


◎Hib(インフルエンザ菌b型)ワクチン!

◎肺炎球菌ワクチン!


この2つのワクチンを子供や高齢者にきちんと接種した国ではなんと、


罹患率を50%~90%も激減!


させることに成功した!ということです。

出典:細菌性髄膜炎の疫学的現況(日本神経学会) https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/zuimaku_guide_2014_02.pdf


もちろん現在、日本でもこれらのワクチンは大体の場合

無料!


で受けられます(定期接種)。実際これらが日本で普及してから、子供の髄膜炎は激減しているとのこと。

Hib=インフルエンザ菌b型髄膜炎が90%減少!

肺炎球菌髄膜炎が70%減少!


です。

ものすごい効果ですね。

ですので、お子さんのためにも、国全体のためにも、これらのワクチンはきちんと接種しましょう!もちろん、我が家の子供達も全員ワクチン打ってます!(これとっても大事なこと)。


以上、「実は危険!明日まで待てない風邪症状!の見分け方と予防法(髄膜炎編)」でした。



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夕張に育ててもらった医師・医療経済ジャーナリスト。元夕張市立診療所院長として財政破綻・病院閉鎖の前後の夕張を研究。医局所属経験無し。医療は貧富の差なく誰にでも公平に提供されるべき「社会的共通資本」である!が信念なので基本的に情報は無償提供します。(サポートは大歓迎!^^)