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全自動書店 と 手で動かす本

ヤンデルさん、とても遅くなってすみません。
と、今そう書いてるので、もっと遅くなるかもしれません。


もともと諸々遅いですけれど、とくに今回なかなか書けなくなりました。なぜだか、と書きかけて、だいたい思い当たるところがありました。たぶん、ちゃんとしたものを書こうって思ってしまったからです。ちゃんと書こうとは、今までも思ってたんですけれど。

なんていうか、ちょっと気負いました。

ヤンデルさんは書店についての本を、僕よりぜんぜん読んでる。

もちろん書店についての本だけじゃなくて、専門の医療の本も、小説も漫画もすごい読んでる。ツイッターとかで紹介されてるもの以外にも、学術書・学術誌、論文なども含めたら、きっと想像すると気絶するくらい、読んでる。

前回、紹介された『書店本事 台湾書店主43のストーリー』、ウチの店に在庫なかったんですよ。入荷した履歴すらなかった。読んでから書く決まりなんてないんですけれど、なんだかそのつもりでいて、発注したけれど、まだ入ってきてなくて、読めてません。読んで、僕も台湾行ってみたいですって云いたかった。

『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』も、エーコなんて僕にとって積ん読の代名詞みたいな作家で、おいそれと読もうとすら思えないです。思えてないまま何年も経ってます。
なんか、ぜんぜんあかんのです。


で、ヤンデルさんは書いてもいる。きっと想像すると気絶するくらい書いてる。

インプットとアウトプットの量とスピードがスゴくて、なんか意味なく9割って言葉も付け足して今ふうのビジネス書のタイトルっぽくしてしまいそうなくらい、敬服と妄想を繰り返してました。こちらはただただほけーっとしたまま9割過ごしてたのです。ごめんなさい。


まあ、いいや。
いうててもしょうがないので、ちょっとずつ本屋の話をしましょう。

何から話しましょう…と少し考えて、ふと思ったのが『書店本事』のことです。つまりかの書房さんにはあってスッとオススメで出てきて、ウチの店にはなくてなかなかスッと入ってもこない本の存在です。

だいたい今は自動発注でもって、売れた本はレジでISBNのバーコードを読まれ、データとして取次(問屋)に飛びます。で、だいたいなんもしなくてもまた入荷してきます。
この「なんもしなくても」ってところが便利なようでくせものです。
すべての本にISBNがあるわけではないし、本によっては(出版社によっては、です)直接取次に帳合(取引)がなく、自動発注のデータがはじかれてしまう場合があります。同様に未入荷の本をあらたに入れようとしても、データ発注では、はじかれる場合があります。

取次に帳合がない出版社の本を入れようと思ったら、その出版社と取引のある二次取次というさらに間に入る問屋さんを経由します。そちらに概ねFAXとかで発注したりして、本自体も実際そこを通してから入荷してくるわけです。

かなりざっくりした説明ですし、ケースのひとつに過ぎませんが、いちばん云いたいのは「なんもしなければ/なんかしなければ」えんえん入ってこない本があるってことです。

いろんな本屋や取次や出版社のケースがあって多様だし、どんどんデータ化システム化が進んでるので変化もしてるんですけれど、本は一律な流れだけで、店頭に並ばない。

ここで本屋の意思が働くわけです。

データやシステムに引っかからない本(えてしてそういう本のほうが魅力的だったりもします)を棚に置くための、人力の注意だったり手間だったり。そもそもそういう本があるってことを知るアンテナとか、置きたいっていう欲望だったり。手と頭を動かさなきゃならない。

特別なルートを通さなくてもいい本でも、例えば注文のデータがいったときに出版社で品切してればそのままです。この場合は「重版待ち」や「返品待ち」で出版社に保留してもらえるよう再手配します。

無数にある本のなかで、さまざまな流通の状況があって、人が少なくなってて、データ化システム化が進むこの業界ですが、いち書店員としては「この本を置きたい」という意思だけがすべての源です。

(ただチェーンとしてのいわゆる大型書店では、(人員削減的な生臭い話も絡んだりして)いち書店員たちの個性を出していくのが、どんどん体力的にしんどくなっている気もします。ルーチン業務すら終わらない日もありますから。ここいらはちょっとまた別の話です。とはいえ、やっぱり置きたい本は置くし、やりたいフェアはやる。それができなくなった本屋では僕はもう働けない)

ヤンデルさんが云った
「まったく知らないジャンルに出会うために大きな本屋をじっくり隅々まで歩きたい自分と、少数ジャンルに特化した小粋なプチ本屋で店主のおすすめをはいかYESで買うのと、ぼくの中ではとくに矛盾していません。」
という言葉。

本を楽しみにいく人間としてはまったく同感です。一方で、本を楽しませたい人間としては(同一人物なんですが)、大きな本屋で働くことと小さな本屋の店主となることの差異をすごく考えたいところです。これもけっこう深い問題をはらんでるんだろうなって思いますけれど。

ところで、こないだまたtoi booksさんに行ったんですけれど、置かれてる本のいくつかはウチでも置いてるんですけれど、おんなじ本でもぜんぜん見えかたが違うんです。おもしろいなーって。なんかすごく新鮮でした。で、ウチでも買えるのについtoi booksさんで買っちゃったり。


ヤンデルさんは書店の本を、僕よりぜんぜん読んでる。

とりあえず僕は僕の書店の本をつくるようなつもりで、ヤンデルさんに向けて書こうかなと、気持ちをあらたにしてみたところです。とはいえ、気負うとやっぱり書けないので気楽に気持ちをあらたにします。


(2019.10.13 前田→市原さん)

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