モノクロームの世界

助けを求めている。
ボクはね。
彼女を「助けてあげたい」と思ったんだよ?

でもね。
サメに襲われるマグロを、救う為に船に上げたら死んでしまうように。
彼女をボクが立つココに引き上げたら、きっと彼女は苦しむだろう。

ボクは彼女の代わりにずっとココにいたから。
この世界に。
九年もの間、ココの空気を吸い続けたから。
最初は苦しくて、息をする事すら難しかったけど。

少しづつ。
身体が環境に合わせて変わってくる。
肌はくすんだ色になり、手はガサガサに。
心も荒んでいく。

しようがない事だってのは分かっていた。
ココで生きる方法は「賢く立ち回る事」だったから。
食べるたびに苦しさは薄まり、飲むたびに肌の色は失われていった。
気付いたら、ボク自身がこの世界の一部になっていたんだ。

彼女の声を無視し続けるのは、彼女の為なのかボクのエゴなのか?
ふと疑問に感じて。

そして分かったんだ。
彼女は助けを求めているんじゃない。
ボクを助けようとしてるんだ。

色を失ったくすんだ夕日の中、彼女の肌の紅はボクの目にはとても眩しくて。
差し出された手にボクは無意識に手をのばして。

引っ込めたんだ。

ボクの手はあまりに汚く、あまりにこの世界に侵されている。
そして、彼女はあまりに無垢で美しかった。
こんな汚い手で彼女に触るのは憚られた。

でも、抗しがたい渇望と、ほんの少しの欲望(ボクは彼女を汚したかったのかも知れないのです)。
それが彼女の手を握らせた。

途端にボクの世界に色が戻ってきたんだ。

なんの事はない。
世界が色を失ったのではなく、ボク自身が世界の色を失わせていたんだ。

いつも歩いたこの道を。
ボクは彼女と一緒に歩いたんだ。

「この家の屋根は青。この花の色は赤」

なんて。
はしゃぎながらね。

――といったような日記を、旧日記で前の会社を辞めた直後に書いた。

よく言われる。
「キタナカの日記は、真偽がサッパリ分からず、その時の状況等が分からない」と。

俺は考える。
人に気持ちを文字で伝えるのは非常に難しい。

仕事を失う気持ち。
女の子にフラれる気持ち。
かけがえのない人を失った気持ち。
幸せに包まれた気持ち。

それは、受け手のキャパシティを問う行為。
「かけがえのない人を失った」経験のない人には、想像でしか、その人の痛みなんて分かってあげられないものだ。

でも、他人事ではない。
自分の心の動きですら、時間と共に風化する。
悲しいけれどそれが真実。

だから俺は。
その時の俺の心境を。
より分かりやすくするために。
より直接的に伝わるように。
カリカチュアされたフィクションを書き続けるんだ。

その悲しみがダイレクトに伝わるシチュエーションで。
その楽しさが行間ににじみ出すロケーションで。

残念ながら俺は文才に乏しいので、他の人に分かってもらえるように「心」を伝える術を持たない。
だから、上記のような文章になってしまう。
でも。
決心>愕然>当惑>開放>不安>悲哀、なんて混沌とした心中を叙事的に語れるものだろうか?
ま。
俺にはできないだけで、できる人はできるんだろうけど。

ねぇ。
あなたはちゃんと人に自分の気持ちを伝えられてますか?
ねぇ。
あなたはちゃんと気持ちを受け止めてもらえてますか?

タメになるコトは書けていませんが、サポートいただけたら励みになります。よろしくお願い申し上げます。