「西洋の城って、なんで四隅が円柱状なの?」

表題に付いて、家人から聞かれた。
どうやら。歩いている時や仕事している時でも不意に思考してしまい、「どうしても結論に至れない」問題らしい。
「だって。四角い方が簡単に作れない? (「物見櫓」的な意味で)守りには強そうだけど、中のスペースがデッドスペースじゃない?」というのが彼女の言い分。
俺は。「探偵モード」になって、彼女が指し示す城の数々を見てみた。
「うん。これは面白そうだ」と思い、彼女の思惑に乗ることにした。
※俺は、歌詞が難解な「森のくまさん」を、「DQとチンコ」で解説できる人間だから、この程度ならお茶の子さいさい(久しぶりに使った。コミカルで素敵な単語だなあ)だ

諸賢におかれては、「つまり、どういうことだってばよ(ちくわぶ)」とお思いのことだろう。
一応、サクッと図をイラレで作ってみた。
写真を勝手に使うと、「なんとか法」とかで引っ掛かりそうだから……。まあ「西洋 城」とかで画像検索してくださいな。

画像1

これが、西洋の城を上から見た状態だと思ってください。
西洋の城の四隅って、赤丸部分のように円柱状になってる場合が多くありませんか?
その部分に、非常な不合理性を感じてしまって思考してしまうらしい。
なるほど、着眼点が面白い。
俺は、こういった彼女の「普通は全然、気にならないところに疑問を持つ」特質を好もしく思っている。俺からは出てこない発想だ。
――たしかに「美しいから」とかじゃ、絶対にないはずだ。
それだったら、特定の地域の城しか丸くしないだろう。他の地域は星形とかでもいいかも知れない。
それよりなにより、普通に四角く作るより大変そうだ。
それに、食い込んでるデッドスペースも気になる。
円の二五パーセントが城に食い込んでる。
収納上手な主婦が「ダイソー用品を使って、一〇〇〇円で狭かった城がこんなに!」って、できるレベルじゃない。
画像を見ながら二秒ほど考えて、口を開いた。

「えーと。『丈夫だから』」
これは一瞬で至った結論だが、直感的に答えている。
美観的な意味で言えば、上記で書いた「デッドスペース」部分を無くして(円柱の四分の一を削って)、内側は四角い城の方が合理的だ(主婦やダイソーも喜ぶはずだ)。
だが。想像したら凄く脆そうに感じた、という希薄な理由だ。
「もやっ」とした結論を、話しながら整理していこう。
アプローチが間違っていたなら、戻ればいい。
ココは直感を信じて、後から論理構築をしていこう。

「なんで、丈夫なの?」
彼女が俺の思考をトレースするように声を掛けてくる。
そうだ! 何故、丈夫になるんだ? 俺は自分の直感を「論理的思考」にモードシフトしてみる。
「えと……。コンクリートで、『球体』と『立方体』を作ってみたとするじゃない? 落とした時に、どっちが欠けたりし易いかな? 立方体の角が壊れるんじゃない?」
「うん、それは分かる」
素直に認められる彼女も、素晴らしいと思う。

だが。
俺の思考も纏まっていないから、話しながら次の論拠にシフトしていく。
「『だから円柱状だ』じゃ、納得できないよね?」
「うん。レンガは直方体だし、その理屈はおかしい」
その通り、俺も納得していない。
「うーん。球体と円柱は違うものだとは分かっているけど、とにかく『丸い方が安定する』という事実関係は認めてくれるかな?」
「おーけー」。
実を言えば。
この段階では「丸い=安定」は、証明できていない。
固定観念(「重力」との兼ね合い)で、人間は「丸い=不安定」だと考えがちだ。
球形の本棚、球形の冷蔵庫。ころころ転がりそうで不安定だ。
建造物だってそうだ。
まん丸い部屋に引っ越した時に、ベッドをどこに置くか?
すべてが同じ大きさ(「アール」というべきか?)の円構造じゃないと安定しない。
「円形は作るのが大変」という事実を無視しても、重力下では四角(或いは三角)が安定するのだ。
だが。
「重力」を捨てて、考えてみて欲しい。
宇宙に無数にある星々。
一定の大きさ以上の星は丸いではないか(引力等の外部影響によって楕円になる場合にまで言及するつもりはない)。
木星に至っては、「地表がガス」とか訳が分からない事になっているけど丸いじゃないか。
「立方体の星」というのは私が知る限りにおいて存在しないが、仮にあるとすれば「うちゅうの ほうそくが みだれる」状態に限られると思う。若しくは何者かによって作られた星。天文学者の知り合いがいる人は聞いてみて欲しいくらいだ。
重力下においても。
「雨粒」は丸いし、「水銀」は重力に押し潰されてはいるもののメタルスライムのように球状に戻ろうと頑張っている。
ここでは「重力」や「慣性の法則」については無視して欲しい、という思いは伝わったようだ。
ここで「四角い方が安定してるじゃん!」と反論されたら、重力の話から始めなければならない。
理解が早くて助かる。
取り敢えず「球体は壊れにくい」という事実だけを認めてくれればいい。
少しだけ、心に余裕が出来た。

何故、レンガで円柱を作る必要がある? 計算した角度にレンガを「わざわざ」台形に作らないと、円柱は作れないのに……。考えろ、俺!
「そうだ。レンガで円柱を作ると、外からの衝撃に強いんだ!」
これで、すべてのパズルのピースが組み上がった。俺は興奮していた。
あとは、それを分かり易く伝えるだけの作業だ。
彼女は「きょとん」としているが、俺の脳が「ブーン」と音を立て始めてフル回転を始める。
少しだけ脳のクロックスピードを下げて、意識してゆっくり話し始める。

「バウムクーヘンを八等分したものを想像してみてくれ」
「うん」
「バウムクーヘンの穴、つまり『内側』から外側に向けて均等な力で押していったらどうなる?」
「すぐ、バラバラになる」
「そうだ。じゃあ、『外側』から均等な力で内側(中心)に向けて押していったらどうなる?」
「あ!」

彼女も気付けたようだ。
「そうか! 潰れるまで、バウムクーヘンはバラバラにならない!」
「ご名答。それを、潰れないよう固くしたのが『レンガ』と考えたらいい」
「でも。それじゃあ内側から押されたら……」
うん、その通り。でも、この論理は破綻しない。
「君は外側からの攻撃を気にしていたよね? だから、内側からの攻撃は二の次に考えていいんだ。それと、これは敵国からの防御だけじゃないと思うよ。単純に経年劣化とかの事情も考えていると思う。地震などの自然災害でも、外からの衝撃の方が多いはずだ」
「あー、そうだよね」
「敵国からの攻撃を考えるなら、城門を緩く凸面レンズ型にすると効果が高いかも知れないな? 破城槌(ラム)での攻撃でも、平面よりは壊れにくいはずだ。でも、内側の錠を作るのが非常に大変そうだし、蝶番等の構成要素まで考えると……。いや、それでも強いな、うん!」
感心している彼女の横で無駄口を叩きながら、「本当に地震についても、適用されるのか?」についてシミュレートし続けていた。直下型地震の場合以外は、真四角よりは安定するはずだ、という結論に至り満足した。

俺は、説明を続けた。
「あ! もっと簡単な例を思いついたんだ」
「何々?」
彼女も、答えが「すぐそこ」まで来ていることに興奮しているのか、身を乗り出す。
「『レンガで出来た橋』ってあるじゃないか」
「うん」
「あれって、真っ直ぐなのは殆ど見たことがないだろう? 大抵アーチ形になってる。あれは、『円は外側からの衝撃に強い』からだよ!」
「おー!」
ぱちぱち、と大げさに拍手してみせる彼女。
目を瞑り両腕を広げて、「もっと褒めなさい」のポーズを取る俺。
このノリの良さもいい。
「理論上で言えば、コンクリート(接着剤)を使わなくても橋が作れると思わないか? 積み木とかで想像した方が分かり易いと思う」
「うんうん、そうだね!」

「だから、『西洋の城は、四隅が円柱状』。はい! 証明終了」

「でもさー」
「ふぁ?」
まさか反論が返ってくるとは思わず、間抜けな声を上げてしまった。
彼女は。一つの疑問が避けると、関連付けた疑問が生まれる人種なのだ。
「じゃあ、最近の建築物が四角いのは?」
「鉄筋コンクリートなどの発明で、『固いもの』の弾性化が実現したから」
「でも、西洋だけなのはどうして? 大昔から、中国とか日本は四角いじゃない? 日本は地震大国でしょ?」
「昔の東洋は『木造建築』だったからだ。木は塑性変形ではなく弾性変形だから、衝撃にも強い」
「ええ! なんで即答できるの?」
「ついでに言えば、海外の地震で大量の死者が出るのは、土壁建築の地域だと思う。『震度三』とかで多数の死者が出るのは、その為。死因は『生き埋めによる窒息死』が、ほとんどな筈だ」
「なるほどねー。地震がない国の地震は、日本では考えられない人数が亡くなったりするもんね!」

この状態は、たまにしか訪れない俺の「無敵モード」が発動した時だけに起こる現象。
脳内の「ブーン」というファンの音すら聞こえなくなり、クロックスピードが最高速になっている。
この状態は危うくて、物凄いスピードで思考が「明後日の方向」に向かってしまうので、彼女に迷惑を掛けることが多々ある。
だが。今日に限っては、ちゃんと制御できてる。

「あ! でも、最後に一つ言っておいていいかな?」
「?」
「これ最初から最後まで全部、俺が立てた仮説だからさ。他人に喧伝したら、西洋建築の専門家にフルボッコされるかもだから気を付けて――」

『あははははは』

二人して大笑いして。
「分かってるって。でも結構、いい線いってると思うよ。私は納得した」
俺は。彼女のPC前から離れ、彼女の声を背中で聞きながら自室に戻る。

こんなんが、キタナカ家の日常です。
一言一句とまでは言わないが、一〇〇パーセントノンフィクションです。
実は――。最近書いた「【ミニマム推理小説】キタナカ家の日常」も、実際に起きたキタナカ家の「事件」です。
俺を「カッコイイ男」に置き換えて、「彼なら、小っちゃいコーラを飲みそうだ」とか、言葉遣いや仕草まで弄りましたが、実際に起きた出来事です。
「些細な日常の事件」を推理仕立てにした、「ミニマム推理小説」です。

探偵の俺に対して「スキ」を押してしまった諸賢は、「他ならぬ俺」を「好き」だということになります。
チューしようぜ! チュー!(逃げ惑う男性読者たち)

――調べてないけど、俺の記事は「男密度」が高いからな。
どんと来い! 男の娘!(二次元に毒されたバイだからです)

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