デトマソ家の家訓とフラッグシップ

パンチラを見ると、「今日も…頑張ってみようかな?」的な気分になる。
これは、俺が極度の下着フェチという訳でもなければ、性犯罪者予備軍だからでもない。

いや、性犯罪者予備軍ではあるかもしれないが…。
男性なら理解いただけるだろうか? この気持ちを…。
女性なら軽蔑するだろうか? この崇高な理念を。
違う!
パンツが見えたから、そのお尻を触りたいとかそういうんじゃない!
違う!
家に帰るまで記憶を持ち帰ってズリネタにするとか、そういうんでもない!
うまく言えないのだが…。
「神様ありがとう」という気持ちになるのだ。
そうさな。
こんな話がある――。

世の中に絶望し。
引き篭もり。
自殺を思い立って、半年ぶりに外に出た少年。
池袋で、飛び降りれそうな場所を探して、フラフラと彷徨う。
人いきれは、彼にとっては苦痛そのものだった。
サンシャイン60を過ぎた辺りで、人通りは少なくなり彼はホッと息をつく。

「この辺りならば、落下した際に他人を巻き添えにすることはなくて済むんだろうか――」

そのままビルを探しながら歩き続けると、住所は「東池袋」になっていた。
池袋東口の喧騒が嘘のように、この辺りは静かで人通りもまばらだ。
都電荒川線に行き当たる。
もはや、この辺は下町といった風情が漂う街並みだ。
少年は眩しそうに空を見上げ、また歩き始める。

「こんなトコじゃ、落ちて即死できるようなビルは無さそうだ――」

一通り東池袋を歩き、少年は納得したように来た道に戻ろうとUターン。
平日の昼間だというのに、通り沿いに人は少なく。
少年は、まるで異世界に迷い込んだかのような奇妙な気分を味わった。
視界の隅を横切る白い存在に、少年は息を呑んだ。

「よ…妖精!?」

そんな訳はない。
立ち止まった彼を追い越すように、ひらりと白いワンピースが踊った。
そして。
白いワンピースに負けないほど、透けるような白い肌の少女が歩いていた。
日差しはそれほどでも無いのに、日傘をさしている。
ひょっとしたら色素系の病気なのだろうか?
それにしては、背中の中程まで伸びた髪は艶々とした黒髪だ。

「彼女は、僕をお迎えに来た天使では?」なんて考えてしまった、自分の滑稽さに苦笑する。

そんな訳はない。
そんな訳はないのだ。
今まで、誰も僕を理解しようとはしなかった。
今まで、僕の苦しみの声に応えてくれる人間は居なかったのだから。

(ちょうど僕が向かってる方向に、彼女が歩いているだけだ)

誰にともなく言い訳をしながら、少年は彼女の後ろを歩く。
彼女の後姿は現実離れしていて、まるで蜉蝣のようだった。
とても奇妙な感覚。
まるで、世界には少年と彼女だけしか存在せず。
このまま永遠に時の環を回り続けているような――。
そんな妄想。
一人ではなく二人。
大勢ではなく二人。
お互いに干渉し合わない、永遠の二人。
それは少年にとって、とても心地良い想像だった。

我に返ると、サンシャインビルの手前まで来ていた。
もうじき、この泡沫(うたかた)の時間は終わる。
少女は失われ。
僕には、また「大勢の中にあっての孤独」という永遠が始まる。
一度。
太陽の暖かさを知ってしまった蟲は、土の中での生活には耐えられない。

「あ…アのッ!」

思わず、僕は声をかけていた。
久々に出した声は掠(かす)れてしまって、彼女には届かないと思われた。
やっぱりダメだ。
だから僕は、こうなったんだ。
彼女からも見捨てられ、また世界にも捨てられる。
僕はスポイルされ、また僕は世界を見限る。
苦しい。
苦しい。
顔が上げられない。

気付くと、彼女の足音は途絶えていた。
不思議と、空(くう)へと溶け込んでいく彼女の姿が容易に想像できた。
僕が声をかけたから、彼女は消えた――。
そんな想像をして、泣きたくなった。

「あの…」

え?
ゆっくりと視線を上げていくと、彼女のサンダルが目に入った。
なんのことはない。
彼女が立ち止まった結果、彼女の足音が消えていただけだったのだ。
今さらながら、彼女に声を掛けた自分の大胆さと愚かしさに身が震えた。
一体。
なんのために僕は、彼女に声をかけたんだろう?
「君と二人ですっと歩いていたかった」なんて、電波な発言をするつもりだったのか?
何も言えずに。
それでも、僕を真っ直ぐに見つめて首を傾げる彼女を見ていた。

「気分が悪いんですか? でしたら、救急車を呼びますが?」

そうじゃない。
結局。
僕は一人で舞い上がって、一人で絶望して、一人で彼女に縋ろうと必死になってただけだ。
とんだ茶番だ。
地下鉄が走る、低い音が聞こえる。
ここから12m下を通る電車に轢かれたい気分だ。

「あの?」
彼女は一歩、僕の方へ踏み出した。
刹那。
生暖かい風が、僕の身体を包んだ。
一瞬。
何が起こったのか分からなかったが、目の前の光景はハッキリと僕の網膜に焼きついた。

地下鉄の通風孔。
その真上に位置した僕と彼女。
胸元付近まで見事に捲れ上がった白いワンピース。
水色の縞パン。
あ然とした表情で、立ち竦む彼女。

「き…」

そして、時は動き出す。

「きゃ~!」

少年の口は自然と、ある形を作る。
『あ り が と う』と。
そして、それを繰り返す。
取り乱した少女は。
「み…見えました?」などと、真っ赤になりながら尋ねる。
バカ正直に「え…えぇ、かなりハッキリと」と答えてしまう少年。
「ヤだもう恥ずかしい~。忘れてください。ね!」
コクコクと、機械仕掛けの人形のように首肯する少年。

少女と少年は、そこで別れた。
それだけの話だった。
少年は、呟いた。

「もう少し、生きてみてもいいかな?」

な?
な!
貴女がね。ちょっとだけ恥ずかしい思いをした結果、前途ある少年の未来が守られちゃったよ?
どうするよコレ!(どうもしません)

だからね。
女性陣は、ばんばんパンチラすると良いと思う。
俺が喜ぶ。
半年分の生きる勇気が漲ってくる。

…とまぁ。
ここまでが詭弁であってですね。
女性にしてみれば恥ずかしいことなハズ。
でも。
実質的な危害は及ばないし、世の男性に勇気や癒しを与えている。
「ならば正義ではないか!」と熱弁したいところ。

あ。
俺が女子高生になったら、見せまくるね。(あり得ない過去を普通に受け入れます)
小中学校時代の口癖は「パンツじゃないから恥ずかしくないモン」な予定。

――涙で前が見えねぇ……。

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