ダ鬼ンズ・ウォーカー

「キタナカのチムコって、釣りの撒き餌のオキアミ(常温)に臭いが似てるよね?」
「キタナカの足って、納豆臭いよね。しかも賞味期限が切れて、こげ茶色になってる奴」
「キタナカの口臭って『カナブンを買ってる水槽に敷いてあるオガクズ』みたいな臭いだよね?」
言われた人が百人居たら、五人くらいは自殺しちゃうんじゃ無いかってレベルの罵詈雑言。
むしろ、喩えの方が分かりにくいほどのスメルガイなキタナカです。
もうね。
余りにイカスメルが激しいから、近所に住んでるマッコウクジラが俺の股間を狙ってますからね。
※つまり、俺のマグナムはダイオウイカクラスだと意識下に植えつけてるんです

節分の季節が、近づいてまいりましたね。
毎年、語尾が「だっちゃ」系の鬼ビキニギャルが来ることを夢見ていますが、ついぞ叶わず。
むしろ。
「胸毛に迷い込んだマメコガネが絡まって抜け出せない系」の鬼が来ます。
むくつけき大男(鬼?)ね。

当方としては「鬼は外」って追い払いたいんですけどね。
空気感――って奴?
それが微妙で……。
だって、テレビを観ながら「え? それ面白いか?」ってシーンで馬鹿笑いするんですよ。
そのたびに「ビクッ!」てなる、コッチの身にもなって欲しいものです。
ましてや、「渡る世間は鬼ばかり」とか観始める始末ですから。
ツッコミ待ちか! ツッコミ待ちなのか? とか思うけどね、やっぱり怖いからツッコめない。
結局、鬼の方が「んじゃ、帰るわ」って言い出すまで我慢ですよ。
それが毎年ってんだから、困ったもので。

一回ね。
「もう来ないで!貴方には、もうウンザリ!!」なんてキレたこともある。
タチの悪いヒモを玄関のチェーンロックで締め出す、岸本由布子さん(27)みたいにね。
したら奴、鬼の形相ですよ。
そりゃ、鬼だからね。
普通に失禁するかと思うほど恐かった。

でもホラ。チェーンロックがある以上は、俺が優位な訳。
慌ててドアを閉めようとしたら、足を締まりそうなドアに「ガッ!」って挟み込んだね。
「マルサの女」のワンシーンかよ!
でも、映画みたいには行かないのが世の常。
靴履いて無いから、思いっくそドアに素足が挟まってる訳。
「ふんぐおぉぉ~!」なんて叫ぶ鬼。
その表情が、また恐い訳。
怖い怖い怖い怖い怖い。

「テメー開けないとヒドイ目に遭うぞ!」なんて、凄みながら迫る訳。
それでも開けないよ。
そりゃ開けないさ。
こっちにだって、警察を呼ぶくらいの覚悟が出来てる。

したら突然、ドアの向こうが静かになったのよ。
「諦めて帰ってくれたのかな?」なんてドアの覗き穴で覗くさ、そりゃあ。
奴は、まだ居た――。
んで、なんか泣いてるのよ。
「俺が、悪かったよ…。お前の気持ち、考えてなかった」
なんて、可哀想なくらい縮こまってる。
そうそう、「鬼の目にも涙」状態ですよ。(ドヤー)

俺も「言い過ぎたかな? あの人、私が居ないとダメなんだ」なんて。
チェーンロックを外して。
「外は寒いでしょ? ホラ、そんなとこで突っ立ってないで入って?」とか優しく言っちゃう。
「鍋、二人分…用意してあるからさ」
甘いんだよな俺…。
本当。

「ありがとう! 俺、心入れ替えるから!」
「俺、絶対お前のことを幸せにするからさ!」
「そうだ! 結婚しよう!」なんて、歯の浮きそうな台詞をキラキラした目で言う訳。
そんな訳ないじゃない。俺、知ってるよ…。
だって。
貴方、節分以外まったく働いてないじゃない――。

気まずい空気を逸らすように、窓の外を見る俺。
「あ、雪」
「本当だ。…キレイだな」
なんて会話をしながら、窓辺に二人で身を寄せる。
外からはクリクリパーマの鬼と小さな俺が、アパートの小さな窓の光越しに見えるはず…。
そして。
その影は重なって。
電気が消え。
冬の透明な、そして静かな夜気が街を包み込み。
節分の夜は、更けていく――。

えぇ。
うぅん言わないで。
自分でも分かってる。
でも、いいんです。
これで結構、幸せなんです。

――着地点を見誤るにも、ほどがある。

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