涙が出そうホリディ

大学時代の後輩が、近々結婚する。

「バレンタインデー直前ですけど、来てくれますか?」
ずいぶん前に、招待状を貰ったときの電話。
彼の声は、ちょっと恥ずかしそうで。
ちょっと責任の自覚と自信を内包した、誇らしげな声で。

バレンタインデーデー直前ということは、来週になる。
ふと。
時間を確認しとこうと思って、招待状を見てみる。
「四日(土)12:00開宴」。

ウパッ!(アホロートル的な悲鳴)
今日じゃねーか! 直前っつったら11日じゃないのかよ?
今の時間は?
よし!13:30な。
会場までかかる時間は?
45分。

…。
ぶっちゃけ間に合わないじゃん!
横浜生まれなんで「じゃん」とも言いますとも、ええ。
いちおう、14:30までは予定されてるとのことなんで、若干フォーマル気味な服装に着替えてダッシュ。
ダッシュ。

ご祝儀袋とペンをコンビニで買って、揺れる電車の中で名前や住所を書きながら。
自分の不義理さや情けなさで、涙が出そうになる。
彼は「シャイなロッカー」だった。
ギター持ってないとロクに口を利かないなんて、漫画のキャラクターかと。
彼の、あまり饒舌とは言えない訥々(とつとつ)とした喋りの中に、同調する何かを感じた俺。
どうやら披露宴に招待されたのは、大学時代のサークルでは俺だけらしい。

そんな彼の、人生の門出をないがしろにした俺…。

駅に着いてからも走った。
こんなに走ったのは何年ぶりだろう?
そうすることで俺の罪が軽くなる訳ではないのだけれど。
走らずにはいられなかった。

受付で若い女性に声をかけ、事情を話す。
汗まみれで。
もう終わってしまった友人の披露宴のこと。
お祝いを届けたいこと。
できれば直接会って、新郎新婦に謝りたいこと。

ひどく狼狽して息も切れ切れな俺の話を聞いた上で、「大丈夫ですよ?ちゃんと取り計らいますから」と言ってくれたお姉さん、VIVA☆

ところが。
20秒後、お姉さんの眉が曇り始める。
「あれ?あれ?」
いや。
ひょっとして会場自体間違ってるとか!?
「いえ。こちらで間違いないんですが…ちょっと」
お姉さん、ちょっと偉い感じのダンディな男性に問い合わせる。
ツカツカと俺に歩みよるダンディ。

「失礼ですが」
はい……。(「もうダメかな?」という表情で)
「こちらの、お式は『三月四日(土)』ですが…」
あ…。
「二月四日(土)12:00開宴」。
「三月四日(土)12:00開宴」。
そういうことかあ。力が抜けて、膝から崩れ落ちそうになった。
多分、「ホワイトデー」と聞き違えてたんだろうな、と自戒。

恥ずかしい勘違いなのに。
ホッとして。
緊張の糸が解けて。
ダンディな男性にもお姉さんにも、「ありがとうございます」を連呼して会場を去る俺。
「よかったですね。又、お越しください」と笑顔で言ってくれたお姉さん、再VIVA☆

あう~。
よかった。
本当によかった。

――人生で三回あればいいレベルの「ドラマチックな事件」でした。本当に全部、実話です。

タメになるコトは書けていませんが、サポートいただけたら励みになります。よろしくお願い申し上げます。